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不快な寒気

時刻は金曜日の夕方5時半。おれは今痴漢の疑いで駅のホームにて事情聴取を受けている。

誰かに責任転換をしようか。いや、この空間にそれに適した役者は見つからない。焦るな。ここで下手な発言は悪手だ。患部の発汗は常に過去最高を記録し続けている。

思えば、今までも何度かこういった死地感を乗り越えてきた。今回も冷静に対処するだけだ。そもそも満員電車に乗っていただけだ、と無関係を装えば良い。言葉を選んで慎重に伝えよう。何を言われても五感を研ぎ澄まし、上手く対応しなければ。相手である警察官は事情聴取のプロ。一瞬の気の緩みが命取りになる予感がする。

今日は娘、みかんの8歳の誕生日だ。愛娘のためにも急いで帰らなければならない。なぜそんな日に女のケツを触ったかって?読者の男性諸君、そこにお尻があったら触るだろう?そこに関しては分かって欲しい。

馬鹿な話はここまでにしよう。警察と被害者の話し合いも一区切りつくようだ。そろそろおれの番が回ってくる。下手なことを言えば一巻の終わり。聞かれたことに対して自分がベストだと思う答えを証言すれば良い。落ち着いていこう。

こうしておれは職も家族も失った。

完。