おまえはしゃぶ葉に行くことで野性をとりもどす

よくきたな。おれはジェイクというハンドルネームのようでそうでないような名前を使う売文業者だ。しかし真の男の中の男である逆噴射聡一郎氏のように署名原稿で稼げるほどスキルは高くない。 
なので文体を模倣することで少しでも高みに近づこうという算段だ。だが特に有用なことを書くつもりはないので時間をドブに捨てていくといい。
ちなみに本家はここだ。色々とさん孔になる。

ところでおまえは今日の昼に何を食べたか覚えているか。覚えていてもいなくてもいい。おまえはなぜしゃぶ葉に行かないのかを聞いている。インスタ映えするランチを食べることを止めはしないが、そればかりやっていると必要な栄養が足りなくなり、老いる間もなく死ぬ・・・。THE END OF MEXICO....。言いすぎだと思うか。ならばおまえはどうしてスマッホンでそのランチの写真をネットの大海にアップローディングしたあとに物足りなさを感じているのだ。

ようしゃなく割引券を使え

そもそもお前はしゃぶ葉を知らないのかもしれない。ならばおれが悪かった。まさかまだそんなやつがいるとは思っていなかった。おれがくだくだと説明するよりもホムーページを見た方が早い。

端的に言えばしゃぶ葉とはまんぷくメガコーポであるところのスカイラークが経営するしゃぶしゃぶ食べ放題レストランだ。そしておれがなぜそこに行くことをこうして貴重な帯域を使って書いているかといれば、安くてうまいからだ。高くてうまいものはいくらでもある。それはおまえにとって喜ばしい経験になりおまえの短い人生を熱く濃いものにしてくれるはずだが、そればかり求めて毎日自分を高めようとすると金がなくなり、死ぬ・・・。過剰な自己研鑽はタルサドゥームの卑劣なわなだ。だから普段は安くてうまいものをできるだけ食え。しゃぶ葉は店舗にもよるが千円前後からしゃぶしゃぶの食べ放題ができる。だがそれを聞いたおまえはこう言うだろう。
「そんなに安いんじゃどうせ味は…」
おまえは分かっていない。千円前後で名店の味をあじわえると思うのか。とは言え何も知らずにメキシコの大地に降り立つのが無謀なように、何も知らずにしゃぶ葉に行けばおまえはあまり楽しめないかもしれない。だからまずその手の中にいつもあるスマッホンをたまには人生のために役立てろ。アプリ、グルメサイト、すぐにランチ時に10%の割引が受けられるクーポンが小さな画面に表示されるはずだ。それを会計の時までとっておけ。

香味野菜をむさぼれ

お前はクポーンを手に入れた。財務状況に対する防弾チョッキのようなものだ。だとすればおまえがその手に持つべきは食欲というショットガンだ。
だがおまえは自分の食欲を飼い慣らせていない。お前は驚くはずだ。仮に一番安い豚肉のコースを選んだとして、店員のベイブたちは「お出汁を用意しますのでお野菜などご自由におとりください」とゆうわくしてくる。お前がふらふらと野菜コーナーに近づいていくと、そこには緑とか緑とか黄色とかいかにも健康的な野菜のかずかずが新鮮な状態で並べられている。おまえが「こういうのって洗浄の段階で栄養が…」と言って食わないなら止めはしない。そしておまえが有機野菜とか本当の新鮮さとは何かとかさまつなことを突き詰めている間におれはしゃぶ葉で肉と野菜を食べて健康になっていく。

おまえが皿とトングを手に持ったなら、まず乗せるべきは細ぎりの香味野菜だ。長ネギや水菜、にんじんなどが入っている。他にもきのこ類や豆腐などもある。いかにも健康だ。だが忘れるな。おまえはしゃぶしゃぶを食いにここまでやってきたことを。おまえが自分の席に戻ると、店員のベイブたちが鍋を準備してくれている。中央で二つに仕切られたその鍋には、白だしとおまえがコースを選択した時に選んだもう一つのだしが入っている。季節によって変わるが、キムチ鍋ベース、すき焼き風、とんこつ、ゆず塩など様々で目移りしたはずだが、ここはおまえに任せる。ちなみにおれは基本的にキムチ鍋ベースをえらぶ。辛さが調整できて味に変化がつくからだ。

香味野菜の食べ方はいくつかある。これも好みだが、肉で巻いて投入する、一旦すべてをだしにぶちこんで肉を茹でながら一緒に掴み取るなど、好きなようにしろ。生でも食えるのだから何をしてもそうまずくはならない。しかしおまえは忘れている。なぜならおれが忘れていたからだが、しゃぶしゃぶに重要なもう一つの要素・・・それがたれだ。

トッピングの沼から這い上がれ

おまえはしゃぶしゃぶのたれと言われると多分ごまだれとポン酢を想像するだろう。しゃぶ葉はもちろんそれを準備してくれている。だが他にもある。薄めのそばつゆを感じさせる和だし、濃いめのドレッシングのようにも思えるきざみ玉ねぎの香味和だれ。この基本のたれに加えて、店舗や季節によって梅だれや味噌だれなども用意されている。おまえは油断するだろう。これだけたれの種類があればいくら食べても食べ飽きないだろうと。甘い。甘すぎる。人間は結局メキシコにおいてさえダニートレホにナイフでころされた死体の臭いにすぐ慣れてしまうというのに、たれの味に慣れて飽きてしまうまでの時間がどれだけ短いというのか。

だが安心しろ。しゃぶ葉には恐ろしいほどのトッピングがある。おまえが男の中の男が観る映画であるところのデスペラードを観る時のためのピザに何を乗せようか悩むように、しゃぶ葉にはたれとそれに入れるトッピングの組み合わせに無限の広がりが存在する。おれはまずポン酢にラー油とすりごまを少し加える。それとは別に、刻みネギともみじおろしを投入したポン酢の器も用意する。もみじおろしは肉で包んで食べる感じに近い。これらをベースとして、中盤ぐらいまで普通のごまだれを用いつつ、飽きてきたらそこに豆板醤やニンニク、揚げネギなどを加えて変化をつける。その合間に玉ねぎだれや季節のたれを挟み込んでいく。血糖値の急上昇を防ぐため、最初にトッピングのオクラを食べるのもありだ。これを和だしに投入するのもうまい。

炭水化物はほどほどにしろ

味わい豊かなたれとトッピングの数々で肉と野菜を食べていると、当然白い飯が欲しくなってくるだろう。もちろんしゃぶ葉は保温しっ放しのパサついた白飯の存在を許さない。敢えて業務用にしては小さめの炊飯器を用いることで、常にうまい白飯を提供してくれる。それに加えて漬物やカレーも備えられている。おまえは肉と炭水化物のコンボで腹を満たしたくなるだろう。このカレーには恐らくしゃぶしゃぶ用の肉を切り分ける時に出るであろう肉の細切れがたっぷりと入っており、それだけでも充分にうまい。だがもう一度言う。忘れるな。おまえはしゃぶしゃぶを食いに来たのであって、米を胃に詰め込みにきたわけではない。それを忘れて肉米肉米野菜肉米みたいなことをやっていると、THE END OF MEXICO....。死にはしないが結局米で腹を満たしてはしゃぶ葉に来た意味がない。ほどほどが一番だ。

それでも炭水化物が食いたいと思うならせめて〆にしろ。俺はあまりやらないが、肉や野菜の旨みが溶け込んだだしで雑炊もできる。店舗によるようだが、雑炊用の卵が一個だけ無料で貰えるところもあると聞いている。もちろん徹底的に灰汁を掬ってからにしろ。更にうどんもある。茹で置いて氷で締めてあるので、ある程度煮込んでもコシはそのままだ。俺が白だしともう一方のだしにキムチ鍋ベースを勧めるのにはこのうどんの存在がある。夏は汗をかいて壮快だし、冬は温まる。だがおまえの8メガバイトの脳細胞に思い出させてやる。おまえはうどんを詰め込みにきたわけではない。そうしたいならはなまるうどんに行け。おれははなまるうどんにも足繁く通うが、それはまた別の話だ。しゃぶ葉に来たら、メインはしゃぶしゃぶだ。

ソフトクリームで童心にかえれ

そろそろ腹も満たされたことだろう。おまえは野菜やたれやうどんを取りに行く時に、女性や子供たちが集まる他の一角を目にしているはずだ。おまえの性別はどうでもいい。年齢も所属もどうでもいい。嫌いなら無理には勧めないが、食事の後のデザートも同一料金の中に含まれているのだから、とりあえず見るだけは見てみろ。そこにあるのは、何の変哲もないソフトクリーム・サーバーだ。レバーを引くだけでバニラ味のソフトクリームが無尽蔵に湧き出してくる上に、コーンフレークやチョコチップ、フルーツソースにチョコレートソース、きなこ、白玉にあんみつ、かき氷など、トッピングの枠を越えた甘さの波状攻撃をおまえは受けることになる。

しかし、たとえばおまえが「もういい歳だからソフトクリームなんて…せっかく安くお肉が食べられたんだから、ハーゲンダッツを買うよ」と言うなら止めはしない。好きにしろ。ハーゲンダッツがうまいのは世界の約束だ。だがそんな当たり前の約束で縛られた世界に飽いたからこそおまえはしゃぶ葉の門を叩いたのではなかったか。見ろ。絶対に食えなくてマアムに大激怒されるであろう量のソフトクリームの山脈を作り上げているキッズたちの顔を。それはメキシコの大地のように乾いたこの社会においても、子供は未だソフトクリームでテンションがあがる、という美しき理の証明だ。だからおまえも恥ずかしがらずに食ってみろ。他にもワッフルや綿菓子がセルフで作れる店舗もある。恥ずかしいから並ばないというその無駄なプライドが一番恥ずかしい。童心を取り戻せ。誰から教わったのか忘れたようなお仕着せの行動様式など捨ててしまえ。口のまわりをベタベタにしろ。マッマーが拭いてくれなくても、おまえはもう自分で口のまわりを拭けるのだから。

腹いっぱいになるということが精神にもたらす影響

おまえがそうであるように、おれも決してパーフェクトライフを送っているわけではない。不満もたくさんある。だがおれもおまえもとりあえずは自分の足で立っていて、しゃぶ葉まで行けて、最終的に口がベタベタでも拭いて帰れる。腹はいっぱいだ。今すぐには解決できない問題に頭から突っ込んで死ぬよりはとりあえず腹いっぱいというのはまず不幸ではない。食いすぎると寿命が縮まるからほどほどにしておけ。そしておまえは飢えたライオンがひとまず獲物を確保し、久しぶりに腹を満たした時の安堵に包まれるだろう。それを忘れるな。おまえは今を生きている。おれもだ。じゃあな。


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