邦題：極道兵器（Yakuza Weapon）

　ドーモ、三宅つのです。これはとくなが＝サンのシナリオ案「ニチョーム・ウォー・フェイズ・ワン」および原作小説「ニチョーム・ウォー……ビギニング」を元にしたリプレイ小説です。ネタバレにご注意下さい。

　デッドフェニックス・ヤクザクランへカチコミをかけるミッションです。元シナリオおよび原作ではヤモトがニチョームをアマクダリの侵略から守るために戦うのですが、つの次元での彼女は現在キョート城に囚われており、ニチョームもソウカイヤが健在なためか比較的自治が守られています。アマクダリ/オナタカミも対キョート・対ザイバツでソウカイヤ/オムラと一応の協力関係にありますし、オハギを流していたザイバツニンジャたちもネザークイーンとスパイダーリリィが片付けました。

　となると、いつものようにソウカイ・ニンジャチームが敵対ヤクザクランにカチコミをかけることになります。結構強敵揃いなので、成長の壁2枚を突破したPC3人に加え、元シナリオでは成長の壁を4つ超えたヤモトがゲストキャラとして戦ってくれます。ヤモトはいないのでスパイダーリリィ、というわけにもいきませんし、彼女にします。

◆レッドハッグ（種別：ニンジャ）
カラテ　　　　　　　９＞１０　体力　　　　　　　　９＞１１
ニューロン　　　　　６＞７　　精神力　　　　　　　８＞９
ワザマエ　　　　　１０＞１１　脚力　　　　　　　　５＞６/Ｎ
ジツ　　　　　　　　０　　　　万札　　　　　　　４０＞１３
ＤＫＫ　　　　　　　０　　　　名声　　　　　　　　５

攻撃/射撃/機先/電脳　１０/１１/　７/　７
回避/精密/側転/発動　１３/１１/１１/　－
即応ダイス：５　緊急回避ダイス：３

◇装備や所持品
◆カタナ
◆伝統的ニンジャ装束一式：体力・精神力・即応＋１、
　回避＋２、緊急回避＋３、脚力ダメージ軽減１
◆オーガニック・スシ：体力３回復（使い切り）

◇ジツやスキル
●連続攻撃２、連射２、時間差、マルチターゲット
◉◉戦闘系ソウルの力：タツジン系スキルを最大２個まで所持可能
　攻撃・射撃時に精神力１を消費し、攻撃＋２か射撃＋４　１ターン中に２回まで可能
　記憶スロットから精神力１を消費し特定の◉スキルやワザ、戦闘スタイルを呼び出せる

◉◉タツジン：イアイドー
　カタナ攻撃の出目６成功時に痛打＋１、装備ペナルティなし
　●戦闘スタイル
　　強化精密攻撃：ワザマエで攻撃判定　出目６６５でナムアミダブツ
　　強化強攻撃：攻撃判定難易度＋１、基本ダメージ２　連続攻撃上限３
　●移動スタイル：カスミ　回避ダイス１を獲得しつつ移動可能（脚力＋２まで）
　●イアイ反撃：回避判定出目に６を含んだ迎撃のダメージが２となる

◉◉タツジン：ボックスカラテ（記憶）
　連続攻撃＋１、近接攻撃の出目６成功時に痛打＋１
　●戦闘スタイル：精密ジャブ連打
　　ワザマエで攻撃、連続攻撃＋２、標的１体固定、ダメージ１固定、敵の迎撃不能
　●戦闘スタイル：ボックスカラテ連打　集中＆精神力１＆回避ダイス２個を消費し発動
　　連続攻撃＋２、標的１体固定、殺伐発生せず
　　精神力２消費すると連続攻撃＋３されるが、戦闘終了まで連続攻撃＋ｎ使用不可
　●ワザ：ハートブレイカー　出目６６６で発動
　　痛打＋１、回避H　連続攻撃が残っていれば敵は回避不能（殺伐なし）

◉不屈の精神：精神力＋１
◉タクティカル移動射撃
◉交渉：駆け引き
◉知識：ストリートの流儀、犯罪

能力値合計：２５＞２８

　久しぶりの登場です。前回の冒険で万札32、名声2、余暇4日を獲得しました。名声5に到達したので成長の壁を1つ超えます。カラテとワザマエはすでに超えてますからニューロンにしましょう。レガースを万札1で売って万札7でニンジャレガースに買い替え、「伝統的ニンジャ装束一式」を揃えます。残り万札34。とりあえずザゼンして[413]＝8＞6＝成功。カラテを鍛錬して[145]＝10＞9＝成功、ワザマエを鍛錬して[625]＝13＞10＝成功。残り万札7。万札3でスシを購入し、残り1日はモータルハント。11-1D6[2]＝9。残り万札は13です。名声の割にシテンノ級の強さです。

　彼女に同行するのはこのチームです。

◆ボーンピッカー（種別：ニンジャ）
カラテ　　　　　　　６　　　　体力　　　　　　　　６
ニューロン　　　　１１　　　　精神力　　　　　　１０
ワザマエ　　　　　　８＞９　　脚力　　　　　　　　５/Ｅ
ジツ　　　　　　　　０　　　　万札　　　　　　　２５＞１
ＤＫＫ　　　　　　　３　　　　名声　　　　　　　１１

攻撃/射撃/機先/電脳　　７/１５/１３/１５
回避/精密/側転/発動　１３/１１/１１/　０
即応ダイス：５　緊急回避ダイス：１

◇装備や所持品
▶▶生体LAN端子LV２：ニューロン判定＋４、イニシアチブ＋２
▶▶サイバネアイLV２：ワザマエ判定＋２、射撃さらに＋２
▶テッコLV１：カラテ判定＆回避＋１
●過剰サイバネ（５個）：精神力－１

◆LAN直結型ハンドガン×２（二挺拳銃）　連射３、射撃H、時間差・マルチ可
　●射撃スタイル・論理トリガ（常時）：ニューロンで射撃判定
◆テック・ガントレット：射撃＆緊急回避ダイス＋１
◆伝統的ニンジャ装束：回避＆即応＋１
◆軍用サイバーサングラス：射撃＆イニシアチブ＋１、マルチターゲット
◆オーガニック・スシ＆トロ粉末

◇ジツやスキル
◉◉タツジン：ミリタリーカラテ
　装備銃器が基本射撃難易度H以上であれば射撃難易度－１
　拳銃・二挺拳銃・ライフル装備を「素手状態」とし、装備ペナルティ無視
　隣接した敵にも射撃可能
　●移動スタイル：アサルト・タクティクス
　　移動フェイズに通常移動しながらグレネードを１個まで瞬時使用可
　●戦闘スタイル：オートマチック・ピストルカラテ
　　カラテかワザマエで素手の近接攻撃を行う（ワザマエ使用時は殺伐なし）
　　出目６で痛打＋１　二挺拳銃装備時は攻撃難易度＋１、連続攻撃＋１
　●ワザ：ロウレス・フロンティア　ターン中１回まで
　　回避出目６６で迎撃発生時、迎撃を２ダメージ（回避H）とする

●時間差、マルチターゲット、連射２
◉常人の三倍の脚力：脚力＋１、連続側転難易度－１
◉シャープシューター：集中射撃で射撃＋３
◉ウィークポイント射撃：出目６が２つ以上ある射撃に痛打＋１
　モータルが食らえばヘッドショットで即死
○生い立ち：サイバネ賞金稼ぎ　重サイバネの死体から万札＋１、ボス級なら＋５
◉知識：サイバネティクス、ストリートの流儀、ヤクザの流儀
◉交渉：駆け引き

能力値合計：２５＞２６

　前回の冒険で万札24、名声1、余暇4日を獲得しました。ルール改訂によりテッコを入れればLAN直結型ハンドガンでの論理射撃が常時使用可能になっています。さっそくテッコを入れ（万札10）、LAN直結型ハンドガンをもう一挺購入（万札15）して二挺拳銃にしましょう。残り万札が0になったのでモータルハントします。10-1D6[6]＝4、もう一度10-1D6[1]＝9。DKKは[4]＝なし。ワザマエを鍛錬し[361]＝10＞8＝成功。残り万札4。体力が低いのでスシを購入しておきます。残り万札1。

◆マーダーシュトロム（種別：ニンジャ）
カラテ　　　　　　　６　　　　体力　　　　　　　　７
ニューロン　　　　　９　　　　精神力　　　　　　１６
ワザマエ　　　　　１２　　　　脚力　　　　　　　　６/Ｎ
ジツ　　　　　　　　４＞５　　万札　　　　　　　２９＞１９
ＤＫＫ　　　　　　　３＞６　　名声　　　　　　　１４

攻撃/射撃/機先/電脳　　６/１２/　９/　９
回避/精密/側転/発動　１４/１２/１２/１３
即応ダイス：５　緊急回避ダイス：３

◇装備や所持品
▲▲戦闘用バイオサイバネLV１
　バイオ武器LV１（毒手、素手扱い）：ダメージ１＋毒属性ダメージ１
◆伝統的ニンジャ装束一式：体力・精神力・即応＋１、
　回避＋２、緊急回避＋３、脚力ダメージ軽減１
◆トロ粉末＆オーガニック・スシ

◇ジツやスキル
☆ヒデリ・ニンジャクラン、ジツLV４
　☆ヒデリ・ジツ（カトン扱い）LV３：精神力１を消費し発動（N）
　　術者に隣接する３×３マスの範囲内に火炎属性ダメージ１（回避N）
　　中心点は回避H、D３ダメージ　命中すると回避ダイスダメージ１
　☆◉ヒデリ触媒：ジツ発動時、精神力１の代わりに即応ダイス１を消費可能
　★ヒデリ連打：精神力２を消費してヒデリ・ジツを２連打（触媒可）
　　発動出目６６で２連打・時間差、６６６で３連打・時間差
　　６６６６でジツ値６以上なら４連打・時間差
　◉◉グレーター級ソウルの力：ニューロン＋ジツで精神力換算
　★★グレーター・ヒデリ・ジツ：精神力２を消費し発動（H）
　　術者に隣接する５×５マスの範囲内に火炎属性ダメージ
　　中心点は２D３ダメージ２回（時間差・回避H）、隣接８マスはD３ダメージ（回避H）
　　それ以外には１ダメージ（回避N）

◉◉タツジン：ジュージツ
　近接攻撃回避判定難易度－１（素手・スリケン装備時のみ）
　●ワザ：マウントタックル　出目６６で発生、痛打＋１、回避H
　　マウントをとった敵に対する残り連続攻撃は回避不能（殺伐発生せず）
　●ワザ：フランケンシュタイナー　出目６６６で発生、殺伐出目２（頭部痛打）
　　回避H　マウント状態に入る
　●ワザ：受け流し　回避判定に出目６６を含み迎撃を発生させた場合、
　　１ダメージの代わりに回避不能の回避ダイスダメージ２を与える

●時間差、マルチターゲット、連射２
◉忠誠心：ソウカイヤ　精神力＋１
○生い立ち：堕落マッポ　買い物時にトロ粉末を本来より万札１だけ安く購入できる
◉憎悪：NSPD/ハイデッカー
◉知識：犯罪、高級嗜好品
◉交渉：理路整然、駆け引き

能力値合計：３５＞３７

　前回の冒険で万札24、名声1、余暇4日を獲得しました。パーソナルメンポ（万札10）、ニンジャレガース（万札7）、ニンジャブレーサー（万札10）を購入し、残り万札2。モータルハントして12+4＝16-1D6[5]＝11。タクティカルスーツを万札3で売って万札2+11+3＝16。伝統的ニンジャ装束（万札10）を購入し「伝統的ニンジャ装束一式」を整えます。残り万札6。

モータルハントして16-1D6[3]＝13。DKKは[6][5]割ってDKK3を獲得してしまいました。現有DKK6でWasshoiされかねませんが、このシナリオが終わったらカルマロンダリングできるとしましょう。現有万札19、残り2日。万札15を支払ってジツ値を上げます。3D6[656]割って3+3+3＝9＞4＝成功。「グレーター級ソウルの力」を取得し（知識・交渉スキルは記憶スロットへ）、「グレーター・カトン・ジツ」を取得。残り1日はモータルハント、16-1D6[1]＝15、DKK[2]獲得なし。残り万札は19。

◆アズラーイール（種別：ニンジャ）
カラテ　　　　　　　６　　　　体力　　　　　　　　７
ニューロン　　　　　９＞１１　精神力　　　　　　　９＞１０
ワザマエ　　　　　１２　　　　脚力　　　　　　　　７/Ｅ
ジツ　　　　　　　　１　　　　万札　　　　　　　６６
ＤＫＫ　　　　　　　０　　　　名声　　　　　　　１３

攻撃/射撃/機先/電脳　　７/１４/１３/１５
回避/精密/側転/発動　１５/１２/１３/１２
即応ダイス：４  緊急回避ダイス：１

◇装備や所持品
▶▶生体LAN端子LV２：ニューロン判定＋４、イニシアチブ＋２
▶サイバネアイLV１：ワザマエ判定＋１、射撃さらに＋１
　▷全方位監視アイ：回避＋２
▶テッコLV１：カラテ判定＆回避＋１
●過剰サイバネ（５個）：精神力－１

◆LAN直結型ハンドガン×２（二挺拳銃）　連射３、射撃H、時間差・マルチ可
　●射撃スタイル・論理トリガ（常時）：ニューロンで射撃判定
◆タクティカルスーツ：体力＋１
◆トロ粉末＆オーガニック・スシ

◇ジツやスキル
☆カナシバリ・ジツLV１
◉◉タツジン：ミリタリーカラテ
　装備銃器が基本射撃難易度H以上であれば射撃難易度－１
　拳銃・二挺拳銃・ライフル装備を「素手状態」とし、装備ペナルティ無視
　隣接した敵にも射撃可能
　●移動スタイル：アサルト・タクティクス
　　移動フェイズに通常移動しながらグレネードを１個まで瞬時使用可
　●戦闘スタイル：オートマチック・ピストルカラテ
　　カラテかワザマエで素手の近接攻撃を行う（ワザマエ使用時は殺伐なし）
　　出目６で痛打＋１　二挺拳銃装備時は攻撃難易度＋１、連続攻撃＋１
　●ワザ：ロウレス・フロンティア　ターン中１回まで
　　回避出目６６で迎撃発生時、迎撃を２ダメージ（回避H）とする

●時間差、マルチターゲット、連射２
◉常人の三倍の脚力：脚力＋１、連続側転難易度－１
◉シャープシューター：集中射撃で射撃＋３
◉ウィークポイント射撃：出目６が２つ以上ある射撃に痛打＋１
　モータルが食らえばヘッドショットで即死
○生い立ち：キラーマシーン教育
◉知識：銃器、犯罪
◉交渉：超然

能力値合計：２９＞３１

　前回の冒険で万札24、名声1、余暇4日を獲得しました。カネモチなので装備を整えます。生体LAN端子をLV2にし（万札20）、LAN直結型ハンドガンをもう一挺購入し（万札15）、テッコもつけます（万札10）。万札45を消費し残り21、2日。ザゼン鍛錬蓄積があるので鍛錬し[566]＝17+1＝18＞9＝成功。もう一日鍛錬し[662]＝14＞10＝成功。残り万札3。スシを購入し0。次は防具を整えましょう。

　相変わらずカラテと体力に不安がありますが、レッドハッグもいますし、回避すればダイジョブでしょう。では、始めます。

◆◆◆

序

　パワワララホワワワオー……デン！『安全な速報です。市民の皆さん、ご安心ください。日本政府とキョート共和国の間で数十分間の銃撃戦が確認されたとの事。戦闘は前線で起こっており、市民は安全です』「まだやってンのか」「どうでもいいな」『次に、タマ・リバーのラッコの子供……』

　ビルに据えられた巨大液晶モニタがけたたましいニュース音声を鳴らす。それらもやがては店頭のセール音声、広告音声、詐欺商法への注意を促す音声、商店街BGM、店頭販売ラップBGMの坩堝の中に飲み込まれる。ヤクザリムジンは複雑な標識が立ち並ぶケオサキの大通りを進んでゆく。

「スパシーバ。もう常識ですね？スパシーバ」「長さは……改善され、適度な中程度」「コメチャン……」森林めいた広告音声を抜けると、ヤクザリムジンはやや乾いた区画へ進入する。退廃ホテルやソバ屋台が列を為し、ナイト・ビズ明けの接待ワーカーが電柱やポリバケツの影に吐瀉をする。

　ズグググン。唸るようなアイドリング音ののち、ヤクザリムジンは大きく上下に揺れて停止。ドアが開いて、まずヤクザが。それから、オイランの腰に手を回したニンジャが降り立った。「まったくもってルーザーが満載だ！お前らにはわからんだろうが、実際健康に悪いんだ。こういう空気はな！」

　ヤクザに先導されながらニンジャは話し続ける。「ゆえに俺のメンポは美的観点と実利の両方を満たす安全なニンジャギアだ。こういった気配りと注意が、上に立つ者の格なんだよ。わからんだろ。ノブレス・オブリージュ。お前らは何人倒れようと構わんが、俺が健康を害すれば運営に支障……」

「ゴッソサン」「マイドアリ」レッドハッグは道路脇のソバ屋台の一つ、カウンターにトークンと空のドンブリを置き、ノレンを翻して椅子を離れた。彼女は先日ケオサキに勤務地が遷り、ボーンピッカーのチームに加わった。今の任務はヤクザリムジンから降りたニンジャ、ディクテイターの尾行だ。

　ディクテイターは更に狭い路地へ入った。新たなヤクザが出迎え、朱塗りの油紙の傘をさした。彼はオイランの腰を抱いたまま、傘の中に入る。少し遅れて、レッドハッグ。注意深く、通りの角から角、陰から陰へ。ボーンピッカー、アズラーイール、マーダーシュトロムに位置情報を共有する。

　ネオサイタマ南端の街ケオサキは、現在ソウカイ・シンジケートの御曹司ラオモト・チバ直属のシマではある。しかし、全てを掌握できているわけではない。ザイバツはあの後も繰り返し襲撃してきており、近くに本社のあるオナタカミの手も、治安維持活動を名目として伸びてきている。

　ディクテイターは、オナタカミからケオサキに派遣されたニンジャのひとりだ。ソウカイヤとオナタカミは現在対キョート・対ザイバツのため一応の協力関係にあるゆえ、ボーンピッカーたちにもアイサツに来たものの、どうも怪しく胡散臭い。そこで、こうして尾行しているというわけだ。

　霧雨の中、ヤクザ達は狭い路地裏を進み、やがて人工バンブー林の区画に入る。ディクテイターはバンブーのたもとにうずくまる浮浪者を特に理由なく蹴った。「アイエエエ……」「風流、風流ッてか」ディクテイターの声が徐々に遠ざかる。『そこ、時間貸しの茶室区域だね』とアズラーイール。

「密談か。あの野郎、内緒でコソコソ何をしようッてのかね」レッドハッグは鼻を鳴らす。ボーンピッカーからのIRC。『いいか、俺たちはそこに行けねえ。アンタの仕事だ。企みは掴みたいが、イクサになれば加勢はねえ。ヨクバリはダメだ。わかるな』「ワカル」彼女は、あの時の事を思い出す。

　自分がニンジャになる前。モータルの自分は、ニンジャたちには足手まといだった。しかし今は。「アタシはニンジャさ。凄腕のね」『わかってる』デモンハンドやボーンピッカーたちよりも、カラテのワザマエでは勝る自信がある。慢心は良くないが、自信は大事だ。「思い出、終わり。行くよ」

潜入開始

レッドハッグ/RHは脚力判定、難易度H。[363163]成功。

　バンブー林の中に続くボードウォークを進む、ヤクザ二人とオイラン、そしてディクテイター。やや離れた距離を、しめやかに進むレッドハッグ。タケノコに躓かぬように注意しながら。やがてボードウォークが導いたのは、大小のボンボリで早朝からライトアップされた藁葺のハナレ茶室であった。

　レッドハッグは周囲を見渡した。ビル群の隙間に築かれたこのバンブー空間は思いのほか小さい。彼女のニンジャ聴力は警戒にあたるヤクザ戦士たちの可能性を探る。茶室周辺に幾つかの足音。ニンジャは居るだろうか？『何かあった際の逃走経路を指示しておく』端末モニタに情報が表示される。

ワザマエ判定、難易度UH。11D6[41235641234]成功。もう一度、[13154436436]成功。緊急回避ダイス+2。

「……」茂みから茂みへ移動し、頭を少し出して様子を窺い、また動く。戦闘は避けねばならない。何らかの密談が行われるとして、気づかれればすぐさま中断、全てが台無しとなり、ディクテイターはこんな油断を二度としなくなる。今のディクテイターは弛緩している。チャンスは今だけだ。

　レッドハッグは己をバンブーと重ね合わせ、溶け込ませる。古事記には、ヘイキンテキを極めた結果、自身が石と化した事すら自覚しなかったミスティックの伝説がある。その境地にまで達せずとも、フクスケ庭師ドロイドのセンサーを欺く程度のオンミツはできよう。彼女はニンジャなのだ。

　二人のヤクザはショウジ戸の両脇で正座し、ディクテイターを促した。室内のボンボリライトがショウジ戸に影を投影する。中に二人。レッドハッグはニンジャ第六感を研ぎ澄ます。「ドーモドーモ、デッドフェニックスのオヤブン。ディクテイターです。オイラン同伴でシツレイするぞ！」

「ドーモ。エンプレスです」影が一度立ち上がり、オジギした。女の声だ。「幸せそうでなによりだ。5分前から貴殿の酒臭さがここまで届いたわ」「なァにが幸せなものか、エンプレス＝サン。お前さんも、アルコール度数如きで己を偽れる便利な類かよ？オヤブンともあろうものが。ハッ！」

ニューロン判定、難易度H。7D6[5346513]成功。

(((デッドフェニックス・クラン……！)))レッドハッグは眉根を寄せた。デッドフェニックスはネオサイタマで激しい勢力争いを繰り広げる群雄割拠ヤクザクランのひとつであり、オヤブン・クーデタ以降、めきめきと頭角をあらわした、極めて凶悪な集団である。その首領と今、ディクテイターは……！

「好きにやれ！」ディクテイターの言葉が届く。「オナタカミ傘下に入れば万事許される。俺の下にな。直々に上と掛け合い、例外的なまでの好条件を引き出してやる。まさにWIN-WIN……お前は実際得難い賢明極まるオナタカミ者を前にしておるんだ。他のアホ共ではそうはいかんぞ？」

「お墨付きと取って良いのだな？ディクテイター＝サン」「ああそうだ、手段は勝手に考えて、このケオサキをお前らで綺麗にしろ。未練がましいカスがいまだ蔓延っている！傷を舐め合うヤクザ・コミュニティの粘着汚れがしつこく残ってやがるし、無駄に腕が立つソウカイニンジャどももいる……」

『デッドフェニックスだと？』オペレートするボーンピッカーは眉根を寄せた。一時ネオカブキチョ・エリアを併呑寸前にまで拡大したドクロスケルトンウォリアー・クランは、当初下部組織であったこのデッドフェニックス・クランによってゲコクジョされ、斬首粛清されて根絶やしとなった。

　その冷酷非道の筆頭が、女オヤブンのミロコ・ウノ自身だ。抗争においては先陣を切り、鬼神めいた二刀流のカラテで敵対ヤクザを斬って斬って斬りまくる。背中に双頭フェニックスの刺青を入れ、自らをエンプレス（女帝）と名乗るその胆力と野心は、けっして虚仮威しからくるものではない。

『穏やかじゃねえな。そいつらがオナタカミに唆されて、このケオサキをとりにくるとはよォ……』ボーンピッカーは頭の中で電子ソロバンをはじく。この情報をラオモト・チバに報告すれば、どうだ。ディクテイターの後ろ盾のオナタカミを、親キョート派の売国奴として告発もできようが……。

　しかし、今オナタカミと事を構えるのはまずい。ヘタに刺激してザイバツとオナタカミが手を組んだりすれば、ソウカイヤ・オムラ連合がひっくり返されかねない。オムラのキョート支社がキョート共和国に兵器を提供しているのは、この戦争によって利益を得るためのオムラ側の方策でしかない。

　それが暴露され、主戦論を吹聴してきた総理大臣ラオモト・カンにマスメディアの非難が集中すれば、どうだ。NSTVはシバタ知事の部下が掌握しており、ラオモトを告発しようとすれば可能！『フン、だいたいわかった』『アイエッ！？』ラオモト・チバがIRCに割り込んできた。『ドーモ、ぼくだ』

『『『『ドーモ』』』』四人はIRCで電子アイサツを返す。『面白い情報を掴んだな。構わん、続けろ』『アッハイ』『そして、陰謀の芽は早いうちに摘んでおいたがいいな。デッドフェニックスを潰せ』チバは冷酷な指示を出した。『オナタカミとは無関係として潰せば済む。下拵えはしておく』

　……その時。「ゴーメン」それまで沈黙していたもう一人が立ち上がり、ショウジ戸を引き開けた。「会話中だぞ！躾のなっとらん犬だなァ！」ディクテイターが罵った。装束の上に着流しを羽織ったニンジャが室外へ出て縁側に立ち、長い前髪を払いのけ、レッドハッグの潜んでいるあたりを見た。

「……見たな。聞いたな。ドーモ、ジュクレンシャです」ナムサン！アイサツをした。アイサツをされれば返さねばならない！『チバ＝サン』IRCで問う。『構わん』返信。彼女は覚悟を決めて立ち上がり、アイサツを返した。「……ドーモ、レッドハッグです」一触即発アトモスフィア！

【続く】

◆