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カルナック神殿3Dスキャンプロジェクト〜ワールドスキャンプロジェクトの挑戦

古代エジプトにおいて、神殿は神への崇拝とファラオの権力や神性を示すものでした。当時の宗教観や美術観が色濃く反映された数多くの神殿の中でも、最大級の規模を誇るのがカルナック神殿です。

今回は私たちワールドスキャンプロジェクト(W.S.P)による調査内容と共に、ルクソール東岸に位置するカルナック神殿についてご紹介します。

壮大なカルナック神殿

カルナック神殿は紀元前2000年頃の中王国時代から建設が始まり、グレコ・ローマン時代までの約2000年にわたる長い期間をかけて、歴代のファラオたちによって外側へと拡張されました。数多くの神殿や塔門、祠堂などの複合体で構成され、敷地面積は100haにも及びます。

カルナック神殿の一部

神殿群の中心地にはアメン大神殿があり、アメン神を中心とする新王国時代のテーベ三柱神崇拝の中心地として、古代エジプトの宗教的、政治的権力の象徴となっていたことが分かります。第1塔門の手前に建造されたスフィンクス参道にもアメン神への信仰が反映されており、エジプトの最高神であるアメン・ラー神の聖獣である雄羊の頭部を持つスフィンクスが整列しています。

第1塔門前のスフィンクス参道
雄羊の頭を持つスフィンクスが並んでいる

第1塔門を抜けて中庭に入ると、セティ2世やラメセス3世によって造営された聖舟祠堂があり、アメン・ラー神とその妻であるムト女神、息子コンス神の3柱がそれぞれの祠に祀られています。

セティ2世によって造営されたムト女神、アメン・ラー神、コンス 神の聖舟祠堂

ラメセス2世の彫像

そして、カルナック神殿にある巨大な彫像の中でも最も有名なのが、赤色花崗岩でできた高さ約10mのラメセス2世の像です。ラメセス2世は古代エジプト最大の王と呼ばれた、新王国時代第19王朝のファラオです。衰弱していたエジプトを強国へと導き、世界初の平和条約を結ぶなど数々の偉業を成し遂げました。

カルナック神殿の外壁にはラメセス2世が結んだ平和条約文が刻まれている

また、約70年間の治世の間に記念建造物の建築にも注力し「建築王」とも呼ばれました。カルナック神殿においても当時最も外側に位置していた第2門塔の外に中庭を建て増ししたり、自身の巨大な像も築かせましたが、現在では風化が進んでいます。

唯一保存状態の良い彫像もありますが、元々ラメセス2世の名前が彫られていたところに後の神官王パネジェム1世が名前の書き換えを行ったため、現在ではパネジェムの巨像と呼ばれるようになりました。

ラメセス2世の彫像
パネジェムの巨像

他にもカルナック神殿にはラメセス2世を讃えるレリーフや彫刻などが数多く残されており、第2塔門のレリーフもその一つです。ここには、ラメセス2世が黄金でできた神々の御神体を舟型の神輿に乗せ、大列柱室を通って儀式を行いに向かう様子が刻まれました。

神々の御神体を乗せた舟型の神輿を引率するラメセス2世

エジプト建築の傑作「大列柱室」

神々の神輿が通る大列柱室はパピルスが生い茂る原初の沼をイメージして建造され、パピルスの茎と花を表した高さ約21mの開花式パピルス柱が中央に12本、つぼみを表した高さ約15mの閉花式パピルス柱が122本と、合計134本もの円柱が建てられました。

円柱の高低差を利用し薄暗い空間に光を取り入れ、光が当たる12本の円柱のみ開花式パピルス柱にするという視覚的な工夫も取り入れられており、訪れるものを神の世界へと誘うかのような幻想的な空間となっています。

表面は王や神のレリーフ、ヒエログリフなどで埋め尽くされており、修復作業によって蘇った3000年以上前の鮮やかな姿を見ることが出来るでしょう。

パピルスを模した巨大な円柱が並ぶ列柱室
採光のための縦格子状になった明かり窓
円柱の表面には建造当時の色が残っている

天高くそびえ立つオベリスク

大列柱室を進むと、第18王朝時点で最も外側に位置していた第4塔門および第5塔門に辿り着きます。これらはトトメス1世によって築かれ、第4塔門の入り口にはトトメス1世のオベリスク、第5塔門の入り口にはハトシェプスト女王のオベリスクが建てられました。

カルナック神殿に現存するオベリスクの中で最大であるハトシェプスト女王のオベリスクは、高さ30m、重さに至っては323tとされ、上部にはハトシェプストの称号、下部にはオベリスク建立の経緯などが美しく彫られています。

トトメス1世とハトシェプスト女王のオベリスク
ハトシェプスト女王のオベリスクに刻まれた碑文

カルナック神殿の中心、至聖所

第6塔門の先にはカルナック神殿で最も神聖な場所である、至聖所があります。元々アメン神はテーベ地方で崇拝された大気を司る神でしたが、中王国時代にテーベが首都となったのを機に、アメン神は古くから信仰されてきた重要な太陽神ラー神と一体化しアメン・ラー神として信仰が拡大しました。

現存する至聖所には神の御神体を乗せた聖舟を安置する石の台座が残っており、壁画には神官が香を焚いてアメン・ラー神の御神体の衣替えをする様子が記されています。さらに至聖所の奥ではカルナック神殿で最も古い神殿の基礎部分が見つかっており、この神聖なエリアを中心に歴代のファラオたちが増築を繰り返し、エジプト最大規模の神殿にまでなったと言われています。

アメン・ラー神の聖舟を安置する台座

世界を、未来を、好奇心を、身近に

歴代のファラオたちが、自らの権力と神性、そしてアメン神への献身を表すように造ったカルナック神殿。その建築と装飾は、古代エジプトの技術力と芸術性の高さを示しており、神話や歴史的な出来事が精巧に描かれた壁画やレリーフは歴史的に重要な遺物です。

ワールドスキャンプロジェクト(W.S.P)はこの壮大な神殿の全貌を、3Dスキャンによって細部に至るまで高精度に記録しました。これにより、人為的な破壊や経年劣化により遺跡が損傷した場合でも、元の状態を正確に把握し修復作業に役立てることができるでしょう。

調査の様子

また、デジタルアーカイブとして保存されたデータをVRやメタバースに応用し、世界中の研究者や一般の人々が神殿の内部を探索したり、歴史的な背景を学べるようにすることで、遺跡への関心を高め保護の意識を広めたいと考えています。

デジタル技術を駆使して古代の知識や文化を未来に継承していくこと。それが私たちの夢であり、使命です。ご興味があれば、ワールドスキャンプロジェクトの活動をフォローいただき、ぜひ応援をお願いいたします。

カルナック神殿についてはこちらの動画もご覧ください。


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