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(仏)「海を渡る仏壇」とお盆

お盆を迎えて、連日、近隣のお宅へ棚経に伺っている。
お仏壇の仕様は家によってさまざまで、それこそ居間に鎮座している絢爛豪華なものから、部屋の片隅にそっと置かれた年季の入った無垢のものまで、その家の歴史を匂わせている。
毎朝お水をお供えして故人に語りかけているのだろうな、と思える温かみのある様子から、この日のために慌てて掃除したのだろうな、と思える様子まで、まったくさまざまである。
約束の時間よりも先に、表に立って待っていて下さる方、改築されたお宅に四世代が集まって迎えて下さる家……世間話の中に、その家族ごとの家事情がにじんで、お隣同士でもこれだけ違うのだから、多様性とことさら謳わなくとも、住環境に支えられる人とは多様なものだなと思う。
仏壇がある家でさえ多様なのだ。2013年のある調査によると、仏壇の保有率は39.2%。いまや仏壇がない家の方が多い。家制度の変化を、現場で感じ続けている。

先日、たまたまテレビをつけていると、NHKで「所さん!大変ですよ」という番組を放送していて、「えっ!海を渡る仏壇!?」という興味深い回だったので観た。内容を要約するとこうだ。

仏壇が、昨今の住宅事情や、親の熟年離婚など、さまざまな要因で引き継げなくなっている。取材に応じた大阪のある寺では、仏壇の「魂抜き」の依頼が急増している。リサイクル業者に運び込まれるケースも増えていて、仏壇からは金属類が取れる。年間700本を解体しているが処分が追いつかない。インターネットのオークションでも出品されていて、0円で売りに出されている物も。持て余し、引き取ってくれさえすればいいという人もいるようだ。
また、海を渡って海外のセリにかけられることもある。観音開きで立派な装飾が施されているので、貴重品を収納するタンスとして使われたり、キリスト教徒の家庭では、中にイエス像を安置したり。黒と金を基調としたバーに、黒と金の仏壇はピッタリで、そこに酒の女神を奉っているという事例もある。

それぞれの事例を、なるほどなと思いながら観た。マンション用にサイズダウンして作り直す例も紹介されていて、大分コンパクトかつスタイリッシュになって、それも今風だなと思える。手放すのは忍びないという心情もわかる。宗教・仏教を信奉しているわけではないが、亡くなった父母を身近に偲ぶ「よりしろ」のようなものは欲しい、という気持ちもわかる。仏壇が子供の情操に好影響を与えるといったデータもあるという。

仏壇をどう捉えるのか?は、葬式や墓をどう考えているのか?という問題に繋がってくる。葬式はどう挙げたいのか。墓をどうするのか。
僧侶を呼んでの通夜葬儀を営むケースは年々減り、直葬が増える。墓を新しく求める人よりも墓じまいをする人が増える。仏壇の変化も、その延長線上にある。
そしてそれらの根本には、われわれの死生観の変質が横たわっているのだろう。お盆でさまざまなお宅に伺いながら、そんなことを何の気なしに考え続けている毎日。うだるような暑さで思考も滞りながらも、考え放棄してはいられない問題なのだ。

Text by 中島光信(僧侶・ファシリテーター)

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