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科学者やエンジニアの力を結集して新しい観測機器を実現したい

X線分光撮像衛星XRISMに携わっているメンバーを紹介するインタビューシリーズ。今回から5回連続で、Resolve(注1)開発チームのメンバーのインタビュー記事をお届けします。まず、はじめに話を伺ったのは、Resolve開発チームでマネージャを務める竹井洋 (たけい よう) さんです。

注1:Resolve: https://xrism.isas.jaxa.jp/technology/detail_02/ 参照。

ーXRISMに関わることになった経緯を教えてください

私は、以前、ASTRO-Hに搭載する軟X線分光検出器 SXS の開発を行っていました。ASTRO-Hの打上げ後は、別の部署へ移動しましたが、XRISMプロジェクトが始動、ということで、またX線天文衛星のプロジェクトに参加することになりました。

今は、Resolve開発チームのマネージャとして働いています。ASTRO-H SXSの開発時は科学者の一人として参加していて、マネージャは今回が初めての経験。マネージャとしてやるべきことすらわからない状態から始めたので、正直、とても苦労しています。JAXAではマネージャ向けの研修プログラムがあるので、そういった研修も利用して、勉強しています。

ー日々の仕事は?

チームメンバをまとめてスケジュールに間に合うように仕事を進めたり、技術的な検討をしたり、クリーンルームで衛星試験に参加したりと様々なことをやっています。

そして、とにかく、マネージャとして日々苦労の連続。各チームメンバーの意見や得意なことを集約して仕事を進めないといけないのですが、大学メンバーなどは勤務地が違い、メンバーが何を気にして仕事をしているかの把握が難しいです。チームをまとめるという点ではあまりうまくできていないな、と感じています。

ーマネージャとして工夫していることは?

科学衛星は、今までにないものを実現して、新たなサイエンスを生み出すのがミッション。今までなかった観測機器を作り出すのは科学者やエンジニアの仕事ですが、マネージャの仕事は生み出されたものを現実にすることだと考えています。

そのためにチーム内外の多くの人と話をして考えを聞くようにしています。また、意見を聞き「え?それは違うんじゃない?」とか「技術的に間違ってない?」ということがあっても、すぐ否定せず、その意見の背景をきちんと理解することを心掛けています。

私たちのチームメンバーは、メーカーの職員、科学者、エンジニアとバックグラウンドが様々。そうすると注目している観点が違ってきます。それらのポイントを押さえないとプロジェクトは現実になりません。
 たとえば、科学者が「検出器の確認のためにこの試験が大事だ」と言っていても、メーカーさんに聞くと思いのほか実施が難しかったり、スケジュールがはまらなかったりします。
 逆に「スケジュールの短縮のためにこの試験は削ったほうがよい」とマネージメントの観点で思っても、観測機器としてはとても重要な試験で、やらない方が手戻りがでるようなこともあります。

いろんな視点でチェックするのは、開発においてとても大切です。見落としが減りますから。なので、相手が気にしていることに気づけるよう、コミュニケーションするようにしています。

自分はもともとサイエンティスト。その後、エンジニアとしてJAXA業務も経験しました。立場的にメーカーの人ともよく議論します。というわけで、皆の意見を把握して集約するという観点では、自分がResolveチームの中で一番適任だと思っています。

ー開発中は、いろいろな不具合も起こりますよね。これまでの開発を振り返っての感想は?

Resolveは2022年4月に開発が完了し、衛星に引き渡しました。衛星搭載後も非常によい性能がでています。今も試験は続いていますが、もう試験はいいから早く宇宙にもっていってほしい、という気持ちです。不具合はいろいろあったけれど、それを乗り越えていいものができているから、早く宇宙にもっていきたい、そんな気持ちでいます。

不具合の中では、個人的には、2019年にSHI(住友重機械工業)新居浜工場にてデュワにNASAセンサを組み込み、初めて試験を実施した際に起きたノイズ発生事象が印象に残っています。
 Resolveでは、複数の冷凍機でセンサを50mKまで冷却します。それら複数の冷凍機の振動のビートがノイズとなって、分光性能が劣化していた、と後から分かったのですが、不具合が起こった当初は原因が全くわかりませんでした。

この事象が起こったのは、ちょうどチーム内が少しギクシャクしていた時期でした。私たちは、JAXA/NASA/大学/メーカの共同で作業を進めているのですが、予定通りに進まなくて、毎日毎日遅くまで作業が伸びていて・・・
 
ところが、不具合が起きたことで、逆によく議論ができました。朝会などで「こういう測定をすべきではないか」「それは意味がない」「いや、昨日のこのデータからこう考えられるからやろう」など、(英語で) 議論して、そして、一丸となって現地で解決にあたりました。

想定外の事象でしたが、わずか数日で、原因究明から解決まで一気に進めることができたのです。皆で力を合わせるとこんなにも強力になるのか、いいチームだなあ、と感じ、個人的にはすごく印象に残っています。

このチームが強いのは、技術的なエクスパートがたくさんいて、不具合がおきても問題解決のための案がどんどん出てくることです。むしろ出すぎて困るくらいで、贅沢な悩みですね。そういうチームメートの存在は、マネージャとして非常に心強かったです。

緑のラインが入っている無塵衣を着用しているのが竹井さん。マネージャ自ら作業をリードします。

ーResolveの一つの特徴として、NASAと密接に連携しながら作業を進めた点がありますね。

NASAのメンバーは、ASTRO-H経験者とXRISMからの新規参加者がバランスよく配置されています。NASAもエクスパートをそろえてくれたので、非常に心強かったです。試験中にいろいろ会話することで、非常に勉強になりました。もちろん、米国側も個性の強い人が多いですよ。それもまた大変でしたが、いい経験になって、鍛えられたと思います(笑)。

ー技術的なエキスパートがたくさんいる、というお話でしたが、竹井さんから見てResolveチームはどんなチームですか?

ものすごく個性が強い、というか我が強い人が多いという印象です。Resolve開発チームは、海外含めて全体で70名弱で、個性の強いのはそのうちの一割くらいですが、チーム全体としては、個性の強い人が目立つチームだと思います。なのでマネージャは、まとめるのが非常に大変。開発で起きた技術的な不具合よりも、皆の意見をまとめるのがとても大変なことのほうが、よっぽど印象に残っています(苦笑)。

それが一番噴出したのは、衛星システムメーカと一緒に Resolve の試験をはじめた 2021 年秋の試験ですかね。スケジュールは遅れるし、細かい不具合もどんどん起こるし、険悪になってしまいました。

それまでのResolve の試験の仕方と衛星システムの試験の仕方が違っていて、できることできないことがあったのですが、Resolve チームとしては自分達のやりたいことを労力をかけてでも実現したい、一方で衛星システムメーカは Resolve 側の言う通りにするととても試験の品質が守れない、そしてマネージャの私は板挟み。

そのときはお互い疑心暗鬼になって、最初の数ヶ月はみんな不満を抱えていたように感じます。たぶん参加したみんながあのときの試験はもう二度としたくない、と思っていると思います。今ではお互いの違いを認識しているし、プロジェクトの成功に向けてみなが同じ方向を向いていますが、そこにたどりつくまでは本当に大変でした。

ー開発は山あり谷ありで、しかも長丁場。仕事でエンジンがかかった瞬間などあれば教えてください。

不具合が出るとアクセル全開状態に。ただ「よし、解決しよう!と燃える」というよりは「やばい、スケジュールどうなるんだ、と恐怖で心拍が上がってアドレナリンがどばっと出る」ような感じ。

マネージャとしては、目先の不具合に集中するのではなくて、広い視野でもっと先まで考えるのが仕事なので、不具合が起こらなくても起こっても落ち着いてなきゃとは思います。難しいですが。

ー開発スケジュール、チームメンバーとのコミュニケーション、認識を共有するための文書作成等など、とても忙しいと思います。何かリフレッシュ方法はありますか?

寝ること、これですね。私は12時間以上寝れます。それから、何もしない時間を作って、リフレッシュしています。ジョギング、早歩きなど、無心でできることをしながら、リフレッシュしています。

ー座右の銘は?

座右の銘と言えるかはわかりませんが、ミスチルの「終わりなき旅」という歌が好きで、特に「胸に抱え込んだ迷いが プラスの力に変わるように いつも今日だって僕らは動いてる」というフレーズが好きです。いろいろ苦労や悩むこともありますが、あまりマイナスに考えずプラスに変えられるように生きていきたいな、そしてどんどん次の扉を開いていきたいな、と思います。

ー2023年はこんな年にしたいという抱負を教えてください。

2023年が終わる頃には、XRISMは打ち上がって、いい科学成果も出ているはず。それまで、頑張ります。

これまでは、開発が忙しく、試験場所と家の往復で季節を感じることもほとんどなく。なので、2023年は少し開発から離れて、違うことにチャレンジしたいです。

ー今後の夢があれば教えてください。

ASTRO-H、XRISMでいろんな立場で開発に携わることができ、自分は、技術的に新しいことをするのが好きだ、と改めて気づきました。なので、次は、よりチャレンジングな技術開発できる何かに携わりたいです。

次は絶対マネージャしない、もうこりごり(笑)。

 また、開発中はなかなか家族と過ごす時間も取れなかったので、家族と過ごす時間をとれるような働き方をしたいなと思っています。いわゆるワーク・ライフ・バランスがとれるようにしたいですね。今まではワーク=ライフにバランスしていた感じなので。

インタビュー日:2022年12月27日
インタビュアー・編集:堀内貴史・生田ちさと