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「Xiborgのスポーツ用義足のデザインプロセス」 (xXiborg Talk vol.2 (1))

この記事は2020年6月17日に行われたオンライントークイベント「xXiborg Talk vol.2 Before and After 2021」の一部を記事化したものです。

Xiborgのデザインプロセスについて (11分59秒)

株式会社Xiborgは2014年5月に創業しました。当時から世界最速のスポーツ義足開発を名言し、当時から共同創始者の為末大のネームバリューもあり、まだ何もしていない段階からメディアに取り上げられることも少なくありませんでした。一方で、おそらく中身のないベンチャーに対して懐疑的な見方も少なくなく、なかなか開発のための協力者を集めることができませんでした。その中でパラアスリートの春田純選手、佐藤圭太選手、池田樹生選手たちが当初から協力に名乗りを上げてくれました。創業前は当初は多くに人を巻き込んだ壮大な構想を思い描いていたのですが、私遠藤のコミュニケーションスキルのなさや創業当時の胡散臭さから、まず少ない選手たちと密にコミュニケーションをとり、選手中心のチームでものづくりをしようと考えました。この流れが現在のXiborgの体制の元を作りました。

今回の動画は創業後2年を費やして日本の3選手たちと開発を進め、2016年3月に発表した最初のプロダクトXiborg Genesisを、リオパラリンピック後にJarryd Wallace選手に渡すところからの話が中心になります。

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彼は他社のブレードと比べGenesisがとても走りやすいという印象を最初から受けました。開発者としてコメントしますが、ブレードに優越をつけることは難しく、選手の走り方にマッチするかどうかの方が大切であると考えます。つまり、GenesisはJarrydの走り方にマッチしていたという言い方の方が正しいかと思います。Genesisは後方に大きく湾曲し、大きな変形を許容することができるため、鉛直方向に大きな力を生み出します。この特性が、ブレードの先ではなく20cmほど後方で接地し、そのまま乗り込んで進むJarrydの走り方にマッチしたのだと思われます。

Jarrydはこれに対し、
  -スタートしてから10m~20mくらいまでは柔らかくしたい
  -トップスピードは硬く感じるようにしたい
ということを提案してきました。つまりスタートの時は大きな力は必要なく、しっかりと踏み込んで進みたいという要望と、トップスピードでは大きな力を発生するためにバネの剛性を上げたいという相反する二つの要望を同時に達成したいということです。これに対し、我々は爪先部分のカーボン繊維の量を少なくし、接地する箇所からソケットに取り付ける部分にかけてのカーボン繊維の量を増やした上で、全体の剛性は以前と同等にするということをチャレンジしました。文章にすると簡単そうに見えるかもしれませんが、実は非常に難しいことなのです。そのブレードを使って、Jarryd Wallace選手は2017年の世界パラ選手権で100mでは銅メダル、200mでは金メダルを獲得しました。

その後、我々はこの成功に執着することなく前々から考えていた大胆な形の変更にチャレンジしました。これがXiborg ν(ニュー)です

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Xiborg Genesisの特性を踏襲しつつ、ソケット含む義足全体の重心をなるべく体の近くにしたいと思い作りました。重いものは体の近くにあった方がうまくコントロールできるからです。これは当初選手たちにはとても好評でしたが、選手たちが走りやすい硬さにするのにとても苦労しました。特に佐藤選手は2018年のアジアパラ陸上選手権の1ヶ月弱前にやっとレースで使用するブレードができたのを覚えております。大変迷惑をかけてしまって反省しました。ちなみに佐藤選手はアジアパラで200mでは金メダル、100mでは銀メダルに輝きました。

Jarrydからもこのブレードはとてもいい感触だというフィードバックをもらいましたが、全体の特性を保ちつつ爪先の形状だけを変えてほしいと言いました。スタート直後の数歩、ブレードの先っぽでしか地面に接していないため、このグリップを高めるために、爪先をちょっと伸ばして上にあげられないかと思ったわけです。私としてもとても面白いと思ったので、すぐに設計に取り掛かりました。その結果出来上がったのがXiborg ν+です。見た目はあまり変わりませんが、スタート後の数歩だけではなく、トップスピードでも地面を押している感覚が増えたようで本人は満足そうでした。

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これらのことからわかるように、選手たちと密にコミュニケーションをとりながらものづくりを行っていることがわかるかと思います。これはほんの一例で全くうまくいかなかったことも結構あります。Jarrydもエンジニアがチームにいることのメリットを感じてくれており、世界をみても我々はとてもユニークなことをやっていると話をしていますが、チームが小さいからこそできる体制だと思っています。

私自身、選手と一緒にブレードを開発することがどこまで選手たちのためになっているかを日々考えております。まず選手にとっていいブレードを作ることはもちろんですが、実はそれ以上に走りの理想型や理論、練習メニューなどをシェアしながらチームとしてどの方向に向いたいかを議論すること自体が選手にとって有意義なのではと考えています。アスリートとして、自分の課題、その解決法とそのトライアルのループを回す中にブレード開発が入っているのだと考えるとわかりやすいかと思います。

*ブレード開発はソニーコンピュータサイエンス研究所、東レ株式会社、東レカーボンマジック株式会社、そして東京都立産業技術研究センターなど様々な方々の協力を得て行われております。

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次回xXiborg Talk vol.3 「義足で楽しく走るために」は7/23 15:00~
山本篤、為末大、遠藤謙
Xiborgはアスリートだけでなく、普通の義足ユーザが日常的に楽しく走ることが2021年以降残すべきレガシーであると考えています。そのための最初に一歩がこのイベントです。1人でも多くの義足ユーザ、その家族や興味がある方に参加いただければと思っております。

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文責 遠藤謙(Xiborg CEO)



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