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《個人的まとめ》1.「漢方」「漢方薬」とは何か

漢方薬・漢方とは

漢方薬は以外に身近なものである。たとえば正月に飲むお酒を「おとそ」と呼ぶ場合があるが、これは元々「延命屠蘇散」という漢方薬をみりんや酒に入れて飲んでいたことの名残で、今でも「延命屠蘇散」は漢方薬局などが正月用に販売していることがある。
「漢方薬」は「漢方の薬」ということであるから、まず「漢方」とは何かを考える必要がある。
「漢方」というのは、歴史ある日本の伝統医学である。しかしその呼び名は意外と新しい。
江戸時代にオランダから西洋医学が伝わり、オランダの医学という意味で「蘭方」と呼ばれた。学校の歴史で江戸時代を習うと、「蘭学」という学問が出てくるが、これは「オランダの学問」という意味であり、「蘭学」の方が「蘭方」よりも広い考え方である。つまり、蘭方は蘭学の一つである。この「蘭方」に対して、それまでの伝統医学を「漢方」と呼ぶようになった。「蘭方」が入ってくるまでは医学は一つしかなかったのであるから、「漢方」というような名称は必要なかったのである。つまり、「漢方」という名前は、その歴史に比べれば、古いものではない。
「漢方」は、「漢字」「漢文」と同じく「漢」の文字が使われていることから分かるように、その起源は中国にある。詳細は後ほど説明するが、日本への伝来は5~6世紀ごろと言われている。その後、時代が進む中で中国の医学は進歩し、その成果も日本に次々ともたらされ、また日本でも独自に研究が進んだ。それは16世紀ごろ、中国では明代中頃まで続くが、以降日本の漢方は独自の発達をし、現在に至っている。そのため、表面的には変化しているが、本質的には中世以前の中国医学の形を色濃く残している。一方で中国では、独自に研究が重ねられた結果、古代の医学とは異なった方法論が確立されている。こちらは現在では「中医学」と呼ばれている。また、朝鮮半島にも中国の医学は伝わり、独自の発達を遂げた。現在の韓国では「韓医学」、通称「韓方」と呼ばれている。
そのため、漢方・中医学・韓医学(韓方)は似てはいるが同一ではない。

「漢方エキス製剤」の登場と製薬産業

さて、では「漢方薬」とは何かを改めて考えてみると、これは「漢方の処方によって、複数の原料(生薬)を配合し、症状や体質にあわせて用いられる薬」ということになる。その原料である「生薬」は、主として植物だが、動物性のものや鉱物性のものも存在する。
効果のある成分だけを特定して化学合成されている現代の西洋薬とは異なり、漢方薬は原料となる生薬の成分をそのまま抽出しているので、非常に複雑な成分となっている。つまり、科学的には不要とも思える成分も多分に含んでいる可能性があるということになる。また、その成分の複雑さから、あるひとつの部分に作用するのではなく、複数の部分に同時に作用することもある。
元々は生薬を煎じて(つまり材料を煮出して)薬湯にしたり、すりつぶして粉末にしたり、粉を練って丸薬にしたりして利用していた。それぞれ「○○湯」「○○散」「○○丸」という名称として名残をとどめている。しかし、現在では多くの漢方薬が、煎じ薬を濃縮してエキスにし、さらに乾燥させて顆粒(かりゅう)状にした「漢方エキス製剤」として製造販売されており、薬局・薬店でも購入することができる。現在私たちが気軽に漢方薬を利用できるのも、この「漢方エキス製剤」のおかげである。しかし、たとえば「○○散」という漢方薬は元々粉にしていたのであるから、エキスを抽出したのでは作り方が違うという問題はある。
日本で「漢方エキス製剤」の製造が試みられたのは第二次世界大戦中の昭和19(1944)年であるが、戦局が悪化したため、実用化には至らなかった。実質的な始まりは1940年代末から1950年代初めにかけての武田薬品工業による成分抽出の試みに求めることができる。京都の聖光園細野診療所が1950年に武田薬品の技術を用いて「漢方エキス製剤」を実用化し、武田薬品も程なく数種の「漢方エキス製剤」を実用化している。しかし、これらは市販されることはなく、初の市販「漢方エキス製剤」は、1957年の小太郎漢方製薬による35処方となる。これは主として薬局で販売され、医師が処方して使用するというところまでは至らなかった。
1960年、日本薬局方に記載された生薬が薬価基準に収載され、翌年からの国民皆保険制度施行と共に、生薬を配合して保険適用で漢方薬を処方できるようになった。そして1967年に医療用医薬品と一般用医薬品が分けられることとなった。この年、日本薬局方に葛根湯など3処方が煎じ薬として記載、更に小太郎漢方製薬による4処方6品目が医療用漢方製剤として薬価基準に収載され、1976年には小太郎漢方製薬の21処方、ツムラ順天堂(現・ツムラ)の33処方、合計42処方60品目が薬価基準に収載され「漢方エキス製剤元年」と呼ばれた。現在では一般用漢方製剤が294 処方、薬局製剤において利用可能な漢方処方が 236処方となっている。「漢方エキス製剤」の年間生産金額は平成27(2015)年には1547億円に上っている。一方、生薬は35億円である。また、「漢方エキス製剤」の内訳は医療用が1266億円、一般用が271億円であり、日本の漢方薬はそのほとんどが「医師が処方する漢方エキス製剤」であることがわかる。
野村総合研究所の2010年の資料によると、漢方エキス製剤のシェアは以下のようになっている。
全体ではツムラが79%を占めている。特に医療用でツムラのシェアが圧倒的であるため、この分野では一般にツムラが製造している全129処方については、ツムラが用いている番号で呼ぶことが多く、他社も極力製品番号を揃えている。この番号はネットでも検索が可能で、調べると、「ツムラの1番」は「葛根湯」、「ツムラの19番」は「小青竜湯」である。

漢方エキス製剤の年間生産額は、平成7(2005)年には1033億円であったから、10年で約1.5倍に伸びたことになる。これは、がん治療など、今まで使われてこなかった分野での医療用漢方製剤の生産の伸びが大きい。また、日本の漢方薬は、世界の東洋医薬品(漢方薬と中医薬)市場の約90%を占めている。中国人も日本に来て漢方薬を買い込んで帰るという現象すら起こっている。そんな中、国内最大手のツムラは、中国第2位の大手保険会社である中国平安保険と合弁会社「平安津村有限公司」を設立して、中国国内市場に参入、2027年に売上約1700億円と日本国内市場に匹敵する規模を目標としている。
漢方薬は、ますます身近な薬になっていくと考えられる。

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