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【AZアーカイブ】使い魔くん千年王国 第一章&第二章 召喚&復活

人間には奇形というのがあるが、精神的奇形だってあるはずだ。
釈迦やキリストにしても、二千年たってもそれ以上のアタマの持主が現れないところをみると、大きな天才とは精神的奇形児でアル、という見方ができるかもしれない。
いまここに、人類がかつて生んだことのない頭脳の持主が現れて、
一万年に一人しか理解できないといわれるユダヤの古書をひもといて、
その文字の裏側にかくされた『悪魔を呼び出す術』にふけっていたとしたら、どうであろう。
…………………………………………………… 
我が『悪魔くん』がそうなのだ…………
貸本版「悪魔くん」より引用)

【第一章 召喚】

ここは、ハルケギニア大陸のトリステイン王国にある、トリステイン魔法学院の広場である……。

「エロイムエッサイム、エロイムエッサイム、我は求め訴えたり! 朽ち果てし大気の生霊よ、眠りから覚めよ! 気体より踏み出でて、始祖ブリミルの名の下に行う、我が要求に答えよ!!」

ルイズは渾身の、最後の力を振り絞って、『使い魔召喚(サモン・サーヴァント)』の儀式に臨んでいた! 100回を超える失敗爆発のため、その身には無数の生傷が刻まれ、血と汗と泥と涙に塗れていた……! その甲斐あってか、とうとう失敗ではなさそうな魔法の反応が現れたのだ!

円形の魔法陣の中の大地は、ドロドロの溶岩のように廻り出した! 大地は鳴動し、生臭い空気は一面にたちこめた! おお見よ! ルイズの大いなる『霊波』は、はるか異次元の彼方の地球と呼ばれる星の上で、 反応を示したではないか!!

バオ―――――ン  ンゴ―――――ッ

「宇宙の果てのどこかにいる、私の下僕よ!強く、美しく、そして生命力に溢れた使い魔よ!私は心より求め、訴えるわ! 我が導きに応えなさい!」

バア――――――――ン

突如、閃光が周囲を包む。そして最後のチャンスであった103回目も、いつものように爆発する。だが、そこには確かに何かがいた! そこに横たわっていたものとは―――――

「あっ!」「ぎょっ」「うわっ」「なんと」

ただの人間の、平民の子供だった。せいぜい7~8歳の男の子。気絶しているらしいが目立った外傷はない。

黄色と黒の横縞模様という妙な服に、膝上までしかない半ズボン。灰色の短い髪は頭頂部でピンと立ち、いわゆる(我々の世界での)キューピー人形を思わせた。大きな垂れ目を閉じた顔つきも美少年というには程遠く、額は広く鼻は低い。むしろ不気味でさえある。

「おい、こりゃあどうした?」
「ははははははははは、さすがは『ゼロのルイズ』だね」
「平民の子供を従者にするのかい?」
「どこに隠しておいたんだ?」
「けけけけけけけけ」「いひひひひひひひ」「ははははははははははは…」
先ほどまでは固唾を呑んでいた、無知なる群衆の嘲弄がルイズを責め苛んだ……!

「ミスタ・コルベール! やり直しを! もう一度、もう一度召喚させて下さい!」
「それは駄目です、ミス・ヴァリエール。確かにサモン・サーヴァントで人間を呼び出したのは前代未聞ですが、彼があなたに召喚されたことには変わりがない。一度召喚されたものを一生の使い魔とする、その神聖なる伝統を、曲げるわけには行きません。さぁ、『コントラクト・サーヴァント(契約)』をしてしまいなさい」
教師のコルベール(禿頭)は無情にもそう告げた……!

(ああ……同級生はみな使い魔召喚に成功し、進級を決めている……私もさっきまでは……強く、美しく、そして生命力に溢れた使い魔を求めていた……だが、その期待はうばい去られてしまったのだ……このクソガキに)

(キュルケがサラマンダーを呼び、タバサが風竜をあて、ギーシュさえもがモグラを召喚できたこの日に……私は100回も失敗した末に、平民の子供を召喚してしまいましたといったところで……誰が耳をかたむけてくれるのだろう)

(おそらく、あの善良なアンリエッタ王女サマだって、信じては下さるまい。ああ、もうこれ以上、ああ……考えるのはよそう)

「悲劇だわ……!」

他に選択肢はなかった。ルイズは少年の傍らに近寄り契約の呪文を唱えた。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我が使い魔となせ」

自分の年齢の半分程度しか生きていないような、ただの子供だ。男とはいえ、ファーストキッスとしてはノーカンだろう。ノーカンだノーカン。仕方ないのだ。これから下僕としてこき使ってやろう。かわいそうだが、いっそ死んでしまえばもう一度、まともな使い魔が呼べるかもしれない……。

だが、誰がこの時分かったであろう。
この小さな子供『悪魔くん』こそ、「一万年に一人の大天才」にして「東方の神童」そして「メシヤ(救世主)」であり、ハルケギニア全土をも揺るがしかねない「革命児」であるということを……!

【第二章 復活】

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我が使い魔となせ」

呪文の詠唱とともに、ルイズの唇が少年の唇に重ねられる。するとどうであろう……少年の右手の甲には、奇妙な形のルーン(魔法文字)が、まるで家畜の焼印のように刻まれ出したのだ。その痛みで、少年はとうとう目を覚ました!

「あんた、誰? どこの子なの?」
ルイズはしょんぼりした様子を隠せないまま、貧相な少年を見下ろして誰何した。これから下僕になる平民なのだ。コントラクト・サーヴァント(契約)が済んだからとて、なめられるわけにはいかない。

「…………?」
少年は覚醒した。否、復活と言ってよいだろう。彼は確かにあの時、心臓を銃弾で撃ち抜かれて死んだのだから。
(ぼくが死後復活するであろうことは、さまざまな予言書にも書かれていたとおりだが……。ここはどこだ? 東京や奥軽井沢ではなさそうだし……)

「ちょっと、聞いているの!? 私は急いでいるのよ!」
(この怪しいカッコウをしたやつらはなんだ? 見たところ魔法使いそのものだが、やつらが、というかこの騒がしいピンク髪の女が、ぼくを復活させたとでもいうのか?)
「はやく答えなさいよ! 耳がないの?口がきけないの?(きぃ―――――っ わなわなわな)」

うるさいな。人の名前を尋ねる時は、そちらから名乗るのが礼儀だろう」
ヒステリーをおこしていたルイズは唖然とした。たかが平民の小童ごときが、貴族に開口一番言うセリフではない。

……いや、ひょっとしたら小童なのは見た目だけで、何か強大な力を秘めた存在なのかも知れない。きっとそうだ、そうに決まっている。なにしろこの私が全身全霊をこめて召喚した使い魔なのだから。なんかすごいふんぞり返ってるし。

「わ、私はルイズ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ」
「ずいぶん長い名前だな。まあいい、ぼくは松下一郎。……たぶん君たちは知っているだろうが、『東方の神童』だよ。『悪魔くん』などとも呼ばれていたがね」

「と、東方!? あ、悪魔ですって!?(ふはっ)」

「ミス・ヴァリエール! 下がりなさい!!」
コルベールが進み出て叫ぶ。ハルケギニアにおいて、『東方の悪魔』というだけで自己紹介は充分だ。危険極まりない。だがルイズは狂喜した。美しいかはともかく、これほど強力な使い魔はなかなかないだろう。ちゃんと契約もしてあるから従ってくれるはずだ。

『東方の悪魔使い』ルイズ! なんという力と畏怖に満ちた、ミリキ的な二つ名であろう!
「嘘だろ…あのルイズがそんな凄い奴呼び出せるはずがない」
「まったく、バカバカしいことだニャー」
愚かな群衆のツブヤキも心地よいぐらいだ。うふふふふふふ。

「ぼくは悪魔ではないよ。むしろそれを使役する者だ」
「え?」
「なんだ、ぼくのことを知らずに復活させたのか?それよりここはどこだ? 君たちは何者だ?」
訝しげな表情を浮かべながらも、現状を確認しようとする『悪魔くん』。

コルベールが、警戒しながらも彼の質問に答える。いまのところ暴れる様子はないが、下手に刺激するのはまずい。
「ここはハルケギニア大陸のトリステイン王国、トリステイン魔法学院。 我々はあなたを召喚したメイジ(魔法使い)ですよ、『悪魔』くん」

「召喚だって? まさかぼく自身が召喚されるとは思わなかったな。メイジはともかく、そんな大陸も国名も、知っている限り記憶にないんだが」
「お、おいおい説明するわよ! とにかく契約は済ませたんだから、どんな強力な悪魔でも悪魔使いでも、あんたは一生この私の下僕なんだからね! さあ、御主人様とお呼びなさい!」
ルイズは激しい疲労と困惑で混乱し、早く使い魔を従えたいと焦っていた。

だが……彼は小ばかにしきった口調で拒否した。
「御主人様? これまた調子のいい話だなア。知識だって力だって、ぼくよりも上回ってなきゃア、主人でも先生でもないよ」
「なんですって!?」
「まあまあ、ミス・ヴァリエール。彼には彼の考えもあることだから」
「きみ、止めるな! こんな家ダニのような小娘……」
家ダニ!? 家ダニとはなによ!!!」
「家ダニで気に入らなければ、シラミだって油虫だっていいんだぜ」
「ひどすぎる!!!!」
「き、きみ、口がすぎるよ」

「俺ア、こいつの高慢ちきな態度が始めっから気に入らないんだ! 禿頭、そこをのけっ!! ぼくにはこんなものにかかづらわっていられない、大きな使命があるんだ!」

『悪魔くん』は額に青筋を浮かべ、奇妙な拳法のような構えをとると、聞きなれない魔法の詠唱と精神集中を始めた!
「ミ、ミス・ヴァリエール! 早く逃げなさい!」
「なんで逃げる必要があるのです!!」
いくぞーーーッ!!

『悪魔くん』が暴れだしたのを見て、周りの生徒たちも驚き退いた! コルベールは、激昂したルイズを彼から引き離そうと、ドンと突き倒した!
「あっ」
彼女はどすんと音を立てて倒れ、地面に頭を打ちつけてのびてしまった。
「きゅう」

「私からよくいいきかせておきます。今日のところは大目に見て、助けてあげて下さい」
「……ま、いいだろう……いろいろ聞かなくてはならない事もあるだろうし」

こうして、春の召喚の儀式は終了した。果して、彼は偉大にして強力な悪魔、または悪魔使いなのであろうか。或は何か間違ったのではなかろうか……?

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