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【聖杯戦争候補作】この世全ての悪

宵闇の空に暗雲が垂れ込め、ぽつぽつと雨が降り出す。
雨は、地上に漂う瘴気に触れ、音もなく蒸発した。

立ち上る瘴気は暗雲を飲み込み、降り注ぐ雨を有毒の酸性雨に変えていく。
轟音とともに黒い稲妻が走り、落雷を受けた樹木が焼き尽くされる。
そこから得体の知れぬ蟲たちが生じ、這いずりながら闇の中へ消える。

路上に立つ少女は―――瘴気の源は―――肩を震わせ、嗤っている。

「ふふ……ふふふふ…………」

少女。そう、少女だ。外見上は。
小柄で黒髪、赤い瞳に褐色の肌。胸は豊か。露出度の高い服装。
誰もが美少女と言うであろう恵まれた容姿と、謎めいた魅力を兼備する。

「ククク……ハハハ……………!!」

愉しげに、高らかに嗤う少女は、黒く禍々しい、ねばつく瘴気を放っている。体の弱い者や小動物が近寄れば、それだけで悍ましい疫病に罹り、命を落とすだろう。

「ハハハ!ハハハ!ハハァーーハハハハ!!」

彼女を知らぬ者はいない。少なくとも、魔術師や聖職者、悪魔の類であれば。否、「悪」を行う全ての者は、彼女を知っており―――その「子」であるとさえ、言えよう。彼女は、それほどの存在なのだ。

「愚か!愚か!愚かなり!余をこのような場に招くなど……!」

暗雲に向けて両手を広げ、喜悦の表情で哄笑する彼女。
本来、聖杯の力では、彼女を召喚することなど叶わぬはず。叶わぬはずなのだ。噫、しかし何ゆえか、彼女は今ここにいる。全てを滅ぼす悪しき力を備えたまま。

「万能の願望器『聖杯』……それさえあれば……!」

そう、彼女は、全ての悪の根源。サタンの原型。悪の創造主。創世以前より存在せし究極の悪魔。

「余はリア充になれるのだな!?」

ゾロアスター教における最凶の悪神アンラ・マンユ(破壊の霊)――――

もとい、アンリ・マユである。

彼女のマイルーム、いつもの深淵に、それが堕ちてきたのはつい先程。
ベッドに寝転んで駄菓子を貪りつつ雑誌を読んでいたアンリ・マユは、物音に気づいて起き上がった。

「……のう、アカ。今なんぞ音がせなんだか」
「しましたね、アンリ様。何か金属製のものが落ちてきて、そのベッドの下に転がり込んだようでしたが」

『アカ』と呼ばれた、顔の付いたベレー帽のようなものが、ベッドの傍から返事をする。こんななりだが、彼女はアンリが創造した六大悪魔の一つ、「悪の思考」アカ=マナフだ。

「ここは深淵、世界の底の底ですからねぇ。誰かが落としたものが、転げて転げ、回り回ってたどり着いたんでしょう」
「落とし物か、廃棄物か。いらんのならば、余が貰ってやってもよいな」

アンリは雑誌と駄菓子袋をベッドの上に置き、うつ伏せになってベッドの下を覗き込む。深淵の奥の暗闇だが、アンリには見透せる。見たところ、何かの金属片のようだ。折れ釘や画鋲や撒き菱なら、足に刺さって痛い目を見るかもしれないが、まあベッドの下だし大丈夫だろう。

だが、興味はある。猫やカラスが見知らぬものを触りたがる程度には。その好奇心は、猫を殺すか否か。

ぐっ、とベッドから身を乗り出し、手を伸ばし、その金属片に触れた瞬間―――アンリは深淵から姿を消した。

次の瞬間、いたのがここだ。冬木市という人間の町、を模した電脳世界。
勝手に脳内に植え付けられた記憶情報によれば、魔術師たちを聖杯という万能の願望器を巡って争わせる戦場。そして魔術師は半神の英霊を使い魔として授けられ、そいつらを戦わせるのだという。

……が、ナチュラルボーンぼっちのアンリに使い魔、サーヴァントはいない。彼女はマスターであり、かつサーヴァントだ。何の因果か応報か、深淵に迷い込んだ『鉄片』を自ら拾ったアンリは、そのような存在としてこの場に呼ばれてしまった。聖杯戦争を破壊しかねないイレギュラー。バグ。トラブルメイカー。カオスの種。ある意味、これ以上彼女にふさわしい役割はない。仮にサーヴァントのクラスを当てはめるならば、人類悪―――

『ビースト』として。

「ハハハハハ……――――む?」

高笑い中だったアンリの、目の前の空中にモニター画面が開き、文字列が浮かび上がる。聖杯戦争を円滑に運営するための監督役、ルーラーからの通信、とある。

警告します。アンリ・マユさん。貴女はイレギュラー。ここにいてはいけないもの。速やかに帰還するよう強く命令します

「……!?」

『貴女の存在は不都合です。帰還を選択しない場合、討伐令を他のマスターに送り、強制的に退去させます』

アンリは眉根を寄せ、モニター画面へ叫ぶ。

はァ!? なんぞそれ!? よっ、余を勝手に呼び寄せておいて、なんという言い草だ! 滅ぼすぞ貴様ら!」
『我々のミスではありません。生まれつきのトラブルメイカーである、貴女が勝手に紛れ込んでしまったのです』

淡々と「責任はない」と述べるルーラーの通信。だが、確かにその通りなのだ。アンリ本人に悪意がなくても、彼女の本質がそうなっているのだから。

『状況次第では、令呪を使用して貴女を拘束します。それなしで討伐隊に敗れるようなら、それに越したことはありませんが』
「……ほーう、言うではないか。くっ、くっくっ」

アンリは、腰に手を当て、虚空を睨む。怒りを通り越して笑いがこぼれ、ぎりっ、ビキッ、とこめかみに血管が膨れ上がる。瘴気が周囲に渦を巻き、空間が歪み、足元のアスファルトに亀裂が走る。

ナメられている。アンリ・マユを、この悪神を、このルーラーはナメきっている。要は、喧嘩を売られている。ならば、すべきことは一つだ。この場の全員をブチ殺して、望むものを手に入れる。いつも通りだ。

「よかろう。討伐隊を呼び集めて、余に向かわせよ。皆殺しにしてやろう。そこらの魔術師や英霊程度、余には肩慣らしにもならんぞ」
『……了承しました。令呪での拘束は……』
「いらぬ。生き残りをさっさと減らした方が、貴様らも助かるのだろうが。手っ取り早く片付けてくれよう」
『……過度の魂喰いや、聖杯戦争の存続を不可能にする行為は禁じられていますが、正規の手段で勝ち残るならば……』
「御託はいい。早くせい!」

苛立つアンリの周囲の空間が歪み、悪魔(ダエーワ)たちが姿を現す。彼女が己の被造物を召喚したのだ。
六大魔の筆頭、アカ=マナフ
旱魃の悪魔、アパオシャ
惰眠の女魔、ブーシュヤンスタ
流星の女魔、パリカー

「…………なんだ、これだけか?」
『貴女の宝具として、限定的にこれらの悪魔の召喚・使役を認めます。あとは貴女の能力で勝ち残って下さい』

一方的に通信は切断された。
アンリは凄まじい怒りの表情と悔し涙を浮かべたまま、ペッと唾を吐く。唾が当たった地面は爆発した。

「……………………貴様ら、戦争の時間だ。雑魚どもを皆殺しにし、聖杯を手に入れるぞ」

『『『『ぎ、御意』』』でヤンス』
呼びかけられた四体の悪魔たちは、創造主の剣幕に震え上がった。

立ち10る瘴気は暗雲を飲01込み、降り注ぐ雨を有毒の酸0101雨に変えていく。轟音とともに黒い稲1101が走り、落雷を受けた樹01010が焼き尽くされる。そこから得体の知れぬ110010たちが生じ、這いずり00101010闇の中へ消え010101110010…

◆最終戦争(アーマゲドン)――――勃発!!!!

【クラス】
ビースト(マスター兼任)

【真名】
アンリ・マユ@左門くんはサモナー

【パラメーター】
筋力A+ 耐久A 敏捷A+ 魔力EX 幸運E 宝具A

【属性】
混沌・悪

【クラス別スキル】
獣の権能:A
対人類、とも呼ばれるスキル。英霊、神霊、なんであろうと特効性能を発揮する。彼女は「死」という概念の創造主で、善神が創造した世界に侵入し、最初の死をもたらした。

単独顕現:EX
単独で現世に現れるスキル。このスキルは“既にどの時空にも存在する”在り方を示しているため、時間旅行を用いたタイムパラドクス等の攻撃を無効にするばかりか、あらゆる即死系攻撃をキャンセルする。本来英霊は呼ばれていなければ召喚されることは無く、自身の意思で無理やり自身を召喚しようものなら霊基が高速で崩壊していき、やがて自然消滅してしまうが、この権能(スキル)を持つビーストはこの制限を無視することができる。

彼女は創世以前より世界の破壊をさだめとして存在していた究極の「ぼっち」であり、召喚されてもいないのに深淵と現世を自在に往来する。ただし好意的な他者と交わりすぎて「ぼっキャパ(ぼっちキャパシティ)」が満杯になると、勝手に深淵に帰って引きこもり、休養する。自力で帰ろうと思えば帰れるし、ルーラーも帰ることを推奨しているが、扱いにムカついているので帰る気は今のところない。

自己改造:A
自身の肉体に別の肉体を付属・融合させる。このスキルのランクが高くなればなるほど、正純の英雄からは遠ざかる。電脳空間では、アバターの下半身から多数の大蛇を生やしたラスボスっぽい姿に変身したことがある。

【保有スキル】
この世全ての悪(真):EX
正真正銘、悪の根源そのものである「権能」。善神の被造物を妬み、歪んで真似た結果、あらゆる悪しきものを創造した。死、冬、闇、夜、毒、海水、暑熱、旱魃、惰眠、煙などの概念・現象や、悪魔(ダエーワ)、狼や獅子など野生の猛獣、猫、蝙蝠、爬虫類、両生類、昆虫、節足動物、軟体動物などの害獣・害虫は、彼女の命令に逆らえない。冬に命令すれば猛吹雪が起こり、「止めろ」と一喝すればたちまち止む。

他にも考えつく限りのありとあらゆる災いを引き起こすことが可能だが、近年はやる気が無いので新型インフルエンザを流行させている程度である。彼女の周囲には常に病原体が漂っており、抵抗力の弱い者は近づいただけで病気に罹るし、怒れば猛烈な疫病が周囲に荒れ狂う。オンラインゲーム世界ではコンピュータウイルスを撒き散らして世界をバグで滅ぼすところであったし、スマホを連続爆破させたりもした。聖杯の泥ぐらいはコーヒーのように飲み干せそうというか、破滅的メシマズ属性があるので多分自力で創造できる。

ただし、天使や善人、光、火、水、生命、よき植物、牛・馬・驢馬・駱駝・犬などの家畜、鹿、猪、ビーバー、川獺、鼠、針鼠、イタチ、鳥、魚などを従わせることはできない(殺す・穢すことは可能)。これらは彼女ではなく、敵対する善神アフラ・マズダーの被造物だからである。ユダヤ・キリスト教系など他宗教の悪魔・魔神にも実力と年季ででかい顔ができるが、一応彼女の被造物ではないので、この権能だけで従わせることはできない。

神性:A++++++(EX)
彼女は堕天使や被造物ではなく、れっきとした神である。しかもそんじょそこらの神ではなく、二柱の世界創造神の一柱である。「創世以前に生を受けた」と自称するので、神話どおり時の神ズルワーンから生じたのだろう。年齢ン十億歳超のアラワー(アラウンド世界)世代。流石にランクダウンされてはいるが、いつ大破壊を引き起こすか知れたものではない。

【宝具】
『悪しき思考(アカ=マナフ)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:100

彼女の被造物の一つである大悪魔。顔の付いたベレー帽か、DQのスライムのような姿。愛称は「アカ」。他者の頭部に取り憑き、相手の思考・選択を常に「誤らせる」能力を持つ。相手を洗脳して誤った情報を信じ込ませることも可能。

『旱魃の黒馬(アパオシャ)』
ランク:C 種別:対城宝具 レンジ:10-500 最大捕捉:1000

旱魃を司る悪魔。天を駆ける黒馬の姿をしており、日本の梅雨空をも雲ひとつない快晴に変えることができる。もたらすのはあくまで「災害」なので、空気や大地から水分を激しく奪い、地下水を蒸発させて激しい地盤沈下を引き起こす。これにより学校全体を地下に沈ませたこともある。能力を解除すれば旱魃はおさまる。

『長い手の睡魔(ブーシュヤンスタ)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1-10 最大捕捉:100

惰眠を司る女悪魔。相手に魔力を放って眠気を誘い、惰眠を貪らせる。それなりの精神力があれば耐えられる。外見はネグリジェを着た金髪ロングの女性だが、肌は紫色で瞳は赤く、ギザ歯で常に口を開けた顔。愛称は「ブーやん」。普段は現世でとある人物に取り憑いているが、宝具として呼べるのは分霊(ないし本体)であろうから、そちらに影響はないものとする。

『迷惑な流星(パリカー)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1

流星を司る女悪魔。超小型の隕石に乗った小さな魔女の姿をしており、召喚されるやミサイルのように射出され相手を吹き飛ばす。机を大気圏外まで吹き飛ばす威力があり、大悪魔でも直撃すればかなりのダメージを受けるが、頑張れば止めることも可能。

【Weapon】
なし。
素手でも戦闘力は高く、軽いパンチで岩壁にクレーターを作り、本気のパンチ一発で山が吹き飛ぶ。グッと気合を入れただけで祭りの屋台が吹っ飛ぶ。

【人物背景】
沼駿の漫画『左門くんはサモナー』に登場する、ゾロアスター教悪魔のトップである最強最古の悪神。世のあらゆる災いを生んだ絶対悪で、本家本元の諸悪の根源。愛称は「アンリ」。口調は古風。好きなものはネガティブなもの、嫌いなものは声のでかいヤツ。特技は大概のものに嫉妬できること。
外見は黒髪ツインテール・褐色肌・赤い瞳・ロリ巨乳の美少女。身長154cm。袖が丸めの露出度が高い服を纏い、ツインテのシュシュは蛇。

幽界では「あいつに近寄るとインフルが伝染る」「インフルババア」と忌み嫌われ、常に独りぼっちであり、深淵の奥底でやさぐれた生活を送っていた。性格はB(ぼっち)コンをこじらせており、かまってちゃんのチョロイン。めんどくさくて人見知りで泣き虫で沸点が低く暴走しやすい。人間相手には尻込みすることが多い一方で、同類の悪魔相手には遠慮会釈なく、上から目線で使い倒してくる。

作品世界の設定上、神話上の悪神そのものであるが、人間の祓魔師の札であっさりはじかれるなど、弱点も山盛り存在する。チョロくてアホで騙されやすいので、ちょっと好意を示せば舌先三寸であっさり味方につけることもできる。

【ロール】
引きこもり気味の少女。

【聖杯にかける願い】
リア充になる。ただしぼっち歴が長すぎるため、そのイメージは非常に貧困である。

【方針】
全てを滅ぼして聖杯をゲットする。売られた喧嘩は全部買う。

【把握手段】
原作単行本(全10巻)。アンリの登場は2巻から。

【参戦時期】
原作8巻、深淵でぼっちを満喫している頃。

◆◆◆

ここからは「混沌聖杯」に投下した候補作だ。舞台は冬木市を模した電脳世界で、鉄片を拾うことで招かれる仕組みらしい。詳しくはwikiを見ろ。

チート過ぎるがどうにかなりそうな悪魔だ。アンラ・マンユでもアンリ・マンユでもアーリマンでもなく、マイニュ・ニンジャでも暗闇の雲でも、Fateに出る同名のやつでもない。神崎蘭子でもない。ぼっキャパ概念はなんかわかる。終盤の彼女はユカノみを感じる。一介のメガテニストかつ神話好きとして、漫画が打ち切られたのは悲しい。真ifの貪欲界イベントみたいなのがあった。タイトルに音楽ネタを使い始めたのはこの頃からだ。なおラストのアオリ文は『BASTARD!!』で使われたやつだ。

【続く】

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