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中国科学説話雑識

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古典小説中のSF的記述について
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中国科学説話雑識~古代中国のSF的記述~ 6「ロボット」

 「ロボット」、それはSFの代表的且つ古典的テーマの一つで、同時に工学的な意味において最も現代的という点で、非常に興味深いテーマだと言えます。そして、おそらくは最も世間一般に知られた概念だとも言えます。「ロボット」といえば、やはりアイザック・アシモフですが、彼の唱えた《ロボット三原則》は、今やSF関係者以外にも広く知られています。

 この「ロボット」という興味深いテーマのSF的考察については、石

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中国科学説話雑識~古代中国のSF的記述~ 5 「蚊取り」

 夏の暑さには、我が国の先人達も大いに悩まされてきました。あの手この手で涼しくしょうと工夫してきました。江戸時代には手動の扇風機も考案されていました。しかし、暑さ以上に人々が辟易した、そして今も悩まされるものがあります。「蚊」です。
 蚊に悩まされて来たのは、我々だけではありません。東南アジアなどでは、マラリアの危険性がありますから、我々よりもずっと深刻と言えるでしょう。中国大陸でも事情は似たよう

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中国科学説話雑識~古代中国のSF的記述~ 4 「漆と蟹」

「もしまた明教の者で、左の耳には鉛、右の耳には水銀を注ぎ込まれ、目には生漆を塗られて、痛くてたまらず目をあけることもできないとしたら、どうします?」

 胡青牛は怒ったらしい。
「明教の者にそんなことをするやつは誰だ?」
「まったくひどいやつですが、ぼくはまずその人の耳や目をなおしてやってから、あらためて相手の名前などを聞くつもりなんです」
 胡青牛は少し考えて、
「もし明教の者であれば、まず水銀

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中国科学説話雑識~古代中国のSF的記述~ 3「軌道エレベーター」

「月に架ける橋」と「天に登る梯」 月と言えば、我々の地球が有する唯一の衛星であり、A・C・クラークの傑作『渇きの海』の舞台であり、そして現実の宇宙開発において重要な役割を期待されている天体です。

 また、我が国では『竹取物語』におけるかぐや姫の故郷として知られています。しかし、中国の元になった話では仙界や天界といった漠然とした設定であり、月と限定されているわけではありません。それどころか、月には

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中国科学説話雑識~古代中国のSF的記述~ 2「宇宙船」と「潜水艦」

 SFの嚆矢、ジュール・ヴェルヌの紡いだ物語は、異世界への冒険ということに尽きると思います。月世界、地底、海底、それまで人々が目にすることのできなかった世界への旅立ちに必要であったガジェットを科学的に描き出したことが、彼の特筆すべき特徴でしょう。中でも印象深いのは、宇宙船と潜水艦ではないでしょうか。
今回は古代中国の物語の中から、それらを拾ってみたいと思います。なお、宇宙船などの飛行機械について

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中国科学説話雑識~古代中国のSF的記述~ 1「医療・疾病」「魔法瓶」など

1.医療と疾病 1-1.移植二題

 中国は古代から医学の発達していたところで、一般に漢方薬と鍼灸が知られていますが、意外と外科も進んでいました。もっとも、その系統は、発達はしなかったのですが。
 有名なのは『三国志演義』にも登場する華陀先生でしょう。彼は「麻沸散」という麻酔薬を用いて切開手術を行っていたとされます。患者の脾臓の半分を切除したという事例も記録されています。良く知られたエピソードは毒

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