見出し画像

【聖杯戦争候補作】NIMROD

主は降って来て、人の子らが建てた、塔のあるこれらの町を見て、言われた。「彼らは一つの民で、皆一つの言葉を話しているから、このようなことをし始めたのだ。これでは、彼らが何を企てても、妨げることはできない。我々は降って行って、直ちに彼らの言葉を混乱させ、互いの言葉が聞き分けられぬようにしてしまおう」主は彼らをそこから全地に散らされたので、彼らはこの町の建設をやめた。こういうわけで、この町の名はバベル(神の門)と呼ばれた。主がそこで全地の言葉を混乱(バラル)させ、また、主がそこから彼らを全地に散らされたからである。
――――旧約聖書『創世記』11章

これで何匹狩ったか。
つまらねえ戦いだ。多少能力を制限されていても、一方的すぎる。狙った相手が迂闊なカスばかりだってのもあるが。オレがやりてえのは、もっと違った……そう、オレが手を下さずとも、バカどもが互いに殺し合うような戦争だ。蛇が互いの尾を喰らい合うように、気づかずに掌の上で踊るように、しむけりゃいい。効率的に数が減る。とはいえ、あんまり早く戦争が終わっちまっても、それはそれでつまらねえか。

聖杯戦争? こっちが仕掛け役になりたいもんだ。殺し合いを安全地帯から眺めつつ介入するのは、そりゃ愉しかろうさ。あの偽善者野郎は、涙を流して悲しむだろうか。いや、愉しむか。まあいい。情報はざっと集めた。ヤバそうな奴もいる。もう数匹殺してから、提案してみるか。

深夜。廃ビルの一室。そのサーヴァントは、すでに消滅しかけていた。罠にハマったのだ。巧妙な罠に。

まず、マスターとサーヴァントの両者が急に疲労を覚え、魔力が減衰していった。サーヴァントはなんとか持ちこたえたが、マスターの衰弱は激しかった。他の主従の攻撃であることは断言できるが、攻撃の正体が掴めない。激しい脂汗を流しながら、マスターの魔力と生命力が奪われていく。為す術無く消滅を待つばかりのサーヴァントの眼前に、それは突然出現した。

モニター画面。の、ように見えた。
空中に浮かび、厚みはなく、半透明の画面だけが見える。聖杯戦争の管理者からの通達か。この異常を報告すべきか。だが、暗い画面の向こうに見えたのは、異様な姿。

小柄で細身の、おそらく少年。黒一色の服装。黒い帽子。黒い髪。異様に青黒い肌。目の下に漆黒の隈。奇妙に細長い耳と黒い唇には、多数のピアス。体中にシルバーアクセサリーをじゃらじゃらとつけている。彼はこちらを蔑みの目で見ながら、にやにやと嗤っている。

何者かのサーヴァントだ。そいつが目の前に現れ、自分たちを観察し、挑発しているのだ。この衰弱の原因も、こいつだ。だが、もう。

画面が消え、目の前の空中に少年が現れた。少年は手招きした。いや、片方の手首を上に向けた。もう片方の手に持ったナイフで、その手首に傷をつけた。傷口から赤黒い血液が、煙となって吹き出した。手首からの血煙が、霧か雲のように、部屋いっぱいに広がっていく。

雨が降りはじめた。室内に、血の雨が。少年が撒いた血煙から、血が雨となって部屋中に降り注いだ。血煙や雨が当たったマスターの皮膚は焼け、肉があらわになり、骨がむき出しになる。マスターをかばうサーヴァントの体も、たやすく蝕まれていく。

雨が激しくなる。瀕死のサーヴァントは、狂ったように叫びながら目の前の少年に襲いかかったが、その攻撃は少年をすり抜けた。幻影だ。力尽きたサーヴァントは、血の海に倒れ伏し、消滅した。

しばらくすると、雨はやんだ。血煙も、血の海も、消えていた。
マスターも、サーヴァントも、黒ずくめの少年も、どこにもいなかった。初めからいなかったように。

「悲しいわ……。人は何故、争うのかしら……」

深い憂いをたたえた瞳。涙が一筋こぼれ、頬を伝った。

暗い部屋に点いたテレビでは、世界各地の内戦・紛争地帯での、犠牲者たちの痛ましい映像が流れている。降り注ぐ爆弾。飛び交う銃弾、ロケット弾、ミサイル。次々に破壊される町並み、崩れ落ちる病院。毒ガス、飢渇、疫病、流血。暴行と掠奪。おびただしい死。シリア、パレスチナ、イラク、イエメン、ダルフール、南スーダン、アフガニスタン、チェチェン、ウクライナ…。

そればかりではない。世界各地で相次ぐテロ。報復。軍事的緊張。経済制裁。欧州には難民・移民が押し寄せ、排斥運動が激化している。差別。宗教、思想、民族、人種、政治、国家、経済の対立。世界は一体いつになったら、混乱から、憎しみと殺し合いの連鎖から、抜け出せるのだろうか。

「人間が人間である限り、続くのでしょうね……。そういうものなの……。理性やモラルという薄い殻の中は、邪念と利己主義のかたまり。呪われた生き物……」

顔を両手で覆い、深くため息をつく。いつの時代もそうだ。これこそが人間の、ありのままの姿。

「救いの神はもういない。いいえ、はじめからそんなの幻想。いるのは人間という殺人機械、悪魔だけよ。あの妬み深い神が、人間にしてくれたことといったら、果てしない混乱の種を蒔いただけ……」

救いはない。希望もない。いや……ひとつだけ、ここに希望がある。
聖杯。万能の願望器。願いをなんでも叶えてくれる、夢のアイテム。

『世界中から人々の争いがなくなりますように』……ふふ、なんて夢見がちな願いごとかしら」

涙を流しながら呟いているのは、深窓の令嬢でもなければ、妙齢の美女でもない。初老の紳士だ。白シャツにベストに蝶ネクタイ、スラックス。執事かバーテンダーのような服装。銀髪を綺麗に後ろへ撫でつけ、広い額を出す。眉毛がなく、目つきは鋭く、面長で彫りの深いコーカソイドの顔。

彼は考える。
聖杯。それは個人的な欲望ではなく、もっと大きな理想、地球上の全人類の救済のために使われるべきだ。獲得のために殺し合いをする必要があるとしても、少数の敗者の命よりは、救われる何十億の命の方が絶対に多い。理想実現のための、やむを得ない犠牲だ。『あれ』と仕組みは同じだが、捧げる犠牲はより少なくて済む。この「聖杯戦争」は、人類同士の争いをなくすための、最終最後の戦争とならねばならない。

彼は考える。
世界から争いをなくすには、具体的にどうすればいい。人間が人間であるまま、救われるには。歴史上誰も成し得なかったこと、世界征服、全人類社会の政治的統一。否、それだけでは、まるで足りない。人間が各々エゴを持つ以上、倫理観は人それぞれだ。思想、価値観の対立。愚かな人間には、それが解決できない。

「全人類の、思想と価値観を、統一しなければいけないわ」

ユダヤ、キリスト、イスラム、ヒンドゥー、様々な宗教や主義、理想。神に背き、神にすがり、神の名のもとに争う、愚かな人類。彼らのエゴを縛り付け、永遠に平和を保たせるには、真の救世主……真の神が必要だ。唯一絶対の神がいないのならば、創り出すしかない。全人類の心の中に。地上に平和をもたらすために。彼は涙を拭い、異様に尖った歯列をむき出して笑った。

「そう、この私、『ヘウンリー・バレス』が、本当の救世主、絶対神となってね……」

不意に、部屋の中にモニター画面状の窓が現れ、瞬時に小柄な黒ずくめの少年が降り立つ。

「よう、戻ったぜ。相変わらず気色悪いな」
「あら、お帰りなさい。お仕事、お疲れ様」
「ああ。情報を集めるついでに、何匹か狩って来た」

バレスは、少年……自分のサーヴァントからの、念話による報告に、目を細める。

「……上出来よ。いい子ね」
「それと、提案だがよ」
「ほほほ、分かってるわよ、言いたいことは。うまく強敵同士を潰し合わせて、数を減らしてちょうだい」
「ああ。そっちもせいぜい、ヘマをしねえことだな」

少年はため息をつき、部屋の隅、黒い大きなクッションの上に腰を下ろした。ここはバレスの住居、高級マンションの一室。部屋の中には多数の蔵書と電子機器、いくつかの気配。2つの水槽の中に、水とかげ(イモリ)が一匹と、蠍が一匹、各々入っている。バレスの使い魔の、触媒だ。彼はサーヴァントを持つ以前から、いくつもの使い魔を操る大魔術師だった。

彼のサーヴァント……キャスター(魔術師)、真名『王天君』は、卑怯なほどに強い。卑怯で強い。
離れた空間を監視しつつ瞬時に移動する、縮地の術。
人知れず相手に寄生して、魔力と生命力を減衰させるダニ型の宝具『寄生宝貝生物』。
強力な酸性雨を降らせて敵を溶かす、固有結界宝具『紅水陣』
そして、倫理道徳にとらわれないからこそ可能な、柔軟で狡猾、無慈悲な策略を考え実行する優秀な頭脳。
格闘能力には乏しく、宝具の効果範囲や威力は制限されているが、聖杯戦争で勝ち残るには充分だ。

バレスのもともとの使い魔たちも、なかなかに強力だ。
触れた相手から水分を吸収し、干からびさせる水魔(アクア)。
硬質の砂を操作して、相手を破壊する砂魔(ディザード)。
相手を闇の精神空間に引きずり込み、怨念で殺す影魔(シャドウ)。
そして、もう一体。
サーヴァントがいるため能力は制限されており、同時に操れるのは三体まで。それでも、無差別な破壊殺戮者に突然襲われても、対処はある程度なら可能だ。

油断はならないが、少なくともスタート地点で、比較的有利な立場にいることは確か。知られてはならない。我々の存在を、計画を。全ては静かに、安全に進めるべきだろう。バレスはテレビを消して立ち上がり、コーヒーを淹れにキッチンへ向かう。

「ねえ、キャスター。あなたには、本当に望みはないのね?」
「ああ。オレは存在するのもめんどくせえほど、精神が疲れてんだ。お前のクソくだらねえ望みだって、反吐が出るほど嫌いだ。お前を消すことなんざ、赤子の手をひねるよりたやすいが……あえて今やるまでもねえ、ってだけだ」
「まあ怖い。でも、それもそうね。あなたはとっても強いんだもの」

バレスもキャスターも、互いにそれは確信している。
ダニを寄生させて弱らせ、紅水陣で溶かせば、大抵の人間は殺せる。弱点はあるが、黙っていれば分からない。ましてや、バレスには明確な弱点が存在する。キャスターが殺そうと思えば、いつでも殺せる。

では、なぜキャスターは、バレスをあえて殺さないのか。
令呪を使用されているわけではない。悪人同士だが、気が合う相手でもない。目的も異なる。
キャスターの目的は、この殺し合いが続くこと。可能なら月の管理権を得てルーラーとなり、聖杯戦争を飽きるまで観察すること。
バレスの目的は、自らが全人類に崇められる唯一の神となり、世界中の争いを終わらせること。まったく逆だ。

キャスターにとってバレスを生かしておく理由は、ただ勝ち残るのに有利だからだ。人間にしては異常な魔力、複数の優れた使い魔を操る魔術、膨大な知識、冷徹な判断力、無慈悲さ、邪悪さ、勝ち残るための強い意志。なにより、強力な能力の代償として、キャスターにはマスターからの魔力供給が不可欠だ。魂喰いをしようにも、直接的な攻撃手段は二種類の宝具しかなく、ダニの方は相手の魔力と生命力を弱めてしまう。要は、燃費が悪い。バレスが生贄を集めてキャスターに捧げることも可能だが、あまり派手にやればルーラーに目をつけられる。

バレスが勝ち残った瞬間、キャスターは彼を殺し、自分の願望を聖杯に託す。それで終わりだ。途中で裏切って乗り換えてもいい。

もちろん、バレスはキャスターの目論みを見抜いている。互いにそれは分かっている。人間は―――キャスターは人間ではないが―――そういうものだからだ。弱く愚かで哀れな、ゆえに救われるべき存在だ。

当然、バレスも人間である。己の弱さ、愚かさ、哀れさも承知している。
しかし、素晴らしいチャンスが、今再び自分には到来しているのだ。万人の上に神として君臨し、神の国を築き上げる機会が。バレス本人が、神のように完全な存在になる必要はない。そのように崇められれば、それでいい。聖杯によって全人類の意識を統一し、争いのない平和な世界を作る。崇高な目的だ。それ以上の欲はない。人類以外の存在からの介入に対しても、全人類が一致団結すれば、叡智を結集して対抗できることだろう。

それを完成させるため、自分を殺す気のキャスターには適当なところで退場してもらう。令呪があるのだから、自害させれば済む。暗躍や戦闘は、それまでキャスターに任せればいい。彼が敗れて消滅しても、代わりの従順なサーヴァントを調達すればいい話だ。計画はシンプル。あとは、実際に勝ち残るだけ。争いたい者たちには争ってもらい、高みの見物といこう。

「ん、いい香り。はい、あなたの分のお夜食よ。どうぞ」
「………」

コーヒーを淹れたバレスが微笑みながら、錠剤が入ったボウルをキャスターに差し出す。キャスターは舌打ちして受け取り、ボウルから錠剤を一掴みすると、ボリボリと貪る。魔力の多少の足しを兼ねた、嗜好品だ。錠剤と自分の爪をかじりながら、彼はうんざりした表情で考える。

けっ、いけすかねえ奴だ。もう少し壊れりゃ、オレのようになれるのに。
何の義理もねえ人間を、てめえのエゴでゴミみてえに殺しときながら、「全人類のため」とかつまらねえ自己正当化をしやがる。だいぶ方向は違うが、聞仲の野郎と似たタイプだ。無力な連中を箱庭に押し込めて管理して、それが善や慈悲だと信じたがってる奴だ。

そんなクソみてえな世界、作られてたまるかよ。争いのねえ平和な世界なんか、息が詰まってくたばっちまうぜ。できたところで、どうせなんかの力が働いて、そんな世界は崩壊するに決まってる。もとに戻るだけだ。オレが何かする必要すらねえ。

―――部屋の奥、ドアの向こうの寝室で、ベッドに横たわる男がいる。目を閉じたその顔は、やや年老いているが、バレスそっくりだ。

彼こそが、ヘウンリー・バレス本人。今起きて活動しているのは、彼の使い魔である「影武者」。正確には、彼の意識の大部分が今「影武者」の中に入り、動かしていると言うべきか。

バレス本体は健康で、意識を戻せば動け、優れた黒魔術を操るが、その肉体はただの老人。見つかって保護なく襲われれば、ひとたまりもない。キャスターは当然、この秘密を知っている。令呪は影武者にはなく、この本体に刻まれていることも。いつでも殺せる。そのタイミングを窺うだけ。主従が互いのこめかみに銃口を突きつけ、引き金に指をかけた緊張状態。

否。いかに凄腕の魔術師とはいえ、バレスはしょせん、たかが人間。英霊・半神たるキャスターよりは、反応速度は確実に遅い。バレスの使い魔も、サーヴァントに比べれば大した強さではない。バレス本人が令呪を使うには、影武者から本体に意識を戻す必要がある。令呪で自害を命じられても、拒絶することは可能。本体を破壊して令呪を消すことも可能。キャスターが手ずから殺さなくても、誰かにこの秘密を伝えて、本体を殺させれば片付く。キャスターは別のマスターと契約すればいい。 

どう転んだところで、このキャスターが殺そうと思えば、バレスに勝ち目などないのだ。この狂った老いぼれには、そんなことも分からないのだろうか?

否。バレスもキャスターも、互いにそれは分かる。分かるからこそ、キャスターは今のところ、彼を殺す気がしない。感傷か、憐れみか、打算か。聖杯による干渉か。それとも、ゲームの難易度を上げて楽しむためのハンディキャップか。あるいは、「この哀れな老いぼれを生かしてやっている」という、暗い優越感ゆえか。おそらくは、その全て。

生きる目的を失っているキャスターにとって、己が存在するために、何らかの「生き甲斐」は必要なのだろう。殺戮の快楽だけでなく、自嘲と怒りが。バレスには、そうした彼の思惑が分かる。キャスターにも己と相手の思惑が分かる。ゆえにキャスターは苛立ち、バレスは安心していられる。

眠るバレスは、幸福そうに笑う。真の神が治める楽園を夢見て。

【クラス】
キャスター

【真名】
王天君@封神演義

【パラメーター】
筋力E 耐久E 敏捷B 魔力A 幸運D 宝具B

【属性】
中立・悪

【クラス別スキル】
陣地作成:B
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。空間を操る術を持ち、亜空間系宝貝(パオペエ)「紅水陣」の展開が可能。各々スキル化・宝具化しているため、このスキル自体は特に重要ではない。心理的な罠を張ることにも長けている。

道具作成:E
魔術的な道具を作成する技能。シルバーアクセサリー程度は作れるかも知れない。かつては「寄生宝貝生物」を作ったと思われるが、宝具として展開できるので不必要。

【保有スキル】
軍略:A
一対一の戦闘ではなく、多人数を動員した戦場における戦術的直感力。
自らの対軍宝具や対城宝具の行使や、逆に相手の対軍宝具、対城宝具に対処する場合に有利な補正が与えられる。軍師の代名詞・太公望に匹敵する知略の持ち主。人の心を読んで脆さを突く、外道卑劣な手段を好んで用いる。

縮地:A
武術ではなく、仙術としての縮地(空間を短縮する術)。遠隔地の空中にモニター画面状の「窓」を展開させ、これを通って瞬間移動する。他者を引き込んで共に移動でき、窓を通して付近を視認し、画像や音声を送受信して通信に使うこともできる。窓は複数展開でき、破壊できない。標的を亜空間に封印・隠匿することも出来るが、長時間維持することは出来ない。

神性:A-
神霊適性を持つかどうか。高いほどより物質的な神霊との混血とされる。
彼の魂魄はとある古代神の分霊であり、かつ戦死して「封神」されているため、立派に神である。ただし生前より悪に傾きすぎていた彼は、人に崇められることを好まず、悪神として行動する。

復活(偽):EX
かつて「二度死んで生き返った」逸話がスキル化したもの。二度までは破壊されても復活できる。実際は魂魄を分裂させて別の体に収めてあるだけであり、記憶と人格は保存されているが別人である。このスキルを発動するには、復活一回につきスペアとなる『鉄片』が一つ必要。三度目はない。

【宝具】
『紅水陣(こうすいじん)』
ランク:B(A) 種別:結界宝具 レンジ:2-50 最大捕捉:100

亜空間系宝貝が固有結界化したもの。キャスターたる所以の宝具。周囲に立方体型の結界空間を形成し、自分の血液から紅い霧を発生させてその中に満たす。霧は強酸性で、陣の内側に猛烈な酸性雨を降らせる。核融合を弾き返すレベルの霊獣の甲殻すら溶解させ、中にいる者は骨や霊体まで溶け崩れて死ぬ。展開中の陣は半透明で視線が通り、床や壁は溶かす対象から外せる。外から入ることはできないが、中から外に出ることは容易い。

陣の中にいるキャスターは幻影で、陣の中自体がキャスターの体内。陣を内側から粉々に破壊すればキャスターも死ぬ(多少の破壊は大丈夫)。そのため、陣に引き込む前にダニで充分に衰弱させたり、人質をとったりしておく必要がある。本来は大都市を覆うほど広範囲に展開できるが、制限により展開範囲は狭められている。

『寄生宝貝生物(ダニ)』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:1-99 最大捕捉:500

ダニの型をした宝貝生物。無数におり、人知れず相手の体に表皮から潜り込み、令呪めいた紋様を肌に浮かび上がらせる。寄生された相手は徐々に体力・魔力が吸い取られて消耗・疲労し、やがては思うように体を動かすこともできなくなってしまう。直径15km程度の範囲に常時展開できる。ただ、これを使ってキャスターが体力や魔力を吸収することはできない。敏感な者なら刺される前にはたいて潰せる。極めて魔力が強大な者、常に周囲に結界を張っている者、霊体化したサーヴァントには効き目が薄い。

本来は「仙道のみに取り付き、常時宝貝を使うほどの疲労を与える」宝貝であるが、制限によりこれで殺すことはできず、昏倒させるだけである(代わりに非仙道にも通じる)。また、本来はキャスターを殺すしか解除する方法はないが、これまた制限により、何らかの解呪の手段があれば解除できる。逆探知されて居場所を突き止められる可能性も考慮して、しばらくは無差別にバラ撒かず、狙った相手に集中して寄生させてもよい。

【Weapon】
なし。
不健康な頭脳派で、格闘が得意なタイプでもない。自傷用のナイフはあるが、直接の攻撃手段は二種類の宝具だけ。上位の仙人であるため、敏捷性など身体能力自体はそれなりに高い。

【人物背景】
藤崎竜版『封神演義』の登場人物。古代中国の仙人界の一つ・金鰲島の幹部「十天君」の首領。外見は小柄なダークエルフの少年っぽい姿。冷血で狡猾な毒舌家であり、ペテン師。元々は王奕という人間だったが、事情により独房に幽閉され、心を壊された。さらに魂魄を妖怪の体に入れられ、妖怪仙人となった。味方をも捨て駒として利用し、心の隙を突いて追い詰め、卑劣な策略を用いて相手を破滅させることを好む。アサシン、アヴェンジャー、フェイカーの適性も持つ。

【サーヴァントとしての願い】
月の管理権を得てルーラーとなり、聖杯戦争を開催して飽きるまで観察する。飽きたら消える。やるべきことは終えており、霊体として存在することにすら精神的に疲れているので、さほど強く望んでいるわけではない。暇潰しである。

【方針】
奸計を用いて暗躍。術で情報を集め、魔力を温存し、なるべく自分では戦わない。強そうな奴は殺し合わせ、弱い奴は生かしておいて餌や駒にする。混乱を助長し、争いが長引いて被害が拡大するように仕向け、こちらに火の粉が飛ばないよう配慮する。魔力供給源のバレス本体が殺されると困るので、いつでも亜空間等に匿えるように準備はしておく。

【把握手段】
藤崎竜『封神演義』単行本全23巻(王天君の出番は13巻から)。完全版・文庫版もある。


【マスター】
ヘウンリー・バレス@スプリガン

【Weapon】
強力な使い魔を複数使役する。サーヴァントを得ているため、制限として自前の使い魔は「影武者」を含めて三体までしか同時に操作できない。

「影武者」を除く三体は、身長2mはある動く全身鎧で、ボロ布のマントを纏い、片手で大剣を振るって攻撃する。俊敏な動きとパワー、独自の技を持ち、命令を忠実に(ある程度は自律的に)実行するが、言葉は話せない。なんらかの物質と死者の怨念を鎧に込めて触媒で繋いだものであり、触媒を鎧の中から抜き取れば活動を停止する。破壊されても魔術による再創造は可能と思われるが、材料の調達や儀式にはけっこう手間暇かかりそうである。

また「影武者」以外は極めて目立つ上、強烈な妖気と殺気を漂わせているので、カンの良い相手には存在を気づかれてしまう。サーヴァントではないので霊体化できないし、実力的にも強めのサーヴァントには劣る。銃で武装したエージェント数十人を苦もなく皆殺しにできる程度である。いつでも起動できるよう準備はしてあるが、魔力節約と正体隠匿のため、普段は「影武者」だけを起動させている。

水魔(アクア)
十字軍風の大兜の上にフードをかぶった頭部。鎧には鱗のようなデザイン。鎧の内側は水。触媒は水とかげ(イモリ)。剣で突き刺した相手から水分を吸収して干からびさせる。鎧を切り裂くと中から水が漏れ出す。使い魔の中では一番弱いが、材料は調達しやすく、砂魔とコンビを組めばかなり活躍できる。水場では強いかもしれない。

砂魔(ディザード)
ネジが何本も突き出したガスマスクのような頭部を持つ。鎧の内側は砂。触媒は蠍。硬質の砂を操作し、剣から高速で射出して対象を破壊する。砂の射出は、10mは離れた人間の半身を吹き飛ばし、石壁を砕くほどの威力がある。地面が砂地なら、剣を突き刺して砂を円形に吹き飛ばし、広範囲の敵を一掃する大技も持つ。材料が調達しやすく、近距離・中距離での立ち回りもできる使い勝手のいい使い魔。水魔とコンビを組めばかなり活躍できる。 「ディザート(desert:砂漠)」ではなく「ディザード」とルビを振られているが、ヘビーメタルではない。

影魔(シャドウ)
髪の毛の生えた髑髏のような頭部を持つ。鎧の内側は闇。触媒は人間の生命力。剣で影を刺して相手を闇の世界に引きずり込み、その中に渦巻く怨念で魂を喰らい殺害する。術が強力な分、燃費は悪く、大量の人間の怨念を必要とする。気配を消すこともできるため、水魔か砂魔の代わりに不意打ちで出現させ、マスターを闇に飲み込むのが最善手。ただしサーヴァントやマスターによっては、闇の世界を克服して自力で出て来る可能性もあるため、運用には注意が必要である。

影武者
バレス本人に似せた使い魔。ギザ歯。本人より若々しく、流暢に会話でき、本人の意志や思考のまま動く完全な替え玉として自然に振る舞える。他の使い魔と異なり血の流れる肉体を持つが、操り人形に過ぎないため、頭に銃弾を撃ち込まれようが首を折られようが、相当に破壊されない限りは行動可能。痛みも感じない。

また肉体の潜在能力を引き出す術によるものか、並大抵の使い手では到底太刀打ちできないほどの格闘能力を誇る。中国拳法めいた技を振るい、その打撃は相手の内側から破壊するため、鎧の類では防げない。ただし、影武者は魔術は使えないし、令呪も刻まれない(他の三体への命令は可能)。

「氣」の流れを読む最高峰の達人でさえ、彼が影武者だとわかるには長時間の同行・観察を必要としたため、たぶん運用中の本体は「氣」を失った抜け殻なのだろう(袋に入れた本体らしきものを使い魔が担いで運んでいるシーンがある)。本体に思いがけずダメージが行くと、意識が本体に引き戻されてしまい、影武者は動きを止めて倒れ伏す。

【能力・技能】
黒魔術
極めて優れた黒魔術の使い手。「命の灯」を触媒にして操る術を用い、強力な使い魔を複数使役できる。また相手と視線を合わせることで精神を支配し、潜在能力を引き出して、己の奴隷たる殺人機械とすることもできる。
ただし最大の弱点であるバレス本体が姿を相手の前に晒す必要があるため、よほど安全か必死な状況でなければやろうとはしない。影武者や他の使い魔が機能停止した場合も、これによってある程度は手勢を補える。強い精神力があれば抵抗は可能。サーヴァントには効かない。

【人物背景】
漫画『スプリガン』に登場した魔術師。「今世紀(20世紀)最悪の黒魔術師」の異名をとる。国籍不詳。女言葉でしゃべるがたぶん男。ユダヤ人であり、第二次世界大戦中にアウシュヴィッツでの地獄を経験した事で神と人間に絶望、信仰を捨てて黒魔術を極める。そして「世界平和」のため、イラクに存在した超古代文明の遺跡「リバースバベル」の力を用いて、自らが絶対神の座に就こうとした。

アウシュヴィッツを体験して半世紀後、20世紀末(湾岸戦争後、ボスニア紛争頃)に死んでいるので、推定年齢は60歳以上か、70代か。「卿」と呼ばれているので、魔術師としての「ロード」の称号でなければ、爵位か勲功爵を持っているのかもしれない。

人間そのものに絶望しつつ救おうともしている、一種の狂人。どこぞの魔術師殺しに似ていなくもない。正義や善悪を決めるのは、自分が成るべき真の神であり、目的のためならわざと戦争を起こすことも厭わない(悲しむことは悲しむ)。というより死者の怨念が主なパワーソースであるため、犠牲が多い方が好都合。生き残った者が救われればよい。

【ロール】
退職した裕福な老人。普段の活動は影武者に任せ、本体は寝たきりになって引きこもっている。本体はわりと健康であり、影武者の操作を解除すれば普通に行動できる。床ずれにならないよう時々動いた方が良さそうではある。
令呪は本体に刻まれているが、ルーラーからの通達は、影武者を起動していればそちらへ来る。

【マスターとしての願い】
自らを絶対神とする価値観と思想で全人類を洗脳し、世界中から争いをなくす。別に彼を信仰させる必要はないと思うのだが、たぶん彼のエゴである。
それでも争いがなくならなかったり、聖杯が叶えてくれなかったりすれば、リバースバベルを復活させるなど別の方法を考えるだろう。

【方針】
「本体」を隠し通し、素知らぬ顔で日常生活を送り、暗躍や戦闘はキャスターに任せる。最終的に生き残れば勝ち。影武者が襲撃されれば、無関係な弱者を装うか逃げる。最悪、自前の使い魔を「サーヴァント」とするマスター本体だと思わせる。一応、影武者の右手にも令呪っぽい紋様を刻印し、それっぽく手袋をしている。多少の魔力はこもっているので、ごまかし程度にはなるだろう。街中で殺し合いが起きて民間人が犠牲になれば、その怨念を利用してもよい(積極的にはやらない)。キャスターの動きは念話や感覚共有である程度監視する。

【把握手段】
たかしげ宙&皆川亮二『スプリガン』単行本5巻「混乱の塔」編。

【参戦時期】
「混乱の塔」編終了後。リバースバベルの崩壊時、瓦礫に混じっていた『鉄片』に触れたものと思われる。

◆◆◆

ニムロドとはバベルの塔を建設した帝王だ。リバースバベルを利用しようとした魔術師バレスが、空間を操る神である王天君を従えて、唯一の神になろうと目論む。今のところは危ういバランスで主従は成立している。彼の夢見る世界平和は実現するだろうか。させるべきだろうか。

おれは封神演義がすきなので、エピロワ第二部はそれにした。その頃ちょうど覇穹がやってたのだが、あれの評判は芳しくないようだ。おれは原作を全部読んでいて懐かしく、カットアップ手法も忍殺とかで慣れていたので、むしろ楽しめた。なにより普賢真人が大きく扱われていたのでありがたい。おれは彼をブッダのように崇拝している。彼が邪険に扱われるのを見ると、おれはブッダをばかにされたセキトリ=サンみたいな気分になる。

【続く】

つのにサポートすると、あなたには非常な幸福が舞い込みます。数種類のリアクションコメントも表示されます。