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【対談】河江肖剰博士 × WORLD SCAN PROJECT / エジプト考古学とWSPのテクノロジー

3Dスキャンによって得られた遺跡の詳細なデータを考古学研究に応用することを目指すワールドスキャンプロジェクト(W.S.P)と、名古屋大学のエジプト考古学者で、ナショナルジオグラフィック協会のエマージング・エクスプローラーでもある河江肖剰博士の対談企画。
河江肖剰博士をインタビュアーに迎え、現地調査の様子や、研究者の方々がワールドスキャンプロジェクト(W.S.P)に参加した経緯、今後の展望まで、多岐に渡ってお話をさせていただきました。
※この対談は2022年5月に、ルクソールのソネスタセントジョージホテルで行われました。

左から木村颯さん(九州大学)、大塲佑哉さん(W.S.P)、
市川泰雅さん(W.S.P)、河江肖剰博士(名古屋大学)

ワールドスキャンプロジェクトの始まり

河江:これまでピラミッドの調査を長く行ってきましたが、3D計測をするということで特別な許可が下り、私自身も何十年間も入ったことがないピラミッドの中に入ることが出来ました。非常に強力な会社であるワールドスキャンプロジェクト(W.S.P)さんは一体どんな会社なのかということで、 今回のプロジェクトのディレクターである市川さんをご紹介したいと思います。

市川:ワールドスキャンプロジェクト(W.S.P)は、河江さんと大ピラミッドの3D計測を行うことからスタートし、今では世界中の色々な場所で、研究者たちとコミュニケーションを取りながら、例えばペルーの遺跡やイタリアの文化財の3D計測も行っています。そこで得られた3Dデータをバーチャルリアリティー(VR)や ゲーム、メタバースに応用しコンテンツ制作をしています。

河江:大ピラミッドの3D計測を最初に行なったのは2017年ですね。それを土台として計測を広げていきましたが、最初のデータでは欠損箇所が多かったですよね。

市川:そうですね。データが全然足りなかったので2018年に再度撮影して、さらに今回はピラミッド外側の撮り直しと、内部の撮影も行いました。足りない部分や細かい箇所を何度も撮ったので、もうこれ以上ない最強のデータになったと思います。

3D計測には各分野のエキスパートたちが参加

河江:最強のデータを取るためには最強のメンバーが必要ということで、こちらがワールドスキャンプロジェクト(W.S.P)の大塲さんです。大塲さん元々のご専門は何でしたか?

大塲:大学の専攻は建築系で、フォトグラメトリーやVRの研究を行なっていました。ワールドスキャンプロジェクト(W.S.P)には先月入社したのですが急にエジプトに行かないかと言われ、今回初めてエジプトに来ました。しかもいきなりピラミッドの現場に初日から連れて行かれて。そこでは、レーザーを使った3Dスキャンを担当しましたが、重量拡散の間のように狭い場所で高い機材を使用するのがプレッシャーでした。無事撮影できたので良かったです。

河江:いきなりエジプトの世界遺産に来てしまったという感じですよね。

大塲:エジプトには観光でも来たことないのに、いきなり普通の人が入れない場所に入ってしまって。ピラミッドはやはり大きいなと思いました。

河江:初めてだと右も左も分からない状態ですよね。そしてこちらは、私の命の恩人でもある九州大学の木村さんです。今回はセーフティーロックを岩にくくり付けて、吊り下げられながら映像を撮るという危険な撮影がピラミッド 内であったのですが、ワールドスキャンプロジェクト(W.S.P)さんが専門の方を連れてきてくれました。

木村:九州大学の大学院生の木村です。専門は地形学で、洞窟や暗い場所を研究する時にフォトグラメトリーを使用していて、 その関係で市川さんに声をかけていただき参加することになりました。

市川:木村くんは、 僕が一番信頼できる3Dのプロフェッショナルです。元々水中考古学者の山舩晃太郎さんとの調査で、沈没船の3Dデータ化を木村くんと一緒にやっていたのですが、すごく優秀で頼りになるので、 今回は洞窟に近い場所で河江さんを吊り下げてもらおうと。

河江:現場で「じゃあこれを付けてください」ってハーネスを渡されて。吊り下げられるなんて最初は冗談かなと思いましたが、信頼して命綱を預けました。また、ピラミッドの内部構造や組積造を見るために、大ピラミッド内部にあるウェルシャフトという井戸とハワード・ヴァイスがメンカウラー王のピラミッドに開けた大きな穴の調査を行いたかったのですが、専門家を連れてきているという話をしたら調査の許可が下りたんですよね。木村さんがいなかったら調査に成功していなかったので、連れてきていただけて感謝をしています。 木村さんエジプトどうでした?

木村:体調も悪くならず楽しい思い出しかないので、すごく良かったです。色んな所へ調査も行けましたし、ピラミッドの大きさにも驚きました。ピラミッドの中で河江さんを吊り下げる時に一番大変だったのは、最後の引き上げでしたね。場所がすごく悪くて、洞窟とも違う環境だったので、途中で諦めかけかけるくらい難しかったです。

世界中の人がアクセスできる環境を目指して

河江:諦められたらピラミッドに吊るされたままになっていましたね。ちなみにワールドスキャンプロジェクト(W.S.P)さんは他の世界の遺跡だけではなく、自然の景観も含めて撮影を行っているのですか?

市川:そうですね。最近は木村くんと洞窟の3Dスキャンを行ったので、暗い洞窟の中をライトを持って進むみたいなVRを作れたら面白いかなと考えています。プロしか行けない洞窟のような場所をVRで行けるように出来たら面白いですよね。

河江:ワールドスキャンプロジェクト(W.S.P)さんの目指すところとは?

市川:研究者の方々に協力をして遺跡のデジタルデータを作り、研究に役立てたいというのが主体なのですが、それを教育やVR、メタバースに使うことで実際には入れない場所にも世界中の人がアクセス出来るようにすることを目指しています。

河江:私たち研究者にとっても、データを公開して使ってもらうことが大事なのですが、持っているけど出せないということが多々ありました。しかし今はオープンサイエンスの時代になりましたね。

ピラミッドの解明に3Dデータを役立てる

市川:私たちもどんどん独自のサービスを展開したいと思っているのですが、そのようなデータを他の研究者の方に見ていただいて、それこそピラミッドの解明に繋がったらいいなと思います。

河江:もちろんそれも目的ではあるので、ぜひピラミッドの解明までお手伝いいただきたいですね。ワールドスキャンプロジェクト(W.S.P)さんとの共同研究は2021年の11月から正式に始まったのですが、名古屋大学と4年間の共同研究を行うということで、大きなプロジェクトになりましたね。

市川:この後データ解析が結構大変になりそうですが、外側のドローンのデータと内部のデータを繋げた完成形のデータを色んな人に見ていただきたいですね。

河江:皆さんも楽しみにしていてください。ありがとうございました。


インタビューの全容はこちらの動画で詳しくご覧いただけます。名古屋大学のエジプト考古学者である河江肖剰博士と、私たちワールドスキャンプロジェクト(W.S.P)の対談という貴重な機会となりました。協力してくださった河江肖剰博士に感謝いたします。

ワールドスキャンプロジェクトは、これからも「世界を、未来を、好奇心を、身近に」をモットーに世界中の遺跡調査と保存を続け、文化遺産の普遍的な価値を未来へ繋げていきます。ご興味があれば、ワールドスキャンプロジェクトの活動をフォローいただき、ぜひ応援をお願いいたします。

ワールドスキャンプロジェクト(W.S.P)が行ったエジプト調査については、こちらの動画もご覧ください。


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