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病人や障害者は 「神」 ではない

こんにちは。あすぺるがーるです。


世の中には、さまざまな病気や障害があり、それらの病気や障害によって苦しんでいらっしゃる方がたくさんいます。


そのような方々を、あたかも 「神」 であるかのように持ち上げる風習が存在します。


今回は、実際にとある病気の当事者の方々が受けてきた扱いをもとに、病気や障害を持つ方の 「神格化」 についてお話ししようと思います。


ハンセン病 (らい病) とは?

ハンセン病 (らい病)とは、らい菌によって発病する皮膚と末梢神経の病気です。


発病すると、まず皮膚に紅い湿疹ができます。

そして、紅い湿疹ができた部分は触覚 (温度感覚・痛覚) が失われるため、怪我をしやすくなります。


重症化すると、指や手足・顔に麻痺が発生したり、著しい変形が起きたりします。


菌による病気ですが、感染力は非常に弱く、治療薬もあるため、私たちが発症することはほぼないです。

遺伝することもありません。


「救らい思想」 の起こした悲劇

「救らい思想」 とは?

かつてハンセン病の治療薬がなかったとき、ハンセン病患者の方のほとんどが重症化による身体の変形を持っていました。

その見た目のため、ハンセン病患者の方は酷い差別を受けてきました。


キリスト教において、ハンセン病は 「天罰」 とみなされ、患者は天から永遠の罰を与えられているとされてきました。

これが 「天刑論」 です。


しかしそれと同時に、ハンセン病の患者を 「メシア(救世主)」 として持ち上げる概念もありました。


聖書では、イエス・キリストはとある罪人の罪を代わりに被ったことで処刑された、とされています。


それと同様に、ハンセン病患者は非ハンセン病患者に代わって罪を背負っている、という考えが生まれました。

これを 「贖罪論」 と呼びます。


「天刑論」 と 「贖罪論」 が合わさったことで、

「ハンセン病患者は、神からの罰を受ける『救われるべき存在』でありながら、自分たち非ハンセン病患者が犯した罪を自分たちの代わりに背負っている『救世主』でもある」

という概念が生まれました。

これが、「救らい思想」 です。


「救済」 の名の元の 「民族浄化」

日清・日露戦争を経て日本が列強の仲間入りをするにあたって、「ハンセン病患者の存在は国辱」 と言われるようになりました。


そして1907年、「癩予防ニ関スル件」が制定されたことで、ハンセン病に対する終生強制隔離政策が始まったのです。

「予防」 なんて、必要ないのにもかかわらず。


このとき、救らい思想は、非ハンセン病患者のみならずハンセン病の当事者にまで、差別を 「救済」 と刷り込ませました。


実際に、静岡県駿河市にあるハンセン病隔離施設であった神山復生病院には、貞明皇后への感謝を表した 「奉拝碑」 が建立されています。

奉拝碑
昭和八年六月七日 貞明皇后が沼津でのご静養のお帰りの際、日頃の御慈悲の感謝から特別に許可を取り貞明皇后のお召電車をお見送りしたことを記念して、昭和 十九 年六月に建立した。

(画像: 10月10日、11日に駿河療養所の知人を訪ねました より)


当時、天皇や皇后は 「神」 とされていました。


救らい思想は、

「苦しむ患者を救う神たる天皇・皇后」 と
「天皇・皇后の御慈悲により救われる患者」

という構造を固定化する役割を果たしていたのです。


本当に苦しめていたのは誰か?

しかし、少し考えてみてください。


ハンセン病患者の方を真に苦しめていたのは、誰でしょうか?


まぎれもなく、「救らい思想」 を生み出したキリスト教信者、社会及び国家でしょう。


「救らい思想」 は、ハンセン病差別に 「救済」 の大義名分を与え、当事者に差別と真の救済を倒錯させるという姑息な手段で差別を正当化させました。

ハンセン病患者を 「神」 とすることで 「一人の人間」 として扱われなくさせ、さらにそれを大半の当事者に「救い」 と認識させる。

差別以外の何物でもありません。


再生産される 「救○○思想」

現在、天皇という名の「神」がいなくなった代わりに、マスメディアによって病気や障害の当事者を映し出すことができるようになりました。

それにより、新たな「救〇〇思想」が生まれ、それが「感動ポルノ」と呼ばれるようになっていると私には思われます。

このツイートで触れられている「発達障害や自閉症だけどギフテッドの天才!」というのは、ある意味、ギフテッドの発達障害や自閉症の当事者を「才能」によって「神格化」することに近いのではないでしょうか。


そして、障害を持った方々が努力して特別なことを成し遂げる、という番組の構造は、「私たちにもできない努力をしている、すごい!」という、贖罪論を連想させるものがあります。


この構造に、オーストラリアの障害者人権活動家であるステラ・ヤングさんは「感動ポルノ」という名を与えました。

「感動ポルノ」という言葉の元となった彼女のTEDを見ると、「救らい思想」と「感動ポルノ」の根本思想が似通ったものであることが、よく分かります。

not against our bodies and our diagnoses,
but against a world that exceptionalizes and objectifies us.
闘う相手は 自分たちの身体や病名ではなく 
私たちを特別視し 物として扱う 世界です


時代が変わったのに、やってること、大して変わりないですね。


いいかげん、もう、止めませんか?

こんな「時代遅れ」なこと。


「神格化」廃止に必要なのは

このような「救○○思想」ないし「感動ポルノ」をなくすのに求められているのは、何なのでしょうか。


それは病気や障害の当事者が、なるべく自分の言葉で現状を語ることに他ならないと思います。

ただ、この記事で挙げたように、全ての当事者が声を挙げることは決して簡単ではありません。


そのため、「声を挙げられる当事者」が自らの体験を語るとともに、「声を挙げられない当事者」の意見をくみ取り、「声」にすることが必要とされています。

同時に、「声を挙げられない」当事者の側も、妬み僻みによって「声を挙げられる」当事者の活動に水を差すのではなく、挙げられない声を託すという意識を持つ必要があると思います。


本当に改められるべきものは何なのか。

これは、障害者のみならず全ての人が考えるべき課題です。


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参考文献

日本聖公会東京教区人権委員会(2003)「荒井英子に聴く 『ハンセン病とキリスト教』」

P. 11~12, 19, 38~40, 44~45, 48~51

国立感染症研究所 感染症予防センター 「ハンセン病(一般向け)」


さいごに

「救らい思想」 に関する詳細は、7月14日に開催された日本フェミニスト神学・宣教センターによる2018年7月例会での浜崎眞実さんのお話をもとに書かせていただきました。

貴重なお話をいただいたことに感謝の念を申し上げます。



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