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【聖杯戦争候補作】Open Invitation

夕刻。
彼女が自分と世界の不自然さに気づき、記憶を取り戻したのは、薄暗い廃工場の倉庫だった。悪夢のような辛い記憶だ。取り戻さなかった方が、幸福だったに違いない。憂いに満ちた瞳から、はらはらと涙がこぼれ落ちる。

すらりとした美女。長い黒髪、白い肌、長い睫毛。妖艶で、儚げで、不穏な雰囲気を漂わせる。乱れた制服を整え、埃をはたく。赤い唇をかすかに歪め、彼女は呟く。

「ふふ。聖杯戦争。おのれの望みを叶えるために、殺し合え、やて」

聖杯。それを手にすれば、なんでも望みが叶う。他人を殺して奪い合うには、充分すぎるほどな宝物だ。

「殺せ、言うんか。うちに、まだ」

付近の闇から、無数の赤黒い影が湧き出す。大きな蛭のようで、ぼんやりした輪郭。きちきち、ちいちい、と声を上げる。幼い頃から彼女に取り憑いていた「魔」、悪霊たちだ。死んだ母は「餓鬼」だとも言っていた。

彼らは、床に転がる与太者たち数人の死骸に群がった。さっき彼女に暴行しようとしたが、恐ろしい握力で絞め殺された連中だ。ポリポリ、ポリポリと音を立てて、「魔」は死骸を貪っていく。

彼女の名は、梓(あずさ)。志賀梓。

梓は、幼い頃から殺人の経験がある。何人も殺した。「魔」に気づき、娘を恐れて絞め殺そうとした、実の母さえも。証拠は残さなかった。この「魔」が、すぐに死体を食い尽くしてくれるからだ。

残したのは、母の惨殺死体だけ。悲しいことは悲しいが、彼女が死んだという証拠がなければ、梓は自由になれなかった。娘が母を、あのように殺すなど、警察も親戚も、考えはしなかった。だが、梓が頼った唯一の拠り所……従兄弟で許婚の譲(ゆずる)には、恋人がいた。里美、とか言ったか。梓は彼女を殺そうとした。そして譲は……。

梓は、指先で『鉄片』を弄ぶ。いびつに捻れているが、これが何か、梓は覚えている。譲は弓道部の部長だった。里美を殺そうとした梓に、譲は弓を引き絞り、矢を射た。一の矢は右腕に、二の矢は胸に。

この『鉄片』は、譲が自分の胸を射た矢の、鏃だ。譲のものだ。形見だ。譲が唯一自分にくれたもの、譲と自分を結ぶものだ。これが「招待状」となって、梓は聖杯戦争に招かれた。ならば、今ここに梓がいるのは、譲のおかげだ。彼のために、自分は戦う。

静かに涙を流しながら、梓は『鉄片』に口づけし、ゆっくりと床に置いた。
この『鉄片』を核として、聖杯戦争で戦わせるための使い魔……『サーヴァント』が呼び出される。植え付けられた記憶は、そう伝えている。

勝ち残れば、望みが叶う。負ければ死ぬ。それだけだ。使い魔というなら、梓はすでに持っているのだが、彼らだけでは勝ち残ることはできまい。より強力な霊が、魔が、必要だ。

「おいで」

梓は呟いた。たちまち鉄片の周囲に魔力が集まり、じわじわと人のような形を取っていく。鏃が核となったからとて、アーチャー(弓兵)が呼ばれるとは限るまいが、覚悟はしておこう。なるべく従順で強い奴がいい。

――――だが、梓の目の前に顕現したサーヴァントの姿は、意外なものだった。

痩せっぽちで気弱そうな、冴えない男だ。見たところ30代前半。黒髪に高鼻、瓶底眼鏡。白シャツにネクタイを締めて白衣を羽織り、下はスラックス。頭はそれなりに良さそうだが、全く英霊というイメージにはそぐわない。どこかの学校の理系の教師か大学の助手、研究所の所員といったところ。

「……うちの名は、志賀梓や。あんたが、うちのサーヴァント?」

戸惑いながらも、梓は名を名乗り、尋ねる。
男はにっこりと笑い、眼鏡を指で直すと、丁寧にお辞儀した。

「はい。はじめまして、マスター。私が貴女のサーヴァント、『アヴェンジャー(復讐者)』です。よろしくお願いします」

アヴェンジャー。七騎以外のエクストラクラスのひとつ、理不尽な仇に報いる者、正当なる報復者。目の前の、この男が? 無害そうで、復讐心などなさそうだが。梓は訝しむ。もし本当なら、随分と物騒なサーヴァントを引き当ててしまったものだ。

「ああ、うん、よろしゅう。えと、ほな、あんたの、真名は……?」

梓の問いを聞くや、アヴェンジャーはビクンと身震いし、顔を伏せる。妙な様子だ。何か、気に障ることを言っただろうか。彼は両の拳を握りしめ、肩を震わせている。怒りか、悲しみか、歓喜か、それとも。

「し、真名は……」

アヴェンジャーが口を開く。その声は震えている。

「真名は……くひっ、くひひひ」

アヴェンジャーが、笑い始めた。怒りでも、悲しみでも、歓喜でもなく。
ああ、これは。彼は、狂っているのだ。

「オレの、名は!!」

アヴェンジャーは叫んだ。眼鏡越しに、大量の涙が零れ落ちた。

彼の側頭部に、突如二本の角が生えた。先端に球体があり、金属製のアンテナのようだ。彼が顔を上げた。酷い表情だ。分厚い眼鏡の向こうの目はうかがい知れないが、きっと見てはいけない。彼の額には、大きな文字で「2」と書いてあった。

「『安川2号』だ!!『安川2号』だ!!
あは、ははは ハは は はハッハ ハはは は !!
オレの名だ!オレの名だぞ!オレだけの名だ!ははははははははははは!!ははははははははははは!!!!」

アヴェンジャーは大量の涙を、さらには血涙を流しながら、のけぞって笑う。両手を高く掲げ、頭部をグルグルと異常に回転させ、誇らしげに、忌々しげに、その名を叫ぶ。

見る間に彼の姿が変わっていく。髪の毛が消え去り、アンテナが細くなり、首が蛇のように伸びる。のけぞりからブリッジ姿勢になり、そのまま胴体と首が反転して四つん這いになるや、四肢は細い六本の脚に変わった。機械の体に、狂った心。彼は英雄ではない。倒されることで人々を救う、反英雄のような存在でもない。ただの悪鬼、化物

なんというサーヴァントを引き当ててしまったのか。自分に、彼が制御できるのか。梓は、困惑し、怯えた。今まで、こんな恐怖を感じたことはなかった。子供の頃、近所の男子に強姦されかけた時も。彼を石で殺した時も。『あいつら』が初めて、自分の前に現れた時も。母を殺した時も。譲に殺された時も。根源的な恐怖。見てはいけない。闇に飲まれる。恐怖のあまり、梓はぎゅっと目をつぶり、顔を伏せる。

ひとしきり笑った後、異形のアヴェンジャーは眼鏡を……いや、眼窩に嵌ったレンズを取って、涙と血涙を拭った。
そして、静かな声で言った。

「見ろ」

震える梓は、そのまま首を振った。見てはならぬ。見てはならぬ。

「……まあいい。見ない方がよかろう。……顔を上げていいぞ」

梓が恐る恐る目を開け、ゆっくり顔を上げると、彼は真顔でこちらを見ている。元の、冴えない中年男の姿だ。二本の角も、額の数字もない。だが、今は酷く恐ろしい。彼は、淡々と話し始めた。

「マスター。梓さん。オレの目的は復讐だ。オレを創造して勝手に棄てた、神への、悪魔への、復讐だ。親殺しだ。それ以外はどうでもいい。あんたの目的も、生命も。あんたがオレを邪魔するなら、今ここで殺す」

「……そんな」

親殺し。その言葉を聞いて、梓はさらに怯える。アヴェンジャーは、つかつかと歩いて近づく。梓は後ずさりする。彼はしゃがみ込み、梓の足元から「魔」を一匹掴んで立ち上がる。それは、ぴくぴくと蠢いている。

「見たところ、何かの悪霊……か。魔に取り憑かれているな。オレには分かる。似たようなものだからな。幼い感情のままに、これを操って来た……あるいは、操られて来た、ってとこだろう。魔力はそれなりにありそうだが、オレを使役するには、少ォし足りないか。そう、が、少し、足りない」

不意にアヴェンジャーは顔を上に向け、大きく口を開けると、「魔」を口の上に掲げて、握りつぶした。舌を伸ばし、滴る赤黒い雫を、ごくり、ごくりと飲み下す。残った死骸も、そのままつるりと飲み込んでしまう。無表情に舌なめずりするアヴェンジャー。梓は膝が震え、尻餅をつきそうになる。

「やめて!! 分かった!うち、あんたの邪魔はせえへん!勝手にしい!」

とうとう梓は絶叫した。こいつには、「魔」の力が通用しない。

「あんたは、闇や。鬼や、悪魔や。うちの手に負えへん」

涙をこぼしながら呟く梓に、アヴェンジャーは上機嫌で答える。

「安心しろ。あんたを殺せば、オレも長くは存在できないし、聖杯も手に入るまい。生命だけは守ってやるよ。一蓮托生。仲間じゃないか、助け合おうぜ。くくく、くくくくくひひひ」

もちろん、アヴェンジャーの狂った行動は計算ずくだ。彼は狂人だが、理性と知性は曇ってはいない。『アヴェンジャー』というクラスで呼び出されたサーヴァントは、他者からの負の感情を己の力とするスキルを持つ。たとえば、恐怖。それがマスターからの感情ならば、なおさらだ。憎悪や敵意なら、なおいいが。

怯えるだけ怯えさせた後、アヴェンジャーは彼女から主導権を完全に奪うべく、わざとらしい猫撫で声で話し始めた。

「さあ、キミの願いを言ってごらん。オレが勝ち残ることで、ついでにキミの願いも叶うんだろ? 無い、ってことはあるまい」

「う、うちの、願い、は」

梓はへたり込み、恐怖で混乱した頭の中を整理し始める。聖杯戦争。願いを叶えるための殺し合い。殺し、殺し、殺して、願いを棄てなければ、それは叶う。単純だ。梓の願いは、あの時からただひとつ。

「許婚の、譲ちゃんの、お嫁さんになりたい」

あまりにもロマンチックな、殺し合いをしてまで望む願いとしては、奇妙なほどに子供のような願い。アヴェンジャーは、やや面食らった。だが黙って話を聞いていくと、彼は納得した。

「許婚になったんは、10年も前や。すぐに譲ちゃんは都会へ出ていって、うちはこの力を手に入れた。お母ちゃんが死んだ後、譲ちゃんの家を頼って行ったら、うちのこと忘れて、恋人作ってた。うちの、この力で、そいつを殺そうとした。そしたら、譲ちゃんが、うちを殺した」

「おやおや、悲劇だ」

なるほど、そういう女か。世間知らずのお嬢様で、愛に狂った悲劇の主人公というわけだ。

「うちは、譲ちゃんが好きや。誰にも渡さへん。うちを殺したからって、譲ちゃんに復讐なんてせえへん。するんやったら、あの女や。あの女がおらんかったら、うちは、譲ちゃんと幸せになれてたんや。あいつを消したい。はじめっから、おらんかったことにしてやりたい。そしたら、うちはもう一度、譲ちゃんと……」

頭を抱え、目を血走らせ、早口で呟く梓。彼女を宥めるように、アヴェンジャーがわざとらしく拍手した。

「ははは、愛か、憎悪か。何かに執着するのはいい。心の闇はキミの力になり、オレに力をくれる。ただまあ、願い事は一つにしておきたまえ。恋敵を消すより、恋人と結ばれることを一番に願うべきだろうよ」

「……せやね。うち、頭に血が上ると、どうも歯止めが効かへん」

梓は顔を振って深呼吸してから立ち上がり、恐ろしい目つきでアヴェンジャーを睨む。

「あんたには、どうしてもこの戦争に勝って貰わなあかん。お互い、他人をなんぼ殺しても叶えたい願いがあるんやろ。うちの魔力は、あんたが好きに使ってええ。足りんのやったら、他人の魂を喰らったらええ。ここは地獄で、うちはや。あんたは悪魔や。同じ地獄に暮らす仲間や。助け合わなあかん!」

棄てられ、狂い、殺された姫君。鬼の形相。なかなか悪くない。アヴェンジャー、安川2号は、大きく両の口角を上げてニタリと笑った。

「よかろう。キミをオレの仲間と認めよう、梓さん。存分に殺し、共に願いを叶えよう」

こきこきと首を鳴らし、アヴェンジャーは周囲を見回す。「魔」はいない。与太者たちの死体は、とうに食い尽くされている。

「……さて、この廃工場で呼ばれたのは良かった。オレは機械工学が得意でね、いろんな武器が作れる。部品を集めてこよう」

なるほど、彼は科学者であり、機械でもある。サーヴァントという魔術的な存在が、アンドロイドのマッドサイエンティストというのもおかしいが。わきわきと指を動かしながら、アヴェンジャーは廃工場を調べ回り、使えそうな機材を調達していく。電気は点かないが、夜目はきくのだろう。

魔術にも機械にも疎い梓にとっては、なかなか頼もしい。戦闘や暗躍は、彼に任せても問題なかろう。梓は一息つき、座って休む。家で待つ母――NPCだが――に怪しまれるから、あまり遅くならない方が良いのだが。そう告げる暇もなく、梓は疲労のあまり目を閉じた。

数十分後、倉庫の中央に積み上げられた様々な機材を前に、アヴェンジャーは顎に手をやり、作業計画を練る。

「それなりに使えそうなものはあったが……んーでも、ちょーーっと物足りないかなァ。じゃあ、素敵な場所にご案内しよう、マスター。スカートを押さえたまえ!」

急に言われて、まどろんでいた梓はハッと目を覚まし、言われる通りにスカートを押さえる。アヴェンジャーは機材の山から突き出した、何らかのスイッチレバーを押し下げる。

「ゲート・オープン!」

ガコン、という音と共に、床全体が水面のようにゆらめき、二人の足元に大きな、真っ黒い穴が空いた!

「へ」

二人は少し空中に浮いた後、機材の山もろとも、穴の中へ!

「…………きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

スカートを押さえたまま、梓は絶叫!失神!
アヴェンジャーは再び蜘蛛のような姿を取り、彼女を背負って共に落下していく!

「……ここは」

意識を取り戻した梓は、怪我がないことを確認した後、周囲を見渡す。薄暗く、ほの明るい。機材の山は、先程の何千、何万倍にもなり、広大な空間を埋め尽くしている。

見渡す限り、ガラクタと瓦礫の山。落ちてきた穴の出口は、巨大な生物の臓腑のよう。天井は岩で、遥か彼方にぼんやり見える地面も岩肌だ。大気は蒸し暑く、金属と硫黄臭い。轟音と騒音と、奇妙な静寂が同居する。まるで、まるで。

蜘蛛の姿をしたアヴェンジャーは、傍らの梓を振り返り、にこやかに告げた。

「ようこそ、マスター。ここは地獄さ。もう少し部品を調達して行こう。奥に工房もあるから、組み立てもできる」

【クラス】
アヴェンジャー

【真名】
安川2号@岸和田博士の科学的愛情

【パラメーター】
筋力D 耐久C+ 敏捷B 魔力A 幸運E 宝具A

【属性】
混沌・悪

【クラス別スキル】
復讐者:A
棄て虐げる者への復讐者として、人の恨みと怨念を一身に集める在り方がスキルとなったもの。周囲からの敵意を向けられやすくなるが、向けられた負の感情は直ちにアヴェンジャーの力へと変化する。被攻撃時に魔力を回復させる。また「天才」と定義される者(人類史を塗り替え、気軽に災害を引き起こす類の狂天才)、手下や被造物を無碍に扱う者に対しては憎悪を募らせ、攻撃力が上昇する。彼の創造主を共に恐れ恨んでいた「地獄」の存在からすれば「神殺しの英雄」。一種の「アンチヒーロー/ダークヒーロー」ではある。

忘却補正:A
復讐者は英雄にあらず、忌まわしきものとして埋もれていく存在である。人は多くを忘れる生き物だが、復讐者は決して忘れない。忘却の彼方より襲い来るアヴェンジャーの攻撃は、正規の英雄に対するクリティカル効果を強化させる。己の創造主や人々に存在を忘れられかけながらも、闇の底で復讐の牙を研いでいた彼にはふさわしいスキル。

自己回復(魔力):B
復讐が果たされるまでその魔力は延々と湧き続ける。微量ながらも魔力が毎ターン回復し、魔力に乏しいマスターでも現界を維持できる。往生際も悪い。

【保有スキル】
自己改造:A
自身の肉体に、まったく別の肉体を付属・融合させる適性。このランクが上がれば上がる程、正純の英雄から遠ざかっていく。もとが機械なので自由にカスタマイズでき、蜘蛛のような異形(六本脚だが)をとることもある。

道具作成:B
魔力を帯びた器具を作成できる。本来は魔術師ではなく科学者であるため魔術的素養には乏しいが、狂ったオカルト的思考の持ち主。彼の創造主には及ばぬものの知力は非常に高く、異様な機械・生物を多数作成・改造することができる。

破壊工作:A
戦闘を行う前、準備段階で相手の戦力をそぎ落とす才能。トラップの達人。ランクAならば、相手が進軍してくる前に六割近い兵力を戦闘不能に追いこむ事も可能。ただし、このスキルが高ければ高いほど、英雄としての霊格は低下していく。高度なハッキング技術、機械・生物の改造技術を有する。
しかるべき施設があれば、巨大寄生植物を暴走させ、富士山を噴火させ、ICBM数発を目標に発射し、謎の巨大隕石を目標にぶつけるなど途方もないことも同時にしでかす。

精神汚染:B
精神が錯乱している為、他の精神干渉系魔術を高確率でシャットアウトする。ただし同ランクの精神汚染がない人物とは意思疎通が成立しない。彼の場合、意思疎通は可能だが精神が狂っており、長く会話すると精神に悪影響を及ぼす。最後の戦いでは彼の創造主の精神攻撃を跳ね返した。

気配遮断:C
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。完全に気配を断てば発見する事は難しい。アンテナや額の文字を消した「チャーリー安川」としての姿をとれば、影の薄い一般市民として違和感なく行動できる。

【宝具】
『打ち棄てられし幻夢郷(ウェイステッド・ドリームランド)』
ランク:? 種別:結界宝具 レンジ:? 最大捕捉:?

彼が堕ち、今は破壊され失われた地獄、「岸和田研究所の地下ゴミ処理場」を固有結界(のようなもの?)として展開する。発動には相当量の廃棄物が必要。種々雑多な機械や人造生物の失敗作が打ち棄てられた、悪夢のような地下世界で、心身共に歪み狂った「住民」たちが生活している。大気は金属を腐蝕させ、深部にはマグマが煮えくり返っており、停止したゴミ処理施設を再起動させるための「魔神」が眠っている。

ここはアヴェンジャーの心象世界であると共に、彼の創造主の深層意識でもあるため、常人が長居すれば精神を汚染され、やがては発狂する。アヴェンジャーはこの世界で様々な「ゴミ」を資源として集め、武器・兵器や自己改造の部品とすることができる。彼の工房もこの中に存在する。

『今ぞ目覚めよ大魔神(ヤマノダ・ザ・グレート)』
ランク:A 種別:対城宝具 レンジ:? 最大捕捉:?

彼が目覚めさせ、彼を殺した巨人「山野田・ザ・グレート(のひとつ)」を目覚めさせ、召喚する。山野田は成人男性そっくりの姿をした巨大ロボット(身長45mほど)であり、スキンヘッドでブリーフ一丁、その下の男性器も完全再現。命令どおりに人工頭脳で動くが言葉は話さない。武装として指鉄砲、鼻くそボンバー、傷口レーザーなどを持つが、ただ暴れるだけでも甚大な被害をもたらす。ただしあまりにも強大なため(また彼の創造物ではないため)、単体で顕現させることは不可能で、通常宝具として呼べるのは彼の『手』や『足』や『頭』だけである。

完全顕現させるには、アヴェンジャーがバネで山野田の手と結合し、自己改造した自らの『部品』として山野田を運用する以外にない。この時の山野田は「安川キック」「安川ニードロップ」「安川パンチ」「安川ラリアット」「安川ヘッドバット」「安川バックドロップ」「安川イヤー」「安川エルボー」「安川延髄斬り」「安川チョップ」「安川ストンピングストーム」など多数の技を使いこなす。ただしあくまで「安川が」やっているていにするため、山野田がアヴェンジャーを手に持って投げるかぶん殴る等の形になり、アヴェンジャーはおおよそ衝撃で死ぬ。アヴェンジャーが自らを極めて強固な体に改造しておけば、大ダメージは免れないにしても、ある程度はもつかもしれない。

『脳を蝕む毒電波(ブレイン・ウイルス)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:?

脳ウイルス。相手の脳に直接打ち込まれる謎めいた病原体。脳の回路を書き換えて記憶や人格を作り変え、洗脳する。最終手段として、自分の記憶・人格・自我を「脳ウイルス」によって相手に打ち込み、脳を乗っ取って自分のバックアップを作ることも可能。この「安川2号の自我」は、もはやサーヴァントでも機械でもなく、生身の人間の肉体を獲得した存在となる。脳を持たぬ存在やサーヴァントには無効。

ある種の毒や免疫で洗脳を不完全にすることは可能であり、解呪・解毒の手段があれば洗脳を解くことを試みることもできる。魔術ではなく物理的に回路を書き換えるため、根本的解決には医学的治療が必要かもしれない。

【Weapon】
上腕部にスーパーミサイル、膝に南部14式ピストル発射装置、足に靴型携帯電話を装備(2巻口絵)。蜘蛛めいた「改」の姿になると胴体からミサイルを発射する。また長い舌の先にはコンセントがあり、突き刺した相手に「脳ウイルス」を送り込む。さらに宝具とスキルにより、様々な科学兵器・生物兵器を作成して使用する。神秘性は薄いがマスターを殺すには充分。頭のアンテナは「安川君探知機」によりオリジナルであるチャーリー安川を探索可能だが、安川がいないここでは無意味。別の機能を持たせられるかも知れない。

【人物背景】
トニーたけざき『岸和田博士の科学的愛情』に登場するアンドロイド。天才科学者・岸和田博士の助手である「チャーリー安川」が誘拐された時、その代役として創造された。かつて博士が安川の肉体を寝ぼけてサイボーグ化し、人間に戻した後も保存しておいたそのボディに、人工金属脳「ぷるぷるB」を搭載して誕生させられた。外見はグルグル渦巻きの瓶底眼鏡をかけた冴えないおっさん(身長169cm)。安川本人との区別のため、頭部に金色の2本のアンテナが付けられ、額に大きく「2」と書かれている。

誘拐されていた本人が救出されたため存在意義が消失し、次第に安川を憎むようになり、彼と入れ替わろうとするが失敗。これを契機として博士に反乱、コンピュータウイルスを用いて岸和田研究所を乗っ取り、巨大ロボ軍団を率いて大暴れするが、敗北してゴミ処理施設へ叩き落された。辛くも命を取り留め、自己改造によって地下生活に適応、岸和田研究所を再度危機に追い込む。ついには安川本人の肉体を乗っ取ることに成功、博士を殺害する寸前まで追い詰めたが…。

ドラマCDでは安川のCVが千葉繁であり、安川2号もたぶん同じ声。安川のIQは195で、天才ではないにせよ優秀な科学者。安川2号も同等の頭脳を持つが、すでに狂気に侵されている。発狂しつつも自己の消滅(死と闇)を恐れていたが、最後の戦いで「闇を恐れず受け入れる」ことを学んだ。アサシン、キャスター、フェイカーの適性もある。機械であり知名度もないため、本来はサーヴァントとして呼べるような存在ではないが、彼の創造主の所業により、微妙に神秘を帯びている。

【サーヴァントとしての願い】
創造主である岸和田博士への復讐。彼を殺害して彼を超えることを自らの使命だと信じている。

【方針】
聖杯狙い。邪魔者は全て排除する。正面切って戦うタイプではないため、マスターを確実に始末することを優先する。廃工場の地下を拠点として、各種兵器やロボット軍団を準備すると共に、市内の電子ネットワークをハッキングし、監視カメラ等の電子機器を掌握する。下水道等からじわじわと市内全域に兵力を広げ、孤立したマスターを発見次第引きずり込んで殺害する。あるいは捕獲して洗脳し、奴隷やスパイや魔力炉にする。サーヴァントが追ってくればトラップで足止めし、他のサーヴァントにぶつける。マスターはこのまま拠点に据えて守ってもいいし、早めに家に帰らせてもいい。

【把握手段】
単行本(全12巻)。安川2号は1巻で誕生し、2巻で反乱。6巻で再登場し、8巻で消滅。


【マスター】
志賀梓@笑う標的

【Weapon】
「魔」
正体・名称不明の魔性の存在。両目がついた大きな蛭のような姿で無数におり、生物や死体に群がって喰らい尽くす。梓の母は「死肉に群がる餓鬼」と表現していた。おそらく犬神や人狐、トウビョウといった「憑き物」の類であろう。普段は霊体化していて不可視だが、宿主に呼び出される時は実体化しており、物理的に引き剥がすことも可能。宿主が殺されればどこかへ消え去る。高校生に振り払われる程度には弱いので、戦闘での活躍はあまり期待できない。撹乱や足止め、マスター狙いや証拠湮滅が関の山。

「魔」の力によるものか、宿主も鬼のような身体能力を多少は宿し、男の首を喉輪で吊り上げて絞め殺すこともできる。またガラスを念力で割ったり(単行本版)、かまいたちのような力で衣服を切り刻んだりもできる(雑誌掲載版)。

【人物背景】
高橋留美子の短編ホラー漫画『笑う標的』のヒロイン。黒髪ロングの妖艶な美少女。関西地方(京都?)の田舎の旧家の出身で、品の良い関西弁で話す。OVA版でのCVは鶴ひろみ。6歳の時、母により分家の子である従兄弟の志賀譲を許婚とするよう決められる。譲の父は乗り気ではなく、譲も梓と離れて暮らすうちに約束を忘れ、彼女もできていた。一方、幼い梓は「魔」を操る術に目覚め、自分を襲う者を殺して食わせていた。ついに母をも殺した彼女は、譲の家に引き取られ…。

己の情念のためなら殺人も厭わず、ついには己の身の破滅を招いた、るーみっくわーるど屈指のヤンデレヒロイン。ラムの暗黒面、右京や桔梗の原型ではないかともいう。厳格な母親に育てられた箱入り娘で、同年代の男子と話をしたこともない。そのため譲以外の男に触られることを激しく嫌悪する。

【マスターとしての願い】
譲ちゃんと結ばれる。

【ロール】
母子家庭の女子高生。

【方針】
必ず聖杯を獲得する。邪魔者は全て殺す。戦いはアヴェンジャーに任せる。

【把握手段】
現在入手しやすいものとしては『高橋留美子傑作短編集2』収録「笑う標的」。OVA版もあるが、この梓は漫画版から。大筋は一緒なので参考資料としてもよい。また雑誌掲載版と単行本収録版でも結構違うが、ここでは単行本版で。

◆◆◆

鶴ひろみさんの急逝がただ悲しい。おれは『らんま』では右京派だ。しのぶ派なせいか負けヒロインやヤンデレに感情移入してしまう。島津冴子さんはらんまでは小太刀役だったが、彼女は負けとかヤンデレとかそういう問題ではないと思う。そんな棄てられし君が手を組んだのは、狂気のアンドロイド安川2号だ。ギャグ漫画のキャラなのだが、彼は気が狂うほどシリアスだ。恨みをパワーソースとするスキルは面白いのでアニーDで使っている。声が千葉繁だとメガネリー先生に思えてしまう。梓はラムなのか、それとも。銀の鍵の門を超えて。

【続く】

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