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【AZアーカイブ】趙・華麗なる使い魔 第7回 趙・天空の王国!!

「嘘!? 貴族派の刺客!? でも、こんなに早く気付かれるハズは」
「内通者だな。王女の側近にも、すでに『レコン・キスタ』の長い手が伸びているようだ」

あの巨大な岩のゴーレムの使い手は、女盗賊『土くれ』のフーケだ。肩に乗っている。
「おやおや、キミは僕たちに捕縛され、チェルノボーグの監獄とやらへ収監されたそうだが」
「見る目のある人はいるものねぇ。救出されちゃったのよ、プリンス」
よく見れば、彼女の傍らには白い仮面をつけた黒マントの長髪という、怪しさ大爆発の人物がいる。アルビオン貴族派連合『レコン・キスタ』の刺客であろう。趙公明はワクワクしてきた。

「もうあんたのツタには負けないよ! 残念だけど、潰れっちまいな!!」
ゴーレムの腕が鋼鉄でコーティングされ、月光を浴びてぎらりと輝く。ルイズを抱き上げ、一緒に部屋の中へ飛び込む。ゴーレムの巨大な拳が岩のベランダを粉砕した。

下の階は、灼熱の炎に包まれていた。キュルケが『火竜の杖』を投げ、業火を放っているのだ。こちらもいきなり傭兵たちが襲ってきたという。

しかし、所詮平民の集団。キュルケ・タバサ・ワルドという強力なメイジと、宝貝の力には容易く敗走する。ギーシュ? ああ、そんな人もいましたね。フレイムも喜んで炎を吐き、業火の中で戯れているが。
「ははッ、楽勝ね! 炎でこの私に敵うやつは、ちょっといないわよ!」
「……まだ、いる」

タバサの警告に、趙公明が反応した。火炎の向こうから多数のマジックアローが襲来する!
「「風よ、盾となれ!」」
ワルドとタバサが、『風の盾』を作って矢を防ぐ。ゆらりと現れたのは、頭にバンダナを巻いた若い男。
「キミは……僕の弟子であった、劉環じゃないか!僕に歯向かう気かい?」

劉環。ある女性への歪んで行き過ぎた愛(ストーカー行為)によって、道を誤って死んだ悪しき仙道。その手に持つのは、魔法の火矢を放つ『万里起雲煙』なる弓型宝貝である。今は封神され、火部の神・接火天君となっているはずだが。

「……ブツブツ……うるせぇよ……オラ死ねやてめぇるらァァ!!!」
劉環は完全に自分を見失っている。ただ殺戮のためだけに、彼は召喚されたのか。周囲の火炎をヒョォオオと吸い込み、炎を纏ってやや体つきが大きくなった。『万里起雲煙』の威力もアップしている。前門の虎、後門の狼か。

「プリンス! 貴方の知り合いは、個性的ですな!」
「褒め言葉と受け取っておくよ。では大人しく、華麗に倒されたまえ劉環くん!」

フーケのゴーレムがバリバリと屋根を破壊し、酒場まで侵入しようとする。
趙公明は華麗なステップを踏みながら、『縛竜索』で劉環の両手首を締め上げ、あっさり宝貝を奪い取った。
「うごおおおおおお!! どうしていつも! どいつもこいつも! 何でもかんでも!! 俺の邪魔をするんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!」
劉環が眼と鼻と口から火炎を吐きながら襲い掛かる。それをタバサが、『氷の槍』で串刺しにした。

「あ・ああああ・あああああああ……!!!」
劉環の仮の肉体はバサッと崩れ、一握りの灰となる。その狂える魂魄は封神されず、ふらふらと迷い出た。しかしワルドの持つ『打神鞭』に吸い寄せられ、バシュッと音を立てて消えた。封印されたようだ。
「リューカンを倒したわ! やるわねタバサ、お手柄よ!」
一方ギーシュは、ヴェルダンデと抱き合って腰を抜かしていた。

「ふうむ、アルビオンにも『神界』の者たちが召喚されているのかな。それに、この魂魄……。だがまずは、このゴーレムを片付けなくてはね」
趙公明は『万里起雲煙』を拾い上げると、迫り来るゴーレムへ向けて火矢を放つ。強大な彼の霊力と『ガンダールヴ』の力により、火矢は竜のような頭を備え、鋼鉄をも熔かして穴を空けた。
「流石に、全部を砕くのは難しいが……脚を狙えば」
ゴーレムの片脚が火竜矢の集中砲火を喰らい、破壊された。当然巨大なゴーレムは自重を支えきれず、ズシィンと転倒してしまう。フーケは舌打ちして飛び去った。

「分断さえも無理か……まぁいい、時機を待とう」
仮面の男は戦いが終わったのを見届けると、風に溶けるように姿を消した。

翌朝。酒場と宿屋が全焼崩壊してしまったので、一行は別の宿に移り、疲れを癒す。

宿は趙公明の『福の神』効果で千客万来、燃えた宿屋と酒場も即座に寄付金が集まり、一晩でオリエンタルかつゴージャスなスーパーホテルが建ち上がった。無論、コーディネートは貴族C氏である。名づけて『ウルトラスーパーワンダフリャ大回転海老反りハイジャンプ女神の杵メガデス亭。

「さて、諸君。それではアルビオンへ向けて出航だ!」
「「おう!!」」
アルビオン行きのフネ(飛行船)は『風石』で飛行するが、アルビオンが最大限ハルケギニアに近付くのは、二つの月が重なる『スヴェルの月夜』の翌朝、つまり今朝である。『風石』で飛べるのは、それがギリギリの距離だ。
タバサのシルフィードなら、フネに乗らなくても飛んでいけるが、流石に定員オーバーだろう。

店を出て、長い石段を上りきると、丘の上に出た。山のように巨大な樹が、四方八方に枝を伸ばしている。
「ほう……樹齢は数千年ではきかないな。『世界樹』というものか……」
「今は枯れていますが、フネの発着場、いわば『桟橋』として利用されています」
樹の枝にぶら下がっている、木の実のようなものは『フネ』だ。『桟橋』の巨樹の根元は、ビルの吹き抜けのように空洞である。各枝に通じる階段には鉄でできたプレートが貼ってあり、行き先を知らせる文字が書かれている。

フネ(飛行船)にはたどり着いた。予約していた商船『マリー・ガラント』号である。ワルドは急ぎ出港の手続きをする。使い魔たちは船内に専用の厩舎があるそうだ。今日の夕刻にはアルビオンのスカボロー港に到着予定である。そこからニューカッスルまでは、しばらくあるが。

乗員乗客の間では、行き先・アルビオンの噂で持ちきりだ。 明後日にも王党派への総攻撃が開始されるらしい。

「ふむ、総攻撃が始まる前に、その城に着いて手紙をもらわねばならないわけだね」
「……ねぇ、王党派に勝ち目はないの?」
「貴族派の軍勢はいまや数万人だが、王党派はたったの300。最初から勝ち目はないさ。残念ながら、六千年にわたるテューダー家の王統も断絶してしまいそうだ。ま、歴史の流れには逆らえないさ」
「ワルド子爵! 少々聞き捨てなりませんが」
「僕は別に『レコン・キスタ』じゃあないが、アルビオンに恩義があるわけでもない。反乱を防げなかった王家にも問題はあったんだろう。でも、我がトリステイン王家は不滅だよ」
「そーよ、所詮この世は弱肉強食。我がゲルマニアの皇帝陛下なんて、成り上がりもいいとこよ」
「…………。」

眩しい青空の中、雲の上を『マリー・ガラント』号は飛んでいく。地上から約3000メイルもの高さだ。ルイズの一行は一等船室で寛いでいる。

そして、夕方。
「アルビオンが見えたぞーーっ!!」
船員の声が、伝声管経由で船内に響いた。一行は揃って窓の外を見る。

『浮遊大陸』アルビオン。大きさはトリステイン王国と同じぐらいだが、細長い形をしている。空中を浮遊して洋上を彷徨い、月に何度かハルケギニアの上にやってくる。大陸からあふれ出た水が白い霧になり、大陸の下半分を覆っているところから『白の国』の名がある。
「ほほう……我が失われた金鰲島より、大きな大陸だ。内部に巨大な『風石』でもあるのかな?」

と、突然見張りの船員が、再び大声をあげた。
「う、右舷上方の雲中より、不審船接近ーーッ!!」
近づいてくる黒い船は、舷側からいくつも大砲を突き出していた。
「アルビオンの反乱貴族たちの軍艦か?」「いや、王党派では」「フネなんてあっちに残ってたか?」
乗員乗客がざわつく。こちらには最低限の武装しかない。

「この旗を見ろ、俺たちはアルビオンの『空賊』だ! 抵抗するな! 積荷をよこせ!!」
黒い船の甲板で、荒くれ男が停船を呼びかける。続いて鉤爪のついたロープが放たれ、舷縁に引っかかる。たちまち武装した男たちが、ロープを伝ってフネに乗り移ってきた。悪名高いアルビオンの『空賊』である。
「なんてこと、もうすぐなのに!」
ルイズは杖を握り締めた。しかし、現れたワルドに止められた。
「止めておくんだ! 敵は空兵だけじゃない、砲門もこちらを狙っている。メイジだっているかも知れない」

ずいっと趙公明が進み出る。
「では、ここで僕の出番というわけだね。なあに、盗賊風情ならばどうということはない。ちょっと無傷であのフネをもらってしまおう。ワルドくんたちは、乗り移ってきた奴らを捕らえてくれ」
「プリンス!? お、おやめ下さい!」

趙公明は鞭とツタを伸ばし、逆に空賊のフネへと乗り込んでいく。隣の部屋に入るぐらい気安く。
「あぁ? なんだァ、テメエ!! 貴族様が何の御用だァ!?」
「降伏でもしにきやがったのかァ? それともアレか? 貴族派に付いて王党派と戦えってか?」
「安心したまえ、命を奪う気はない。さて『飛刀』くん、久し振りに出番だよ」

趙公明が袖口からズズッと妖剣『飛刀』を取り出す。どう見ても袖の中に納まるサイズではない大剣だ。
「なんだァ? 手品師かオメエ!? こ、この『イーグル』号にもメイジは沢山いるんだぜ!?」

『飛刀』に趙公明の霊力が注ぎ込まれる。剣身が妖しく輝き、一人の美女の立体映像が出現した。
「さあ、幻の美女よ。少し彼らに礼儀を教えてやりたまえ」

美女は魅惑的に舞踊を初め、空賊たちは思わず集まって見惚れる。なぜかBGMつきだ。その隙に趙公明は足元から根を伸ばし、ジワジワとフネ全体を覆っていく。美女が舞い終わると、空賊たちは全身を木の根によって縛られ、吊り下げられているのだった。
「『マリー・ガラント』号の諸君!! もう大丈夫だ、このフネは占拠した! 曳航して連れて行こう!」

どちらのフネの乗員乗客も、狐につままれたような表情だ。捕虜全員が集められると、空賊の頭領らしき髭面の男に、趙公明が声をかけた。
「キミが船長かな? どうせ盗品なら、積荷は全部貰って、アルビオンへの手土産にしよう」
震えながら船長が聞き返す。
「さ、然様です! あ、あの、旦那様は貴族派で? それとも王党派で? まさかエルフじゃあ……」

趙公明は『にこっ』と笑う。なんとも恐ろしい、爽やかな笑顔である。
「フフフ、僕たちはどちらでもない、ただ物見遊山に来た外国の貴族さ。どちらに付くかは、見てから決める」
「が、外国?ま、まさかトリステイン王国の、謎の貴公子様じゃあ……!」
「随分有名になったものだな。実はそうなんだ! 我が名はプリンス・趙公明!!(ヴァッヴァヴァアアアン)……さ、キミも名乗りたまえ」

「……いえ、お話があります、トリステインの貴族がた。船室へ僕を連れてきて下さい」
頭領の口調と声が急に変わった。全然顔つきに似合わない、貴族的な口ぶりだ。その頭領は甲板から船室に移されると、縄を解かれた。すると、べりっと覆面を剥ぐ。
「ようこそ、歓迎しよう。我らが頼もしき味方よ!」
髭面の覆面の下は、似ても似つかぬ金髪の凛々しい青年。空賊の頭領の正体は…。

「あ……貴方は、まさか、ウェールズ皇太子殿下!!?」
「いかにも。私がアルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ。お見苦しいところを見せたね」
もう一人の『プリンス』は頭を掻き、苦笑する。ルイズたちはさっきから驚かされっぱなしだ。

「いやあ、今や空賊でもしないと軍需物資が足りなくてね。我が王家の先祖も、空賊をしていたこともあると言うし。積荷を貰ったら、どこかで解放するつもりだったんだが、逆に捕まるとは思わなかったよ。それで、キミたちは……?」

ルイズたちは佇まいを正す。ようやく目的である皇太子に謁見できたのだ。
「お初にお目見えいたします。私は、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールと申します。トリステイン王国のアンリエッタ姫殿下より、この密書を言付かって参りました」
恭しく一礼すると、ルイズは懐から手紙を取り出す。

「少し待ちたまえ。ひょっとしてその指輪は『水のルビー』かな? 確かめたい」
ウェールズは自らの指に光る『透明な宝石』の指輪を外すと、ルイズの指に嵌っている『水のルビー』へ近づけた。すると二つの宝石が互いに反応し、美しい虹色の光を振りまいた。
「殿下、これは……?」
「この指輪は、我がアルビオン王家に伝わる『風のルビー』だ。キミのは、トリステイン王家に伝わる『水のルビー』。ともに始祖から授けられし秘宝。水と風は『虹』を作る、王家の間に架かる橋さ。なるほど、確かにアンリエッタが送ってきた本物の大使のようだ」

ウェールズはルイズから手紙を受け取ると、花押に接吻し、封を解いて便箋を取り出す。そして真剣な顔付きで手紙を読み始め、読み終わると顔を上げた。

「そうか、姫は結婚するのか……あの愛らしいアンリエッタ、私の可愛い従妹が、野蛮なゲルマニアに……。姫は、私の手紙を返して欲しいと告げている。姫の望みは私の望みだ、承知した。……だが、今手元には件の手紙はない。我が『ニューカッスル城』にあるのでね。多少面倒だが、このままニューカッスルまで足労願いたい。恐らく最後の客人だ、歓迎しよう」
「あの『イーグル』号で行くのだね。では、『マリー・ガラント』号も同行させよう! せっかくだし、諸君に積荷をプレゼントしなくてはね。福の神としての使命さ」

こうして、2隻のフネは進路を変え、直接ニューカッスルに向かう。総攻撃は近い。警戒網を潜り抜けるのも一苦労だ。全長200メイルはある巨艦も見えた。

「……あの巨艦は、我が王国最大の軍艦であった『ロイヤル・ソヴリン(王権)』。しかし、あのフネで起きた反乱が全土に飛び火し、今やこんな有様さ。『レコン・キスタ』では、戦勝地にちなんで『レキシントン』と呼んでいるそうだ。我が国の『王権』も、共和制革命とやらの前に失われようとしているのかな……」
ウェールズは、独り言のように呟いた。

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