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【FGO EpLW 殷周革命】序 雷公揮鞭鬧天宮

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「「「パオーウーウーウー」」」


雷鳴のような咆哮と共に行く手を遮るのは、巨大な怪獣
三つの頭を持つ、山のような姿。各々の顔からは長い鼻と、四本の長い牙が伸びている。四本の脚は柱の如く、身体は雲のように白い。天帝インドラの乗象、アイラーヴァタ

恐怖はない。かつて戦い、勝利した相手だ。
距離を取り、弓矢を構える。真言を唱え、弓矢を祝福する。雷が渦巻き、矢に収束する。轟音とともに矢が放たれ、アイラーヴァタを貫く。巨象の全身を雷が包み、無数の雷蛇が食い荒らしていく。

「「「パオーウーウーウー」」」

巨象が雲散霧消した。手応えはそれこそ、雲のよう。乳海より不死の甘露アムリタと共に生じたこの象に、死はないのだ。雲は渦巻き、空中で無数のアイラーヴァタとなる。その背に、無数のインドラがいる。インドラの網、天羅地網。疎にして漏らさず。

「はは。幻力(マーヤー)比べで、このおれに挑もうてか」

ここで手間取っている暇はない。これらはみな幻だ。ヨーガによって霊眼を開けば、おれが挑むべき相手が見える。突進してくる象の脚を、矢を変化させた多尾鞭剣(ウルミ)で薙ぎ払う。くずおれるのを待たず、背後に一閃。
同時に弓を変化させた双角槍(シンガータ)を投擲し、象の上のインドラたちを撃つ。インドラたちは一斉に金剛杵(ヴァジュラ)を投擲する。

おれは金剛杵から発する稲妻を喰らい尽くし、その力によって己の身を九十九に分身させる。各々は三面六臂、手に手に武器を執る。分身たちがインドラたちと戦う中、おれ本体は悠然と歩を進め、奴らを操る聖仙(リシ)の首を手刀で刎ねる。象とインドラが消えた。

さてさて、それでもなお、この幻の天宮は消えぬか。相当な幻力だ。漂う力のにおいからして、アスラではない。ヤクシャでもラークシャサでも、ガンダルヴァでもナーガでもない。デーヴァのしわざだ。それも、このおれを欺くほどの幻力を持つデーヴァなど、ごく限られよう。

ずしん、と地面が揺れ、新手が姿を現す。雲突くような巨大な影が、二つ。

「「通さぬぞ、聖仙殺しめ」」
「「我らが通さぬぞ」」

金色の体毛、赤い顔、長い尻尾、手に槌矛。忌々しい大猿ハヌマーン。金色の羽毛、赤い翼、人の上体、猛禽の脚。ナーガの天敵ガルダ。こいつらか。おれと同じく、インドラに勝つほどの者たち。相手にとって不足はない。そして、こいつらを操っているのは、当然……

ヴィシュヌか。どこに潜んでいる、あの詐欺師め」

ハヌマーンとガルダが、おれを見下ろし、口から轟音を放つ。猿の腕が何千本にも増える。

「「よくぞ参った、天に弓引く痴れ者」」
「「汝の父をはじめ、党類はみな捕らえられ、誅に伏したぞ。見よ!」」

猿の無数の手には、それぞれ武器と首級。我が父と叔父と、その子の首。我が母の首までも。それらは血みどろのまま、からからと嗤い、おれを蔑み、罵る。
「くだらぬ幻術だ」
身をひとゆすりすると、おれの身体が何十倍にも大きくなり、奴らと肩を並べる。千の頭、数千の腕を生やし、牙を剥き出し、三千の眼で睨む。

「「「「死ねい」」」」

ハヌマーンが槌矛を繰り出し、ガルダが羽撃いて飛びかかる。軽々と両者を受け止め、無数の武器でなます切りにする。芸のないことだ。おれは再び、悠々と奴らの足元を潜り抜ける。全てはおれの心、おれの認識から生ずる。虚であり、実はない。ただそれだけだ。
「どこにいる、ヴィシュヌ。それとも、あらゆる方向にいるのか。遍満する者よ。おれに姿を観せよ、青い蓮の色の者よ」

歩きながらヨーガを行い、観察する。なるほど、あらゆる場所にいる。この幻の天宮そのものが、奴だ。
「おれはもはや、神に祈らぬ。神に頼らぬ。犀の角の如く、己を灯明とし、己を島として、ただ一人歩む」
目の前の空間に意識を集中させ、仮に一面四臂のヴィシュヌの像を現出させる。おれの認識の場に引きずり出す。

『おやおや、観察され、認識されてしまった。なかなか高い霊的ステージにいるようだ。私のアヴァターラの、誤った教えを奉じているからかね』
「人気があればなんでもお前の化身にして、貶め取り込む。貪欲なデーヴァよ。次はシヴァを、おれの本当の父だと言って目の前に出してみせるのか」
『それもいいね。ほれ!』

床面から無数のリンガがそそり立つ。各々に三眼のシヴァの顔。見る間に豊満な神妃と交合する父母像となり、淫らな声を挙げる。無視する。
「おれがラークシャサだろうとアスラだろうと、デーヴァだろうと、どうでもいい。おれはおれだ。無数のカルマが因縁により結合された、仮の姿だ。 ヴィシュヌよ、ナーラーヤナよ。臍から梵天を産み、阿頼耶識の大海の上を漂うものよ。お前もそうなのだぞ!」
『お前はラークシャサさ。神々の敵、人の敵。穢れ濁ったカルマを背負い、宿命的に敗北が決定された、哀れな生類。屍肉を喰らえ、糞便を喰らえ!』

今度はヴィシュヌが巨大化し、光り輝くブッダの相をとる。これもまた、おれの心の産物。おれの心を澄み渡らせれば、現出しないものだ。

「阿吽(オーム)」

印契(ムドラー)を結び、真言(マントラ)で始まりと終わりを告げ、三昧(サマーディ)に入り、覚(ブッディ)をもって観る。ヴィシュヌを、この幻を、おれを、相対化して認識する。こうして脱出すればよい。奴の遊戯(リーラ)、掌から。ブッダと天宮がたちどころに消滅し、一切が闇に帰する。

幻術使いは五情五欲の理を操り、虚実を転換して相手の心を揺り動かす。それも表層のことで、深層の集合的無意識……阿頼耶識に接続できる者は少ない。そこには全てが混沌のままに眠り、そこに波が立つことで、意識のレベルへと心が現出していくのだ。あの男……ブッダは、あるいはブッダの弟子を名乗る男は、おれにそう告げた。おれの残留思念に。

『ここまでか。だが、時間は稼げた。また会いましょう』

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闇を抜けると、渦巻く雷雲の中だ。おれは矢を弓につがえたまま、空中に立ち尽くしていたようだ。はてさて、どれほど時を稼がれたか。してやられたというわけだ。見下ろせば、河の上に魔力を帯びた雲の壁が聳え立っている。おれの魔力を逆用して、結界を張るか。

「逃げられたか」

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0110101100110001110010101020001300101110・・・・・・・・・・・

……なんだ、まだ着かねえのか。ウォッチャーの野郎、何をグズグズしてやがる。身体があるような、ねぇような、妙な浮遊感。ヤクで深くトリップした時に、たまにこうなる。蛍光緑色の数字や文字が、すげぇ勢いで後ろへ流れていく。それ以外は闇だ。

『◆◆◆、生きてるだか』
キャスターの野郎の声。この状態を生きてると定義付けていいものか、俺にもわからねぇ。
「さぁな。会話はできるぜ」
『次の特異点が近いだ。お前さンとシールダーと、ランサーは確認できた。だども、アサシンがいねえ』

アサシンが、か。強くてタフなベイブだったが、ここでお別れか。
「どっかにいるだろ。どうせあっちに着いてみりゃ、わかるだろうさ。ウォッチャー様のお膳立てだ。それでもいなけりゃ、まぁ運がなかったか、縁が切れたか。あいつも英霊だか神様だかだし、また会えるさ」
『だとええだが……おいマスター、おらをちょっと、強く意識しろや。手元に出せ』
「あー、えぇと、お前が俺の手元にいると念じりゃいいのか。んー、そりゃ、ほい」

念じてみると、周囲の数字や文字列が組み合わさり、俺の視界の近くに水晶髑髏が現れた。俺の手もだ。―――髑髏。髑髏に、なんかさっき出会ったような、出会わなかったような。いやこいつじゃなくて。いや、こいつかな。
『上出来、上出来。ついでにシールダーとランサーも出すだ。アサシンはおらでは認識できなかっただが、お前さンなら出来るかも』
「あんま褒めるなよ、調子に乗っちまうぜ。えー待て待て一人ずつだ、ランサーは後にして、どっちがいいかな……へへ」
どうも女を呼び出すとなると、煩悩が混じっちまう。じゃあお探しのアサシン、イシュタムだったか、そっちを先に呼ぼう。アッサシン、アッサシン、出っておいで。

…………………ダメか。んじゃま、シールダーを呼ぶか……。

◆■◆

「逃げられたか」

男は……その小男は、そう呟いた。どっと片膝を突き、血涙と脂汗を流す。ぜいぜいと息を荒げている。

自慢の幻術がこうもあっさり破られては、自信を失ってしまう。否、なにしろ相手は、神々を一度は屈服させた大魔王だ。話術や幻術だけでどうにかなる相手ではない。奴の幻力を利用して大陸級の大結界を張り、時を稼げたというだけで、己の自信とすべきか。

降り立った場所は、大河の渡し場。黒髪の少年が苛立ちながら待ちわびていた。少女のような顔に奇妙な入墨。装束は黒檀色、腰に双剣。彼が手を伸ばし、小男を引き起こす。小男が笑顔を作る。

「お、お待たせしました。やれやれ、流石に大した相手だ」
「無事であったか。いや、無事には見えぬな」
「急いで下さい。もうじきこの河よりこちら側には入れなくなります。敵軍も出られなくなる。あくまで一時的にですが」
「時間稼ぎをして、対策を練る、と」
「そうです。私だけでは時間稼ぎが精一杯。もっと手勢を、『聖杯』を……集めねば」

むっとした顔で、少年が地平線を睨む。彼方から敵が、かなりの速度で迫っている。急いでこの渡し場を渡り、封鎖せねば。
「西や東から遠回りして、こちらへ向かってくることも考えられるぞ」
「大丈夫ですよ。河の上流も下流も、特異点の境の外です。それに奴は、しばらくは動けぬ、はず」
「そうか。では、あの追手をどうにかせねばな。他の船は対岸に渡した。お前も急げ。余がしんがりとなる」
「お言葉に甘えます。ご武運を」

小男は、足を引きずりながら、よろよろと船に向かう。兵士たちが駆け寄り、左右から支えた。黒髪の少年は、桟橋に足を載せて地平線に向き直り、腰から二本の剣を抜く。双剣は共鳴し、仄かな光を放っている。

「来たれ、死をも恐れぬ余の軍勢よ」

双剣の鋒を地面に向けると、そこから武装した兵士たちの影が数十体出現する。少年は彼らを率いて最後の船に乗り、弓や弩を構えさせる。

この船の上は、一時的だが余の領地だ。守り抜いてくれよう。敵は……全員が騎兵。数は十騎足らず。刀や弓を携え、黒い甲冑に身を包んでいる。余の生きておった頃は、戎狄しかあのように馬に跨ることはなかった。いくらか未来の連中か。

「ねェボウヤ、あんた一人で大丈夫? アタシが手伝ってあげようかァ」
「周りを見よ、一人ではないわ! だいたいお前は、留守番だったはずであろう!」
背後から豊満な女に抱きつかれるが、少年は赤面もせず叱責する。女は笑い、首から無数の縄を伸ばす。

「はァー、あいつらどこ行ったのかしら。そのうち会える、ハズよねェ」

◇□◇□◇

『YO! 元気かいオカマ野郎! 金玉縮み上がってるかい!?』
突然、カルデアスからウォッチャーの声。数日音沙汰がないと思ったら。相変わらず下品な奴だ。肩をほぐし、深呼吸して椅子に座る。
「あいにく、この身体にはついてなくてね。あるのは目玉と肝っ玉さ」
『HAHA、ナイスレスポンス。ひとつグッドニュースをやろう。今回は最初から、特異点のあいつらと会話できるぜ』

なるほど。観客席と試合場で、声援を送り合うことが可能になったわけだ。職員に無言で指示を出し、業務につかせる。
「そりゃ嬉しいね。物資面のサポートは可能かな?」
『そいつはNOだ。新たなサーヴァントの召喚もNO。オレ様の与えた手駒でやり繰りさせてくんな。物事には、何事にもだが、制限を設けたがいいぜ。青天井は地獄へ通じていると思いなさーい、分かる?』
「ごもっともな忠告痛み入る。さあウォッチャー殿、今度の舞台はどちらかな?」
『オレ様との付き合い方がわかって来たようね。レディ・ザ・ジェントルマン、第二の特異点の幕開けだ! レッツ、ドラムロール!』

ウォッチャーの掛け声とともに、どこからともなくドラムロールが流れる。

ドルドルドルドルドル………キャバァーン!


10000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000001023


亜種特異点
人理定礎値:??


B.C.1023 異聞封神釋厄傳 殷周革命


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