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【FGO EpLW 殷周革命】第九節 意馬心猿変南走

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(あらすじ:木内惣五郎の怨霊により、服部半蔵の心中から復活した平将門公!彼は九鼎のうち四つを獲得し、平天大聖・蚩尤と化す!弾道ミサイルめいた蚩尤の矢が孟津に降り注ぎ、シールダーが防ぐ!だがその背後では、魔王メーガナーダを封じていた雲の壁がついに消滅!抗え!そして抗え!)

GRRRRRRRRR……三十七の蚩尤たちが愉快そうに唸り声をあげる。そうだ、その程度は持ち堪えて貰わねば、つまらぬ。そう言うかのように。

ずしん。 巨大な蹄が地を揺らし、魔軍が動き出す。天に蚩尤旗が揺れ動き、黒雲が渦巻く。次第に速度を増し、飛ぶような速さになる。

ドロドロドロドロドロドロドロドロ……。陸を行くは猩々、貍力、長右、猾傀、蠱雕、朱厭、挙父、土螻、傲咽、窮奇、合萸、山揮、諸懷、抱号、蛉蛉、九余、朱儒、蔽蔽、龍蛭、攸攸、曷旦、蜚、馬腹、夫諸、犀渠、施狼、雍和、戻、狙如、移即、梁渠、聞燐、刑天、難訓。魑魅魍魎。空を行くは朱鳥、肥遺、鳧渓、羅羅、大鶚、峻鳥、欽原、腥遇、畢方、鴟、蠡魚、号鳥、犂胡、潔鈎、鬼雀、滑魚、鳴蛇、化蛇、鴆、跂踵。風伯雨師。

地が割れ裂け、飛蝗が沸き起こり、疫病の呪素を含んだ暴風雨が荒れ狂う。水中からは怪魚の群れを伴って相柳や無支奇が現れ、地を洪水に飲み込んでゆく。百万鬼夜行。塗山から孟津まで、500数十km。夜が明けるまでには充分着く。夜明けが来れば魑魅魍魎は力を失うが、暗雲と濃霧で天地を覆えば昼夜の境も無くせる。蚩尤たちが吼え、妖怪たちが応じる!

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「ほう。雲の壁が消えたな。いよいよか」
アーチャー・メーガナーダはヨーガの姿勢を解き、立ち上がる。ライダーの鼎が、東南へ指して飛翔した。その直後にこれだ。奴が復活し、鼎を幾つか獲得したわけだ。周軍を滅ぼしてか、或いは別の鼎か。となると……
「これほどの魔力。おれでなくば、どうにもなるまい。とは言え、こちらの鼎は二つ。まずは周の鼎を獲ねばな」

バーサーカーを叩き起こし、魔力を吸い上げ、弓矢を構える。狙うは、南。迫り来るライダーではなく、孟津。
「斬り込んで奪っても、幻術を用いてもよいが。やはりこれが、性に合う」

ふと、アーチャーは眉根を寄せ、弓を降ろした。舌打ちし、不快そうな表情で部屋の片隅を睨む。
「お待ち下され、メーガナーダ殿」
「……お前か」
そこにいたのは、キャスター・チャーナキヤ。恭しく一礼し、跪く。
水晶の髑髏を頭に被った、マスターらしき男が、その横に血みどろで倒れ伏している。
「生きていたか。雲の壁を解除したのはわざとだな」
「はい。魔力が足りませんでしたゆえ、やむなく。ライダーに殺されかけたため、ここまで逃げて参りました」

キャスターの傍らに浮かぶのは金翅鳥ガルダ。アーチャーはため息をつく。せっかくの戦う気が削がれてしまった。
「窮鳥、懐に入る……で、おれに助けを請いに来たと。正気か」
「極めて正気。もはや我々では、あれをどうしようもありませぬ」

◆◇

互いに空中でヨーガの姿勢を組み、印契を結び、精神を通い合わせ、真言で対話に入る。気が進まぬが、これも戦いだ。
「霊眼にて観察すれば、あのシールダーとやらならば、どうにかなりそうではないか」
「一度は退けましたが、此度は無理です。あちらは鼎を四つ、既に手に入れている。こちらにも鼎は三つありますが……動かせませぬ」
「四つか。やつの鼎のひとつは、ここにあったが……飛んで行った。飛ぶのか、あれは」
「王のしるしは、功徳(グナ)によって、行為(カルマ)によって、動きまする。飛びも致しましょう」
「やつが持つのは四つ。おれがこの二つの鼎だけで勝てるというのか」
「我が方の三つの鼎を、貴方にお貸し致しまする。五対四ならば」

おれは鼻を鳴らす。なんと、虫のいい。
「貸すだけか。貰えるのではないのか」
「このままでは、我らも貴方もライダーに倒されます。今は手を組むのが最上かと」
「おれが先にお前らを滅ぼし、その力を以てやつを滅ぼすことも出来よう。今ならば、掌を返すより容易い」
キャスターが微笑む。先ほどそれをしなかった時点で趨勢は決まっている。
「それをさせぬために、私がここに参りました。そのようにされるならば、私は三つの鼎と接続し、死力を尽くして戦いまする。どちらかが倒れるより先に、ライダーが全てを飲み込みましょうな」
「おれを脅すか。第一、今はシールダーがそちらの鼎を使っておるぞ。実のところ、お前に何が出来る」
「脅迫にあらず、提案にございます。そして、人質として」

キャスターは、地面に横たわる、死にかけた血みどろの男を指差した。
「カルデアのマスター。彼をお渡しします」

人質。ラーマではあるまいし、おれがそれを必要とすると、此奴は見るか。渋面を作り、威圧する。
「此奴を殺せば、人理とやらは滅び、羅刹(ラークシャサ)が世界の支配者ともなれると、知ってか」
「当然。容易くできましょう。それをお望みか」
「望み。否。おれはおれに課せられたことをするのみだ」
「誰が貴方に、それを課せられましたか。神々か」

畳み掛けられ、ふと本音を漏らす。どうも論戦は得手でない。
「……おれが、おれに課したこと。おれの意志だ」
「然様でございましょうか。羅刹とて神々とて、人の想念が生み出したに過ぎぬもの。人理が滅べば、共に滅ぶしかない存在でございます。聖杯、九鼎を以てしても、それは変えられぬ天則(リタ)というもの」
「お前が神々の手先でないという保証もないぞ。ヴィシュヌのアヴァターラよ」

詐欺師め、どうせそういうことだ。おれを、此奴らをここへ喚び、玩具にしようというのだろう。忌々しい。それを聞いて、キャスターは狼狽え、血相を変えた。図星か、演技か。

「て、手先であるという証拠もござらぬ。否、逆に言い換えますれば、この特異点におる者全てが、かの大神の手の内でしかない存在」
「何が言いたい」
「彼は見ておりましょう。我らの全てを。嘲笑い、虚仮にしながら。それに対して、己の意志を通されよ」
「お前らに加勢することが、奴の意に沿わぬというのか」
「むしろ意に沿いまする。故に叶うこと。逆らえば、諸共に滅ぶだけでございます。貴方は、このまま無益に滅んでもよろしいか!」

おれはしばし沈黙し、三つの眼を閉じて考える。それから自嘲し、両眼だけを開けた。
「詭弁はもうよい。語るに落ちたり」
ヨーガの姿勢を解き、地上に降りる。そういうことなら、議論はいらぬ。行為が全てだ。

瀕死の男を無造作に掴み上げ、二つの鼎のひとつ、バーサーカーの鼎に投げ入れる。バチバチと火花が散り、魔力の電流が奴の身体を分解再構築する。しばらくして、男が頭を振って起き上がった。その傍らにキャスターが降り立ち、おれに恭しく礼をする。おれは東南に目を向ける。時間がない。

「……おれはもともと羅刹に過ぎぬ。カルマに従い、神(デーヴァ)と人類(マーナヴァ)の敵となり、やがては打ち倒されるために存在した。だが、それは気に食わぬ。なぜ、おれはそのような業を背負わねばならぬ。おれとて、この宇宙の主人公ではないか」

一切衆生には我(アートマン)があり、それは梵(ブラフマン)だ。畜生や人類を超え、神(デーヴァ)と同等以上の存在である阿修羅や羅刹も、同じだ。おれが闘争のために在るというなら、おれは闘争しよう。だが打ち倒される運命までも、唯々諾々と受け入れてなろうか。

おれはおれだ。おれは、おれのために戦う。おれが納得する道を選ぶ。よかろう。お前らを滅ぼすのは容易く、あの敵を滅ぼすのは難しい。ならば、後者にやり甲斐があろう」
第三の眼を開く。全身から電流が迸り、白い光が室内を満たす。
「そして」

◇◆

な、なんだ。生きてるぞ。少なくとも意識がある。だがどこだ、ここァ。頭にゃエピメテウスの野郎がいるし、横にゃインド人だ。地獄でも天国でもねぇ。入ってるのはこりゃ、鼎だ。まわりは天幕や洞窟じゃなくて、どっかの家ん中だ。そうすると、ここは……!

「ひッ!?」
朦朧とした視界に、何かが飛び込んでくる。顔だ。野郎で、肌が褐色で、髪は赤い。目玉が三つで角が二本。つまり悪魔だ、デーモンだ。そうすッと、やっぱ地獄か!そいつは俺の襟首を片手で掴み、宙に吊り上げこう訊いた。
「人間よ。お前は何のためにここにおる。ただ単純に、生き残るためか」
「は、はいッ。し、死にたくありませんッ」
俺は必死で答えた。死んでるわけではねぇようだが、こいつに殺されるのも嫌だ。キャスターズは黙っていやがる。覚えてろ。

そいつは憤怒の無表情を浮かべたまま、続けて訊いた。
「おれが九鼎、聖杯を手にすれば、なんでもおれの望みが叶う。お前はどうする。何を望む。ついでに叶えてやらんでもないぞ」
せ、聖杯。ああ、そうか、ここは商だか殷だかいう国の宮殿で、こいつが例の大魔王様か。俺は恐怖にガクガク震えながら、声を絞り出す。
「い、家に帰して下さい……それ以上は、何も。いや、フジマルとかいう女を、カルデアってとこに戻すって目的も、一応」
「フジマル。知らんな。返さねば、どうなるという」
「お、俺は何も知りません。ただ、そいつがカルデアの本来のマスターで、そいつがいねぇと世界が滅ぶとか、なんとか」
「お前が生き残れば、世界が滅んでも構わんか」
「……そういう、わけには……世界が滅べば結局、俺も死んじまいますよね」

引き攣り、媚び諂った笑顔をなんとか浮かべると、そいつは鼻で笑って、俺を床に投げ捨てた。痛ぇ。夢じゃねぇ。肋骨も脚も腕も背骨も、ちゃんとつながってる。そうか、鼎の力だ。大魔王様バンザイだ。
「はははは。つくづく、愚かで弱い。ヴィシュヌがお前を選んだのは、その弱さゆえであろう。人間の弱さ、愚かさを知らしめようというのだ」
「そうかも……知れません。へ、へへは」

誰だ、ヴィシュヌって。ああなんか、インドの神様だったか。そいつがウォッチャーなのか。さっきは祈らなかったが、サンキューヴィシュヌ。生きて帰ったら駄菓子でも供えてやるよ。

「征くぞ。かの狂えるライダーを、おれが打ち倒してくれる。お前らは指を咥えて見ておれ。それから、お前らとの決着もつける」

魔王は嗤い、右手を挙げた。二つの鼎が飛んで来て魔王に吸い込まれ、融合する。周囲に黒い雲が集まる。ゴウゴウと風が鳴り、バチバチと雷が鳴る。
たちまち雲は四匹の大蛇が牽く二輪戦車に変形した。俺とキャスターズとそいつを乗せて、雲の戦車が宮殿を駆け抜け、空へ飛び出す。

「行ってしまえ、悪魔め! 悪魔同士で殺し合え! 立ち行かなくなるがよいわ!」
背後で気が狂ったような叫び声。もう一騎いたのか。まぁいい、なんだか知らねぇが、こっちにゃ大魔王様がついてるぜ!

堅固なる手足をもち、多様の形相を備えたる、強豪・赤褐の神は、輝く黄金をもって身を飾れり。この豊けき世界の主宰者ルドラより、アスラの位は決して離るることなし。ふさわしや、なれが矢と弓とを担うこと。ふさわしや、なれが一切の形相をもつ・尊敬すべき・黄金の装飾を帯ぶること。ふさわしや、なれが一切の怪異を消滅せしむること。ルドラよ、汝より強きものは存在せず。       ―――『リグ・ヴェーダ』ルドラ讃歌より

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