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コラム

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徒然なるままに
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2019年5月の記事一覧

片道二時間だけのバカンス①

朝5時前。
ほとばしる夏の暑さが、まだ身を潜めている。クルッククーと鳴く鳥たちは、蝉に邪魔されない朝ぼらけを目いっぱい楽しんでいる。
「…交通情報です。中央自動車道は、上り線、小仏トンネルを先頭に5キロの渋滞です。下り線は順調に流れ」
起きしなに合わせたBGMに乗せて、滑舌のいい女性が交通情報を読み上げている。昨日はまた、ラジオを消さずに寝てしまったようだ。耳触りのいい声に釣られて夢の中へ戻ってし

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キミは人生を舐め腐っているね

メンタルは強い方だと自負していたが、出口の見えない迷路にこれだけハマり続けると、さすがに心が削られる。

「貧すれば鈍する」という慣用句があるが、ことメンタルにおいてはこの慣用句は成り立たない。むしろ、心が削られると精神は過敏になる。削られた心は擦り傷に似ている。擦り傷に針を落とすと、普段とは比べものにならないほど痛い。外気に晒された自分の弱さが、いつ何者かに攻撃されやしないかと警戒を強める。その

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ハイスクール・リターン

思い出は、年を経るごとに美化される。
先日、免許更新の帰りに調布駅に降り立った。いつもの如くラーメン屋をチェックすると、候補に一件の店が見つかった。
「たけちゃんにぼしらーめん 調布店」
調布以外に店がある訳でもないのに、調布店と土地を名前に冠した老舗店。店の外観は何の変哲もない雑居ビルの一階だ。しかし、中に入ってみると、ひとつの記憶が呼び起こされた。

「なぁ、こんどサッカー場借りてサッカーしよ

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SIXTH SENSE'S SICKS

21時過ぎ、070から始まる知らない電話番号から着信があった。
「…はい。」
「あー!もしもしー!〇〇くんのお電話で間違えないですか?」
電話口の先にいるのは、ハイテンションな女だった。作られた空元気は、むしろ隠された邪気を増幅させる。怪しくないですよ、という意識付けは、むしろ逆効果だ。
そうですけど、と答えると、女は続きを話し始めた。
「以前、ビッグサイトでアンケートに答えて頂いたと思うんですけ

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