見出し画像

【聖杯戦争候補作】Tyranny Within

誰かに呼ばれた気がして、町はずれの森を歩いた。
夜明け前の空は、まだ暗い。薄闇の中を歩いているうちに、洞窟の入口を見つけた。内部は暗く、奥は深い。……胸騒ぎがした。この洞窟は、あなたを招いている。

あなたは洞窟に足を踏み入れた。『螢火』の呪文を唱え、周囲を照らす。

―――なぜあなたは、そんなことが出来るのか? ライターや懐中電灯ではなく、呪文を? 息を吸って吐くほど自然に、あなたはそれを行った。それを疑問に思った時……。

今、あなたは全てを思い出した。本当の人生、本当の力を。帰るべき場所を。そして、聖杯戦争の記憶を。あなたの金髪は白髪となり、碧い瞳は赤い瞳となる。手元にあの杖と、あの宝石が現れる。あなたが獲得した知識と経験が蘇る。
さあ、冒険を始めよう。

洞窟の奥へ進むと石の階段があり、それを何百段と下るうち、広大な空間に出た。見渡せば、それが古い時代の図書館だとわかる。あなたは歴史に関する知識を持っているが、あの世界の様式ではない。けれど、雰囲気そのものは似ている。こちらの、今暮らしている世界の、ある時代、ある地域の様式だ。何百年、千年も前の、砂漠と大河の国……。

「ああ、迷い込まれましたか」

不意に前方から声。敵意はない。螢火に照らされたその姿は、この図書館の時代と様式にしっくりと合う。頭にターバンを巻き、ゆったりとした長衣を纏い、髭に覆われた顔。彼は軽く会釈し、名乗った。

「私は、『アブー・アリー・アル=ハサン』。フランク人(イフランジ)は『アルハゼン』などと呼びますが」

アルハゼン? どこかで聞いた名だ。しかし、こちらの世界の存在のはずだ。とすると、自分のサーヴァントだろうか。
あなたが訝しんでいると、向こうが問う。
「それで、あなたは……?」

アベリオン』。あなたは、そう名乗った。賢者デネロスの弟子であり、強大な魔術師であり、タイタスの子孫であるあなたは。ここは、あなたが暮らしていたネス公国のホルムの町ではない。日本という極東の島国の、かつての帝都。キョート、という。

「ははあ、フランク人ではない。ローマ人(ルーミー)でもない。それらと似た異世界から来られたと。そういうこともありましょうな」

アルハゼンはこちらの話を聞いて、理解してくれたようだ。あなたは「ここは?」と問う。キョートにこんな広大な地下空間が広がっているとは聞いたことが無い。アルハゼンは悲しげな顔をして答えた。
「あなたが召喚された方の、宝具の中です。私も閉じ込められているんですよ。英霊でもないのに……」

召喚? 宝具? つまり、サーヴァントが自分を、閉じ込めている? あなたの頭は疑問でいっぱいになる。アルハゼンはあなたのサーヴァントではないが、友好的ではあるようだ。疑問をぶつけてみよう。
「ええ、そういうことで。その方も、ここを彷徨っておられます。私には一応居場所がわかりますので、ご案内しましょう」

その、サーヴァントの名は? クラス名は? そう問うと、アルハゼンは苦笑いし、本棚から一冊の本を取り出して、あなたに手渡した。
「私の口からは、ちょっと。とりあえず、この本を……」
どうもよくわからないが、歩きながら読めということらしい。否、読まないうちから本の内容が頭に流れ込んでくる……。

「ああ、よかった、おられました。すみませんが、ここで少々お待ちを」

迷宮のように入り組んだ大図書館を進むことしばし。アルハゼンが立ち止まり、小声で言う。奥の暗がりに目を凝らすと、長椅子に寝そべって本を読んでいる小柄な影がいる。アルハゼンは長椅子の傍らに近づき、囁いた。あなたは耳をそばだてる。
「……夜明け前の礼拝の時間です、陛下。それから……」
小柄な影は頷き、本を置いて、一緒に近くの小部屋へ歩いて行く。二人はその前にある水場で丁寧に身を清め、小部屋に入って祈りの言葉を唱える。

「「神は偉大なり(アッラーフ・アクバル)。唯一神の他に神なし(ラー・イラーハ・イッラッラー)。ムハンマドは神の使徒なり(ムハンマド・ラスールッラー)……」」

声からすると、小柄な影の方は少年らしい。アルハゼンと少年は、ムスリム。イスラム教徒だ。異教徒であるあなたは、おとなしく待っている他ない。

この世界について吹き込まれた知識と、先程の本からの知識によれば、全世界にイスラム教徒は16億人いるという。世界人口は70億余。世界の四人に一人はムスリム(信徒)やムスリマ(信女)というわけだ。イスラム教(イスラーム)は大きくスンナ派とシーア派に分けられる。後者のほうが圧倒的に少数派だが、それでも2億人はいる。預言者ムハンマドの娘婿であるアリーの子孫だけを宗教指導者(カリフ、イマーム)と認めるのがシーア・アリー、シーア派だ。シーア派の中でも最大派閥は「十二イマーム派」といい、イランやイラク、湾岸諸国などに分布する。その他にもシーア派の分派は数多く、それらはシリア、パキスタン、アフガニスタン、インドなどに少数ながら存在する。

あの少年が属するのはイスマーイール派、または七イマーム派という。七代目のイマーム位を巡って派閥抗争があり、十二イマーム派と別れた。その一派が北アフリカに渡り王朝を建てた。その王朝はエジプトを征服し、シリアやアラビアに勢力を伸ばした。彼はその君主だという。

礼拝が終わり、二人がスッキリした表情で小部屋から出て来た。あなたは跪き、恭しく少年に呼びかける。

少年があなたに顔を向ける。灯火に照らされたその顔は、鞣し革のような褐色の肌に金髪碧眼。瞳の中には赤金色の斑。年齢は十代半ば頃か。顔貌は整い聡明そうだが、どこか爬虫類じみた、酷薄さと狂気を感じる。手には奇妙な金属製の小箱を持ち、弄んでいる。身に纏うのはアルハゼンと同じくターバンと長衣、それに黒い毛織の外套で、ところどころに金糸や宝石があしらってある。だが、ひどく汚れている。悪臭がし、埃まみれだ。髪の毛は汚れて肩まで伸び、爪は長く、垢だらけ。君主だか乞食だか分からない。

彼は意外なほどの大声で、こちらの呼びかけに応え、問うた。
そなたがぼくの、マスターであるな!
あなたは「はい」と答える。少年がサーヴァントであるなら、当然聖杯戦争に関する知識も与えられている。細かいところはアルハゼンが説明しておいてくれたようだ。少年は、大声で名乗った。

「ぼくはアブー・アリー・マンスール・アル=ハーキム・ビ・アムリッラー・イブン・アブー・マンスール・ニザール・アル=アズィーズ・ビッラー。信徒の長(アミール・アル=ムウミニーン)、神の代理人(ハリーファト・アッラー)、救世主(マフディー)、導師(イマーム)である!」

超長い。とりあえず『ハーキム』と呼ぶことにしよう。真名が分かったのでステータスを確認する。クラスは……『フォーリナー』?

ハーキムは、瞳をギラギラと輝かせて問う。
「アベリオン! そなたは、聖杯を望むか!」
あなたは……少し躊躇ったのち、「はい」と答えて頷いた。
「そうか。では、何の故に望むか!」

あなたは答えた。元の世界へ帰るためだ、と。ここはあなたの国、あなたの世界ではないのだ。故郷では親しい友人たちが心配していよう。聖杯でなんでも欲望が叶うとしても、それで叶えるほどの欲望を、あなたは持っていない。力と欲望の果てが何であるか、何であったかを、あなたは既に知っている。聖杯にも匹敵する力を、あなたは見た。

このような殺し合いを主催する者たちは、どうせろくな連中ではないだろうが、彼らと戦う必然性も今のところ乏しい。ならば、帰還を望むのが一番だろう。なるべくマスターを殺さず、サーヴァントだけを屠ればいい話だ。あなたにはその力がある。生かしておけないほど邪悪なマスターなら、容赦はしない。あなたはそのように告げた。ハーキムは頷き、答えた。

「ぼくは、聖杯を獲得する! そして、理想の世界を実現するのだ! これはぼくの聖戦(ジハード)だ!」

理想の世界、とは。あなたは思わず訊いた。ハーキムは笑って答えた。

「勿論、アル=イスラーム(神への帰依)が万人に信じられ、神が正しく讃えられる世だ! 全ての悪徳が滅び、誰も酒を飲まず、浴場に行かず、犬が消え、モロヘイヤがなくなり、夜の闇に覆われた世界だ! おお神の使徒ムハンマド(彼の上に平安あれ)とイマーム・アリー(彼の上に平安あれ)よ!」

なるほど、彼は狂っている。いや、神がかっているのだ。ぽかんと口を開けて見ていると、彼はさらに大声を張り上げた。

「アベリオン、そなたが言いたいことはわかっておる! 邪悪な妖術師どもが作り上げた聖杯だというのだろう! 預言者イーサー(彼の上に平安あれ)が用いたとして、無知蒙昧なフランク人のでっち上げた聖遺物だとも言うのだろう! それでもよい! 神はそれを本物にして下さるだろう! 神がぼくに、それを獲得せよとお命じになったのだ!」

あなたは……理解も賛同も出来ないが、彼と協力することにはした。彼の戦闘力は乏しく、狂信的過ぎて理性的とは言えないが、自分のサーヴァントがいなければ聖杯は手に入らないだろう。ただ、彼の望みを叶えれば、この世界の人間によからぬ影響を与える。それはどうにか阻止したほうがよさそうである。

アルハゼンに案内され、図書館から出た。―――気がつくと洞窟ではなく、あなたのベッドの上だ。窓の外は明るくなってきた。どうやらあの洞窟、図書館は、夢の中とも通じているらしい。枕元にはあなたの杖<上霊>と、あなたの宝石「イーテリオのかけら」がある。そして……部屋の片隅には、黒い影が蟠っている。あの影の中に、先程のハーキム、フォーリナーがいる。あなたにはわかる。

【アベリオンよ。ぼくは眠い。ぼくは夜行性なのだ】

フォーリナーからの念話だ。

【ぼくは寝る。日が沈んだら起こせ】

影がトカゲのように床を這いずり、あなたの影と融合する。するとあなたの脳内に、膨大な情報が流れ込んで来る。あの図書館の蔵書の知識だ。いや、それ以外にも、何か不吉な、禍々しい何かが……。膨大過ぎる。一旦流入を止める。……過ぎた知識は、身を滅ぼす。必要なだけあればいい。あなたはそれを知っている。

あなたは偉大な魔術師だ。その杖も宝石も、高次元からもたらされた神秘の塊だ。その魔力をもってすれば、英霊とも充分戦えよう。しかし、あなたは人間。格闘能力には乏しく、さほど敏捷でも頑丈でもない。神秘的な各種防具もない現状、ドラゴンに爪でひとかすりされれば死にかねない。精霊を召喚して従えることも、結界や魔物よけの呪文で身を守ることも可能だが、あなたとフォーリナーだけで聖杯を獲得することは困難だ。

あなたには仲間が必要だ。少なくとも、会話が通じ、邪悪ではなく、聖杯を望まないか帰還を求める、まともな精神の主従が。しばらくすれば、否応なく殺し合いは始まる。京都市内ではいろいろ不穏な話も流れている。暴走を始めた主従の仕業かもしれない。

まずは、情報を集めよう。生き残り、元の世界へ帰ろう。あなたは決断し、ベッドから起き上がった。

【クラス】
フォーリナー

【真名】
ハーキム@ファーティマ朝

【パラメーター】
筋力C 耐久D 敏捷C 魔力A 幸運D 宝具B+

【属性】
混沌・狂(自己認識は秩序・善)

【クラス別スキル】
領域外の生命:EX
詳細不明。恐らくは地球の理では測れない程の生命を宿している事の証左と思われる。

神性:B
その体に神霊適性を持つかどうか、神性属性があるかないかの判定。
異邦の神と接し、その影響を受けているが為に、フォーリナーはそれ由来の神性を帯びるようになる。自覚はない。

狂気:B
理性による力の枷が外れており、攻撃性が高くなっている。人間を容易く狂わせる狂気を放つ彼自身もまた、狂気に陥っている。「外なる神々」は存在自体が狂気そのものであり、さらにそれを周囲に無遠慮にばら撒く混沌そのものである。彼の場合、「理性を奪われた」状態で「正常な思考を維持する」矛盾を成し遂げている。ただしまともな会話は難しい。

【保有スキル】
信仰の加護:A+++
一つの宗教観に殉じた者のみが持つスキル。加護とはいうが、最高存在からの恩恵はない。あるのは信心から生まれる、自己の精神・肉体の絶対性のみである。敬虔なイスマーイール派イスラームの信者であり教主。

影灯籠:A
影そのものと同化するスキル。暗闇から周囲の魔力を得る為、実体化さえしなければマスターの魔力供給はほぼ不要。令呪を使われない限り、マスターに対してもステータスの隠蔽が可能となるが、自覚がないので特に隠そうとはしない。完全に夜行性化しており、日光を浴びると悶え苦しむ(滅びはしない)。灯火や電気の光程度なら大丈夫である。

気配遮断:A+
自身の気配を消す能力。完全に気配を断てばほぼ発見は不可能となるが、攻撃態勢に移るとランクが大きく下がる。シーア派の伝統であるタキーヤ(信仰秘匿)、彼が獲得したガイバ(幽隠)の伝説、そして邪神の影響により、極めて強力になっている。

教主特権:B
本来持ち得ないスキルも、本人が主張する事で短期間だけ獲得できる。エジプト・アラビア・シリア・北アフリカを支配したファーティマ朝の専制君主。宝具と邪神の影響によりランクアップしている。該当するスキルは騎乗、剣術、芸術、カリスマ、軍略、等。「黄金律」スキルも含まれており、一生金に困ることはないが、本人は財産に無頓着。

正気喪失:B
彼に宿る邪神より滲み出た狂気は、人間の脆い常識と道徳心をいともたやすく崩壊させる。

【宝具】
『玄妙驚異な知の迷宮(ダール・アル=イルム・ワ・ダール・アル=ヒクマ)』
ランク:B 種別:対人/迷宮宝具 レンジ:? 最大捕捉:100

敬虔で知識を好んだ名君としての彼が持つ宝具。彼がカイロに創設した、神学・哲学・科学の研究機関。これを所有することは、スキル「蔵知の司書」と「専科百般」を各々Bランクで持つに等しい。恩恵はマスターにも及ぶ。固有結界として展開すると、迷宮じみた広大な図書館となる。全貌は彼自身にも分からず、アルハゼン(イブン・アル=ハイサム)など学者の亡霊が彷徨している。アレクサンドリア図書館やアッシュールバニパルの図書館、バグダードの「知恵の館(バイト・アル=ヒクマ)」など歴史上の(また架空や異次元の)図書館に繋がっている可能性もある。探索すると魔術書や調合素材も見つかるかもしれない。ただしこの図書館に長期間閉じ込められると、蔵書の内容に没頭して正気を失っていき、果ては知に飲み込まれて消え去る。

『妄想天使(マーリク・アル=ザバーニーヤ)』
ランク:B+ 種別:対悪宝具 レンジ:1-50 最大捕捉:100

拷問と処刑を好んだ暴君としての彼が持つ宝具。19本の燃え熾る肉刺し(フォーク)。展開すると地獄(ジャハンナム)を司る天使マーリクが顕現し、19体の従天使ザバーニーヤに命じて敵を攻撃させる。また苦く猛毒のザックームの実が敵の口に無理やり詰め込まれ、体内で爆発して地獄の焔が燃え上がる。異教徒、特に「悪」属性に対して特攻。七イマーム派なので七の倍数にしたいが、クルアーンにあるので無理だった。別にランサーの適性はない。マスターが極めて強力な魔術師であるため、その魔力が上乗せされて凄まじい破壊力になっている。

『黒く輝く多面体(サティァ・タラビズゥヒドゥルーン/シャイニング・トラペゾヘドロン)』
ランク:B+ 種別:対界宝具 レンジ:1-10 最大捕捉:50

フォーリナーたる所以の宝具。ラヴクラフトの小説『闇をさまようもの』に登場するアーティファクト。時間と空間の全てに通じる窓と言われる。直径4インチ(10cm)ほどの、漆黒でところどころに赤い線が入った球形の結晶体で、不揃いな大きさの切子面を数多く備えた多面体(偏方二十四面体)。不均整で奇怪な装飾が施された金属製の小箱の中に、金属製の帯と七つの支柱によって吊り下げられている。暗黒星ユゴスで作り出され、「古きものども」によって地球にもたらされ、ヴァルーシアの蛇人間の手を経て、レムリア、アトランティス、古代エジプトに渡った。

暗闇の中でこの多面体を見つめることで、心に異界の光景を浮かび上がらせ、混沌の彼方より無貌の神の化身「闇をさまようもの」を召喚する。これは黒煙で出来た巨大な蝙蝠人間のようで、黒い翼と燃え上がる三つに分かれた目を備え、暗闇の中ならどこへでも、固いものを突き抜けて飛んで行く事ができる。魔力のこもっていない物理的な攻撃は通用しない。攻撃する時は標的を煙状の肢で掴み、肉体を焼き溶かしつつ脳を貪り食ったり、高所から墜落させたり、異次元へ連れ去ったりする。ただし継続する眩しい光には極度に弱く、星明かりならなんとか耐えるが、ロウソクや松明、懐中電灯や月光ですらダメージを受け、直射日光を浴びると崩壊する。雷や閃光のように一瞬だけの光なら大丈夫らしい。この化身を目撃した者は狂気に襲われる。使い所が難しい。遠く離れた時や場所を垣間見ることも可能。

【Weapon】
宝具である肉刺し(フォーク)と金属製の小箱。宝剣や短剣も帯びている。

【人物背景】
エジプト・ファーティマ朝の第六代カリフ(985年生まれ、在位:996-1021)。父はアブー・マンスール・ニザール・アル=アズィーズ・ビッラー。本名はアブー・アリー・マンスール、即位名はアル=ハーキム・ビ・アムリッラー(神に命じられた統治者)。父の病死により11歳で即位し、宦官バルジャワーンが後見人となった。宦官は宰相として全権を握り、ハーキムを軟禁したが、ハーキムは5年後に彼を殺して親政を開始した。

彼はファーティマ朝支配層の公式教義であるイスラム教シーア派の一派・イスマーイール派(七イマーム派)を称揚し、積極的に宣教活動や宗教施設の建築を行った。また学芸の保護者となり、首都カイロに「知識の館(ダール・アル=イルム)」「知恵の館(ダール・アル=ヒクマ)」を創設、世界中から人材を集めて科学や神学の研究を行わせた。

その一方、彼は厳格な原理主義者、理不尽で気紛れな専制君主として知られ、統治下の住民(非イスマーイール派が多数)に厳しい禁令を課した。ユダヤ教徒は鈴、キリスト教徒は十字架を常に身につけるよう命じ、シナゴーグや教会、修道院はみな破壊して、その財産を没収した。1009年にはエルサレムの聖墳墓教会も破壊している。酒、歌舞音曲、遊興、売春、将棋や賭博は禁止され、葡萄畑も破壊された。女性が公衆浴場に出入りすること、後には外出することすら禁止され、靴屋には女性用の靴を作るなと命令した。犬がうるさいというので皆殺しにし、スンニ派のカリフがモロヘイヤを好んだというので栽培さえ禁止し、鱗のない魚を売らないように市場では魚の鱗をつけたまま売らせた。禁令を破った者や癇に障った者は誰でも即座に処罰・処刑された。時折気前よく金銭や封土・官職を与えたが、その直後に手足や舌を切ったり命を奪ったりした。

また夜と暗闇がひどく好きで完全に夜行性であり、会議も深夜に開き、人々には夜働いて昼は外出するなと命令し、ロバに乗って一晩中カイロ市街を巡視した。髪も爪も切らず、外套やターバンも換えなかったので悪臭を放ち、浮浪者同然の身なりであった。瞳は青く、トカゲのようにすばしこく動き、異様な大声で話したという。

狂気の暴君ながらカリスマ性はあり、誰も彼を殺そうとはしなかったし、彼を救世主(マフディー)や神の化身だと信じる集団すら現れた。1021年のある夜、36歳のハーキムはいつものようにロバに乗って砂漠へ散歩に出かけたが、そのまま行方知れずになった。数日後に血の付いた彼の衣服と傷ついたロバが見つかり、暗殺されたらしいが、黒幕は彼の妹シット・アル=ムルクともいう。妹はハーキムの子ザーヒルをカリフとし、後見人となった。彼を神格化していた集団は「生きたままこの世からお隠れ(ガイバ)なさったのだ」と主張し、未来に帰還すると唱えたが、主流派からは弾圧され、ドゥルーズ派を形成した。

イスラム圏の君主の中でも相当に奇矯な人物。キリスト教徒やアッバース朝など反ファーティマ朝勢力によるネガティヴ・キャンペーンも多々あろうが。彼の治世にファーティマ朝は衰退を始め、北アフリカやシリアが反乱で分離してしまった。七イマーム派だから七を聖数とするが、自分はファーティマ朝六代目なのでなんか不満。

なお、彼の孫ムスタンスィルの子がニザールとアフマド(ムスタアリー)で、ムスタンスィルの死後カリフ位を巡って両者の間に争いが起き、前者が敗北して幽閉された。ニザールを支持する人々は「ニザール派」を称してファーティマ朝から離脱したが、イラン北部でこれを率いたのがハサン・サッバーフ(サッバーハ)である。彼とその後継者らはニザールの代理人(フッジャ「証し」)を称したが、のちニザールの子孫たるイマームと称した。ハーキムからすればドゥルーズ派共々異端扱いであろう。また19世紀フランスの詩人ジェラール・ド・ネルヴァルは『カリフ・ハーキムの物語』という短編小説を書いている。古川日出男の小説『アラビアの夜の種族』にも登場。

金髪碧眼褐色肌の夜行性サイコショタ。瞳の中には赤金色の斑点がある。趣味は美少年を切り刻むこと。バーサーカー、アサシン、キャスター、セイヴァーの適性も持つ。星占いと知恵の探究が昂じて、古代エジプトのアレを発見してしまいああいう感じに。アレがアレであると理解しているが、唯一神の使いに過ぎないと考えている。

【サーヴァントとしての願い】
理想の国を地上に築く。闇に覆われ、犬やモロヘイヤや酒エトセトラがなく、誰もがイスマーイール派の正統教義(と自分の命令)に従う理想世界を。彼に宿るアレは、それで世界に破壊と混乱がもたらされればいいと考えている。

【方針】
聖杯を手に入れる。行動は夜に限る。日中に無理やり起こされると暴れ、機嫌が悪いと『妄想天使』をぶっ放しかねない。

【マスター】
アベリオン@Ruina

【Weapon】
<上霊>
天界の知恵。利き腕に装備する片手杖。装備者の魔力を大幅に増強する。
振ると全体に重打・聖・闇・魔法属性のダメージを与えた上、魔力支配(魔物を混乱させる)や怯みを付与する。

『イーテリオのかけら』
契約のあかし。雷・聖・闇属性の攻撃に耐性。消費魔力半減。回避力上昇。即死無効。使用すると瀕死を含む全状態異常を治療(全体)。星を鍛えて宝玉となしたものであり、無限の光明から流出する知識の出ずる門であるという。

イバの盾・始祖帝の戦衣・猫耳フードなどの各種装備品やアイテムは持ってこれなかった。

【能力・技能】
『古代知識』
歴史の知識や古代語のスキル。歴史や文化が根本的に違うこの世界では役に立たないが、魔術書を探したりするには役立つかもしれない。

『調合』
薬や装飾品などを作成する。ただし彼がいた世界で手に入る調合材料は、この世界ではほとんど手に入らない。一応、トカゲの糞で煙石、トカゲの糞+毒腺で毒玉、布地+油で火炎ボトル、トカゲの糞+油で爆発フラスコが作れる。しかし煙石以外は現代社会で作成・所持していることが知られると確実に逮捕される。魔術が使えるので特にいらない。

『古代魔術』
高次世界からもたらされた魔術。多数の強力な呪文を使いこなす。「イーテリオのかけら」で消費魔力は抑えられている。先に相手の動きを拘束して一方的に叩き潰すのが定石。

攻撃:矢の呪文、幻影の呪文、不可視の力、鬼火、爆炎の投射、地霊の爪、くくりの呪文、白き槍の呪文、腕なえの言葉、破魔の理力、封魔の呪文、燔祭の火、稲妻、闇の投影、邪眼、腐敗の呪い、天雷陣、竜脈の解放、魔力支配、風の十二方位、樹縛、竜巻の呪文、炎魔界、凍土領域、劫火の王国、死の指、死霊支配、雷の暴君、瘴気、魔界門、氷の棺、死の空気、星落とし、裁きの雷、吸血鬼の呪文、大いなる秘儀
強化:加速の呪文、盾の呪文、結界の構成、光の障壁、詠唱、神殿結界、無音詠唱、地霊の守護、熱よけの鏡、水と風の加護
治療:治癒術、禍祓い、蘇生の秘儀、病祓い、治癒の力場
 :螢火、魔物よけ、精霊の召喚

『呪歌』
吟遊詩人の用いる、魔力を込めた歌。敵の精神を惑わし、あるいは味方を鼓舞する。

攻撃:踊り歌、まどろみの歌、風喚びの歌、惑乱の歌
強化:いくさ歌

【人物背景】
枯草章吉のフリーゲーム『Ruina 廃都の物語』の主人公の一人。孤児であり、賢者デネロスの弟子。顔は男1。肌と髪が白く瞳は赤い。14歳よりは年上。古代の大魔術師のようになり、自分の価値を証明したいと思っていた。冒険の末に自らが古代の皇帝タイタスの末裔であることを知る。獲得した称号は「魔術師」「吟遊詩人」「退魔師」「妖術師」「賢者」「精霊術師」「魔人」。

【ロール】
高校生(ドイツからの短期留学生)。白髪赤瞳は目立つので、普段は幻術で隠すことにする。

【マスターとしての願い】
元の世界へ帰る。

【方針】
帰還に聖杯が必要なら獲得する。ハーキムの願いはどうかと思うが。

【把握手段・参戦時期】
原作「賢者の弟子」ルート。wikiとかを参照下さい。グッドエンドでのゲームクリア後。シーフォンは助けた。

◆◆◆

ハーキムは下の本で知った。ヤバいと思った。Wikipediaの記事も貼る。

その後ハーキムを検索していたら、ここが見つかった。松下みを感じる。

英霊にするならどう考えてもアレ繋がりでフォーリナーだ。じゃあ誰をマスターにするかと探した結果、アベリオンになった。ミ=ゴを魔法で狩るようなやつなので釣り合いはとれている。知らなきゃ下からダウンロードしてみろ。TRPGやゲームブックがすきならハマるだろう。小説化もしたそうだが、アベリオンは出て来るのだろうか。

【続く】

つのにサポートすると、あなたには非常な幸福が舞い込みます。数種類のリアクションコメントも表示されます。