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なぜ私はバカみたいに、全世界196ヵ国の料理をつくり続けるのか?

こんにちは。ライツ社さんより、『全196ヵ国 おうちで作れる世界のレシピ』を出版させていただいた、料理人の本山尚義です。

今日はこのスペースをお借りして、この本を出版するにあたってのわたしの思いを綴らせていただきます。このレシピ本は、「見たこともない世界中のいろんな味を自分の家でつくれたら」そんな願いを現実にするため、世界中の料理を「スーパーの材料で簡単につくれるレシピ」にして書き起こした、とてもとても楽しい1冊です。

しかし、レシピ本出版の元になったのは「私の叶いそうもない夢」でした。

料理で世界を平和にする?

料理はお互いを知るツールになる。30ヵ国を巡る海外修行の日々の中でわたしはそう思いました。

インドでチキンバターマサラを教えてくれたシェフ。誰もが認める一流の料理人でした。

海外で人に出会ったときに仲良くなる、わたしなりのコツをお教えします。

最初は会話がまったくなくても、まずは「どこの国から来たの?」と聞いて、わたしがその国の料理の名前を言うと、「何で知ってるの!?」という感じでテンションが上がります。「食べたことあるの?」と聞かれたら、「実はつくったことある」と言ったら、さらに盛り上がって、もう友達です。料理という入り口が仲良くなるきっかけになるんです。

今、この瞬間の地球を想像してみてください。

パッと想像したときに、いろんな国があって、そこで暮らすいろんな人々がいます。日本が朝の9時なら、シンガポールでは朝7時インドでは朝5時でちょうど日が登るころでしょうか。サウジアラビアでは午前3時、ちょうど夢の中。イタリアは午前1時で、ベッドに入った頃かもしれません。ニューヨークでは前日の夜19時でちょうどディナーの時間です。

世界は広くて美しいです。

しかし、今この瞬間にも紛争中の地域があったり、いがみ合う国があるのもまた事実。自分に置き換えても家でケンカしてしまうこともあります。そういった争いがまったくない世の中をつくることは、たしかに難しい。戦争をしたり、殺し合ったり、そんな現実はとても悲しいことです。

「みんな同じ地球で暮らし、今という時間を一緒に生きている人間同士なのに、なぜ?」

私は小さい頃からそう思ってきました。大人になってからも、料理を修行するために世界中を旅して、貧困や飢餓、差別なども目の当たりにして、さらに心が激しく揺さぶられました。

マザーテレサがつくったコルカタにある「死を待つ人々の家」という施設でシスターたちと一緒に

でも自分が政治家になったり、スーパーマンになるなんてできないし、そんなことで解決する問題でもありません。私は、差別や争いなどの問題はやさしさや思いやりのこころで解決できると信じています。

しかし、単に「思いやりを持ちましょう」と呼びかけたところで、効果がないことは目に見えています。それならどうしたらいいのか?

1つだけわかっていることは「料理で興味を持ってもらうことはできる」ということ。五感を使って食べる料理は、その国のことを知るためのとっておきのツールになるのです。「暑い国だからこんな工夫があるのか」、「現地でもこうやってコトコト煮込んでいるのか」。料理から気づかされることって実はたくさんあります。一旦興味を持てば、やさしさや思いやりのこころを持つのは、そう遠くないと思うのです。

食って、人にとってもっとも身近なものでもあり、重要なものです。わたしは料理を紹介することを通じて、お互いに助け合える世の中になるよう努力していきたい。この思いは今も昔も変わりません。

スリランカで知り合った宿のスタッフたち。気さくな彼らですが、民族間の対立に直面していました


なんでこんな大変なことばっかり

料理の力を信じて、今までいろんなこと にチャレンジしてきました。

2年間で世界の料理をすべてつくる「世界のごちそうアースマラソン」や、1万2千個を完売させた阪神・淡路大震災 20 年チャリティスープ「MERRY SOUP」、前回の紀行本はレストランを切り盛りしながら1年かけて執筆しました。そして、集大成となるこのレシピブックをつくるためのクラウドファンディング。

よく、こんな質問をされます。「本山さん、なんでこんな大変なことばっかり、たくさんできるんですか?」

それはきっと、自分を試しているのだと思います。自分でハードルを上げて、無理そうなことでも、やってみる。「これがやりたい」という、ちゃんとした目標を掲げて、ひたむきにやっている姿を見せたら、人って共感してくれるとわたしは思っています。そうすることによって人は集まってくるし、わたし自身も「世の中って捨てたものじゃないな」と思える。

MERRY SOUP プロジェクトの仲間たち。レストランを閉める際に集まってくれました

海外を巡っていた修行時代でも、現地の方からしたら突然、全然知らない人が来て「料理を教えてください」と言い出すのも本当は無茶な話。でも熱意が通じたら、協力してくれたり、応援してくれたりするんです。わたしは自分の人生で「世の中捨てたものじゃない」ということを実証したい、実証するためにやっている気がします。

今、世界の現状は、テロが起こったり、難民が増えたり、いろんな戦争が起ころうとしています。

日本も例外ではなく、ロシアと北朝鮮の関係によっては戦争が起こってしまうかもしれない。今こそみんなが平和を感じて、そのためにお互いを知る努力をするべきときではないでしょうか。そのきっかけにいろんな国の料理をつくってみて、お互いの食卓を知るところから始めてみませんか。


料理は人類の生きた証

これだけたくさんある料理ですが、世界の中にはどんどん消えていっている料理もあります。

食材にしていた農作物が栽培されなくなったり、あまり食べる人がいなくなって消えていってしまったり。太平洋のある島では、中国の支援が入ってきたことで、もともとあった料理が味の濃い中華料理に負けてしまいました。みんなが中華しか食べなくなり、島の料理はほとんど食べられていない場所もあります。

今回つくった196の料理というのは、もしかしたら10年後、20年後には違う料理になっているかもしれない。だからこそ、現在の世界の料理を残したいという気持ちが今回のレシピ本づくりにはありました。

今この瞬間も現在進行形で世界の人々がつくり、脈々と受け継がれている料理。それは、私たちが生きてきた証拠でもあります。その国の文化や歴史、環境、すべてが合わさって、その土地の料理になっている。この196のレシピは「わたしたち人類の歴史」とも言えるのではないでしょうか。

あなたと同じように、世界のあちこちで、この本に載っている料理をつくっている家庭があることを想像しながら、台所に立ってもらえたら幸いです。そして、繰り返し料理をつくってもらい、国名にかかわらず、「あっあれ食べたい」というぐらいに定番メニューになれば嬉しく思います。

講演会では旅の話をまじえ、食を通することで違った世界の見方があることを伝えています


このレシピ本は、私の夢の集大成です

日本初! 全世界196ヵ国の料理が載ったレシピ本。196品の料理すべての材料を集め、調理し、撮影し、レシピを書き起こし…またバカみたいに時間と労力がかかってしまいましたが、みなさまの応援のおかげで無事、出版に漕ぎ着けることができました。

最後に、クラウドファンディングの記事にも書いた「このレシピ本をどうしてもつくりたかった理由」を、ここにも書かせていただきます。

私が今まで行ってきたこと、それは

1.レストランで世界の料理を提供し、お客さんに世界に興味を持ってもらい、
2.レトルトを作り、ご家庭で気軽に世界の料理を食べていただけるようにし、
3.そして、その集大成として本でできることとは・・・?

それは実際にみなさんに「つくってもらう」ことです。自分がつくった料理って、思い入れがわきませんか? 子どもでも自分でつくった料理なら嫌いな野菜でも食べたりできるんですね。

出された料理というのは、どうしても受け身になってしまうものです。しかし自分でつくってみたならどうでしょうか? たとえばアフリカや南米には豆をじっくり煮る料理がありますが、同じようにあなたが豆を煮ている間に、現地の風景や生活を想像しやすいと思います。「あ、現地でもこうやって煮込んでいるんだ」、「こんなに時間がかかるんだ」。そいういうことを感じながらつくってもらえたらもっと世界が身近に感じられると思うのです。

ぜひ、このレシピ本を見ながら、ご家庭で世界の味を楽しんでいただければと思います。

12月16日(土)発売です。テレビにご紹介いただいた影響で、ネット書店でたくさんお買い求めいただけましたが、ぜひお近くの街の書店でもお買い求めください。発売後は、ネット書店より街の書店での売れ行きが重版につながる大事な数字となるそうです!

最後になりますが、料理を通じてつながったすべての人たちや、どこの馬の 骨かわからない私の拙い言葉に辛抱強く付き合い、料理を教えてくださった現地の方たちに心からお礼を言いたいです。わたしは、あなたたちに教えてもらった料理を今日も大切につくり続けていますよ! 

ボホーマ ストゥーティ(スリランカ 語で〝ありがとう〞)!


出版業界を新しくしたい。もっと良くしたい。読者と、書店と、友達のような出版社でありたい。「本ができること」を増やしたい。いただいたサポートは、そのためにできることに活用させていただきます。