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【聖杯戦争候補作】Diavolo in corpo

「クソが……! ハァーッ、チクショウ……!」

 ザザザーッ……!ザザーッ……! 突然の豪雨に追われて、男は山の中の廃屋に逃げ込んだ。不気味な容貌の太った男は、歯を食いしばって悔しがる。

「ツイてねーぜ……! ヤクもねーしよ……!」

 彼は雨を振り払い、廃屋の中を眺める。朽ちかけたチンケな木造家屋だ。藁葺きの屋根には大きな穴が空いており、雨は容赦なく入って来るが、残った屋根でどうにか雨露はしのげるだろう。だが、風がミシミシと廃屋を揺らしている。崩れてきたら押しつぶされるかも知れない。

 男は暗闇の中に目を凝らし、耳を澄ます。……何かがいる。床を踏み抜かないよう慎重に歩を進めると、意外なものがあった。

 死体だ。ひとつは倒れ伏した老婆の、もうひとつは年老いた猫の。老婆の死体の奥には、赤児らしき両脚が天井へ突き出している。老婆の子でもあるまい。男は嫌な顔をし、これらの死体をどこかへ運び出そうと考えた。近寄ってみると、赤児も死んでいる。生まれつき体が不自由らしかった。

「……捨てられたのか」

 男は無感情につぶやく。よくあることだ。彼の故郷でも、貧困地域では捨て子は珍しくない。野良猫が野垂れ死ぬのも当然。そしてこの老婆は、服装からみて浮浪者だろう。今の自分と同じく。

 かつては、自分はそうではなかった。それなりの暮らしを与えられ、飼われていた。もっと前は、その日暮らしの麻薬中毒者だった。この老婆や野良猫のように野垂れ死んでいても不思議はない。彼を拾い上げ、才能を見出して飼っていたのは、ある街を支配するギャングのボスだった。

 彼は、安心とカネと衣食住を与えてくれたボスに心から感謝した。麻薬も適度に与えられ、仕事もこなした。彼のためなら死んでもいいと思っていたし、実際……死んだ、はずだ。じゃあ、今いるここは、地獄だろうか。行ったこともない日本の、大都会東京のはずれの、こんな山の中に居るなど。

 赤児から運ぼうと手を伸ばすと、それはびくりと動いた。生きているか、死後硬直の痙攣か。否!老婆と猫の死体も同時に動き、震え、光り出した!

「これはッ!」

 心霊現象か、あるいは……!男は身を守るため、自らの『能力』を発動させた! だが……出ない!出せない!

「なにィーッ……! まさか、失っちまったのか……?」

 死体は光となり、黄色い煙になって立ち昇り、空中で融合し始めた。何かヤバいことが起きている。いや……これは、まさか!

 やがてそれは黄色いクラゲのような、人間よりもやや大きな形となった。あの赤児のような目と口があり、短い手足があるが、全体的には非人間的だ。それは大きな二本の前歯しかない口を開き、不気味な鳴き声をあげた!

『コ ケ カ キ イ キ イ』

 男は脂汗を流しながら、それを見ていた。死体は消えた。いや、光と煙になって溶け合い、アレに……なったのだ。幽霊か、怪物か。それはこちらへぎょろりと瞳のない目をむけると、口をきいた。脳内に声が響いた。

『あなたが、私のマスターですか?』

「……そのようだな。俺は『カルネ』だ。テメエは、何だ」

『私はバーサーカー(狂戦士)のサーヴァント、コケカキイキイです』

 男と怪物、バーサーカーは、廃屋の中で向かい合って座り、話し合う。見た目は完全に化け物だが、意外と会話は通じる。ただ、少々過激な思想の持ち主のようだ。彼は両腕を掲げて宣言した。

『私は、庶民の不満を食べる生き物です。かつて民衆に神として崇められてもいました。私がここに出現したからには、安心しなさい。あなたの不満も解決し、この聖杯戦争も解決してみせましょう』

「俺の不満?」

『あなたは今、家がないですね? じゃあ金持ちの家を奪い取りましょう。私が暴力で家主を追い出します。逆らえばそいつを殺します
「おいおいおいおい」
『食物は私が生やせます。麻薬も欲しいようですが、それは自然に反することです。我慢してください。それとも、ハッパでも生やしましょうか?』
「おいおいおいおいおいおい」

 カルネは思わずツッコミに回った。なんて過激な怪物だ。

「こう……マズいだろ、それはよ! 今は聖杯戦争だかで、俺らみてーなのが殺し合いを始めてんだろ? 目立ったらそいつらが殺しに来るぜ」

『問題ありません。来た順に殺します。

 カルネは早くも彼との対話を諦めた。なるほど、バーサーカーだ。何が神だ、悪魔ではないか。俺は、悪魔と契約したというわけだ。死体の悪魔と。

「……とにかく、拠点は一応ここでいい。隠れて様子を見よう。なんか、俺のスタンド能力も使えなくなってるしよ……」
『スタンド? あなたの超能力ですね。私が食べました
「はァ!?」
『あれがあなたの不満の源ですよ。恨みを食らって成長するなど、自然に反します。もしもあなたが死んだら、あれは暴走するでしょう』
「おめーが言うな。それによ、俺が死んだ場合、今度はおめーが暴走しちまうんじゃあねーか? そうすっとよ」

『……………』

 怪物は押し黙った。

「なんか言えや!」

【クラス】
バーサーカー

【真名】
コケカキイキイ@コケカキイキイ

【パラメーター】
筋力A 耐久B 敏捷C 魔力A 幸運C 宝具A

【属性】
混沌・狂(善)

【クラス別スキル】
狂化:C
 理性と引き換えに驚異的な暴力を所持者に宿すスキル。身体能力を強化するが、理性や技術・思考能力・言語機能を失う。また現界のための魔力を大量に消費するようになる。会話は可能だが、貧乏な庶民や恵まれない者、自然環境のためにのみ行動するため、性格は過激派テロリストに近い。

【保有スキル】
御霊神:B
 捨てられた者たちの怨念から近年生じた霊的存在。神として祀られたため神であり、自ら「コケカ神」とも名乗っている。閻魔大王や死神、妖怪とも知り合い。「神性」と「復讐者」の複合スキル。庶民の怨念や不満、様々な社会問題を解決するために現れる。

神通力:C
 神の力の一端。周囲の物体を自由に動かすことができる。無数の蝶を呼び寄せて敵を運ばせたり、体を大きく広げて空を飛んだりする。なんでもカンというやつでわかるので「千里眼」や「直感」も持っている。

貧者の見識:A
 相手の性格・属性を見抜く眼力。言葉による弁明、欺瞞に騙される事がない。弱きものの生と価値を問う、相手の本質を掴む力を表すスキル。無意味にカネを巻き上げる邪悪な金持ちはぶん殴り、つかまえて食ってしまう。

単独行動:EX
 本体が持つスタンド能力を吸収したことにより獲得。マスターがいなくても行動できるが、マスターが死ぬと暴走してしまう。

【宝具】
『生命の指揮棒(バトン・オブ・コケカキイキイ)』
ランク:A 種別:対国宝具 レンジ&最大捕捉:半径数百km?
 バーサーカーが手に持つ謎めいた指揮棒。天地を揺り動かすような不思議な音楽を奏で、大地や水上に無数の植物を生えさせる。植物は人や乗物に絡みついて絞め殺す。聴いた者は労働や戦闘する気を失い怠け者になる。完全発動には相当の魔力とゼンめいた会話などの準備が必要で、庶民の不満を解決してしまうためバーサーカー自身も消滅する。現在は周囲の植物を操ったり、相手の戦う気を削いだりする程度にしか使えない。

【Weapon】
 暴力。戦車を持ち上げて投げ飛ばすなど恐ろしい怪力を有する。暴力を振るうのに容赦がなく、敵対する人間を殴ったり食ったりする。また周囲の植物を操り、敵の首を締めたり、脚に絡みついたりする。

【怪物背景】
 水木しげるの漫画『コケカキイキイ』に登場する妖怪的存在(新生物)。豆腐かマシュマロ、ぬりかべめいた四角い大柄な姿で、首はないが不気味な目と口と手足があり全裸。一般人からは「不愉快な仮装」と言われており、特撮の怪物の着ぐるみのように見える。感触はマシュマロめいて柔らかく、骨は持たない。「コケカキイキイ」など奇妙な鳴き声をあげ片言で話すが、普通に喋れる。植物や動物ともテレパシーで心を通じ合える。霊的存在ゆえ不死身であり、戦車砲も効かない。魔術で焼いて灰にしても、地面に撒けば樹木に吸収され、無数の小さなコケカたちと化して復活する。

 ある村の廃屋で、国に見捨てられ貧窮した老婆、親に捨てられた障害児の赤子、飼い主に捨てられた病気の猫、猫にとりついていたが宿主と共に死ぬ運命にあったシラミ夫婦が同時に死を迎えた。その時、彼らの「死にたくない、生きていたい」という思いから四者が融合し、新生物となって蘇った。それは「コケカキイキイ」と鳴き声を発し、これが呼び名となった。

 それは東京へ向かうと傲慢な金持ちや自然に反する生き方をする者を無慈悲に懲らしめ、貧しい者、恵まれない者に富を分配した。警察や自衛隊の攻撃も通じず、ついに公害で汚れた東京に豊かな緑を取り戻して立ち去ると、「庶民の不満を食べる新生物」と名乗り、もとの四者の死体に戻った。村の少年はそれを神として祀った。のちに庶民の不満が溜まると再び動き出し、様々な事件を解決したり、解決したせいで恨まれたりしたのであった。

 貧乏人や恵まれない人には救いの神だが、金持ちや恵まれた人間には悪魔のように恐ろしい存在。性格は割と乱暴で俗っぽく、赤線(公認娼婦制度)の復活を唱えるなど社会問題について含蓄のある意見を述べたりする。ルーラーやアヴェンジャーとしての適性もある。

【サーヴァントとしての願い】
 貧乏人や恵まれない者たちを救済する。ある意味、彼自身が聖杯かも知れない。

【方針】
 何事も暴力で解決するのが一番だ。

【把握手段】
 原作漫画。

【マスター】
カルネ@ジョジョの奇妙な冒険第五部 黄金の風

【Weapon・能力・技能】
『ノトーリアス・B・I・G』
破壊力:A スピード・射程距離・持続力:∞ 精密動作性:E 成長性:A

 本体のカルネが死ぬ事で発現するスタンド。殺された恨みをエネルギーにし、周囲の物質やエネルギーを喰らい、際限なく巨大化する。腫れ上がった腐肉めいた不定形の肉体、縞模様のマスクとランプ状の両目、車輪を備えた前肢を持ち、這いずったり跳び上がったり触手を出したりして移動する。判断能力は皆無。周囲の中で「最も速く動く物」を優先して襲う習性がある。

 生前に人型のスタンドを出していたが、直後に射殺された為、死後と同じ能力なのか、違う能力だったのかは不明。自分のスタンドが本体の死後に真価を発揮することを知っていたのかも不明。チョコラータやセッコは発動の3日後ながら知っていたし(誰かが調査した?)、ボスの命令ひとつでわざと殺されるために現れたとすれば、本体も実態はともかく直感で悟っていたのかも知れない。生前はエボニーデビルめいた「恨みの力でパワーアップする」スタンドであった可能性はある。自分の血液や肉片を敵にくっつけて殺す、といった能力だったのだろうか。どのみち現在はコケカキイキイに吸収されており、使用できない。

【人物背景】
 漫画『ジョジョの奇妙な冒険』第五部に登場する人物。イタリア・ネアポリスのギャング組織「パッショーネ」の、ボス直属の親衛隊の1人。不気味な風貌の太った男。CV:阪口大助。カルネ(Carne)はイタリア語で『肉』を意味する。サルディニア島に飛行機で向かおうとするジョルノ一行の前に現れ、一言も発する事なくミスタに射殺された。しかし……。

【ロール】
 ホームレス。失うものは何もない。

【マスターとしての願い】
 特になし。強いて言えばカネと自由。

【方針】
 とりあえず聖杯を狙う。邪魔するやつは殺す。バーサーカーが生やす野菜や果物やハッパは一応貰っておく。

【把握手段】
 原作。

【参戦時期】
 死亡後。

 水木しげる大先生の諸キャラクターの中でも特にヤバいやつだ。読み直してみたらいろいろとだいぶヤバかったのでバーサーカーにした。誰をマスターにしようかと考えたら、よさそうなやつがいたのでそうした。カルネは本編では一言も喋っていないのでパーソナリティ情報が皆無なのだが、まあこんな感じだろう。オリキャラめいているが声が新八なのでツッコミにする。

【続く】

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