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ROCK IN JAPAN紀行 -予定は未定で-

サマソニ、ロッキン、フジロック、ビバラ、メトロック、アラバキ、ベイキャン、ライジン、ラブシャ、CDJ…。
年々増えつつある大型フェスだが、僕は今までこれらのイベントに参加したことがなかった。出不精と金欠が原因でフェスに行ったことがない、というのは、《音楽に一家言ありますけど?歌詞考察だいすき!》な僕としてはあまりよろしくない。
「だってお前大型フェス行ったことないんでしょ?音楽を語んな」と吐き捨てられたらその時点でもう負けなのだ。
「いや単独公演派だから。あと高校生のときにエロフェス行ってっから。空きっ腹もテナーもめっちゃよかったから。」とか早口で言っても、アイツらには「だから?俺ら夏はサマソニ冬はCDJ!騒ぐのだいすき!いえーい!」と一笑に付されてしまう。

実は、去年もサークルの友達にロッキンに行かないか?と誘われた。
その時は、「わり、メンツ渋いわ」と言って断った。
その友達は怪訝そうな顔をしていた。
その日に出演するアーティストは、僕があまり通ってこなかった人ばかりで、あまり気乗りがしなかったのだ。

今年もロッキンの季節がやってきた。
昨年ロッキンに行った彼らは、事ある毎にいかにロッキンが楽しいかを僕たちに熱弁してきた。
僕は少し悔しかった。今年は大学四年ということもあり、学生生活最後(じゃないかも)の夏休みなので、絶対に夏フェスに行っておこうと決めていた。

抽選の時期も迫り、一人に聞いてみた。
「なぁ、今年も行くの?」
すると、思ってもない返事が返ってきた。
「昨年はあたしたちのメンツが渋いとか言ってこなかったもんな」
「え?」
違う。そんなことは言ってない。僕はアーティストのメンツが渋いって言いたかったんだ。
僕自身の素を出して嫌われるのは一向に構わないけど、誤解で軋轢を生むのは本意でない。僕は言葉を尽くして弁明した。
「あ、そう。そういう意味だったの、まあまたロッキンの件はLINEで投げるわ」
誤解が解けたようでなによりだった。

斯くして、今年は六人でロッキンの三日目に向かうことになった。
バンプもユニゾンもそんなに聴いたことはないけど、今年はそんな戯言を垂れている暇はない。

前日の夜、僕は「フェス 持ち物」とスマホに打ち込んで検索した。僕は計画的に持ち物を用意することが苦手なので、荷造りを後回しにしていた。すると、「チケット!着替え!飲み物!あとはバイブス!」というフワちゃんマインドのサイトが出てきたので、僕は盲目的にそれを信じることにした。
第一、前日の夜にサコッシュが必要だの麦わら帽子が必要だの言われても無理なのだ。
夏フェス女子必見!みたいなキラキラサイトに対応するには、それ相応の気合いと準備へのモチベーションが必要であり、頭フワちゃんの僕とは到底分かり合えないということを悟った。

「あとはバイブス!」の部分を鵜呑みにした僕は、前日の夜9時に就寝した。もう小学生ではないので、翌日が楽しみな遠足でもちゃんと寝られる。むしろ、当日めいっぱい暴れるための体力を逆算してしっかり睡眠を取ろうと考えられる。大人って素晴らしい。

朝。
僕は2時半に目覚めた。もう一回寝て英気を養おうと思っても、なかなか寝つけない。結局、初の夏フェスへの高揚感に負けてスマホを弄り始めたら4時にセットしていた目覚ましが鳴った。
僕は小学生の頃と何にも変わっていなかった。
高揚感はそのままに、僕は謎のやる気を出して雑炊を作り、なんとなくロッキンLINEに送信した。既読はなかなか付かなかった。もう少し寝れば良かった。

6時に吉祥寺に集合すると、ひとりが車を出してくれていた。自家用車で行くということは、行き帰りの運転手は彼一人ということになる。ありがたい話だ。
車に乗り込むと、少し臭いが気になった。運転手の彼は喫煙者なのだが、彼の家の車は車内喫煙可といういらぬオプション付きらしい。本稿では彼をヤニカス①と呼ぶことにする。ヤニカス①は運転席から右腕を放り出して、煙草をふかしている。非喫煙者が過半数を占める今回の旅だが、車を出してもらっているのでヤニカス①に文句は言えない。ありがたいのだが迷惑な話だ。

いざ出発、という段になって、ひとりが「あ」と声を上げた。どうした、と一斉に彼女の方を向くと、「駐車券を忘れた」と騒ぎ出した。
僕たちは黙った。彼女はテトリスが死ぬほど下手なのでテトリの子と呼ぶことにする。テトリの子は普段気が強いので、ほかの誰かがこういう忘れ物をしたらぶちギレるんだろうな、と思った。
早くも暗雲が立ち込める中、出来ることはまだあるかい?と考えて、僕たちはTwitterを頼ることにした。Twitterには当日の駐車券を余らせていて譲りたいという奇特な人がいるのではないかと考えたのだ。

いた。

しかも、検索する二分前に〈譲ります〉ツイートをしている奇跡。既に二人からのリプライが着いていたが関係ない。リプを送れリプを送れと囃していると、テトリの子が慌てだした。
「ねぇ、鍵って外さないとリプ送れないの?」
「え、鍵ってどうやってはずすの?」
「あーし知らない人に送るの恥ずかしいんだけど」
と、テトリの子がうだうだ言っているのを横目に、タマキンテトリの子のスマホを操作し、「非公開設定をoffにする」ボタンを押した。

「こういう時は金にモノ言わせて勝ち取れ」とヤニカス②が助言し、相場が2000円のところを、テトリの子が「5000円でどうですか?」とリプライを送ると、数分後に返事がきた。
「練馬区で受け渡し可能でしたらお渡しできます!」
僕たちは首都高を回避して下道を進んでいて、ちょうど練馬区を走っていた。なんたる僥倖。すぐさま車を停めて、地の利を活かしてすぐにそちらに向かえます!とリプライを送った。
見事交渉成立と相成った横で、テトリの子は余分に金を払うことになった恨み言をヤニカス②に零していた。

なんとか駐車券を手に入れた一同は、茨城はひたちなかに向かって車を走らせた。
ちなみに、これまで名前が出てきていない最後列の女は、行きの車の中でほとんど言葉を発していなかった。地蔵と呼ぶことにする。眠かったのだろうか。

渋滞に引っかかりながらも和気あいあいとしたドライブは、11時過ぎまでかかった。昨年参加したメンバーの予測と同じくらいの到着時間で、オープニングアクトのモーニング娘。'19には間に合いそうになかった。

第4駐車場に車を入れ、各々手荷物を準備している中で、僕はいろいろと足りないものが多いことに気づいた。
手荷物を入れる小さなバッグがない。日焼け止めがない。帽子がない。
前日の夜に頭フワちゃんで用意した荷物は不完全も不完全だった。とりあえずテトリの子に日焼け止めを借りて、なぜか持ってきていたデカいタオルを頭に被り、同じくなぜか持ってきた2Lのお茶のペットボトルだけを手に持って外に出た。
財布なし。帽子なし。サングラスなし。
さながら竹槍で米軍に挑もうとした日本国民、メイウェザーに為す術もなくボコボコにされた那須川天心、初期装備でドン勝しようとするマゾ荒野行動プレーヤー。勝算はゼロ。それでもやらなきゃならない時がある。それが今だ。

頭にタオル、上半身はリトルトゥースTシャツ、手には2Lのペットボトル、メンタルはフワちゃん。
僕はこんな奇妙な出で立ちでロッキンに挑んだ。

20分ほど歩くと、入場ゲートが現れた。駐車場からの距離でロッキンのスケール感が分かるだろう。
手首にバンドを巻き、マップを見ていると、「ダララレイ、ダララララレイ」という掛け声が聞こえてきた。RHYMESTERの新曲「予定は未定で」だ。LAKE STAGEは入場ゲートの目の前にあったようで、僕とタマキン地蔵はRHYMESTERに誘われてLAKE STAGEに向かった。

M1. 予定は未定で
M2. Future Is Born
M3. ちょうどいい
M4. フラッシュバック、夏。
M5. Still changing
M6. ザ・グレート・アマチュアリズム

とにかく宇多丸のMCが上手い。立て板に水。そりゃTBSラジオの帯も任されますわ。当然のことながら宇多丸もMummy-Dもラップがめちゃくちゃ上手い。「B-BOYイズム」「人間交差点」「ラストヴァース」あたりが聞けなかったのは残念だったが、とにかくアガった。
特にザ・グレート・アマチュアリズムのHOOKで「逆転の思考法」を客に歌わせるくだりは、何とか知っていたのでかなり大声で歌った。
「あれ良かったよなあ?」と後で二人に聞いたら、「さすがにあそこの歌詞まではわかんねーよ」とつれない態度だった。残念。

その後は14時のTempalayまで予定を決めていなかったので、とりあえずGRASS STAGEのKANA-BOONを見に行った。
LAKE STAGEからGRASS STAGEまでは、歩くと15分くらいかかる。そして、なんと言ってもGRASS STAGEは七万人も収容できる大スペクタクルてお送りしている。とにかくデカい。アリーナもデカけりゃステージもスクリーンもデカい。ステージが近づくにつれて高揚感が増していく。東京ドームのコンコースを下りて客席にはじめて足を踏み入れた時、身体がぞわっとするあの感覚に似ている。

M0. ハグルマ(リハーサル)
M1. 1.2.step to you
M2. ないものねだり
M3. なんでもねだり
M4. ネリネ
M5. 彷徨う日々とファンファーレ
M6. 盛者必衰の理、お断り
M7. シルエット
M8. フルドライブ

阿部真央を見に行ったテトリの子を除く5人は、下手側後方の比較的空いている場所に陣取った。
みんな有名曲しか知らないとは言え、やはり四つ打ちの曲は皆の身体が自然と動くようで、縦ノリも横ノリもごちゃ混ぜにKANA-BOONを楽しんでいた。

中でも、僕たちの左側前方では、ひとつのグループが小さなサークルモッシュを作って暴れていた。とにかく楽しそうな陽キャたちは否が応でも目立っていた。
フルドライブのイントロが演奏されると、彼らはツーステを踏み始めた。促されるように後方で僕もツーステをカマしていると、それに気づいたひとりの陽キャに指で来い来いと合図された。ざわつくヤニカス②。一瞬の逡巡。
Aメロが始まり、僕は被っていたタオルを地蔵に投げ、陽キャの輪に混ざってみんなでツーステを踊った。やはり陽キャはフェス慣れしているのかツーステもサマになっている。後ろを振り返ると、4人は笑うだけでツーステには入ってこなかった。冷笑系ここに極まれりである。
もう知らないんだから、と人目も気にせずに踊っていると、サビが始まった。フルドライブ、フルドライブ、という歌詞に合わせて、また別の陽キャが単車を運転する振付に合わせて円を描いて走り始めた。ドライブから単車を連想するところがヤンキー感がある。でも、ヤンキーは一般に仲間には優しい。踊りの輪に入ってしまえばこちらのものだ。僕も大声を上げながら円を描いた。
すると、いつの間にかタマキンヤニカス②も円の中に入ってきた。
こいつらも踊りたかったのか。
未だ冷笑系を決め込んでいるヤニカス①地蔵への憤りと共に、心の中に暖かさがじんわり湧いてきた。

サビが終わると、グータッチハイタッチを交わしながら三三五五各自のポジションへ戻っていく。フェスとは一期一会。
二番のサビでは、マイメンたちと感動の再会を果たして親睦を深めた。Tシャツは何を着てるの?とひとりが僕のタオルを横に除けると、僕の胸に「リトルトゥース」と書かれた黒文字が露わになった。彼は怪訝そうな顔を浮かべて友達の方を向いた。
やっちまった。
そう思いながら、胸と虚勢を張って黒文字を指でなぞる。すると、陽キャのうちのひとりがオードリーのオールナイトニッポンを知っていたようで、「ああ!」というような反応を見せた。
そう。リトルトゥースとは、どこかのバンドのファンの名称のことではないのだ。知っている人がいてくれて助かった。
フルドライブが終わると、僕はHILLSIDE STAGEのTempalayにひとり向かった。

HILLSIDE STAGEは小さなステージで、両サイドに日陰が残るオアシスだ。定刻通りにTempalayが始まった。

M1. のめりこめ、震えろ。
M2. 新世代
M3. 未知との遭遇
M4. my name is GREENMAN
M5. どうしよう
M6. そなちね
M7. 革命前夜

Tempalayは初めて見たのだが、とにかくチルい。のめりこめ、震えろ。は最新アルバムのリード曲で、いちばん好きだ。
身体を揺らしながらサイケデリックに歪んだギターに浸っていると、徐々に眠気が襲ってきた。日陰に移動して、2Lのペットボトルにタオルを敷いて簡易枕を作り、目を瞑る。最高の昼寝。ラストの革命前夜がCメロに差し掛かろうとする頃、僕は微睡んで記憶を失っていった。

気がついたら周りから人がほとんど消えていた。あれだけたくさん人がいたのに、日向も日陰も今はスカスカだ。ステージ上ではヤングオオハラのPAが始まっていた。
そういえば、TempalayはMCがめちゃくちゃ下手だった。まあ宇多さんが上手すぎるのだ。あとAAAMYYYのパンツのダメージ加工が過剰で目のやり場に困った。

とりあえずみんなに合流しようとGRASS STAGEに戻ると、クリープハイプの後半に間に合った。

M6. ラブホテル
M7. イト
M8. 栞
M9. イノチミジカシコイセヨオトメ
M10. 憂、燦々

どっから声出してんだ尾崎世界観。

ラブホテルのサビで「夏のせいにしてもいい、それでもダメなら君のせいにしてもいい」と歌っていて、とんでもない責任転嫁の歌だなと思ったので、帰りの車内でそう伝えたら引かれてしまった。難しい。

MCで世界観が「みんなにも夏のせいにしたいことのひとつやふたつくらいあるよな。…俺もあるよ」とキメた時にヤニカス②が「あいみょーん!」と叫んでいてひとウケを頂いていた。

クリープハイプの後は清水ミチコとユニゾンの二手に分かれて行動することになった。僕とタマキンヤニカス①はPARK STAGEの清水ミチコへ向かった。
思いの外客はパンパンで、開演直前に到着した僕たちは会場の端で見ることになった。

M1. コール&レスポンス
M2. ピアノ弾き語り
M3. 私の好きな声メドレー
M4. 作曲法
M5. 私の夢のロッキンメドレー
M6. 鬼(クリープハイプ) with 尾崎ニセ界観

「ロッキンジャパーン!」という掛け声がブリッジになった暖かい空間。とにかくオモシロに振り切ったステージは圧巻だった。
10代から100歳までを網羅するモノマネでは高畑淳子と黒柳徹子。政治家のモノマネでは田中真紀子。メドレーでは矢野顕子とユーミンと中島みゆき。作曲法は星野源。パンチラインが続出だった。
ラストには新人モノマネ芸人・尾崎ニセ界観を呼び込み、クリープハイプのモノマネ対決。キサラのネーミングセンスでGRASSからPARKに移動してきた尾崎世界観との競演には客も大盛り上がりだった。

大満足の清水ミチコオンステージを終えて、僕たちはGRASS STAGEに戻った。久々に全員が集合して、上手前方でUNISON SQUARE GARDENの終盤を見た。

M9. 天国と地獄
M10. シュガーソングとビターステップ

ユニゾンは代表曲しか知らないのだが、やはりシュガビタの盛り上がりは特筆モノだった。斎藤さんの声の出方は異常。ノーMCであの透き通る高音を出し続けられる喉はもはや怖い。

このあとはGRASS STAGEであいみょんを前列で見よう!となっていたので、全員でぞろぞろ前に向かっていった。

M0. ジェニファー(リハーサル)
M1. 愛を伝えたいだとか
M2. 君はロックを聴かない
M3. ふたりの世界
M4. 今夜このまま
M5. 恋をしたから(Acoustic ver.)
M6. 生きていたんだよな
M7. 真夏の夜の匂いがする
M8. 貴方解剖純愛歌 〜死ね〜
M9. マリーゴールド

歌が上手ぇ

歌手に対して歌が上手いと評するのは如何なものかと思うが、とにかく低音の安定感が抜群。喉からCD音源。人間ステレオ。最強。

曲目も有名所を惜しみなく投入してくれていて、愛を伝えたいだとか、君はロックを聴かない、真夏の夜の匂いがする、死ね、マリーゴールドと全員が知っている曲でぶん殴ってくる。

思った以上に良かったのが生きていたんだよな。ポエトリーリーディングの声の感情の入れ方が抜群に良くて、これまでのポエトリーリーディング観を変えられてしまった。声の低さと世の中への諦観と絶望がないまぜになったあいみょんの声の魅力を再確認した。

大谷翔平のタオルを掲げたファンに対して「いやなんで大谷翔平やねん、同い年やけど」と返す等身大のMC。曲の歌詞を飛ばして「なんだっけ?…あーそうだ」と歌い出す様子。
GRASS STAGEの7万人を前にしても自分を貫く図太さと鷹揚さは見る者聴く者と一体化していた。

ラストはBUMP OF CHICKEN。
薄暮の西日が顔を射す。前列で見ていると意外としんどいということで後ろに下がる。途中で謎のオッサンに絡まれた。謎。
この頃、ヤニカス①はふくらはぎの裏側だけ日焼けで真っ赤になっていた。健康的な日焼けだな。

M1. aurora arc
M2. Aurora
M3. 虹を待つ人
M4. 天体観測
M5. 月虹
M6. 車輪の唄
M7. 記念撮影
M8. 話がしたいよ
M9. リボン
M10. 望遠のマーチ
M11. ray
M12. 新世界
M13. 流れ星の正体
EN1. カルマ
EN2. ガラスのブルース

BUMP OF CHICKENは聞かず嫌いしてきたけど、藤くんの声の透明感に食らった。MCでも藤原はとんでもなくクサいセリフを吐くけど、それでも成立してしまうのが凄い。

曲目は空に関するものが大半だった。いくら聞いてこなかったとは言え、天体観測や虹を待つ人、ray、車輪の唄、カルマあたりは知っている。7万人がシンガロングしている様は圧巻。バックモニターもトリのバンプだけ別格の扱いで、曲ごとにそれぞれ合わせた効果をもたらしていた。
途中で数曲トンでいた気がするが、全体を通してベテランの妙味を見た。

アンコールを求める際は残り4%の充電を惜しみなく使い、スマホのライトをかざして白い光の海を作った。その時、Supernovaの「LaLaLaLaLa HeyHeyHeyHeyHey LaLaLaLaLa WowWowWowWowWow」という掛け声を歌うのだが、僕はその曲を知らなかった。見よう見まねで歌っているうちに楽しくなってきて本意気で歌っていると、Heyの発音で全員が笑い出した。意図したところではない笑いになんだかなぁと憤懣やるかたない思いだった。

ラストのMCでは、藤原が客に思いを語りかける。音楽、客の存在のありがたさをいい声で叫ぶのだが、二人称が全く安定しない。君、あなた、お前。呼称が入り乱れる様は感情とリンクしているようで、同じような内容を長々と話していても客の心を掴んで飽きさせない。見たかTempalay。

打ち上げられた花火の残像をそれぞれの頭にイメージしながら、僕たちは帰路についた。長い一日だったが、その疲労は充実感からくるもので、嫌な疲れではなかった。
…と一日も締めに入っているのは5人だけで、運転手のヤニカス①は帰りも労役が待っている。むしろ、帰りは眠気と疲れとの戦いになるわけで、ここからが本当の戦いと言えるかもしれない。
帰りの席次を決める時に、助手席はタマキンが立候補した。行きは三列目に甘んじていたタマキンが助手席に移動するとなれば、最後列の憂き目に遭う人がひとり生まれるのは必定である。
行きは助手席に座っていたヤニカス②が僕に席を変われと言ってきたので理由を聞くと、煙草を吸いたいからとのたまう。これだから喫煙可能車は、と言いたくなるが、ヤニカス①の車なので大っぴらには言えない。とりあえずジャンケンで席を決めようとなったのだが、僕はテトリの子もジャンケンに参加させて倍率を下げようと考えた。しかし、ヤニカス②に聞いたところ、彼は「…お前はいいよ」と謎のカッコつけを見せたため、その目論見は水泡と帰した。

負けた。

僕は車酔いの恐怖に怯えながら三列目に座った。僕は元来車に弱いのだ。
酔わないために大声で歌った。気を紛らわせるしかないから。たくさん喋った。気を紛らわせるしかないから。そして寝た。起きていなければ酔いも感じないから。
僕は酔わずに東京まで戻ってくることができた。

大泉学園前駅でタマキンヤニカス②地蔵は降り、吉祥寺駅で僕とテトリの子は降りた。
懸念された終電には何とか乗ることができ、1時を過ぎた頃には家に着いた。

結局、頭フワちゃんの超軽装備で臨んだロッキンだったが、熱中症になることもダウンすることもなく、通常運行で楽しむことができた。
「意外と余裕だったな」と昨年の参加者に軽い気持ちで聞いたところ、「去年は風がなかった」「お前は本当のロッキンを知らない」「ナメるな」と散々な言われようであった。どこに地雷が落ちているか分かったものではない。

全体を通して、ロッキンは1.4万円を払ってでも参加する価値はあった。あの日以来、僕はSpotifyでRHYMESTERをリピートしまくっている。
これまで大型フェスに行かずにあれこれ理由をつけていたのは馬鹿らしい、と今では思える。もし、この文章を読んでいる人の中に、フェス行かず嫌いがいたとすれば、この文章がその閉ざされた心を溶かす一助となれたら嬉しい。これからの季節ならBAYCAMPでもCDJでもいい。きっと楽しいよ。きっと。

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