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【AZアーカイブ】趙・華麗なる使い魔 第6回 趙・好敵手登場!!

トリステイン王国魔法衛士隊、グリフォン隊の隊長、ワルド子爵。全貴族の憧れの的、王国の花形スタア参上だ。趙公明は嬉しそうに目を細める。

「ほほう、なかなかの使い手のようだね、ミスタ・ワルド。その通り、僕はプリンス・趙公明。ミス・ルイズ・フランソワーズを守護する、華麗なる騎士さ!」
「初めまして、プリンス。改めて名乗りましょう、『閃光』のジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。爵位は子爵に過ぎませんが、ルイズとは許婚の間柄です」
なんと、ルイズの許婚とは。三女とはいえ公爵家令嬢、逆玉の輿だ。

「わ、ワルド様……何年ぶりでしょうか、お懐かしゅうございますわ」
ルイズが彼の存在を思い出す。歳は二十台半ば、優雅なプリンスとはまた違った、精悍な男性になっていた。長身長髪で口髭を生やし、目つきは鷹のように鋭く、黒い衣装も羽帽子もビシッと決まっている。
「久し振りだな! 僕のルイズ!」
ワルドは破顔して駆け寄り、ルイズを抱き上げてグリフォンに乗せた。
「きゃあ!」
「ははは、キミは相変わらず軽いな! 羽のようだ」

「さて、そちらの淑女たちと紳士のお名前も伺っておきたいのだが……」
「ギーシュ・ド・グラモンであります! 魔法衛士隊の隊長殿と同行できるとは、光栄です!」
「『微熱』のキュルケとお呼び下さいな、素敵な方」
「……タバサ。この風竜は、使い魔のシルフィード」
「きゅいきゅい」
「了解した。それでは諸君、いざ出発だ!」

一行六人は、タバサ・キュルケ・ギーシュ・趙公明がシルフィードに。ワルドとルイズがグリフォンに乗って、まずは港町ラ・ロシェールを目指すことになった。早馬なら二日かかるが、風竜とグリフォンなら一日で着くだろう。キュルケとギーシュがでかい使い魔を連れて来ているので、さしもの風竜も重そうだが……。

道中、シルフィードの背中で密談するのは、キュルケとギーシュ。
「……なんか目が冷たいのよねえ、あの子爵。情熱ってもんはないのかしら?」
「ルイズへの情熱はあるんじゃないか? プリンスと恋の鞘当てでもするのかな」
「どう見てもプリンスが格上よ! 実力的にも、人格的にも」
「いやいやどうして、彼は強そうだ」

アレは我が好敵手、太公望くんの宝貝『打神鞭』だ。まさか、あんなものまで来ているとは。『太極図』は流石に付いていないし、仙人骨の霊力というより、『魔力』で発動できるようだが……。キュルケくんが『火竜の杖』を使え、土メイジのフーケが使えなかったのならば、あのワルドくんは風のトライアングル以上の実力者。愉しいじゃあないか。

「ワルドくん! 不躾で悪いのだが、僕は強い相手を見つけると腕がムズムズするんだ。港町に着いたら、是非とも一度手合わせ願いたいのだが?」
「おおプリンス、お手柔らかに願いますよ。大事な任務があるのですから。 とは言え、僕も好戦的な方でしてね。僕のルイズをお守りするという方の、実力を拝見させて頂きますかな」

「おお、やはりプリンスも、ミスタ・ワルドに挑戦されたよ!」
「恋愛関係は卒業したみたいな、変わった方なんだけどねえ……面白いじゃないの!」
趙公明は道中至極上機嫌で、鼻歌を鼻ずさみながら辺りに花粉を撒き散らしていた。道端には無数の山百合が咲き乱れ、さやさやと歌い始めた。

その日の夜、港町ラ・ロシェールにはあっさりと着いた。狭い峡谷の間に築かれた、岩の街だ。しかし、浮遊大陸アルビオンへのフネ……飛行船は、まだ出ない。

「アルビオン行きが出るのは明後日ですって? こっちは急ぎの用事なのよ、もっと早く出航出来ないの?」
「いやあ、そう言われましてもね。まだ飛ぶための『風石』を積み込んじゃいませんし。明後日の朝、双月の重なるスヴェルの月夜の翌朝が、最もこのラ・ロシェールにアルビオンが近づくのを、知らないわけじゃあございませんでしょう?」
「早く来過ぎたかな。まあいい、上等船室を予約しておくよ。代金はこれで、前払いで頼む」

ワルドとルイズが乗船の交渉を行ったが、アルビオンへ行くのは明後日と決定。その日と翌日は、ラ・ロシェールの一番上等な宿『女神の杵』亭で泊まる事になった。シルフィードとグリフォンが疲れきっていたので、厩舎も上等なものにする。趙公明の『福の神』効果なのか、千客万来状態なのには閉口したが。まあ、派手にやれば密使とは誰も思うまい。

「ねえプリンス、貴方もルイズにお熱なの? ワルド子爵というライヴァルが登場したからって、いきなり決闘を申し込まれるなんて……ふふっ」
「そういうわけではないさ。ただ、僕は華麗なる戦闘狂! 強い相手こそ望むところ。安心したまえ、任務を忘れはしないさ。ちゃんと手加減して闘いを愉しみたい」
「あら、女性の気持ちをお忘れなのかしら? ルイズはきっとそうは取りませんわよ。子爵だって」
「華はあらゆる人のために咲くもの。来るものを拒みはしないさ。自由と博愛が僕のモットーだ」
キュルケと酒場で高級ワインを傾けたのち、趙公明はアール・ヌーヴォー様式にリフォームした自室に戻った。同室のギーシュが、部屋の中で呆然としている。

翌日未明。ルイズとワルドの相部屋を、何者かが訪ねてノックする。目覚めたワルドが薄く扉を開けると、その人物は瞳を輝かせた趙公明であった。朝からこの顔はくどい。
やあワルドくん、お早う!! 昨夜はよく眠れたかな? 麗しのルイズはまだお休みのようだが、早速手合わせをしようじゃないかっ!!!」

ワルドは、流石に苦笑する。まるで子供だ、この貴公子は。
「お早うございます、プリンス。少々疲れましたのでね。朝食をとってからにしませんか」
「おやおや、そんな事では愛しのルイズを守れないよ? 許婚くん」
挑発のつもりなのか、趙公明は上から見下すように言った。身長はワルドと同じくらいだ。

「……貴方は伝説の使い魔『ガンダールヴ』になられた方、とお見受けいたしますが」
「おや、どうして急にそんな事を?」
「その、左手のルーンですよ。僕は歴史に興味がございまして。貴方を使い魔としたルイズは、伝説の『虚無の担い手』の一人、という事ですね」
ワルドは挑発に乗らず、牽制球を放る。

「なるほど、勉強熱心だね。時にワルドくん、キミのその『杖』は、どうした由来の物かな?」
「……ああ、この杖ですか。家宝として代々、我がワルド家に伝えられていた品です。特別な『風』の魔法が付与された、強力なマジックアイテムですよ。伝説では『神の鞭(フラゲルム・デイ)』とさえ呼ばれ、城壁を根こそぎ崩すほどの竜巻を起こすとか。僕の力ではそれほどの威力は出せませんが、普通の杖よりはよほど強力なもので」
それでも彼、『閃光』のワルドは、国内でも数少ないスクウェア級のメイジなのだ。プリンス・趙公明とはいえ、相手にとって不足はない。

「……フフフフフ、『神の鞭』か! 素晴らしい! 『それ』を使いこなす人物がいたとは、実に素晴らしい! 僕は遥かな昔、それを振るう好敵手と闘って、敗れた事さえあるのだよ! いいだろう、キミを我が好敵手と認識する! 存分に闘おう!!」

趙公明とワルドは、寝起きのルイズを介添人とし、宿の中庭にやってきた。起きてきたキュルケたちも野次馬として参加する。
「この宿は昔、アルビオンからの侵攻に備えて築かれた砦でしてね。ここは貴族たちがフィリップ三世陛下の閲兵を受けたという練兵場です。……今はただの物置場に過ぎないようですが」
中庭には樽や木製の空き箱が積まれ、石の旗立台が苔むしている。
「古き良き時代、貴族は名誉と誇り、多くの場合は淑女の奪い合いのため、杖を抜きあっては決闘したものです」
「何処の世も同じ。貴族とは、戦う事が第一義の悲しい生き物なのさ」

状況がよく分からず、居眠りを始めたルイズはキュルケたちに預けられ、貴族二人は対峙する。
「では、始めようか! 遠慮は要らない、全力で来たまえワルドくん!!」
「不器用ですから、手加減は出来かねますぞプリンス!!」
ワルドは『神の鞭』を引き抜き、一足飛びに飛んで、切りかかった。
趙公明は『縛竜索』でワルドの杖を受け止め、後ろに下がって驚くほどの速さで突きを放つ。

「そおれ、アン・ドゥー・トロワ!!!」
ワルドは趙公明の突きを杖で切り上げ、黒いマントを翻して飛び退り、構えを整える。
「どうした、魔法は使わないのかい?」
「我々魔法衛士隊では、詠唱さえ戦いに特化されております。杖を剣のように扱いつつ、詠唱を完成させるのが軍人というもの」
趙公明は縛竜索を伸ばしてヒュンヒュンと振り回すが、ワルドは紙一重で避けながら詠唱を続ける。自慢の羽帽子が弾き飛ばされ、頬を薄く血が伝う。樽や空き箱が粉々になる。

「デル・イル・ソル・ラ・ウインデ……」
ワルドが閃光のような突きを繰り出すと、杖から巨大な『風の槌』が放たれ、趙公明に襲い掛かる! だが、趙公明の強固なバリアーは『エア・ハンマー』を無効化する。
「なんと!」
「フフフ、詰めが甘いねワルドくん。その『神の鞭』の実力はそんなものではないよ! 勿論、キミ自身の実力もだ! 三度目は言わせないでくれよ、全力で来たまえ!」

趙公明は、鞭をワルドの右足に絡みつかせると、空中高く放り投げた!ワルドは体勢を立て直し、『神の鞭』を振り上げると、風の魔力を集中させる。
「疾ッ!!」
ただ一音節の言霊で、『神の鞭』はワルドの魔力を吸い上げ、鋭い風の刃を趙公明へと放った! それはバリアーを切り裂き、趙公明の右頬に少し傷を付けた。

「そこまで! よく僕のバリアーを破ったね。勝負は引き分けだ、いずれ決着をつけよう」
「流石にプリンス、冷や汗ものでしたよ。その鞭もマジックアイテムのようですが、貴方ほど強固な盾はありますまい。『ガンダールヴ』は『神の盾』とは、よく言ったものです」
息を上げたワルドがふわりと着地し、帽子を拾い上げる。慇懃だが、趙公明を遠まわしに使い魔扱いだ。性格の悪いところも、『彼』に似ていなくはない。打神鞭をまだ充分に使いこなしてはいないらしく、消費が激しいが。

いよいよ明日の朝、アルビオンに渡る。日中は宿で出発準備と警戒をしたが、夕方から一行は酒場で騒いでいる。

「あら、プリンスは、お肉はお好みではないの?」
「生憎僕は基本的にヴェジタリアンでね。ワインとサラダ、野菜料理とデザートなら頂くよ。うん、この『ハシバミ草のバーガンディ風サラダ』は美味しいじゃないか。ミス・タバサもどうかね」
「十皿目。量が少ない」
「二人とも、よくそんな苦いものを食べられるね……僕もワインをもう一本。炙った鳥の脚もくれ」
「ほら僕のルイズ、熱々のクックベリーパイができたようだよ。キミの好物だ」
「頂きますわ、ワルド様。ワインは少しで結構です」

夜も更け、皆も正体無く酔い潰れる。趙公明は岩作りのベランダで一つになった月を眺めている。二つの月が重なる夜の翌朝、フネは出港するという。
と、背後から声をかけられる。そこには、酔いで顔を赤くしたルイズが立っていた。困ったような顔だ。
「プリンス。皆から聞きました。今朝、私を巡って、ワルド子爵と決闘されたって……私は眠っていましたが」
「彼がツワモノだったからね。大丈夫、二人でキミを護ることになったよ」

「この任務が終わったら『結婚』しようって、彼に申し込まれたのです……。わ、私、どうしましょう!? 婚約したのは小さな子供の頃だし、憧れてはいたけどずっとお会いしていなかったし……プリンス、あ、貴方は、どう思われますか? まだ早いのでは……」
「キミの気持ち次第さ。僕は不老不死だから、キミが年老いて息を引き取るまで、この姿で付き添っていられる。ワルドくんは強いが、あくまで死すべき人間の身。キミがヒトであろうとするなら……」
趙公明は『妖怪仙人』であり『神』。彼が愛するのは、美とツワモノと華麗なる戦い。そして自分自身。女性を愛さないわけではないが、人間(ヒト)とは時間の有り様が違うのだ。

「……分かりました。私、ワルド様のプロポーズをお受けします」
「きっとそれが一番さ。勿論、僕も二人を祝福しよう。……もっとも、不倫も貴族や貴婦人の嗜みだが」
おどけるプリンスに、ルイズは少し寂しそうに微笑んだ。そろそろ寝る時間だ、戻るとしよう。

「……いい雰囲気なんだけど、邪魔はしなくっちゃあね。『レコン・キスタ』からカネは貰っているし。しかし、どうしたもんかね。あのいかれた殿下には、『土くれ』じゃあ通用しないしさ」
闇深いラ・ロシェールの岩山の上に、黒いフードを被った女が一人。脱獄したフーケである。白い仮面の男に救出された時はほっとしたが、プリンスに再戦を挑めと言われても、正直困る。
「……それに、なんだか知らないが、もう何百回も『同じ事』を繰り返している気もするんだよね。相手はプリンスじゃあないけど、いつもここで碌な目に遭わない事になっている予感が……」

「まごまごしていてもしょうがないぞ。岩ならば土くれよりは強固だし、表面を鉄に変えればツタでも刺さるまい。プリンスは倒せなくとも、あの餓鬼どもを足止めできればいいのだ。私も加勢する」
傍らに立つ仮面の男が、フーケを急かす。
「はいはい、下手の考え休むに似たり、ってね! ちょいと暴れさせてもらおうかい!!」
フーケが呪文を詠唱すると、ズズズンと地面が揺れ動き、巨大な影が一つになった月を覆い隠した。崖を刳り貫いて、強大な『岩のゴーレム』が創り出される。

「ム? あれは……ゴーレム!?」
轟音に振り向いた趙公明が、異変に気付く。ルイズが驚愕する。
「嘘!? 貴族派の刺客!? でも、こんなに早く気付かれるハズは」
「内通者だな。王女の側近にも、すでに『レコン・キスタ』の長い手が伸びているようだ」

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