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悪党の対歌

「おめえ、なにしてここへぶちこまれた」
「盗みと殺しだ。おめえは」
「殺しだ。師匠の仇を討った。ついでにそいつの有り金をいただいた」
「大して変わりゃしねえな。おれはピンカス。おめえは」
「ラザルだ」

石造りの牢屋は寒い。毛布は穴だらけで薄く腐っている。手足は枷と鎖で壁に繋がれ、背の傷跡は痛い。隣同士で無駄話でもして気を紛らすしかない。

「ピンカスよ、何を盗み、誰を殺した」

「パンと葡萄酒、金と銀、織物と香料。肥り肉の商人を殺って、その馬と女もいただいた。女は弄んでから売り飛ばしたが、そこから足がついたなぁ」
「商人と女の名は」
「いちいち覚えちゃいねえ」
「わるい野郎だ」

二人はぐつぐつと笑う。

「ラザルよ、師匠とは誰だ。なぜ死んで、どう仇を討った」

「おれの剣の師匠よ。ヨカナーンと言って、飲んだくれの糞爺だが剣の腕はたつ。ところが、昔斬った男の息子に毒の酒を飲まされて、あの世行きさ。寿命ってもんだろうが、仇をゆるすわけにもいくまい。追い詰めて、たたっ斬って、カネを奪っておさらばさ」
「殺した男の名は」
「いちいち覚えちゃいねえ」
「わるい野郎だ」

二人はぐつぐつと笑う。こんなふうにして、悪党二人は知り合った。

翌朝。看守が近づいてきて、ラザルの牢の鍵を無言でカチャカチャとやる。
「なんだい爺さん、釈放か」
「裁判と処刑を同時にやるのさ。おまえさんがたを殺しあわせて、勝った方が釈放だ」
「そりゃいいや!」

ピンカスだけがぐつぐつと笑った。ラザルは鼻を鳴らした。

「ラザルよ、おめえの方が腕が立ちそうだな。ざっくりやってくれ」
「この世に未練はないのか」
「好き放題に生きてきた。そろそろ天罰、寿命ってもんだろうさ」
「そう言われると助けたくなるな」

ラザルはあっさりと手枷を外し、足枷も外すと、看守に飛びかかって首を折った。鍵束をちょうだいし、ピンカスの檻の鍵と枷も外してやる。

「行くぞ、兄弟」

こんなふうにして、悪党二人は脱獄した。

【続く/800字】

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