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ゆめうつつ

夫と暮らし始めた頃、ちょっと面白い夢を見た。その数年前に亡くなった夫のお母さんがわたしの夢に出てきて、「何もしていないのに家の床が濡れていたら、わたしが来たということだからね。気味悪いかもしれないけれど気にしないでね」と言ったのだ。

わたしはもちろん、夫もそういう話をわりと受け入れるタイプだったので起きてすぐに話した。なんだかわからないけど、印象深い夢であった。でも、理由なく家の床が濡れていることはその後なかったので、いつのまにかその夢のことはすっかり忘れていた。

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夫は、自宅の寝室に置いた介護ベッドの上で、横向きに寝たまんま、亡くなった。わたしは夫が息をしているかいないかがよくわからず、二世帯住宅の階下に暮らしている夫のお父さんを呼びに行った。

お父さんはすぐに二階に上がってきて、「・・・!・・・!」と彼の名前を数度呼んだ。そして、「ああ、これは逝ってしまったねぇ」と言って、横向きになっていた夫の体を仰向けに直した。「見てやって、いい顔してる」

そのとき、お父さんが、「あれ?」と声を上げた。「何だろう、この水?」

夫が顔を向けていた方のベッドの下の床に、小さな水溜りができていたのだ。

「何もしていないのに家の床が濡れていたら、わたしが来たということだからね」とお母さんに言われたあの夢のことを思い出したのは、その瞬間だったのか、それともしばらくして落ち着いてからだったか、記憶は定かではない。でも、とにかく、お母さんが来たのかもしれない、あの夢は本当だったのかもしれない、とわたしは思った。

もし、その水溜りが、夫が亡くなるときに、口なり鼻なりから出てきた何らかの水分だったとしても、わたしには「きっとお母さんが迎えにきたんだ」と思うに十分な出来事であった。だって、仰向けに亡くなったらその水溜りはできなかったわけだから。何かしら理由があったとしてもそこに水溜りができたという現象がすでにわたしには意味あることに思えた。

そのことを後にお父さんに告げると、お父さんは神妙な顔で「それは大いにありうるね」と言って、付け加えた。いや、きっとそうだよ。だってね、あのとき、床は濡れていたけれど、枕やシーツは濡れていなかったよ。・・・(夫の名)の口から出た水だったら、枕やシーツも濡れているはずじゃない? でも、ベッドは乾いていたもの。床だけあんなに濡れていたのは・・・子(夫のお母さんの名)が来たからだよ。

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夫の葬式が終わってしばらく経ったある夜、寝入りばなに誰かが部屋に入ってきた気配がして、わたしの体は動かなくなった。いわゆる金縛り。

金縛りは久しぶりだったので一瞬怖かったけれど、入ってきた何者かがわたしの手を握ってきた瞬間に、あ、これは夫だ、と感じた。

夫なら何もわたしの体を動かなくすることないじゃんって思うけど、おそらく違う次元にいるもの同士が接触するためにはそれは必要なことなんだろうと。もしかしたら夫じゃなかったかもしれないけれど、きっと最後のお別れに来てくれたのだと思うことにした。

そうしたら急にほっとして、涙が出た。そして泣きながら寝た。

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彼が亡くなる数日前、彼の友人のKさんが夢に出てきて、大笑いしたという話をしてくれた。彼が亡くなった後、Kさんにその話をすると、Kさんもその頃に夫が出てきて楽しく笑う夢を見たのだと教えてくれた。

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これを書いていたら会いたくなった。今晩の夢に出てきてくれないかしら。

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カリフォルニア在住の編集&ライター。サーフィンと自然が大好き。仕事でもプライベートでもいろんなところでいろんなものを書いていますが、ここでは短い創作文(フィクション)と時々撮る写真、夫と死別したことにテーマを絞ろうと思っています。https://satokofay.com
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