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恋もスーツもしたてちゃお! 第一話

女性向け乙女ゲームのシナリオです。

【第1話】
○住宅街のとある家

樋口凜「初めまして。今回より担当させていただきます、四大陸の樋口です」

 私、樋口凜(ひぐちりん)(24)は、日本の老舗スーツブランド『四大陸』で働いている。『四大陸』はサッカーのワールドカップで選手の公式スーツを作った事もある日本を代表するスーツブランドだ。テーラーを営む祖父母を持つ私は、ここにデザイナーを目指して入社した。しかし、新入社員として配属されたのは、デザイン部ではなく、営業部だった――。

○営業車・内

樋口凜(無事、今日の納品は終了! でも……今月もこのままだと未達だ……)

 バックから電卓を取り出し、売り上げを確認していると、スマホがなった。

樋口凜「もしもし? ミサ。どうしたの?」
大垣ミサ『凜~、今日の夜ヒマ? 合コン来ない。ってか、きてきて~』
樋口凜「えっ……めんどくさ……どうせ人数あわせで呼んだんでしょう?」
大垣ミサ『うんそう! 凜、合コンとかぜんっぜん興味ないもんね。凜のお得意のスーツ目利きしてよ。おしゃれな恋人ゲットしたいの。お願いー♪』

 ミサは大学の服飾科の同期。
 サバサバした私とは違って、女の子らしい天真爛漫なミサ。
 正反対の性格だが、お互いに無いものを持ってるせいか妙に気が合う。
 社会人になった今でも変わらないつきあいの親友だ。

樋口凜「仕方ないなあ……。貸しよ」
大垣ミサ『やったあ~。じゃあ20時に恵比寿で待ち合わせね』

○BISTRO CANDLE

 ゆらゆらとLEDキャンドルが揺れる、洒落たビストロで男女4×4の合コンが始まった。IT業界で働くミサの同僚が集めたらしく、イケてるメンバーがそろっている。

樋口凜(スーツのまま着ちゃったけど、ミサも他の子も露出の多い可愛い格好してるな)

 自己紹介の最中、おもむろにワイシャツの第一ボタンを外してふっと息をつく。ミサに『目利き』を頼まれたのを思い出し、遠くに座る男性からじっと見つめていく。

樋口凜(わっ……アル〇ーニ着てる……若いのに、結構自信家かな……。その隣は、ビー〇ス。めがねも髪型もアーティスト風。こだわり強そう。横の人は、ポール〇ミス、この世代からしたら妥当かも。この人だけ、私服だ)

 サングリアをゴクリと飲むと、真正面に居る黒いクラフトビールを飲む男と目が合った。

神野篤志「目利きでもしてた?」
樋口凛「えっ……どうして?」
神野篤志「男のこと順番に眺めてたから」
樋口凜(カンのいい人……)
神野篤志「じゃあ、俺も目利きするけど。お前合コン興味ないんじゃない? ボタン、外してみたみたいだけど、その服、色気なさすぎ。勝負を挑みに来たとは到底思えないな」
樋口凜(ってなにそれ! 失礼な人!)
樋口凜「仕事終わりにまっすぐ来ただけです……」
神野篤志「そう。ならいいけど。仕事、スーツブランドの営業なんだって?」
樋口凛「はい。あなたはスポーツ関係でしたよね」
神野篤志「……うん。そう。仕事柄こういう機会も営業に利用したりするの?」
樋口凛(……ん? この人、さっきから言ってること失礼じゃない?)
樋口凜「仕事とプライベートは分けて考えてますのでご安心ください」
神野篤志「そう? それじゃあ、今日は飲もう。一気に仕事忘れろ」
樋口凛「いいこと言いますね。いただきます」

 神野さんがビールを注文してくれたので乾杯し、それから一時間ほどですっかりできあがってしまった。

神野篤志「あーあ。飲めだなんて言うんじゃなかったぜ」
樋口凛「だから……私はデザイナーになるつもりだったのに……」
神野篤志「営業部に配属されたんだろ」
樋口凛「そういふ、ことれす。もうっ……納得ならなひ」
神野篤志「おーい、寝るんじゃねぇ」
樋口凛「ねむい……」
神野篤志「キスすんぞ」

 その言葉にハッとして起き上がる。

樋口凛「むりむりむり」
神野篤志「何赤くなってんの?」
樋口凛「だって……キスするなんて言うから」
神野篤志「冗談だ。まさか初対面の相手にするわけないだろ。お前、アホか」
樋口凜「ひどい……」
神野篤志「っふふ。お前のこといじめるの結構楽しいかも」
樋口凜「嫌な奴!」

 サングリアをごっくんと飲み干すと向かいの男は悪びれる様子もなくふっと笑っていた。

○ウィナーズ川崎・男性寮・談話室
 

 今日は、『四大陸』営業職の特権行事と言われる販売会の日。Jリーグの優勝候補ウィナーズ川崎の寮にスーツ販売にやってきた。普段スーツを着ることはないサッカー選手だけど、メディアに登場したり、アスリートとしてチャリティイベントに参加する際などにスーツを着る機会もあるため、年1回、寮での訪問スーツ販売会が行われていた。

渥美静香「樋口、あんただいぶ初心そうだけど、ああいうの平気?」

 先輩営業の渥美さんの視線の先に目を向けると、
 無防備な姿でうろうろするプロサッカー選手達がうようよいる。

樋口凜(パンツ一枚!?)

 思わずかあっと頬が熱くなり、目を背ける。
 談話室は爽やかな笑顔で屈強な身体をもつ男性たちで溢れかえっていた。

樋口凜(だから特権行事なんだ)
渥美静香「みんな良い身体してるよね。目の保養にしっかり焼き付けとこ!」
樋口凜「渥美さん楽しんでません? 私残りのサンプル取りに行ってきます」
渥美静香「ふふ、樋口ったら。照れちゃって可愛い」

○寮・廊下

 営業車からサンプルで持ってきたスーツを運んでいると、風呂からバスタオル一枚しかまとっていない男性がタイミング良く出てきた。

樋口凜(どうしてこのタイミング)

 スーツで顔を隠しながら談話室に足を進めていたところ、その人にぐいっと手を掴まれた。

樋口凜「え、なんで?」

 そのまま壁際に押しやられ、気付けば壁においつめられていた。目の前に迫る分厚い胸板。濡れた滴がまだ残る腹筋は見事なまでに綺麗に割れている。

樋口凜(すごい……ってそうじゃなくて、どうしてこんなことに?)
??「何しにきたの?」
??「まさか、俺に会いたくて?」

 ゆっくりと顔を上げると、その男に見覚えがあった。

樋口凜「あなたは。神野さん!?」

 目の前で肉体美を存分に露わにするその男は、ミサに誘われた合コンで出会ったあの『嫌』な男、神野篤志だった。

樋口凜「神野さん、サッカー選手だったんですね」

 合コンの時、神野さんは自分の事をスポーツ関係とだけ言っていた。

神野篤志「ああ。ところで、ここ女人禁制って知ってる? それとも、どうしても俺に会いたかった?」
樋口凜「何を言ってるんですか?」
樋口凜「私は本日スーツの販売会に参りました。談話室にいるので興味があれば覗いてください」
神野篤志「ちっ。なんだ仕事かよ。面白くねぇな。後で顔出すわ」

 神野さんは身体を離すと部屋へと歩いていく。

樋口凜(すごい肉体美だった……ふぅ……)

○寮・談話室

 早速スーツを見に来てくれる選手達を対応していると、ラフな私服に着替えた神野さんがやってきた。

神野篤志「オーダースーツか」
樋口凜「はい。お客様の身体のラインにあったぴったりのスーツを作ります」
樋口凜(神野さんもここに来てくれたってことはスーツが必要なのかな?)
樋口凜「どのような用途のスーツをお探しですか?」
神野篤志「用途?」

 それまで余裕のあった神野さんの顔が少しだけ曇る。

樋口凜「結婚式などのプライベートや、スポーツ選手でしたら記者会見等の機会もございますよね。その用途に合わせたスーツを作るお手伝いが出来れば……」

 そう言うと、スーツを眺めていた神野さんが、私の口をそっと抑えた。
 そして耳元で囁くように言葉を発す。

神野篤志「俺達がどうしてスーツを必要か、お前は分かるか?」
樋口凛「えっ?」
神野篤志「向こうに居る荻野と松本は成績不振で引退だ。欲しいのは転職活動でも着れるスーツ」

 神野さんに言われて初めて気づく。

樋口凛(荻野さんって方は、さっき控えめなデザインのスーツが欲しいって話してた。そういう理由があったからなんだ)
樋口凛「すみません、私そうとは知らず……」
神野篤志「わかればいい……けど」
樋口凛「けど……?」
神野篤志「デザイナー云々いう前に、目の前のお客のこと考えてみるんだな」

 神野さんは顔色一つ変えず、おでこをこつんと小突くとそのまま去って行った。

樋口凛「……っ」
樋口凛(わかってるけど……なんだか悔しい!)

○営業車・内

樋口凜(あれ……そういえば、メジャーどこだろう)

 翌日の営業回りを終えた時、この仕事を志すきっかけをくれた祖母にもらった大事なメジャーが無くなっていることに気付いた。

樋口凜(会社に置いてきたのかな)

 探す手を止めてお客様とのアポのため電話を入れる。
 なかなか出てくれないので、カーナビのテレビに視線が向いた。
 ニュースではサッカー選手の引退報道が取り上げられている。

テレビの音声『Jリーグ優勝に貢献したウィナーズ川崎の神野篤志選手が今期限りでの引退を発表しました』
樋口凜(神野さんだ。私Jリーグもサッカーもよく知らなかったけどすごい選手なんだ)

 神野さんは元日本代表だった時期もある一流選手でベストドレッサー賞を受賞するようなモデル張りのルックスも人気だった、らしい。

樋口凛(無知すぎだったよね……)
テレビの音声『一昨年の膝の怪我以降、不調が重なり、それが引退の引き金となったようです』
樋口凜(転職活動でも着れるスーツが必要って神野さん自身のことでもあったのかな?)
お客『もしもし、樋口さん聞いてる?』
樋口凜「あ、はい。すみません」

 繋がっていたお客様との電話に慌てて対応する。
 これまで未達の営業成績達成のためにがむしゃらにスーツを売ってきた。
 だけど、商品を買ってくれるお客様の立場や気持ちに立って、スーツを売ることが出来ていただろうか。

樋口凜(もっとお客様の気持ちを思いやって仕事しなきゃ……)

 お客様との電話を終えると、すぐさまミサに電話をかけた。

樋口凜「ミサ、週末、サッカーの試合付き合ってくれない?」

○サッカースタジアム

 日曜日、ミサとウィナーズ川崎の試合を見に来た。
 神野さんはMFでキャプテンマークを付け先発出場。
 仲間に大声で指示を送りながらプレイをしている姿はこれまでに見た姿とは違って輝いて見えた。

大垣ミサ「神野さんサッカー選手だったなんて! どうして話してくれなかったのかな?」
樋口凜「今期で引退なんだって。だから言いたく無かったのかも。そういうのも含めて自分と向き合ってくれる恋人、探してたのかな」
大垣ミサ「凜は、神野さんにちゃんと向き合おうとしてるってこと~?」
樋口凜「そんなんじゃないって」
大垣ミサ「恋愛に興味ないって言ってた凜が誘ってくるなんて! これはただ事ではないでしょ~」
樋口凜(私はお客様としてきちんと向き合いたいだけ!)

 審判の笛が鳴り響き、ウィナーズ川崎のPKになる。
 キッカーは神野さん。

大垣ミサ「これは、緊張するね!」
樋口凜(決まりますように!)

 ドキドキしながら見守った冷静なキックは綺麗な放物線を描いてゴールに飲み込まれていった。

凜・ミサ「やったー!!」

 沸き立つウィナーズファンと一緒に、声援の声を張り上げた。

○スタジアム外(夜)

 試合終了後ファンと一緒に神野さんの出待ちをする。

大垣ミサ「凜、わたしもう帰っていーい?」
樋口凜「ダメダメ。ちゃんと最後まで借り返してよ」
大垣ミサ「これで神野さんゲットしなかったら許さないんだからね」

 そんな話をしていると、彼が出てきた。

樋口凜「神野さん!!」
大垣ミサ「凜、声でかっ」

 思わず人混みを分け入り神野さんの元へ急ぐ。
 その声が耳に届いたようで、神野さんが振り返った。

樋口凜「この間は不愉快な思いをさせてしまい申し訳ありませんでした」

 頭を下げてしばらくしたあと、その頭にぽんと手が添えられる。
 顔を上げると目の前に神野さんの顔があった。

神野篤志「分かれば良い」

 神野さんはあのときのように冷たい目をしていなかった。

神野篤志「お前、メジャー忘れていっただろ。明日、取りに来い」
樋口凜「は、はい!」

 突然の再会の約束に、心がぱっと明るくなった気がした。


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いい夢がみれそうです…( ˘ω˘ )スヤァ…
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逆原リエ

副業でシナリオライターや作家をしている会社員の逆原(さかはら)リエ と申します。 出身は福島県いわき市です。noteでは短編小説やエッセイを綴っていきたいと思っています。

小説・シナリオ

自作の小説・ゲームシナリオ・シナリオです

コメント4件

はじめまして。
ゲームのシナリオ初めて読みました。ト書きでモノローグのような表現が出来るのですね。これもゲームになった時に表示されるのですか?
読んでくださり大変嬉しいです。ありがとうございます。ヒロインの一人称で進むト書きと( )で表現されるヒロインのモノローグと台詞でお話を構成しております。すべてゲームに表示されます。
返信ありがとうございます。
そうなんですね。私は学生劇団と映画研究会にいたのですが、戯曲や脚本とは違う表現方法があって新鮮でした。
いえいえ!☺️
読み手が自己投影しやすい作りになっているみたいですね!
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