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#24 【学級担任必見】 集団を動かす黒幕の正体

 学級や職場など組織において暗黙のうちに了解されているルールのことを「ノーム」と言うそうです。ある人が、規律について「ノーム」という言葉で説明していました。
 たとえば、社長が「会議の開始時刻は午後2時だ。時間厳守だ」と言ったにもかかわらず、2時を1、2分過ぎなければ全員が集まらない状態を放置していたとします。するとやがて、

「会議の開始時刻を厳守しなくても大丈夫だ」

 これがノームとなって、今まで厳守していた社員まで遅刻するようになってしまうのです。


 次は家庭での例です。
 子どもに母親が「そんなことをすると夕ご飯ぬきだよ!」と言ったとします。そしたらその後、子どもが「そんなこと」をしてしまったと。そこでお母さんが夕飯抜きにしようと思ったところ、子どもが泣き叫んで「ご飯食べる~!ご飯!ご飯!」と止まらなかったとします。

 すると、お母さんは子どもに根負けして、結局ご飯をあげてしまった・・・と、なんだか目に浮かぶようなシーンですね。そうすると、子どもの心の中には、ひとつの「ノーム」(『暗黙のうちに了解されているルール』)が作られてしまうのです。


「うちのお母さんは、ご飯抜きと言っても、僕が泣けば許してくれる」

 これと同じことを2~3回繰り返してしまうともうアウトです。
 「うちのお母さんは、僕が泣けば許してくれる」といったノームが子どもの心に形成されてしまうのです。この「ノーム」はもう確固としたものとして、子どもの心に形作られてしまいます。さらに恐ろしいことに、この「ノーム」は、見えない力を持ち成長していくのです。

 次は教育現場の事例です。
 新人の先生が黒板に文字を書いてこう言います。「ここは大事なところだから鉛筆を置いて先生の話を聴いて!」と。ほとんどの児童はこれで鉛筆を置きます。ところが数名、鉛筆を持っている児童がいる、にもかかわらず先生が説明してしまいます。
 この瞬間、このクラスに「この先生が『鉛筆を置け』と言っても置かなくてよい」という「ノーム」が子どもたちの心の中に発生します。たかが鉛筆と思ってはいけません。このノームは恐ろしい速さで成長していきます。目に見えないので、あっという間に手に負えなくなるまでに大きくなります。そして、

「この先生の指示には従わなくてよい」


というノームが形成されていってしまうのです。まさしく怪物のようなものです。
 ノームには肯定的ノームと否定的ノームの2種類があります。例を挙げたのは否定的ノームです。一旦否定的ノームができると、あれよあれよという間に成長し学級組織に影響を及ぼし、やがて組織を崩壊させます。ですから、指導者は一旦、「鉛筆を置きなさい」などの指示を出したら、全員が鉛筆を置くまで次のアクションに入ってはいけないのです。
 こんな感じです。
 「今から今日の学習のポイントを話すから、全員鉛筆を置いて聴きましょう!」。普通ここでたいていの子どもたちは鉛筆を置いてくれますが、まだ持っている子がいたとしましょう。警告レベルを1段上げます。「鉛筆を置きなさい。先生の指示が聞こえないのか!」ところがまだ1人、前の子の背中に隠れて書いている子がいるとします。すると、警告レベルをさらに上げます。名指しです。「鉛筆を置きなさい○○くん。先生の指示に従えないんだったら前に出てきなさい!」。ここまで言うと彼はビクッとし、鉛筆を置きます。
 この瞬間、そのクラスにあるノームが発生します。


「この先生が『鉛筆を置け』と言ったら鉛筆を置かなければならない」


というノームです。このノームも成長をはじめ、数週間後このクラスでは「この先生の指示には従わなければならない」というノームができあがるのです。若い先生は最終警告を厳しい口調で言いますが、ベテランの先生は優しく笑顔で言います。むしろこっちのほうが怖いです。
 よく「起立!」と言って、児童がダラダラ立ち上がった時、必ず私はやり直しをさせましたが、自分ではノームのことなんて言葉も知りませんでしたが、今振り返ってみると、あれは肯定的ノームを作っていたんだなあと思います。最初の授業で肯定的ノームができると、次の授業からビシッと揃います。
 子どもは言われたことに従うのではありません。決まりや約束でもなくこの「ノーム」(『暗黙のうちに了解されているルール』)に従うのです。クラスも職場も、「ノーム」によって動くのです。一度負のノームができあがってしまうと、そのノームをくつがえすのは容易ではありません。信じられないほどのパワーでもってしても、くつがえらない負のノームさえ存在するのです。そしてさらに恐ろしいことに、このノームというものは、ほんのささいなことから発生し、あっという間に成長してしまうのです
 学級崩壊や組織の崩壊は、組織のリーダーが「肯定的なノームを作り出せなかったこと」というたった一つの原因に集約されるといっても過言ではありません。年度初めは特に肯定的なノームをしっかり作っていくことが、その後の学級経営に大きく影響してきます。
 

 最後にある母親の話です。
 息子が保育所に通っていた頃、とにかく元気いっぱいのやんちゃ坊主で、親の私の言うことはあまり聞いてくれません。保育所でちゃんと団体行動が取れるのだろうかと、内心心配していました。ところが保育所に行くと、ちゃんと先生の言うことを聞いているではありませんか。若い保育所の先生は、エネルギーに満ちあふれている子どもたちを、どうやってあんなに上手にまとめていらっしゃるのだろう?・・・と七不思議のように感じていたのです。保育所の参観の時に、先生が穏やかに「静かにしなさい」と言って、全員が静かになるまで、数分じっと待っていらして、決して次の言葉を発しなかった姿でした。あの時、先生はまさしく肯定的ノームを作っていたんだなあと、今振り返ると頷けます。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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