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忍殺TRPGリプレイ【ザ・ニンジャズ・オブ・ザ・ショーグン】後編(全テキスト版)

 これは、つのの忍殺TRPGリプレイ「ザ・ニンジャズ・オブ・ザ・ショーグン」後編(13-20)のうち、あらすじやステータス表、ダイスロールやコラム書き、イラストなどを除去した小説テキスト部分のみをまとめたものです。文字数カウントで見たところ、前編(01-06)が1万6335字(2434+2627+2716+2625+2368+3565)、中編(07-12)が1万5122字(1905+2703+2737+2853+2214+2710)、後編(13-20)が1万8742字(2136+1430+2415+3332+3503+1625+1878+2423)で、合計5万199字にもなりました。1記事平均2510字で、2記事で1セクションになりますね。後編はダイスロールが少なかったので、リプレイと言えるか微妙ですが。


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 ゼンめいてモデストなホウリュウ・テンプルの佇まいを、ニンジャスレイヤーとディテクティヴは数秒間立ち止まり、眺めた。「ちょっとした史跡……ちょっとした、なんてもんじゃねェか。この下にユカノ=サンがいるかも知れねえ。それなら話は実際早い」「そう容易くは行くまいが……」

 テンプル内は無人。内部に祭祀の施設は無く、図書館めいた古文書集積施設となっている。世界中から集められたこれらの古いマキモノや書物には、禁断のニンジャ知識が断片的に記されているのだ。「興味はあるが、読書をしている暇もないな。どこかに潜んで休まねば」アンバサダーが促す。

 ……4人はニンジャ視力で暗がりの通路を進む。忌まわしい文書が並ぶ書架からはなるべく目をそらす。ニンジャ第六感が何か良からぬ予感を与えたのだ。魅入られてしまえば危険だ。モータルがここに立ち入れば、書物のタイトルを見ただけで発狂していただろう。ゆえに常駐する者もいないのだ。

『アイエエエ……アイエエエ……!』どこかから声が聞こえる。ユカノではない。男の声だ。それは4人の耳ではなく、ニューロンに直接響くような声であった。『ドーモ……アラクニッドです……!』声はアイサツを行った。ニンジャなのだ。「……ドーモ」4人はアイサツを返す。だが、声の主は何処に。

『下だ……螺旋階段……座敷牢の中……そこに、アラクニッドの肉体は囚われている……来てくれ……教えよう……秘密を……!』途切れ途切れに声が届く。4人は頷いた。おそらくロードに背いた罪人が、この下に幽閉されているのだ。何か情報が得られるかも知れない。4人は螺旋階段を発見し、下へ降りる。

 日本の伝統的テンプル建築にはおよそそぐわぬ、増築されたと思しき階段の左右には、上と同じく書棚が並んでいる。それらから目をそらしつつ進むと、書棚はぷっつりと途絶え、剥き出しの岩壁となる。螺旋階段を一周するごとに踊り場があり、座敷牢が隣接している。中に人はなく、物音もない。

「最下層まで降りろってか」ディテクティヴが脂汗を拭う。ここに長居するのも自我に良くない気がする。冷え冷えとした狂気が地の底から立ち昇って来る。『それには及ばぬ……そして、来るのは1人でよい』座敷牢の一つから黒い影が這い出て来た。『アラクニッドの心身が耐えきれないのだから』

 それは、黒く長い乱れ髪に覆われた、やせ衰えた男であった。『ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。待っていた』「ドーモ、アラクニッド=サン」アイサツを返し、背後を振り返る。ガンドーたちがいない。「これは!」『夢の中だ。アラクニッドの肉体は動けない。ゆえに、夢の中を歩く』

 アラクニッドは奇妙な口ぶりでそう告げた。彼の自我は破壊されており、その分裂した一部がユーレイめいて現れているのだ。『ニンジャスレイヤーはここに来て、知る必要があった。予言の通りに。ロードを倒し、ザイバツを滅ぼすために。アラクニッドはオヒガンから未来を知り、予言する』

 ……何が語られたかは、ここでは語るまい。現世に戻ったニンジャスレイヤーは激しい怒りとカラテをみなぎらせていた。彼はロードのキョジツテンカンホーを打ち破り、ザイバツを滅ぼさねばならない。絶対に!

 一行はテンプル地上階に戻り、いよいよ本丸への潜入作戦に移る。エーリアスからの極秘IRC連絡によれば、電算室を滅ぼし、グランドマスターのニーズヘグに重傷を負わせて撤退させ、ナンシーの物理肉体を取り戻したものの、電算室長ヴィジランスを取り逃したという。ユカノの居場所は不明だ。

 ナンシーはザイバツとの契約により、表立ってザイバツに不利益をもたらすことはできない。そのため、ザイバツのハッカーニンジャ・ストーカーの死体に取り憑いたエーリアスを介する必要がある。『こっちも逃げ回りながら調べてるが、ヴィジランス=サンが妨害して来やがる。どこだと思う?』

 ザイバツはサイバネや電子機器の利用を嫌っており、キョート城内には監視カメラがない場所も多いという。ならば、そのどこかだ。アンバサダーは城内の間取りを思い出す。「……ユカノ=サンを用いて何か儀式を行おうというのなら、『琥珀ニンジャの間』という大広間がある。そこだろう」

「琥珀ニンジャ?」「本丸の地下だ。琥珀で作られた聖なるニンジャ像があるという」「聖なるニンジャねえ」ディテクティヴは鼻を鳴らす。いかにもカルト教団らしい施設だ。「わかった。そこへ行く」ニンジャスレイヤーは激しい怒りを抑えながら立ち上がった。敵の首領もそこにいるはずだ。

『わかった。俺たちが陽動する。後で合流だ!』通信終了。「……オヌシらは別行動せよ」ニンジャスレイヤーは深く呼吸し、ザイバツへの憎悪を抑える。ディテクティヴ、ディプロマット、アンバサダーは頷いた。この状態の彼とニンジャが行動をともにするのは、おそらく味方でも危険なのだ。

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 カランカランカラン……カランカラン……キョート城内のナリコが一斉に鳴らされ、モールス信号じみた秘密暗号を伝達する。それはヴィジランスのタイピングによって、城の外、キョート共和国全域へ展開していた全てのザイバツニンジャに伝達された。『キョート城、琥珀ニンジャの間へ集え』と!

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 ニンジャスレイヤーは怒りを燃やし、キョート城本丸に突入した。狙うはロード・オブ・ザイバツの首ひとつ。以前トコロザワ・ピラーに突入した時はシックスゲイツに阻まれたが、今回は奇妙ながら彼らが味方だ。無論、ザイバツを滅ぼした後はソウカイ・シンジケートも滅ぼすが……状況判断だ!

 身を潜めて様子をうかがうと、城内を警備していたザイバツニンジャたちはナリコの音を聞いて頷き、一斉にある方向へ走っていく。「琥珀ニンジャの間だと!」「急がねばムラハチだ!」「クセモノは?」「ほっておけ!」ナムサン!だがこれは好都合!ニンジャスレイヤーは彼らの後を追う!

 キョート城本丸地下……琥珀ニンジャ像の間!

 コロセウムめいた円形巨大ホールの中央には三層の黒漆塗台座が置かれ、その上にオミコシ型の八角形の黒漆塗屋形が載せられ、黄金のフェニックスなどで荘厳に飾られている。あれがロード・オブ・ザイバツの玉座だ。傍らにはやや小さい同様の玉座が据え付けられ、すでに何者かが座っている。

 摂政たるパラゴンは、ロードの玉座の傍らに侍っている。ならば、小さい玉座に座るのは……!おお、ナムアミダブツ!そこにいるのは、ドラゴン・ユカノ!否、古代のニンジャ六騎士の一人、ドラゴン・ニンジャその人だ!

「キョート城を動かすには、三種の神器がいる。そなたはメンポしか持っておらぬが、どうする?」「ムフォーフォーフォー……今に向こうから来る」ロードは集まり始めたザイバツニンジャたちを眺めながら答える。

「ナリコでニンジャたちを急ぎ呼び集めましたが、皆が集まるまでにそれなりの時間はかかりましょう」パラゴンが告げる。侵入者については報告されているが、それも想定内。一切は滞りなく進んでいる。「……イヤーッ!」KRAASH!琥珀ニンジャの間のドアが蹴破られ、赤黒の風が舞い込んだ!

「「「アバババーッ!サヨナラ!」」」KABOOOM!入り口近くにいた数人のザイバツニンジャがまとめて首を刎ねられ即死!アンブッシュだ!「ムフォーフォーフォー……神器が来たぞ」ロードはゆっくりと手を叩く。赤黒の風は階段を駆け下り、玉座のあるステージへ飛び込む!「ドーモ」

 ロードは玉座の御簾越しにアイサツした。「よくぞ参った。ロード・オブ・ザイバツです」「パラゴンです」「ドラゴン・ニンジャです」赤黒の風は玉座の直前で止まり、アイサツを返した。アイサツをされれば、返さねばならない。古事記にも書かれている。「ドーモ、ニンジャスレイヤーです」

「ドラゴン・ユカノ=サンはどこにいる」ニンジャスレイヤーは怒りを押し殺して尋ねた。「ここにおるぞ」ドラゴン・ニンジャは自らの胸に手をあてた。「ユカノは我が半身じゃ。先程食らい、溶け合った。遅かったのう!」「ユカノ……!」ニンジャスレイヤーはドラゴン・ニンジャを睨んだ。

 パラゴンが進み出て発言する。「儀式を荒らしに参られたようだが無駄なことだ。あなたはラオモト・カンを倒すため、ザイバツが生み出した子であるぞ。おとなしくドゲザして忠誠を誓い、神器を差し出されよ。予言のとおり、本来あるべき主のもとへお返しいたすのだ」「黙れ……コワッパ!」

 ニンジャスレイヤーは憎悪を燃やす。「オヌシらを殺し、ザイバツ・シャドーギルドを滅ぼし、ユカノを奪い返す。ニンジャ殺すべし!」「やってみるがよい。できるものなら」パラゴンはアイキドーの構えをとった。ドラゴン・ニンジャは微笑みながら見守っている。……一触即発アトモスフィア!

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「ムフォーフォーフォー……ドゲザせよ!」罪罰罪罰罪罰罪罰……ロードは座ったままキョジツテンカンホー・ジツを重点発動!罪罰の網がニンジャスレイヤーのニューロンに襲いかかる!「グググ……子供騙しよ!イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは憎悪と殺意でこれを跳ね返す!ゴウランガ!

「イヤーッ!」パラゴンがアイキドーの構えで襲いかかる!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはジュー・ジツの構えで見切って回避!パラゴンはそのまま滑るような足取りでロードの傍らへ!「イイイヤァアアアーーーッ!」ニンジャスレイヤーはヌンチャクを抜かず、鉄拳でロードへ殴りかかる!

 罪罰罪罰罪罰……だが目の前を罪罰の網が覆い隠す!「イイイヤァアアアーーーッ!」パラゴンが見切って防ぎ、当て身返しを繰り出す!SMASH!「グゥワーッ!」命中!痛烈!「ムフォーフォーフォー……クルシュナイ」ロードはパチパチと手を叩く。ニンジャスレイヤーはドゲザした。

 彼は腰におさめていたヌンチャクを両手で捧げ、恭しく差し出した。「パラゴン=サン、受け取るがよい」「ヨロコンデー」パラゴンは何事もなかったかのようにヌンチャクを受け取り、ニンジャスレイヤーの頭を撫でた。そして恭しくロードに差し出した。ロードはそれを受け取り、腰に帯びた。

「……だが、貴様は余の神聖なる琥珀ニンジャの間を騒がしたゆえ、罰を与える」ロードは玉座に備わった秘密のボタンを押した。突然、ニンジャスレイヤーのドゲザしていた床がくるりと90度回転した!ナムアミダブツ!ニンジャスレイヤーはドゲザ姿勢のまま、遥か下の暗闇へと落下していく!

「ムフォーフォーフォー……クルシュナイ。クルシュナイ」ロードは満悦した。ナムサン……これがキョジツテンカンホー・ジツだ。居並ぶザイバツニンジャたちは、ロードのみわざを見て感動し、涙を流し、バンザイを繰り返す。「さて、残るはブレーサーのみ。ダークニンジャ=サンはまだか?」

 ……物陰に潜んで一部始終を見ていたディテクティヴたちは、戦慄した。「どうなってやがる」アンブッシュする暇もなかった。「ロードのジツだ。行くな。我々では勝てない。パラゴンたちもいる」ディプロマットは震えながら告げた。「地下へ向かい、ニンジャスレイヤー=サンを救出せねば」

 ディテクティヴ、タカギ・ガンドーは歯ぎしりした。ドラゴン・ユカノは無事……とは言い難いが、生きてはいるだろう。そして、パラゴン。あの姿と声、口ぶりは……シキベ・タカコを銃で撃ったニンジャは、あいつだ!彼女の仇がそこにいる。だが、今は……!「行くぞ!」「わかってる!」

「琥珀ニンジャの間、じゃと?侵入者どもを捨て置いてか?」ニーズヘグは訝しんだ。彼はスシを食って傷を癒やし、切断された腕を応急処置で繋いだ後、手勢を率いて侵入者たちを追い込んでいた。「ハイ。直ちに」使いのニンジャは無感情に告げる。「じきに片付ける。ギルドの危機じゃろうが!」

「ロードの勅命にて」「『ショーグンが戦っている時は上司の命令を聞かんで良い』と兵法書にある」彼は言う事を聞かない。「なれば、ムーホンと報告いたしますが」「ええいわかった!行くぞ!」ニーズヘグは状況判断し、踵を返した。彼は戦闘狂イクサオニだが、政治をわきまえているのだ。

 殺された3人のグランドマスターの派閥は解体され、サラマンダー・ダークドメインら武闘派のニンジャと利権はニーズヘグ、イグゾーション派は同じ貴族派のパーガトリーとスローハンドの派閥に吸収された。パラゴン、ケイビイン、ヴィジランスら側近派閥に吸収されたニンジャも少数いる。

 残る6人のうち武闘派はニーズヘグだけだ。バジリスクらは最前線で手勢を率いて日本軍と戦っており、命令を聞いてキョート城に戻るかも怪しい。これを機会にニーズヘグ派閥が潰され、他の派閥に吸収されて下働きにされる可能性もある。それはつまらぬ。ゆえに彼は「イヤーッ!」SLASH!

「アバーッ!」使いのニンジャの首が飛ぶ!「サヨナラ!」KABOOOOM!爆発四散!「……は?」ニーズヘグは足を止めた。彼を斬ったのは自分ではない。眼の前にいる、見知ったニンジャだ。「ドーモ、ニーズヘグ=サン。ダークニンジャです」「……ドーモ、ニーズヘグです。何のつもりじゃ」

「イクサの時間だ、イクサオニよ」ダークニンジャは妖刀ベッピンを振り上げた。その腕には三種の神器のひとつ、聖なるブレーサー。背後には謎めいたケイトー・ニンジャ。「今こそ好機。ムーホンを起こし、ザイバツ・シャドーギルドを掌握する!」ナムアミダブツ!「カカカ……正気か?」

「無論。すでにいろいろネマワシはしてある。貴様らはこのまま反逆者として、貴族派や側近派に粛清される気か?」ダークニンジャとケイトー・ニンジャは恐るべきカラテを放ち、居並ぶ武闘派ニンジャらを威圧した。「……よかろう!皆の者、ついて来い!うらなりの青瓢箪どもを打ち倒すぞ!」

 ニーズヘグは力強く叫ぶ!「エイ!エイ!オー!」彼の派閥は呼びかけに応じる!「「「エイ!エイ!オー!」」」「「「エイ!エイ!オー!」」」「「「エイ!エイ!オー!」」」ゴウランガ!ゴウランガ!「クキキキ……これでよろしい!」ケイトー・ニンジャはほくそ笑んだ。

 ロードがニンジャスレイヤーにジツを集中して用いたせいで、キョート城内のキョジツテンカンホーの網は一瞬弱まった。すなわち、ザイバツニンジャたちにかけていた洗脳の網が。そこへケイトー・ニンジャはつけこんだのだ。……どのみち、オヒガンへの門は開く。キンカク・テンプルへの門が!

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「……おい、なんか退いていくぜ」城の奥。エーリアスは、ハッキングした監視カメラの映像と音声を拾って訝しんだ。「ニーズヘグ=サンとダークニンジャ=サンがムーホンだと。仲間割れか」「ダークニンジャ=サン!?」ハウスバーナーたちは驚いた。死んだはずの彼が、なぜここに?

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 琥珀ニンジャの間、グランドマスターの座。今やそこに座るのは2人だけとなった。スローハンドパーガトリーだ。パラゴンは宰相じみてロードの玉座の傍らに侍っている。ケイビインは先程死亡が確認され、ヴィジランスは予備電算機室を離れることを許可されていない。ならば。「ムーホンだ」

 パラゴンは陰鬱な声で告げた。「ニーズヘグ=サンがムーホンした。三神器のうちブレーサーを預かるダークニンジャ=サンと手を組んだのだ。奴に従う武闘派ニンジャや、胡乱なるケイトーニンジャも!」「一大事ですな」「さよう。お二方は直ちに手勢を率いて鎮圧なされよ。ロードの御為に」

「「喜んで承る」」2人に否応もない。しかし。「なにやら侵入者があったとも聞き及んでおりますが」「無論、ダークニンジャ=サンたちが引き込んだに違いない。所詮あれはソウカイヤから連れ込まれた犬であった。ロードの大恩を裏切った報いを与えねばならぬ。捕らえてカマユデにすべし!」

 2人のグランドマスターは立ち上がってロードに深々とオジギし、精鋭ニンジャを率いて反乱制圧に向かった。キョート城へは勅命を受けて続々とザイバツニンジャが駆けつけている。彼らをもってすれば、ムーホンも侵入者もほどなく片付けられよう。ロードにジツを多用させるわけにはいかぬ。

 パラゴン直属の手勢も潜ませており、琥珀ニンジャの間の守りは万全だ。ダークニンジャやニンジャスレイヤーが襲って来ようとも問題ない。「なにやらごたついておるのう」ドラゴン・ニンジャがあくびした。「かような軍勢では全く足りぬぞ」「私は完璧主義者なのだ!」パラゴンは苛立った。

「ロードの御治世に不純物は不要なり。マッポーカリプスの到来。地上を浄化の炎で焼き尽くし、理想の格差社会を、ニンジャ千年王国を打ち立てるには必要な……」「そなた、キョート城の建造目的を勘違いしておらぬか?」ドラゴン・ニンジャは訝しんだ。「マッポーカリプスとは、本来……」

 どくん。ドラゴン・ニンジャが頭を抑えた。「そうじゃ……思い出した!足りぬ!神器だけではない!あれを滅ぼすには……黄金の林檎が……!」「あなたがいかなる目的でこの城を築かれたかは、どうでもよい。今は我らのもの。我らの目的のために使わせていただく」パラゴンは冷酷に告げる。

 ディプロマットとアンバサダーはポータル・ジツの応用で床に穴を穿ち、ニンジャスレイヤーを追ってキョート城の地下へ向かった。ディテクティヴのニンジャ感覚は実際鋭敏であり、ニンジャアトモスフィアを追跡できる。「ダストシュートで堀へ落ちた、ってわけでもなさそうだがよ……!」

 キョート城の地下には、謎めいた地下空間が広がっていた。そこにCPUの金属足めいて不気味なほど規則正しく立ち並ぶのは、銀色オベリスクめいた大型の構造物だ。表面には古代の漢字やルーンカタカナが無数に刻まれ、不吉なアトモスフィアを感じさせる。その奥に、隠し玄室めいた部屋がある。

 謎めいた黒い石材壁に囲まれ、古代のタタミが十六枚敷かれた空間の中央には、チャブ型の回転台座があり、その上に琥珀ニンジャ像が立っている。それが見つめる部屋の一角には、漆黒のオブツダンめいた物体がある。これらが何を意味するのかは見当もつかないが、ろくなものではあるまい。

 そして……琥珀ニンジャ像の前には一本の銀色オベリスクが聳え、ナムアミダブツ!ニンジャスレイヤーの腹部を串刺しにしているではないか!「アバッ……ニンジャ……殺す……べし……!」彼はなお生きている!だがオベリスクはあまりにも深く突き刺さり、いくらもがいても抜けるものではない!

 そればかりか、オベリスクに刻まれた漢字やルーンカタカナは、ニンジャスレイヤーから流れ落ちる血液を吸収し、脈動するように光り始めている。「なんだ!?なんだ、これは!?ニンジャスレイヤー=サン!?」ディテクティヴは呼びかけた。「ポータルで壊せるか?」「いや、危険な気がする」

 ディプロマットとアンバサダーは脂汗をかいた。これは、オヒガンに関する秘密の機構だ。この場でポータル・ジツを使えば、機構のどこかを破壊すれば、何か破滅的な事態が起きる。彼らはそう直感した!『ニンジャ……殺すべし……全ニンジャ殺すべし……殺すべし……AAARGHHHHHHHHH!

 ニンジャスレイヤーは叫んだ!彼の心臓部に存在する謎めいたアーティファクトが、キョート城の秘密機構と接続し、共鳴し、そして!ゴゴゴゴゴゴゴ……!琥珀ニンジャ像が台座ごとせり上がっていく!『010101010101』『0101010101』『0101010101010101』銀色オベリスク群が光り輝く!

 琥珀ニンジャ像の間のステージに、琥珀ニンジャ像がせり上がって来た。「ムフォーフォーフォー……神器を……」「お待ちあれ!まだもう一つが!」パラゴンがロードを押し留めようとするが、ロードは何かに導かれるように顔を覆う布を外し、その下のメンポを外した。それは浮かび上がった。

 腰のヌンチャクもひとりでに外れ、メンポとともに琥珀ニンジャ像へ吸い寄せられていく。「ムフォーフォーフォー……」ロードはパラゴンに寄りかかった。「ドラゴン・ニンジャ=サン。パワーハイクを詠むがよい。この城にはブレーサーもすでにある」「……よかろう」彼女は何事かを呟いた。

 0101010101……琥珀ニンジャ像に銀色と緑色の01が纏い付き、その両腕にブレーサーが出現した。琥珀ニンジャの間には無数の01が飛び交う。オヒガンが近づいているのだ!「メンポ、ヌンチャク、ブレーサー。これで三種の神器が揃った。……黄金の林檎が足りぬのならば、それは探させよう」

 素顔のロードは何事かを呟き、パラゴンに差し出された白金のキツネ・オメーンを装着して、よろよろと玉座へ戻った。琥珀ニンジャ像は回転しながら沈んでいく!「おお……おお」パラゴンは感極まり、涙を流す。今こそ、ロード・オブ・ザイバツを頂点とするニンジャ千年王国が到来するのだ!

 パラゴンは集まったニンジャたちへ両手を翳し、鳴り響くような荒々しい大声で演説を開始した。「諸君は何であるか?ニンジャである!脆弱なモータルを支配するために選ばれた新人類である!……今、ギルドは約束されし神聖手段を手にした……ニューワールドオダー!時は来た!」ズズゥン!

 空気が震動した。否、大地が揺れたのだ。パラゴンは歓喜に震える!

「予言の通りだ!マッポーカリプスの時だ!キョート城は天高く飛翔し、地を這う愚者を睥睨する。ここは新たなるキンカク・テンプルだ!諸君はこのヴァルハラに集いし神の戦士!諸君は今、ノアの方舟の中にいる!そしてロードこそは、我らニンジャを統べるニンジャ、ヌンジャであらせられる!」

 パラゴンは熱弁を振るう!「江戸時代の支配者であるショーグン・オーヴァーロードの末裔にして、平安時代の支配者であるソガ・ニンジャのソウル憑依者!すなわちキョートと日本の正統なる支配者である!そして今!彼はまさに三種のニンジャ神器を継承され、即位されたのだ!現人神に!」

「「「ワオオーッ!」」」「地上の全てを浄化せよ!モータルを、暗黒メガコーポを、そして国家を!神の裁きを!イカヅチを!ヌンジャの鉄槌を!醜悪なる汚穢の都ガイオンに!邪悪なる貪婪の都ネオサイタマに!諸君は神の尖兵となって戦うのだ!ガンバルゾー!」パラゴンはバンザイした!

 ニンジャ達は一斉にバンザイし、唱和した!「ガンバルゾー!ガンバルゾー!ガンバルゾー!ガンバルゾー!ガンバルゾー!ガンバルゾー!ガンバルゾー!ガンバルゾー!ガンバルゾー!ガンバルゾー!ガンバルゾー!ガンバルゾー!ガンバルゾー!ガンバルゾー!ガンバルゾー!ガンバルゾー!」

 ナムアミダブツ……おお、ナムアミダブツ!その時、平和なガイオン・シティ地表の住人たちは、突然の不気味な鳴動に驚き、家々の窓を開け放って顔を出した。「地震か!?」「震源は!?」「おい、見ろよ!」誰かが叫び声をあげ、指さした。夜空を舞う鳥たちの彼方に聳え立つキョート城を。

 それは揺れ動き、巨大なシルエットをゆっくりと……浮かび上がらせた。いびつな逆三角錐の巨大な土台もろともに。

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 キョート城本丸、中層階。「なんだこりゃ!?どうなってやがる!」ハウスバーナーたちは混乱のさなかにあった。ニーズヘグたちに追い込まれたかと思えば彼らがザイバツにムーホンを起こし、ほっと一息かと思いきや城が大地震のように揺れ出したのだ。「……キョート城が、飛んでやがるんだ」

 エーリアスは下唇を噛んだ。彼女……否、彼がこの次元のネオサイタマに出現した時の記憶は、イグナイトの肉体を間借りした「エーリアス」になった後のことだ。ダークニンジャがムーホンを起こしてロード・オブ・ザイバツを討ち取り、ザイバツが事実上滅んだことまでは記憶している。だが。

 この次元においては、様々なことが違っている。次に何が起きるかは予測もつかない。大きな流れとして同じような事件が起きてはいるようだが。「キョート城が!?」「あ、ああ。監視カメラの映像を……」ザリザリザリザリザリ……激しいノイズが走り、映像は受信できない。「どうすんだ」

 ハウスバーナーは必死で考える。陽動するはずだったが、追手はムーホンを起こして立ち去ってしまった。となると。「この隙に、琥珀ニンジャの間へ行くか」「いや……ザイバツの首領のジツを破らねえと倒せねえ。前は……いや、俺は……俺なら、上だ!偉い奴が地下にとどまっているはずもねえ」

 エーリアスは「前回」の状況を思い出す。あの時は、自分がどうにかしたはずだ。そうだ、フジサンでの時も……!「なるほどな。アンブッシュができるぜ」ハウスバーナー、ポイズンバタフライ、ヤモト、ナンシー、ライトウォッチャーがうなずく。ニンジャスレイヤーも、きっと上を目指す!

 キョート城、底部!外へとクリスタルを突き出し、地上に死の光を降り注がせるはずのオベリスク群は、異なる挙動をしていた!「グワ……アババーッ!」ナムサン!銀色のオベリスクは、突き刺さったニンジャスレイヤーから、彼の内なる「ギンカク」から、無数のモータルソウルを吸収し続ける!

 キンカクが死したニンジャソウルが昇る天国なら、ギンカクはニンジャに殺されたモータルのソウルが集まるジゴクだ。彼らはニンジャスレイヤー、ナラク・ニンジャの燃料として燃やされ、糧となり知識となり、自分たちを殺したニンジャを殺す。だが今、それは城の秘密機構に利用されている!

 ニンジャスレイヤーは、直感的に理解した。このままオベリスクに力を搾取され続けるならば、地上のモータルは殺されずにすむ。だがロードを殺すことはできない。ナラクに身を委ねれば、脱出できてもガイオンのモータルが大勢死ぬ。それは、ならぬ。なんたるワガママ・アンビバレンツ!

 どの道キョート城はオヒガンへの門を開き、キンカクへ飛んでいくであろう。このまま直行すれば確実な破滅だ。「なんたるブザマ……!ニンジャ……殺す……べし……!」ニンジャスレイヤーは怒り狂い、もがき、抗う!「に、ニンジャスレイヤー=サン!」ディテクティヴは必死で呼びかけた。

 エーリアスとのIRCは、猛烈な磁気嵐のせいか通じない。「クソッタレ!今、そこへ登って助けてやる!引っこ抜きゃあいいんだろ!」彼は銀色オベリスクに駆け寄った!「やめろ……!今、私を引き抜けば、ガイオンで多くのモータルが死ぬ……!」「ブッダファック!」「ならば……!」

 ニンジャスレイヤーは覚悟を決めた!「燃料を!くれてやる!イイイヤァアアアーーーッ!」

 ……琥珀ニンジャの間には、琥珀の玉座が新たに出現していた。ロードはそれに座り、片手をあげた。パラゴンは頷き、大仰に両手を開き、吠えた。「時は至れり!地上を這う卑しき非ニンジャの虫は、新世界秩序の糧たるモータルソウルに転生昇華され、この城を!ロードの御美体を満たす!」

 ズグン!地面が揺れた。ゴリゴリゴリゴリゴリ……!円形のステージは石臼めいた轟音をたてながら、真上に向かって伸びてゆく。天井には円形の穴が開き、上昇するステージを迎える。ロード、パラゴン、ドラゴン・ニンジャらを載せて、ステージは本丸の最上階へ向かって上昇してゆく!

 ……タタミ、壁、フスマ、ボンボリ、全てが雪のように白く、天井はジェット機格納庫めいた高さがある。非現実的な無限をはらむ光景だ。だだっ広いこの空間に異物めいているのは、中央に位置する円形のステージ。頭上にはホログラム地球儀。琥珀の玉座の前には、白大理石の水盤がある。

 ロードは玉座を通じてモータルソウルのエネルギーを吸収する。彼の年老いた肉体に生命力がみなぎってゆく。「ムフォーフォーフォー……クルシュナイ、クルシュナイ」「長う……ございました」パラゴンが跪く。ロードは満悦し、玉座からすっくと立ち上がった。その表情はうかがい知れない。

「地上のモータルを焼き払う必要はなかろう。奴隷とはいえ、コメやスシを作る者がいなくなれば我らも飢えるばかりじゃ」ドラゴン・ニンジャは不満げだ。「なれば、この装置をなぜ作られた?」「そのためのものではない。これは本来ギンカクの力を利用して、キンカクへ至るための船じゃ」

「ギンカクの力?」パラゴンは訝しんだ。「さよう。ナラク・ニンジャ……ニンジャスレイヤー=サンを通してな。今、キョート城は彼を動力源としておる。……どの道オヒガンへの、キンカクへの道は開く。後は黄金の林檎を見つけ出し、キンカクのバックドアを」「そんなことはどうでもよい!」

 パラゴンは血相を変えた。「ガイオンに死の光が、モータルを殺す光が降り注ぐのではないのか!」「ギンカクの力が調達できねばそうなるはずであった。ソガ・ニンジャが勝手に機構に手を加えよってな。だから私は神器を盗み出し、隠匿した。あやつも結局モータルの社会を守るため断念したが」

ダマラッシェー!この骨董品が!」パラゴンは激昂した!「黄金の林檎なぞ、どうでもいい!ロードこそヌンジャ!この場所こそキンカクなのだ!私は復讐のため」「くだらぬ!そんなことのために私を呼び覚まし、この城を勝手に動かしおるとは!アホタワケが!」ドラゴン・ニンジャも激昂した!

「ヤンナルネ」ロードは溜息を漏らした。「両方やれば済むこと。いまや余にとって、地上の有象無象などどうでもよい。だがケジメだ。まずはモータルの時のくだらぬ些事にケジメをつけ、パラゴン=サンのために復讐を果たす。黄金の林檎はその後といたそう」「おお……ロード!マイロード!」

 ゴゴゴゴゴゴ……!キョート城は凄まじい勢いで上昇!上昇!上昇!なんたる凄まじいギンカクのエネルギーか!城の底部では琥珀ニンジャ像の目から光が放たれ、キモンの方角に据え付けられたオブツダンの扉が次々と開いていく!それに対応して、空中にオヒガンへの9つの門が開いていく!

「パラゴン=サン、目的地を変更せよ。東へ、ネオサイタマへ。ヨロシサン製薬本社要塞へ」「ヨロコンデー!」パラゴンは感涙にむせび泣き、懐からヨウヘン・テンモク茶碗を取り出すと、水盤に近づいた。茶器とは霊力をコントロールする制御盤であり、現代のUNIXに相当するアーティファクトだ。

 パラゴンは茶碗を水盤にかざし、東へ向けた。キョート城はオヒガンへの門をいくつか潜り抜け、01の渦の中を東へと飛んでいく!……オヒガンにおいては時間も距離も複雑に交錯し、自我を強く保たねば01に分解されて消滅してしまう。キョート城はそれを防ぎ、オヒガンを自在に移動するのだ!

 キョート城下層では、ニーズヘグらムーホン者とパーガトリー・スローハンドら率いるザイバツニンジャの激戦が続いていた。だが多勢に無勢、ムーホン側はジリー・プアー(訳注:徐々に不利)となって次々に討ち取られ、本丸の外の中庭へ、ホウリュウ・テンプルへと追い込まれていく。

「ちと厄介よの」「然り」状況は目まぐるしく変わる。キョート城は夜空に飛翔し、あたりには01が飛び交う不可思議な有様となる。しかし、やるべき事に変わりはない。ムーホン者どもを討ち取り、パラゴンら側近派閥を取り込み、ロードのもとで永遠の王国を支配する。貴族派の共通の目的だ。

 そのためには、限りある手勢やスシをウカツには消費できぬ。地上から切り離された今、対日本戦争の最前線に送られている手勢は呼び戻せず、補給もきかぬ。手勢と物資の数こそ、このイクサの後の派閥の権勢の源となる。ムーホン者に降伏を呼びかけて手勢に加えても、疑いを招くだけだ。

「カカカ……ゆえに、ここが踏ん張りどころよ!」ニーズヘグはテンプルを堅固な要塞とし、出入口を固めて籠城戦の構えだ。そして彼らを陽動の囮として、ムーホンの総大将は、すでに!

 ……罪罰罪罰罪罰罪罰罪罰罪罰「イイイヤァアアアーーーッ!」

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 罪罰罪罰罪罰罪罰「イヤーッ!」ロードは上空からのアンブッシュに瞬時に反応!ダブル・ドス・ダガーを抜き払い、目にも止まらぬ速度でこれを打ち払う!キキキキキィン!「イヤーッ!」アンブッシュ者は連続バック転を放ち、距離をとってアイサツした。「ドーモ、ダークニンジャです……!」

「ムフォーフォーフォー……ドーモ、ロード・オブ・ザイバツです」「ドーモ、パラゴンです。来たか卑劣なる大逆者め!」「……ドラゴン・ニンジャです」3人はアイサツを返す。「暗殺は失敗し3対1!しかもロードは無敵!貴様を捕らえてカマユデにしてくれるわ!」パラゴンは怒り狂う!

「ドラゴン・ニンジャ=サン。俺に味方しろ。俺はハガネ・ニンジャのソウル憑依者だ。ソガ・ニンジャにはもう従わぬ!」ダークニンジャは呼びかけた。「パラゴンごとき愚物にもな。貴様もそうだろう」「ダマラッシェー!ヒカエオラー!」パラゴンはジュー・ジツの構えをとった!一触即発!

 罪罰罪罰罪罰罪罰罪罰罪罰罪罰罪罰「ドゲザせよ」ロードはキョジツテンカンホー・ジツを集中発動!「グワーッ!」ダークニンジャはドゲザ衝動に必死で抗う!抗う!抗う!「スキアリ!キエーッ!」パラゴンがジュー・ジツの構えで飛びかかる!だが怒りのあまり、そのカラテに隙が生じた!

「……イヤーッ!」一瞬早く妖刀ベッピンがひらめく!SLAASH!「グワ、アバーッ!?」サツバツ!これはゼン・イアイの奥義「タイノサキ」!敵が攻撃を仕掛けてくるタイミングと軌跡を寸分の狂いもなく読み、狙い澄ましたカウンター斬撃を繰り出したのだ!「アバッ……クソが……!」「弱敵!」

 罪罰罪罰罪罰ダークニンジャはパラゴンを睨む。罪罰罪罰ロードの寵愛を独占し、ギルドを私物化する奸物。カラテ乏しき毒蛙。ギルド武闘派の長として、ここで命運を絶つ!「デス・キリ!イイイヤァアアアーーーーッ!」ナムアミダブツ!ダークニンジャは怒りに燃えてパラゴンに斬りかかる!

 どくん……パラゴンはアドレナリンを過剰分泌させる。オヤブンのために攻撃を引き付けることこそ子分の本懐だ!「イイイヤァアアアーーーッ!」全身全霊全カラテを振り絞り、デス・キリを……躱す!躱す!躱す!ゴウランガ!「ヤンナルネ」罪罰罪罰罪罰ダークニンジャはドゲザした。

 ドラゴン・ニンジャは動くこともできなかった。ナムアミダブツ……これがキョジツテンカンホーだ。ハッカーがUNIXをハッキングするように、そのジツは相手のニューロン、コトダマをハッキングし、従わせてしまう!しかも水盤からはエネルギーが絶えずロードに注ぎ込まれ、回復させる!無敵!

 ……その時。

「クキキキ……そこまで」ダークニンジャの傍らに、邪悪な影が滲み出るように出現した。「ドーモ、ケイトー・ニンジャです。お見事にござった」「ドーモ、ロード・オブ・ザイバツです。ともにカマユデにされに来たか」ロードは代表アイサツした。ケイトーはほくそ笑んだ。「御免被る」

「テメッコラー!」パラゴンはヤクザスラングで凄んだ。しかし、負傷したパラゴンではケイトーのカラテに敵わぬ。ジツで従わせるのも難しかろう。ロードは無言で手を伸ばし、パラゴンを制する。「ダークニンジャ=サンの身柄を頂戴して退散いたそう。こちらの計画はこれからゆえ」その時!

 ガゴゴゴゴゴ……キョート城が大きく揺れ動き、傾いた!「アブナイ!」パラゴンは慌ててヨウヘン・テンモク茶碗を拾い上げ、水盤にかざす!だが、水盤からのエネルギーは次第に弱まり、消えていく!「バカなー!?」まさか、ギンカクからのエネルギーが尽きたのか?だとすると……!

『Wasshoi!』

 KRAAAASH!水盤の傍らの白タタミを突き破り、赤黒い炎がジゴクめいてエントリーした!ここは琥珀ニンジャの間の真上、動力源の真上だ!すなわち!『ドーモ、ソガ・ニンジャ=サン、ドラゴン・ニンジャ=サン。ナラク・ニンジャです。よくも儂を燃料扱いしてくれおったな。全員殺す!

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「クキキ……オタッシャデー!」ケイトー・ニンジャはダークニンジャを抱え、ナラク・ニンジャが開けた穴から離脱!機を見るに敏!「ヤンナルネ。ドーモ、ロード・オブ・ザイバツです。再びドゲザし、大人しく燃料となるがよい」罪罰罪罰罪罰罪罰『グワーッ!』ナラク・ニンジャは悶絶する!

 パラゴンは状況判断し、慎重に敵のカラテを見定める。この場で最も重視すべきはロードの命!そのための盾となるべし!「イヤーッ!」パラゴンは側転でロードの傍らへ移動し、隠し持ったオーガニック・トロスシをメンポを外して咀嚼!天然のDHA成分が肉体とニューロンを癒やし、遥かに良い!

『イイイヤァアアアーーーッ!』ナラク・ニンジャは憎悪を燃やし、パラゴンへ飛びかかる!鉄拳には黒い不浄の炎が宿り危険!だが!罪罰罪罰罪罰罪罰キョジツテンカンホーの網目が視界を遮り、ニューロンを脅かす!「イイイヤァアアアーーーッ!」パラゴンはジュー・ジツで猛攻を受け流した!

「クルシュナイ」罪罰罪罰罪罰罪罰『かあーッ!』ナラク・ニンジャはキョジツテンカンホーをキアイで跳ね返す!カラテだ!「ドーモ……ええい、やはりこうなるか。なんたる欠陥建築!」ドラゴン・ニンジャは平安様式のミコシめいた玉座「タカミクラ」の陰に身を隠し、ソガ・ニンジャに毒づく!

「骨董品の売女めが!ロードに加勢しろ!貴様も殺されたいか!」パラゴンが罵る!「御免被る!そなたらの遊びに付き合ってなどおれぬ!オタッシャデー!」ドラゴン・ニンジャは愛想をつかし、連続側転でタタミの穴から飛び降り撤退!「ワドレザナッグラー!」パラゴンはヤクザスラングを叫ぶ!

『ググググググ……!ソガ・ニンジャ=サンとそのタイコモチよ、オヌシらも糞便を漏らして儂から逃げ回るか?古のショーグン・オーヴァーロード、徳川エドワード家康のようにな!』ナラク・ニンジャは邪悪に嘲笑う!その逸話は有名だが、果たして真実か、あるいは彼を嘲笑するための偽史か!

 罪罰罪罰罪罰罪罰「糞便を漏らしてドゲザせよ、ナラク・ニンジャ=サン!」ロードのキョジツテンカンホーが襲う!『イヤーッ!』ナラクはキアイで弾き返す!「イヤーッ!」パラゴンがアイキ・パンチを放つ!『イヤーッ!』ナラクはジュー・ジツの構えで見切って躱すが、迎撃はならず!

『しつこいサンシタめが!死ねい!イイイヤァアアアーーーッ』ナラクはパラゴンへジゴクめいたカラテを叩き込む!パラゴンは瞬時にジュー・ジツの構えに変化し、これを……!「イイイヤァアアアーーーッ!」防御!防御!防御!防御!受け流して体勢を崩させる!なんたるタツジン!

 罪罰罪罰罪罰罪罰「そなたは余の覇業のための薪ぞ!」ロードはさらなるキョジツテンカンホーを放つ!罪罰罪罰罪罰『ブルシット!』ナラクは憎悪を燃やして弾く!『平安時代……ソガ・ニンジャの圧政ゆえに、どれほどのモータルが残忍に苦しめられたかを思い知るがよいわ!インガオホー!』

 ゴゴゴゴゴ……!燃料を失ったキョート城は、オヒガンのコトダマ乱流に巻き込まれ大きく揺れる!ヌンジャの骨から作られた三神器のため、キンカクを見張るインクィジターに襲われることはないはずだが、このままでは現世に戻れるかも怪しい。パラゴンは吐き気を覚えた。ロードの覇業が!

 背を向けて逃げ、あるいは救援を呼び、城内のザイバツニンジャたちにナラクを囲んで殴らせれば……倒せるだろう。ソウカイヤにできたことを、ザイバツができぬはずもない。だが!ここは彼とロードの特等席だ!取り押さえた者の記憶をロードが書き換えたとて、手柄を譲るわけにはいかぬ!

 罪罰罪罰罪罰罪罰「歴史は改竄され、隠蔽され、ニンジャの真実は忘れ去られる」罪罰罪罰罪罰『イヤーッ!』ナラクはキョジツテンカンホーを罪罰罪罰罪罰「イヤーッ!」パラゴンのアイキ・キック!食らえば穴から落下だ罪罰罪罰罪罰『イヤーッ!』ブリッジ回避!『ニンジャ殺すべし!』罪罰

 罪罰罪罰罪罰罪罰ナラクは暗黒カラテでパラゴンを迎撃罪罰罪罰罪罰罪罰「イヤーッ!」パラゴンは見切って躱す!罪罰罪罰罪罰ロードはダブル・ドス・ダガーを構え、なめらかな動きでナラクへ罪罰罪罰罪罰SLASHSHSH!『グワーッ!』致命的な攻撃は躱すが一撃命中!しかし浅い!『貧弱!』

 ナラクはジゴクめいて嘲笑う!『サビ抜きのスシめいたカラテよ!所詮はジツと手下頼みのニンジャ一匹!いますぐ縊り殺してくれるわ!』「まったくヤンナルネ」ロードは溜息をついた。このままでは実際ジリー・プアー(訳注:徐々に不利)だ。最後に勝てばカチグミ。逃げるのが一番か!

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 罪罰罪罰罪罰「イイイヤァアアアーーーッ!」SLASHSHSH!ロードはダブル・ドス・ダガーを両手に構え、ナラクに斬りかかる!低く構えて脚を切断する暗黒ワザ「アキレス・カッター」だ!SLASH!『グワーッ!』命中!だが浅い!「パラゴン=サン!城を現世に戻せ!」「よ、ヨロコンデー!」

 パラゴンはロードの勅命を受け、白大理石の水盤に駆け寄り、ヨウヘン・テンモク茶碗で操作!ゴゴゴゴゴ……キョート城がオヒガンから現世へ、地上へ降下していく!動力源のギンカクが離れたならば、現世のモータルからソウルを吸収すればよい!ロードは踏みとどまり、ソンケイを捨てず戦う!

『させぬわ!イイイヤァアアアーーーッ!』ナラクは標的を変更、パラゴンへ飛びかかる!キョジツテンカンホーの網をカラテで突き破り、黒い炎をまとった鉄拳が狙うは手足と心臓!パラゴンは緊急ブリッジSMAAASH!「グワ、アバババーッ!」ナムアミダブツ!パラゴンの片手片足が切断された!

「イヤーッ!」ロードはダブル・ドス・ダガーで斬りかかる!狙うは心臓!SLASHSHSH!『グワーッ!』命中!だが浅い!「アバッ……オヤブン、スンマセン……!」パラゴンは血涙を流して立ち上がる!「ここは俺に任せて、お逃げ下さい……どうか……!」「クルシュナイ」ロードは首を横に振った。

 水盤から地上のモータルソウルを吸収すれば、キョジツテンカンホーは神器メンポを装着していた時と同じく万全となる。ナラク・ニンジャをドゲザさせ、燃料に戻すことができる。『グググハハハハハ……少しは骨があると見える。ならばそのオモチャごと叩き壊すまでよ!』……その時!

 少し前。昏倒したダークニンジャを抱きかかえて脱出したケイトー・ニンジャは、天守閣のさらに上……カワラ屋根の上にいた。上空には01の黒雲が不吉に渦巻き、巨大化を続けている。それは一切の反射を返さない、巨大な黒い水鏡のようにも見えた。その先には、キンカク・テンプルが在る。

「さあ、今こそ妖刀ベッピンの声に耳を傾けられよ」ケイトー・ニンジャは神妙な面持ちと口調で語った。キョジツテンカンホーで穴を開けられ、無防備となったダークニンジャの、フジオ・カタクラのニューロンに、これまでの人生がよぎる。ソーマト・リコールだ。良い思い出は……少ない。

 彼は己の運命を呪った。自分を捨てた両親を。非合法施設に売り飛ばしたヤクザを。神代のニンジャによる呪いを。妖刀ベッピンを!……ベッピンはヌンジャの骨を鋳込んで作られ、そのソウルの一部を宿している。ハガネ・ニンジャはこれを用いてヌンジャを殺し、平安時代を支配したのだ。

 だが……ハガネ・ニンジャはヌンジャの呪いを受け、破滅した。そのニンジャソウルはキンカクに昇ることなく……だから、今ベッピンから聴こえて来る声は、彼ではない。強大で、得体が知れず、超然とした、空が落ちてくるかのような、神が人に、人が虫けらに語りかけるような、この声は。

『苦しいか』苦しい。『生きたいか』生きたい。『ならば、運命を認めよ』運命を……認める。ダークニンジャは妖刀からの導きの声に正しく答える。ヌンジャの声に。『ならばハラキリの時』ハラキリを、行う。

 ダークニンジャは理解していた。古文書や遺跡を調査し、ケイトーとベッピンからの謎めいた言葉を読み解いて悟った。妖刀ベッピンに数多のニンジャソウルを集め、マッポーカリプスの夜にハラキリ儀式を行う時……ヌンジャ、カツ・ワンソーは天より還り、器に宿るべし!「モハヤコレマデー!

 彼は全身を覆う甲冑を瞬時に脱ぎ捨て、神聖なるセプク・チャントを叫びながら、妖刀ベッピンを己の腹部に突き刺した!刃は肉をえぐり、臓腑を貫く!「グワ……アバーッ!」ナムアミダブツ!『契約は果たされり』妖刀から数多のニンジャソウルの力がダークニンジャに注がれ、燃焼する!

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「うおおおおお!?」ディテクティヴとポータル兄弟は、凄まじい勢いで揺れ動くキョート城底部から必死で逃げ出す!ニンジャスレイヤーがオベリスクから自力で脱出したのはいいが、これは!「おい、なんか……落ちてねえか、この城!?どこへ!?」「「グワーッ!?」」重力が3人を襲う!

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「!」本丸上層部。エーリアス、ヤモト、ナンシー、ライトウォッチャーたちは凄まじい悪寒に襲われた。何か……巨大な、人でもニンジャでもない何かが、こちらを「見た」。ハウスバーナーとポイズンバタフライもそれを感じる。以前、感じたことがある。「これは……!」「ええ。ヤバいわ」

 ZANKZANKZANKZANK……最上層へ向かおうとしていた彼らの前に、不明瞭なニンジャの影が複数出現する。キンカク・テンプルより降臨したニンジャソウルの影、デミニンジャだ。「またアレが起きようとしてるってのか」ハウスバーナーは両手にサソリ・ダガーを構えた。止めなければ!

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「「アナヤ!?」」本丸、中庭。ホウリュウ・テンプルのムーホン者たちを攻めあぐねていたパーガトリーとスローハンドは、猛烈な悪寒と頭痛に悶絶した。テンプルを包囲するザイバツニンジャたちも頭を抱え、嘔吐し、悶え苦しみ始める。毒か?否!オヒガンの彼方から、何かが「見て」いる!

 モータルがニンジャに出くわした時、彼らは遺伝子レベルで刻み込まれたニンジャへの恐怖と畏怖を忘却の彼方から思い出し、恐慌状態に陥る。いわゆるニンジャ・リアリティ・ショック(NRS)症状だ。ならば、強大なニンジャソウル憑依者たちに同様の症状を引き起こさせる存在とは……!

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『MWAHAHAHAHAHA!BWAHAHAHAHAHA!』

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 ネオサイタマ中心部。ウシミツ・アワー。それは黒雲の大渦を伴い、蛍光緑色の01を撒き散らしながら、高さ数千メートルの上空、重金属酸性雲の上に出現した。……キョート城が。空を飛んでいた。

【ザ・ニンジャズ・オブ・ザ・ショーグン】終わり。
【フライ・ミー・トゥ・ザ・ネオサイタマ】へ続く。

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