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開発した装置で世界に自慢できるデータを!

今回は、石崎欣尚(東京都立大学)さんと星野晶夫さん(JAXA(インタビュー当時))にお話を伺いました。石崎さんはASTRO-EからずっとX線天文衛星の開発、特に、マイクロカロリメータを用いたX線分光装置開発に携わってきました。一方の星野さんは、ASTRO-Hの開発の頃から、大学、NASA、JAXAといろいろな立場でマイクロカロリメータの開発に参加されました。

マイクロカロリメータは宇宙から届いたX線光子のエネルギーを精密に計測できるセンサーです。マイクロカロリメータを用いた観測によって、ブラックホールに関連したジェットや銀河団を包む高温ガスの運動などへの理解が格段に進むと期待されています。

——日々どのような仕事をしているのですか?

石崎:私の役割はXRISMの分光装置、Resolveの科学成果創出をリードすることです。なので、「チーム全体を見ること」、を意識して仕事に向かい合っていました。実際は、開発の現場で自ら手を動かす仕事を長く続けてきたので、なかなかチーム全体に目配りするのは難しかったです・・・。

Resolveチームでは、全体進行は竹井さん(参考:竹井さんへのインタビュー記事)、エンジニアリングの観点は藤本さん(参考:藤本さんへのインタビュー記事)がしっかりみてくれています。ですから、私は、開発の現場に近い立ち位置で、仕事を自由にさせてもらいました。

もちろん、学会やシンポジウムでResolveの状況報告やアピールもしています。でも、私自身は、やはり開発の現場が楽しいな、と感じています。

星野:私はチームメンバーの調整役です。皆さん、本気かつ率直に議論しますし、それぞれ自分の考えがありますから、意見の集約などは結構大変でした。自分ではなるべく思い込みを排除して、相手の話をよく聞いて、相手の意図を理解することに努めました。誰かの意見を聞くときは、自分が相手に何を求めているのかを整理して伝えるように努力していました。

—— Resolveチームはどんなチームでしょう?

石崎:一言でいうと、非常に素晴らしいチーム。ただ、日本側の参加者で若手が少なかったのは残念な点かな。

星野:個性が強く、一人一人の力がすごいチーム。それはもう、他ではお目にかかれないような個性の強さ・・・。ただ、今振り返るとチームメンバーの個性の強さは、このチームの強みでもあったと思います。

星野晶夫さん。JAXA筑波宇宙センターにてResolve開発の合間を縫って撮影しました。
クレジット:JAXA

—— 開発中はいろいろな不具合も経験されたと思います。

石崎:そうですね。色々ありましたが、デュワーのリーク(漏れ)不具合は特にリカバリーが大変でした。

Resolveでは、マイクロカロリメータを50mKまで冷却します。この極低温まで冷却するために使う液体ヘリウムが入っているのがデュワーです。漏れてはいけないヘリウムが漏れているという事態は、冷却システムとして、重大な不具合状態ですから、絶対に修理が必要でした。地道にリカバリーするしかありません。このときは、NASAのメンバーも含め、チーム一丸となって協力し、なんとか乗り越えられました。

—— これまでの開発を振り返ってのお気持ち、もしくは印象に残っている事象などお聞かせください。

石崎
:開発は、総じて緻密な計画に沿って進んだと思っています。

 印象に残っているのはゲートバルブを開ける試験です。ゲートバルブというのは、デュワーのX線入射部に取り付けられている、直径約3cmの装置です。地上での真空保持と打上げ後初期の衛星内アウトガスの影響を避けるための仕組みです。ゲートバルブを開けることで、宇宙からのX線が遮られることなくセンサ部に入ってくることになります。ゲートバルブを宇宙空間で開ける、というのは打上げ後のResolveにとって、一大イベントになります。ですから、筑波の試験施設で、ゲートバルブを開ける試験を行ったときのことは強く印象に残っています。

 Resolveの開発が完了した後の衛星に搭載後も、よい性能が出ていることを確認しました。打上げ後、宇宙空間で観測を始めれば、きっと素晴らしいデータがとれるでしょう。(参考:XRISMのファーストライトと運用状況についてのプレスリリース

2024年1月5日に公開したファーストライト画像。クレジット:JAXA

——トラブルが発生したり、時間の制約がきつかったり、開発は山あり谷ありですよね。何かリフレッシュ方法はありますか?

石崎:家族と旅行行ったり、おいしいものを食べに行ったりするとリフレッシュできます。旅行ではありませんが、種子島へ行くのも楽しみです。場所を変えると、自然とリフレッシュできますよね。

星野:子どもがいますから、週末はできるだけ家事に時間を使っています。家事をしたり、子どもと遊んだりは、良い気分転換になっています。子どもと遊ぶのは体力的にすごく削られるけど・・・。

——今後の抱負を教えてください。

石崎:気を抜かずに運用して、Resolveが良い性能が出るのを見届けたいと思っています。そして、良いデータが出たら、国際会議などで外国へ行き、外国でもXRISMのデータを自慢したいです(笑)。

それから、宇宙は分からないことだらけで、XRISMでもある程度は解明できることは多いけれども、解明できないことが残ることもわかっています。ですから、XRISMの成果を次の衛星につなげる役割もきちんとできればと思っています。

 星野:Resolveの開発を通じて仕事の進め方を学べました。この経験を自分のものとして、次の仕事に繋げられれば、と思っています。

インタビュー日:2022年10月12日
インタビュアー:堀内貴史・生田ちさと

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