邦題：愛の言葉を聞かせて（Let me hear the words of love）

これは2019年8月4日から5日にかけてTwitter上のnjslyrタグで行われた、ニンジャスレイヤーTRPGの簡易版ゲームでのつののリプレイを纏めたものです。公式のソロアドベンチャーシナリオとしては第七回です。

今回はモータルの冒険ということで、前もってモータルのPCを作成して準備しました。そこそこ強いのでBP＝サンめいたソロアド訓練はなしです。

◆ドラガナ・アイ／アナガーディア（種別：モータル／オイランアサシン／サイバーゴス）
カラテ　　　　　　　３　　　　体力　　　　　　　　３
ニューロン　　　　　４　　　　精神力　　　　　　　４
ワザマエ　　　　　　５　　　　脚力　　　　　　　　３
ジツ　　　　　　　　０　　　　万札　　　　　　　　０

◇装備や特記事項
▶生体LAN端子：ニューロン判定ダイス＋１、ハッキング時はダイス＋３
　▷外付ファイアウォール：精神力マイナスになる場合に破壊され防御（使い捨て）
◆ノーカスタム・チャカガン：遠隔武器、拳銃、ダメージ１
◆トキシンニードル・デリンジャー：遠隔武器、拳銃、連射３、
　精神力ダメージ１、射程３、シナリオ中１回限りの使用
◆シャカリキ：体力と精神力が短時間だけ＋D３
●銃器習熟：銃撃成功判定難易度NORMAL
●交渉能力+：交渉判定の難易度－１、非戦闘時で色仕掛けや演技力が発揮できれば－２
●私は無関係！：精神力１消費しニューロン判定HARD、成功すると特殊ステルス状態に
○生い立ち：サイバーゴス

能力値合計：１２　サイバネ数：２　回避ダイス：５　ハッキングダイス：７
借金：万札１０

チームを組んでもいいと言われましたが、回避ダイスも多いことですしソロでやります。分け前も減りますし。前衛でカラテするタイプでもないので、組むとしたらカラテの強いスラッシャーやスモトリでしょうか。

ではリプレイの様子から、このモータルのアトモスフィアを感じ取っていきましょう。例によってパルプ小説仕立てでやります。

◇🎲◇

◆ソロアドベンチャーパート開始な◆

ドラガナ・アイ。通称DA、またはアナガーディア（AG）。サイバーゴス・ハッカー・オイランアサシン。年齢不詳、たぶん19歳か20歳。胸は豊満で、ヤク中のアウトロー。自称ロシア人とのハーフ。悪名高きサイコ女。

◆ツチノコ・ストリート、路上◆

ネオサイタマでも治安最悪のツチノコ・ストリート。彼女は、コネのひとつである零細ヤクザクラン事務所へ足早に向かう。庭も同然とはいえ、立ち止まればファック・アンド・サヨナラだ。ファックはしたいが、イケメンかカネモチに限る。イケメンでカネモチなら最高だが、こんな場所にはいない。

今日もツチノコ・ストリートには電子商業音楽の騒々しいベース音が鳴り響く。違法オハギ屋台の前では、リアルヤクザ同士が縄張りを争う。通りに面したIRCモテルの四階では、ザゼン・ドリンクでキメたスゴイ級ハッカーが喧騒を見下ろして冷笑しながら、神に定時の崇拝を捧げる。

職を失ったリアルヤクザがケジメ・ショーを行っている輪の横を足早に通り抜ける。右手では、檻に入ったバイオスモトリが軒先に吊るされ、キモノ姿のモヒカン女たちがショック・ヌンチャクやサスマタでこれをいたぶっている。「武田信玄」「安らぎ」と書かれたPVCノボリが無表情に揺れていた。

ここは、ネオサイタマのクソの掃き溜めだ。そんな場所をねぐらにせざるを得ない自分もクソの一部。フリーランスでやっていけてるだけラッキーか。「カネ、カネ。あとヤク」ブツブツつぶやきながら、DAはストリートを進む。借金を返さなければヤクザに沈められる。万札にして10。

まだサイバネを入れたい。次はサイバネアイ。さらにLAN直結型ハンドガンを買う。オイランアサシンでローグハッカー。裏社会ではなかなかイケるだろう。……だが、カネがかかる。生体LAN端子だってメンテ代が毎月かさむ。メンテしなけりゃ錆が来て、脳みそがイカれる。電脳麻薬をキメたみたく。

KRAAAASH！突然IRCモテルの窓が割れ、奇声とともに人が落下してきた。「ペケロッパ！ペケロッパ！」ペケロッパ・カルトのハッカーだ。頭から生えた何十本ものLANケーブルを振り乱し、電子合成音声で叫ぶ。ニューロンを焼かれたのだろう。そして、ハッカーの落下地点は……

「ペケロッパ！」カルト・ハッカーがニューロンを焼かれて窓から転落！奇声とともにDAの頭上へ！「ウワッ、ペケロッパが死んだ」物思いに耽っていたDAは、ぼんやりとそれを見上げる。このままでは巻き込まれて怪我をしてしまう。なんであいつらは出て来るたびに死んでるんだろうか。

回避ダイスは5、難易度HARD。[2,3,3,4,5]＝回避成功。

「ファック！」咄嗟に避ける。KRASH！間一髪で回避し、落下した男はトマトめいて潰れた。ナムアミダブツ！「場所選んで落ちろ！」ムカついたDAは落下した男に蹴りを入れる。財布やサイバネを漁ってもいいが、スカベンジャーどもの縄張りを荒らしても厄介だ。死体は彼らが回収する決まりだ。

もしこいつが激突して気絶でもしてたら、自分もどんな目に遭うか。ツチノコ・ストリートはそういう場所だ。よく知っている。「でもまあ、迷惑賃ぐらいは貰ったっていいじゃん」DAは抜け目なく財布を抜き取り、万札1を手に入れた。後は誰かが掃除するだろう。「へっ、儲けたね」

獲得　万札1

◆ヤクザの事務所◆

ストリートの濁流の中に浮かぶ、薄汚いビルディングの一室。十階の窓の横に掲げられた「今売れています」「お安い」「オスモウだ」の電子カンバンが、重金属酸性雨に撫でられてバチバチと火花を散らす。一見するとオスモウショップ以外の何物でもないが、実はヤクザクランの事務所である。

サムライめいた鎧の上には「キルエレファント・ヤクザクラン」のショドーが厳しい書体で額に飾られている。昔気質で貧乏なダサい零細ヤクザクランだが、グレーターヤクザのヤマヒロ＝サンに多少は世話になっている。少なくとも報酬は出るはずだ。「ドーモ、DAよ。で、今日は何の用？」

違法メガデモを作っていたハッカーからの連絡が途絶え、様子を見に行ってほしいという。子供の使いか。いや、ヤクザクランがサイコなアウトローに「様子を見ろ」というからには、怠けていればヤキを入れてこい程度の意味もあろう。レッサーヤクザでなくDAに依頼するとは、ケツに火がついてる。

「カロウシしたんじゃない？さっきペケロッパが落ちてきたよ」「だとしてもカネとブツは回収しろ。ウチはカネがねえんだ」「ダッセ」「ウッセーゾコラー！テメエもウチに借金あんだろが、アア？」「アイ、アイ」ともあれカネは出る。DAは教えられたハッカーのヤサへ向かった。

◆マンション◆

同じストリート、当然マンションも治安は悪い。そこかしこから怒声や騒音が聞こえ、廊下には切断されたマグロの生首が転がっている。DAは寝転がる浮浪者やマグロの生首を飛び越え、ハッカーの部屋の前へ。鍵は無論かかっている。「中にいるかな？ソクシンブツになってる？」

チャイムは壊れている。「じゃ、開けちゃうか」DAは首筋の生体LAN端子を論理錠前に繋げ、ハックする。物理錠前もあるが、そっちも得意だ。

ニューロン4、生体LAN端子で+3され7D6、難易度N。[4,4,5,6,6,1,5]＝難なく解錠。物理錠前は難易度N、ワザマエ5の5D6で[4,5,2,5,6]＝成功。

パシン。難なく論理錠前が開く。物理錠前も手際よく開ける。この程度はベイビー・サブミッションだ。ハック&スラッシュのハックは得意だが、スラッシャーと組めばもうちょい稼げるか。いや、分け前が減る。イケメンとも限らないし、組むならカネモチがいい。ヤマヒロはどうも金回りが悪い。

「ハイ、ハイ、ハイと」ハッカーのマンションに侵入したが、人の気配はない。注意深く探るがゼロだ。やはりカロウシしたか、夜逃げか。……いや、もうひとつ可能性がある。一個一個部屋を調べ、ハッカーの仕事部屋へ。UNIXとLANケーブルだらけの暗い部屋だ。そこで異常に気づく。

風が吹き込み、雨音がする。窓を閉め忘れたか？否。「あちゃあ……」割れたガラス窓から重金属酸性雨をはらんだ風が吹き込んでいるのだ。室内に飛び散ったガラス片は、外からの侵入者がいたこと示す。暗い部屋の片隅で何かが火花を散らした。「スラッシャーが入っちゃったか」DAは舌打ちした。

いや、何か妙だ。アトモスフィアがおかしい。名状しがたい違和感がある。少なくともハッカーはもういないが、このまま帰って報告しても大したカネにはならない。「もうちょい家探しするか」カネ、カネ、そしてヤク。暗闇に目を凝らす。火花を散らしているのは、壊れたオイランドロイドだ。

目から黒い機械油を垂れ流し、額に何かが突き刺さっている。「ナイフ？」DAの指先が震え、喉が砂漠のように乾きだす。薬物が切れたのか。違う。死体など見慣れているし、壊れたオイランドロイドが怖いはずもない。その額に突き刺さっていたものを見たせいだ。それは、有り得べからざるもの。

鋼鉄の黒い星……スリケンだった。

精神力4で難易度N、[3,3,4,6]＝成功。

「スリケン……ニンジャ？」口をついて出る。いや、バカな。ニンジャなどいるはずがない。ただのサイコ・スラッシャー野郎のオミヤゲだ。DAは鼻を鳴らした。バカバカしい。彼女はタフな精神力を持ち、薬物を常用してもいる。これしきのことで怯んでいてはアウトローはつとまらない。

ニンジャはいないが、スリケンは存在する。要はスラッシャーが窓を破り、ハッカーを拉致したかバラしたか。どうする。UNIXからデータを抜き出せばどうにかなるか？「……ダメか。破壊して中身を盗まれちまってる。そりゃそうか」となると、オイランドロイドを調べるしかない。だが、その時！

壊れかけたオイランドロイドの目の焦点が合い、再び動き出した。立ち上がり、手をのばす。『再起動重点……侵入者……排除……ドスエ……！』

『ピガーッ！』「ビッチのポンコツが！」壊れかけのオイランドロイドは、額から火花を散らしながら、必死の形相、もの凄い力で掴みかかってくる！首でも締められたらやばい！DAは冷や汗をかく！

回避ダイス5で全力回避！[1,2,5,5,5]＝成功。

「ファック、オフ！」DAは回避して距離を取り、銃を向ける！

ワザマエ5でチャカ・ガンを射撃！難易度N！[1,2,3,6,6]＝成功！

BLAM！『ピガーッ！』ブルズアイ！DAの放った銃弾はスリケンで開いた穴に命中し、オイランドロイドの頭部を破壊！今度こそ機能停止させた！ワザマエ！「マザファカ！脅かしやがって。銃弾もタダじゃねーのよ、パーツ漁ってカネにしてやる！」DAはオイランドロイドを蹴飛ばし、唾をかける。

DAはヤマヒロに説明するための話を考える。スラッシャーが来て、ハッカーを攫った。オイランドロイドが応戦したが、スラッシャーがスリケンを投げて……スリケンを銃かなんかで射出し、半ば破壊した。そういうことだ。こいつの録画記憶を吸い出せば早いか。記憶野はギリギリ破壊されてない。

メガデモを作っていたはずのUNIXは、中身まで漁られてもうダメだ。DAは壊れたオイランドロイドを担ぐ。とにかくヤマヒロに報告を……「クッソ、重て……」力仕事はむいてない。誰かアホな男をひっかけて運んで貰うか。いや、持ち逃げされる。ここはそういう場所だ。誰も信頼できない。

情報だけではだめだ、証拠物件として持ち帰らねばならない。スリケンはどこかへ落としたかもうない。これだけが証拠だ！「あーもう！ハッカーの野郎、手間かけさせやがって！普通に部屋で死んでりゃよかったのにさァ！」DAは口汚く罵りながら、酔っ払ったサイバーゴス仲間を運ぶように歩く。

『ピガ……ピガ……愛してる……ドスエ……』オイランドロイドはまだしばらくなにか呟いていたが、しばらくして完全に壊れ、言葉を発するのをやめた。DAは舌打ちし、そこらへんに転がっていた台車をかっぱらうと、オイランドロイドの残骸を載せて押した。「ハイ、ハイ、アブナイ！急患だよ！」

◆ヤクザの事務所◆

雑居ビルの十階。這々の体で事務所に帰ったDAを、ヤマヒロは訝しんだ。「おう、ご苦労……なんだそりゃ？違法メガデモの件はどうなった？」

「ヤマヒロ＝サン、ちょいとUNIX貸して」「ア？」DAは事務所のUNIXとオイランドロイドを直結させ、情報を吸い出していく。モニタ画面にノイズまみれの映像が現れ、オイランドロイドの見たものを映し出す。「見て」ガラス窓を破って侵入した、妙なマスクのスラッシャー。驚くハッカー。

破壊されるUNIXと、カラテを食らい倒れ伏すハッカー。米俵めいて彼を担ぐスラッシャー。動き出すオイランドロイドの視点。振り返るスラッシャー。ゾッとするような視線。目にも留まらぬ動きで振り抜かれる腕。そこで、映像は途切れた。しばらくしてDAの姿が映り……銃声、ブラックアウト。

ホラー映画めいた映像だが迫真性があり、作り物とも思えない。ヤマヒロはガタガタと震えた。あれは、ニンジャ。ニンジャの仕業だ。彼はニンジャの存在を知っている。「……わかったかしら。要は、こういうことなのよ……」ヤマヒロにしなだれかかりながら説得を試みる。オイランの本領発揮だ。

難易度はオイランで3、ドロイドを持ち帰って2！1D6は…4！説得成功！色仕掛けで-2すれば1でも成功するだろう。

ヤマヒロは額に滲んだ汗を拭いながら、万札6を手渡した。「ご苦労だったな。これが報酬だ」DAは素早く万札をひったくり、数える。「少なくない？結構やばい目に遭ったんだけど」「あ、あとはそのオイランドロイドを売却してくれ。払えるのはそれだけだ」「ケチ！」DAは踵を返し事務所を出る。

「おっとと」残骸を台車に載せて運び、同じ雑居ビルのオイランドロイド専用廃品業者のところへ持っていく。ネコネコカワイイ型ではなく、かなり破損しているため、DAの交渉にも関わらずかなり足元を見られた。万札3だ。

オイランドロイドを売り万札3として合計10、借金返済したことにする。残金は0。利子は負けてくれた。

映像の中にはニンジャらしき姿もあったが、DAは信じない。ヤマヒロは信じた。彼はニンジャに搾取されているからだ。報酬には口止め料も含まれているだろう。これをネタにヤマヒロを脅しても、大したカネは出せまいが。彼は負け犬だ。以前は多少マシだったが、今はマケグミに転落している。

ともあれ、これでヤマヒロの資金源の一つが潰れた。キルエレファントも長くはなかろう。「あーあ、もっと太いパトロンがあればねえ……」借金は返済したが、懐はカラだ。メシやねぐら程度はウリをやれば稼げるが、今はそういう気分でもない。あのオイランドロイドの悲しげな瞳。反吐が出る。

「何がアイよ」虫酸が走る。オイランの愛や恋もバカバカしいが、ましてやオイランドロイド。あいつらの「感情」はただのAIプログラムだ。人間よりも……「ま、あんまりかわんないか」オイランもオイランドロイドも、愛をささやくことはできる。人を騙し、いい気にさせ、カネを稼ぐために。

傾城の恋はまことの恋ならで/金持って来いが/ほんのこいなり

【レット・ミー・ヒア・ザ・ワーズ・オブ・ラヴ】終わり

◆リザルトな◆

◆忍◆
つの版非ニンジャ名鑑
【ドラガナ・アイ】
通称はDA、またはアナガーディア。サイバーゴス・ハッカー・オイランアサシン。年齢不詳、たぶん19歳か20歳。胸は豊満で、ヤク中のアウトロー。自称ロシア人とのハーフ。悪名高きサイコ女。
◆殺◆

DA＝サンは無傷で生還しました。やはりワザマエが高いと強いですね。ニューロンもそこそこあるのでNRSも起こしません。すれっからしのタフなオイランアサシンが、そうそうやられもしないでしょう。ヤマヒロ＝サンは現在つのバースの時系列ではスガモに行ってしまったため、キルエレファントは潰れています。彼女の冒険はそれより前の話となります。別に急いで第一部の時系列を追わねばならないことはないのですが。J6とGMのハクスラコンビはサスマタ・ストリートにいるので、DA＝サンもヤマヒロの噂を追ってそこへ行き、彼らと合流するかも知れません。

それにしても今回のニンジャは誰だったのでしょう。ハッカーを攫ってメガデモを作らせカネを稼ごうとしたのでしょうが、仮にもソウカイヤ傘下のクランの資金源を奪うのですから、ソウカイ・ニンジャではないはずです（バーグラー＝サンとかがあまりに無軌道ならするかもですが）。そうするとFT＝サンみたいな野良ニンジャか、ひょっとするとザイバツかも知れません。いろいろ話が膨らませそうです。ニンジャの冒険に使ってもいいですね。

8/21追記：公式ソロアドで、この話の前日譚が語られました。

以上です。つの産のこうした非ニンジャたちを、あなたは自由に活用して下さい。つのはとても喜び、あなたの記事にスキをつけたりするでしょう。

【以上です】