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【FGO EpLW 殷周革命】第一節 英霊再遇革命中

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これまでのあらすじ:カルデアで緊急事態が発生した。ウォッチャーと称する存在がカルデアスに立てこもり、藤丸立香を誘拐して、代わりに謎のアメリカ人と見慣れぬサーヴァントらを特異点へ送り込んだのだ。一行は協力してユカタンの特異点を解決。だが舞台は次なる特異点へ!)


――――――・・・・身体が重い。いや、身体が存在しているのを、神経と精神が感じている。ああ、着いたのか、新たな特異点に。

目を開くと、足元は土。昼間のようだが、振り仰ぐと空は曇天。ユカタンやコスメルよりゃ、だいぶ肌寒い。向こうの崖の下に大きな川が見える。川幅は相当ありそうだ。河原も広い。どこだ、ここァ。

「うー……二日酔いのヒデェ時みてぇな気分だ。転送酔いってのか……おい、みんないるか」
『アサシン以外は、いるだ』
「います」
「いるぞ」
『いるよ! ここからは、私が助言できるってさ!』

どっかで聞いた声が混じっている。ええと、あれだ、モナ・リザのダ・ヴィンチちゃん。思い出した。
「おう、よろしく頼まぁ。アサシンはなんか、どっか行っちまったが。そんで、ここはどこで、いつだ……」
『座標は、えーと現代で言うと、チャイナ。そのド真ん中の、河南省。年代は……紀元前1023年。我々の年代からは三千年ほど前だね』

俺は鼻を鳴らす。さっきのユカタンからは、二千年も遡ったってわけか。
「三千年前のチャイナか。全然知らねぇな。何があったってんだ」
「その座標と年代からすると、『殷周革命』ですね。……彼女らがいるかどうかわかりませんが」
『あっちにアレがいたらヤバイよねえ。こっちにアレがいたとしても……』

シールダーとダ・ヴィンチが、なんだかわからん会話をしている。遮って、
「なんだ、そりゃ。何の話だ、カルデアさんたちよ」
『ん、ああ、何でもない。簡単に言うと、西のという国が、東のという大国を攻め滅ぼそうとしている頃』
「ははぁ。それで、殷の方にサーヴァントが出てて、そいつらを俺らが倒しゃいいと。単純な話だ」

察しのいい俺に、ダ・ヴィンチが微笑む。
『そうなるね。ちなみに明代の神怪小説「封神演義」は、両陣営に仙人、超人や妖怪たちが味方して戦ったという設定だ。当然、周が勝つが……』
「小説ねぇ。ウォッチャーのクソ野郎が、それを真似て再現しようとしてる可能性は高ぇな。はた迷惑な」

ダ・ヴィンチが早口で続ける。よっぽど語りたがってるんだろう。
『それで、正確な座標は、河南省……洛陽市、孟津。盟津とも。黄河を渡る船着き場、津のひとつだ』
「じゃあ、あれが有名なイエロー・リバーか。……ちったぁ濁ってるが、あんまり黄色くはねぇな」
『古くは単に河、河水と言った。黄土を大量に含んで黄色くなるのは、森林伐採が進んで表土がむき出しになる戦国時代以後らしい。つまり、古代の環境破壊のせいだね。前回のユカタンでも……』
「ああ、歴史の講義はいい。さっさと聖杯をゲットして、とっとと終わらせようぜ」

「殷周革命。ここは孟津、と言ったな。では、周王が諸侯を集めて渡ろうとしておるはず……」
ランサーがダ・ヴィンチに問いかける。日本人の英霊なら、チャイナのことについちゃ、俺よりゃ詳しいだろう。
『うん、あっちだ。渡し場だ。多数の船があり、陣営も築かれてる。なにやら魔力反応もあるね』
なるほど、ダ・ヴィンチが指差す先に陣営がある。結構でけぇ。船着き場から陣営までは道がついてるが、だいぶ離れている。陣営は小高い、ここと地続きの崖の上だ。洪水や増水を避けられるし、戦略上は川を見下ろす方がいいんだろう。多分。

「あっちに顔出ししときゃいいのか。つっても、こんな格好の一行がやってきたら曲者扱いだよなぁ……戦争中だしよ」
「それもそうですね。しかし敵側にサーヴァントがいるなら、この陣営を狙うはず。周の王様を殺せば歴史改変は出来るわけですから」
『ンだな。こっそり忍び込んで、敵が襲って来たら加勢して、ええとこ見せてやりゃええだ』
「おお、ナイスアイデア。俺が死なねぇようにしっかり守ってくれよ……」

ザザッ。ダ・ヴィンチのモニタがノイズだらけになる。なんだ、故障か。
『……あれ、ちょっと通信の調子がおかしいな。じゃあとにかく、気をつけてくれ……』
通信が切れちまった。いきなり幸先悪ィな。ま、行くとするか……。

◇◇◇

ってわけで、周軍の陣営にこっそり忍び込む。コスメル島でもやったが、ランサーが忍術を使えるからか、意外に気づかれねぇ。幸いまだ河を渡ってはいねぇ。物陰に潜み、観察する。こいつらは諸侯連合軍だそうで、いろんな旗印がある。
「で、王様はどこだ……」
「一番立派な天幕にいると、相場は決まっています」
「とはいえ当然、警備が厳重だろう。まずは……」
ランサーが言葉を切り、空を見上げる。つられて空を見る。

「……北の空が、暗くなってきた」
確かに雲行きが怪しい。雨か、雷か、雪でも降りそうな天気だ。肌寒さが増してきた。キャスターやシールダーのおかげか、半袖シャツにサンダルでも風邪をひくってこたぁなさそうだが……。
「あー、そうだな。雨具か毛布でも調達したがいいか。どっかの天幕に潜り込んでよ」
「待て。様子がおかしい……!」

河の北岸で、稲光が閃いた。兵士たちがざわめく。

「……なんだ、ありゃァ」

真っ暗な雷雲が空を覆い、雲間に稲光が閃き、ゴロゴロと雷鳴が轟く。雷雲から無数の稲妻が、対岸の地上に降り注いだ。その地上からも無数の竜巻が伸び、稲妻に対抗する。超自然的な光景だ。ってこたァ……
「…………戦争か。サーヴァント同士の」
『ンだな。しかも、おらたちにはどうしようもねえレベルっぽいだ』
強風が吹いて砂煙を飛ばし、地響きが起こり、河に激しく波が立つ。天幕が幾つか吹き飛ばされ、周囲が闇に包まれる。兵士たちが右往左往する。

武王伐紂、渡于孟津、陽侯之波、逆流而撃、疾風晦冥、人馬不相見。  ―――淮南子・覧冥訓

「ど、どうする、おい。もう始まっちまってるぞ。このまま、どっちが勝つか傍観するしか……」
『けど周の側のサーヴァントが負けたら、こっちへ攻め込んで来るだなあ』
「身を隠すか、先に周王を確保した方がよかろう。この混乱に乗じて……」

ZGGGTOOOOOOOOMMM!!!

猛烈な稲妻が、河の上空で爆発した。……だが、河のこっち側にゃ届いてねぇ。ビビらせやがって。

そうこうするうち、雲が河を覆い隠しちまったが、嵐は収まってきた。兵士たちが船着き場へ向かって行く。数隻の船が対岸から来る。
「敵襲……って感じじゃねぇな。負けて、戻ってきたのか。周軍が」
「にしては少ない。サーヴァントを含んだ先遣隊だろう。対岸の周軍はやられたか」
「ともかく、彼らに会ってみましょう」
「その前に、ダ・ヴィンチはどした。あいつが話を通した方が、分かりやすいだろ……」

ザザッ。言うが早いか、モニタが空中に現れ、ダ・ヴィンチが顔を出す。
『……ああ、繋がった。ごめんごめん、何かあった?』
なんなんだ。あの雷の影響かな。シールダーが状況を簡潔に伝えると、ダ・ヴィンチは目を丸くしている。

◇◇◇

両手を上げてスマイルを浮かべ、敵じゃないことをアピールしながら、到着した船へ歩いて行く。兵士たちは不審がるが、道を開けてはくれる。そうそう、それでいい。と、聞き慣れた声。

「あれェ!? あんたら、こっち来てたの!?」

思わずブフッと噴き出す。見忘れようもねぇ、あいつだ。
アサシン! お前、どこ行ってたんだ!」
「や、おひさ。ちょっと事情があってねェ……ま、あいつらに聞いてよ」

ひらりと舷側から飛び降りたのは、アサシン・イシュタム。その後ろから、男が二人。船にはいくらか矢が刺さっているが、大した被害はなさそうだ。
男の一方は、顔に妙な入れ墨をした黒髪のガキだ。女かも知れんが、よく分からねぇ。もう一方は胡散臭そうな中年の小男。ガキもひらりと飛び降り、小男は杖をついてよろよろと降り、アサシンと目配せした。話は行っているようだ。小男の方が話しかけてきた。

「ようこそ! 貴方が『カルデア』のマスターですかな? 私はこの特異点に呼び出されたサーヴァントの一人、キャスターです」
「同じく、セイバーだ」
「お、おう。あんたら、周、の側だよな。そっちについた方がいいんじゃねぇかって、今相談してたんだが……」

小男のキャスターは、どうもインド人のようだ。鷲鼻で髭面。肌は浅黒く、額になんか、ティラカっていうんだったか、紋様をつけている。ニッと笑った口の中は、犬歯が欠けている。愛嬌はあるが、酷薄そうな雰囲気もある。杖で体を支え、片足を不自由そうに引きずっている。……そういや俺の手の中の髑髏野郎もキャスターだ。髑髏も気づいて小男に挨拶する。
『ンだな。おらも「キャスター」だ。真名は「エピメテウス」』
「よろしく。ああっと、じゃあ真名を名乗らないと、紛らわしいですな」

小男は恭しく腰を曲げ、名乗った。
「私は『チャーナキヤ』と申します。別名を『カウティリヤ』。古代インド、マウリヤ朝マガダ王国に、軍師・宰相として仕えておりました」

真名判明

周のキャスター 真名 チャーナキヤ

俺は小首を傾げるが、シールダーやダ・ヴィンチ、エピメテウスらは驚いた様子だ。結構、有名人なのか。
「ふーん、やっぱインド人か。……俺は知らねぇが、説明してくんな」

ダ・ヴィンチが興奮した様子でまくしたてる。
『世界史に名を残すぐらいには有名人だよ。紀元前4世紀、広大なインド亜大陸に覇を唱えた、大帝国の建国の立役者だ。国を治めるための方策を記した「実利論(アルタ・シャーストラ)」の著者としても有名だけど、成立したのは彼の死後何百年も経ってからとか。西洋人は「インドのマキアヴェッリ」だとか「インドのビスマルク」とか呼んでる。……ああ私、マキアヴェッリには生前会ったことあるなぁ』
『欧州やイタリアどころか、フィレンツェ一国も治められなかったマキアヴェッリよりは、よっぽど有能でねえかな……』
エピメテウスが補足する。ふーん、すげぇすげぇ。エンシェント・チャイナとは縁もゆかりもなさそうだがよ。

続いて、シールダーがインド人に問いかける。
「あの、気になってたんですけど、イスカンダル……アレクサンドロス大王にお会いしたことは?」
「ああ、御座いますよ。まだ少年のチャンドラグプタと一緒に、タクシャシラーで謁見しました。英雄とはこのようなものかと……。彼がインドまで来て、早めに死んでくれたから、我々がマガダ国を奪い、インドを統一することも出来たと言えましょうな」
へー、アレキサンダー大王とねぇ。すげぇすげぇ。どうせ俺は歴史に名も残らねぇ、アメリカの底辺層ですよ。

「ほんじゃ、そこのセイバー、黒髪のお坊ちゃんは……お嬢ちゃんかな、なんか前の特異点にも似たようなのがいたもんでよ」
「余は男だ。真名は『勾践』。越王勾践だ。生きた年代は随分後になるが、この時代のこの状況は良く知っておる」

真名判明

周のセイバー 真名 勾践

苦笑するセイバー。今度はランサーも驚いている。東洋の英雄様か。
「殷周革命の戦場で、越王勾践と相見えるとは。特異点巡りも中々面白い」
「生前は、仮にも周王より賜命を受け覇者となった身。逆らうわけにもいかぬ。それに、余の先祖は夏の禹王だ。殷については先祖に叱られよう。……ま、呉王は周王の一族と名乗っておったがな」

何言ってんだか全然わからんが、まあいいや。こっちも挨拶しとこう。
「ええ、そんじゃいいか。俺がマスターの◆◆◆で、この水晶髑髏がキャスター、エピメテウス。で……」
『カルデアの所長代行、キャスターであるレオナルド・ダ・ヴィンチだ。彼が私のマスターってわけじゃないけどね』
「わたしはシールダー、マシュ・キリエライト」
「拙者はランサー、服部半蔵正成」
「で、改めまして……アタシがアサシン、イシュタム。前の特異点では、こいつらと一緒に戦ってたんだけど……」

俺はアサシンを指差し、詰め寄る。浮気されたわけじゃねぇが、どうもイラつく。
「それだ。なんでお前、こっちで先にこいつらとつるんでんだ。ウォッチャーがなんかしたのか」
「だからァ、こいつらに聞いてよ。まぁざっくり言っとくと、『聖杯』で召喚されたの」
「召喚って、俺の他にマスターがどっかにいるってのか。そいつ、フジ、なんとかって女か……」
「違うよ。こっちの、周の王様」
王様が、聖杯で、サーヴァントを、召喚した。どういうこった。とにかく、王様のツラを拝まねぇことにゃ始まらねぇか。

ランサーが、インド人のキャスターに話しかける。
「ところで先ほどの戦闘は、敵サーヴァントとのものと思われるが。奴らがこちらへ追撃することは……」
「今のところ、封じてあります。相手の力を利用して、あの河を結界としました。ただし、こちらからも河を渡れなくなっています。様子見のために潜入したのですが、見つかってしまって。まさかあんな強敵だとは……」
インド人が頭を掻く。よく見りゃ、目や鼻から血を流したような跡がある。魔術で随分やりあったらしい。

「歴史を再現し、殷を滅ぼすためには、あのサーヴァントをどうにかするしかない。それには、さらに『聖杯』を集めるしかありません」
「さらに集める、だと。ここにある上に複数あるってのか、ここの聖杯は」
インド人が頷く。益々わからねぇが、ダ・ヴィンチはピンと来たようだ。
『エンシェント・チャイナ。殷周革命。聖杯が複数。ひょっとして……アレかい』
インド人は微笑み、また頷く。
「ご明察の通り。詳しくは、周王にご紹介してから説明いたしましょう」

話し合っていると、背後からガラガラという音。振り返ると、二輪馬車に乗った男がやって来る。

「英霊がた! ご無事か!」

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