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【FGO EpLW 殷周革命】第四節 七星降臨起黒風

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背後からのアサシンの縄を、敵将は躱した。『自分の首を外して』。アサシンが目をパチクリさせた。

そのまま敵将は馬を駆けさせ、セイバーの軍勢を太刀で薙ぎ払いつつ、周王の本陣へ向かう!
「おのれ、逃がすか!」
セイバーが叫ぶ。だが周囲を六騎の砂鉄武者に囲まれ、追うに追えない。やむなく宝具の霊剣を振るい、斬り倒していく。セイバーの軍勢たちはふた手に別れ、一方は敵将を追い、他方は主君を囲む砂鉄武者を背後から攻撃。通じないにせよ妨害程度にはなる。

「……器用な野郎だねェ。次はどうしてやろうか……」
「避けたということは、本体には縄が効くということであろう! 切り抜け、奴を追うぞ!」
「ヌゥーッ……………」

苛立つ二人。だが、相変わらずランサーの様子がおかしい。動きが鈍い。
「どしたの? あいつの呪いでも食らった?」
「呪いや精神攻撃なら、余には宝具の霊能で効かぬし、解除もできよう。こやつらが邪魔せねばな!」

セイバーの宝具は八つの霊能を持つが、どれもこの状況では使いにくい。こいつらは魂も血肉も神経も持たず、眼ではなく気を察知して襲って来る。すなわち『転魄(テンハク)』『驚鯨(キョウゲイ)』『掩日(エンジツ)』が無効。『懸翦(ケンセン)』で魔力の刃を飛ばし、直接敵将を狙おうとしても、遮ってくる。『真鋼(シンコウ)』を用いずとも叩き切るのは容易いが、所詮は砂鉄。切り裂くそばから繋がってしまう。剣を投擲すればこちらが危険。

「ええい、ならば――――『断水(ダンスイ)』!」
セイバーは低く双剣を構え、六騎の足元を駆け抜ける! 砂鉄馬の前脚の脛が切り払われ、武者たちが落馬! 即座に傷口が繋がろうとするが……繋がらない!
「よし! 修復を禁じたゆえ、これで馬は使えぬ! 続いて『却邪(キャクジャ)』!」
剣がランサーに触れ、淡い光を放つ。ランサーの精神から畏怖が、妖気が、振り払われた。
「かたじけない。急ごう。そして、あの敵将の正体がわかった」

包囲を抜け走りつつ、マスターに念話を飛ばす。あの敵将、推定ライダーから感じた畏怖は、もっともなものだった。無論、面識などないが……知っている。当然だ。知らぬはずはない。少なくとも、武家の者であれば。生国は三河、父祖は伊賀ゆえ、詳しくは知らぬ。坂東に来たのも小田原攻め以後。が、軍記物や物語集で知っている。あれは、あのお方は。六人の影武者を持ち、総身は鉄のごとし。英雄にして反英雄。英霊にして怨霊。貴種にして逆賊。坂東の王。武士の遠祖。あの方こそは―――――

「『平将門公』……!」


真名判明

殷のライダー 真名 平将門公

◇◇◇

『ま……将門公だって!?』
キャスター・チャーナキヤの魔力により、嵩山から孟津へ急ぎ飛行する馬車の上。マスターから念話の内容を聞いたダ・ヴィンチが驚愕した。
「ヤバイ奴か」
『とっても。メタ的に言うと彼を出演させただけで呪われる可能性が高い』
「今、なんか俺が呪いを受けてたぞ。ランサーを介して。……で誰だ、マサカドコーって」

通信と精神防御のため、マスターが頭に被ったエピメテウスが、淡々と事実を述べる。
『千年以上前……10世紀前半の、日本のサムライだ。別名は相馬小次郎。中央政権に反旗を翻し、東国に独立国を建てようとして、征伐されただ。死後、怨霊として畏れられ、神として祀られ……今は江戸、東京の守護神になってるだな。神田明神とかいう』
「つまり、ヤバイ奴ってことだな」
『日本人なら震え上がるだろうが……世界的にはどうなんだろ。占領期のアメリカ人にも祟ったらしいけどね』
「さっきランサーがブルってたのは、日本人の英霊だからか。そうでねぇなら、なんとかなるんじゃねぇか……」

◆◆◆◇◇◇◆◆◆◆

セイバーの軍勢が敵将へ殺到! 駆けながらセイバーが二本の剣に霊力を込め、走り去る敵将めがけて振りかざす!
「『懸翦』『断水』二刀流!」
閃! 魔力の刃が飛び、敵将の馬の後脚を切断! 敵将はのけぞり、くずおれる馬の上から後方宙返り!
「『強い敵は落とし穴に落とせ』だったか。まことその通り」
ランサーが呟き、槍の石突で地面を突いて高跳び!一挙に距離を詰める!スリケンが効かぬなら、カラテあるのみ!

「イヤーッ!」

『ググググググ…………』

だが敵将はトンボを切りつつ空中で砂鉄に変化!地面へ吸い込まれる!振り下ろされたランサーの槍は虚しく宙を切る!

直後、地面から六体の砂鉄武者が出現!同時に太刀を振るってランサーに斬りつける!甲冑をも切り裂く恐るべき切れ味!
「グワーッ!」

敵将は砂鉄武者たちにランサーの相手を任せつつ、倒れた馬を砂鉄に変え、再び馬に戻す。しかし、馬の後脚は切断されたままだ。『脚が繋がっているという概念』を切断したらしい。訝しみ舌打ちし、敵将は馬を砂鉄に戻す。

ランサーは六体の武者たちの猛攻を凌ぎつつ、メンポの奥で唇を引き結ぶ。馬を潰せば、一気に周王の本陣までは行けまい。砂鉄化しての土遁も、そう遠くへは行けぬと見た。包囲を抜け、距離を取り、足止め代わりにアイサツを繰り出す。
「ドーモ、ランサーです。おそらくは、ライダー殿……平将門公」
神霊に近い存在とはいえ、今は敵。気圧されてはならぬ。本陣はまだ遠い。ここで足止めし、マスターたちとも協力して、倒す!

『我ヲ知ルカ……イカニモ我ハ騎兵ニシテ、平新皇、相馬小次郎将門也。ソチハ日ノ本ノ、何処ノ武者ゾ……』

ライダーが六体の武者と共に構えを取る。まことに、将門公の英霊とは。

体が重い。この瘴気、妖気の正体は、霊的な磁気。砂鉄を操り、平衡感覚を狂わせ、こちらの鉄製の武具も操ろうとしている。対魔力の高いセイバーはともかく、アサシンに効かないのは、日本出身の人間や英霊に限ってよく効くということか。あるいは彼女が悪霊ゆえか。ランサーは呼吸を調え、気力(カラテ)を振り絞って傷口を塞ぎ、ライダーから発される禍々しい磁気を振りほどく。

「拙者は『服部半蔵正成』。公より六百年余り後の者に御座る。生国は三河、父祖は伊賀。遡れば桓武平氏庶流、と名乗っておるが……」
少し考え、槍を構えて、
「忠正流ゆえ、鎮守府将軍・貞盛公の末裔となろうな」

『左馬允(サマノジョウ)メノ裔カ!!』

激怒した七体のライダーがランサーに殺到! しかし!
「節略、『推シテ参ル半蔵之門(ゲート・オブ・ハンゾウ)』!」
ランサーが目の前に門を開き、極短距離を瞬間移動! ライダーたちの包囲網を抜け、すぐ背後に回る! そして!
「『断水』!」
駆けつけたセイバーの霊剣が、背後からライダーの一体を脳天より両断!同時にアサシンの縄が伸びる!
「惜しいねセイバー、そいつは影武者! 本物は……」
アサシンの縄がランサーの背後の武者に飛ぶ!四肢五体を締め上げる軌道!

『児戯也』

縄がライダーの体をすり抜ける! 霊核を別の影武者に瞬時に遷して回避したのだ!そのまま影武者は突進、アサシンとセイバーを突き殺さんとす! 両者は身を翻しこれを回避!ランサーが振り返って槍を振り抜く! 迫る影武者二体を纏めて両断! しかし即座に砂鉄化し修復!

苛立つアサシンが残る武者全員に縄を放つが、瞬時に全員砂鉄化して地面へ回避! 縄を切り払いつつ、やや離れた別の場所に出現! セイバーは『断水』の剣で脛や太刀を狙うが、危険を察して即座に対応され、同じ手は効かぬ! 逆に剣筋を見切られ負傷! 空間に磁力が漲り、砂鉄が舞い飛び、視界を遮り、攻撃を巧みに妨害する! なんたる恐るべきフーリンカザンか!

「けェッ、この野郎! ライダー本体はどいつなのさァ!」
「埒が明かぬな。なかなか致命打にならぬ。いちいちセイバー殿の霊剣を食らわすしかないか。あるいは……」
「将門とやらは知らぬが、余は似たような者を知っておるぞ」
セイバーが鼻を鳴らす。傷はまだ浅いが、予想もつかぬ方向から、急所を着実に狙ってくる。恐ろしい手練だ。
「銅鉄の兵器を作り、無数の眷属を率い軒轅氏に背いた戦神、『蚩尤』だ」

◇◇◇

「いたぞ!」
空飛ぶ馬車が全速力で孟津に戻って来た。漆黒の武者たちが、ランサー、セイバー、アサシンを相手に戦っている。

「あれが、将門公……伝承どおり、影武者を操っていますね」
「いかに大怨霊といえど、サーヴァント三騎相手では、少し分が悪いようですな。セイバーの軍勢を加えれば、数では有利」
「かてて加えて、お前らもいるんだ。数の多いほうが勝つ、ここで捻り潰しちまおう!」
『そういう発言は、よからぬことの前兆だが……』
「『エピメテウス』が未来を予想すんじゃねぇ。考えるより先に……」

言う間に、ぐぐっと馬車の高度が下がってきた。
「お、おい! 危ねぇぞインド人、どうした!」
「ね、燃料が……魔力切れです! 飛ばしすぎたか……なんとか頑張ってみますが……」
影武者の一体が上空を向き、急降下し始めた馬車めがけて太刀を投擲!
「うおっ!?」
馬車は咄嗟に回避! 回転する太刀は空中で爆散し、砂鉄に変化! さらに無数の鏃となって降り注ぐ!
「おおおおお!?」
馬車は高度を下げながらジグザグ回避! シールダーが盾を張って防ぎ、マスターとチャーナキヤは馬車にしがみつく!
「こ、このまま一旦、鼎のある場所へ……」
言い終わる前に、馬車の片側車輪を別の太刀が切断! バランスを失い、錐揉みになり墜落する!
おおおおおおおおお!? てめ、シールダー、ちゃんと護れ!」
「このまま、ライダー目掛けて突っ込んで下さい!」
シールダーが叫ぶ。カルデアで生まれ、英霊を宿し、修羅場を潜ってきた彼女には、日本人ほどには将門公への畏怖はない。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「来たか」
セイバーが、上空を見やらず呟く。ランサーの連絡から数分で着くとは。
「ありがたいけど、あのお嬢ちゃんやインド人でどうにかなるのかねェ。エピメテウスはああだし……」
「我らで対処法を見つけるとしよう。そして、将門公の弱点と言えば……」

ランサーの槍が、影武者一体の太刀を弾き、右目を貫通! 続いて、背後から迫る影武者を強かに打ち据え、こめかみを貫通!
右目と、こめかみ。鉄身の将門公も、ここだけは矢が徹ったと聞いておる。やはりか」
影武者たちが悶え苦しみ、崩れ落ちて砂鉄に戻る。それでも再生はするようだが、速度は遅い。
「早く教えな、そういうことは!」
「なるほどな! 勝機が見えてきたか!」
双剣で太刀を捌きながら、セイバーが口角を上げる。アサシンは口角を下げる。よからぬことの前兆みたいな台詞だ。

『羽蟲共。小癪也。埒ガ明カヌ』

ライダーが、残る影武者を全て砂鉄に戻す。土遁を借りて逃げるか。そこへ馬車が突進!
「ランサーから通信だ。あいつの弱点は、右目とこめかみ! そこへの貫通攻撃だ!」
「知ってます!本で読みました!有名すぎる英霊は弱点も有名すぎます!」

シールダーが盾を構え、ライダーに上空から突撃! チャーナキヤはやむなく印契を結び真言を唱え、幻力で複数の矢を創造! 弱点を狙う!

『鏖(ミナゴロ)スベシ。「妙見兵主銕身蝗(クロガネノオウ)」!』

激突の直前、ライダーは砂鉄に分解して回避! 馬車は地面に激突して崩壊し、一行は投げ出される!
「いちち……なんだ、消えやがったぞ……」
周囲と背後から砂塵! 砂鉄が集まる! 巻き起こるは、黒鉄の竜巻!!
「痛っ、やべぇ! 砂鉄だけじゃねぇ、さっきの鏃や手裏剣も混じってるぞ! シールダー、護れ!」
「やはり、一筋縄では行きませんか!」
シールダーが、サーヴァント全員とマスターにマジックシールドを張る!

ざあざあと鉄の雨が降り、数騎のライダーが竜巻の外の地面に出現! 地を蹴って向かうは周王の本陣! 竜巻から放たれるは無数の鏃、無数の手裏剣! さらには砂鉄同士が激しく擦れ合い、電磁力によって稲妻が発生!
突然の天変地異に、周の軍勢は仰天し、右往左往し、潰走して行く!

『『『マダマダ、チカラガ足リヌ。鼎ヲ奪ヒ、魂ヲ喰ハバヤ……』』』

ライダー、将門公の禍々しい声が、その場の全員の、精神の奥底までも響き渡る!

「アイエエエ!?」「鬼神!?鬼神ナンデ!?」「コワイ!ゴボボーッ!」「アバ、アバーッ!」

ナムアミダブツ! 兵士たちは恐慌、嘔吐、発狂、失禁し、心臓停止を起こして即死! 常人であるマスターも、シールダーやエピメテウスによる守護がなければ、たちまち気が触れて絶命したであろう! なんたるニンジャではないがそれにも匹敵する平安時代のジゴクめいた鬼神アトモスフィアか!

殺された者たちの魂魄は吸い出され、ライダーに集まっていく……。

『『『ググググググ…………周王モ、商王モ要ラヌ。我九鼎ヲ得テ、天子、天帝トナラム』』』

シールドで護られたマスターとサーヴァントたちだが、これでは手出しが出来ぬ! しかも!
「クソッタレ……長くは保たねぇぞ、俺の魔力が尽きちまう!」

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