貧乏性と守銭奴

元巨匠・岡野陽一のコラムが始まった。
岡野陽一のオジスタグラム」という名前で、概要は【毎週知らないおじさんと飲みに行って感想を書く連載】と記されている。
既に公開されている初回では、岡野がネタで演じるようなおじさんが早速登場している。蘊蓄をこね回すよりも実物を見てもらった方が早いのでリンクを貼った。面白い。

そのコラムのいちばん最後に、編集のアライと岡野のLINEのやりとりが公開されている。その一部を抜粋するとしよう。

「(前略)アライさん、私は自分で思っていた以上に卑劣な人間のようです。毎日早く書かないとなぁ書きたいなぁと思いながら過ごしていたのですが、やはり鬼のような締切がないと何もやらない人間のようです。なので、非常に言いにくいのですが、アライさんに鬼のような締切を作って頂き、ぶちギレて頂く事は可能でしょうか?(中略)締め切りがないと何も出来ない化け物だったのです。」

その締切(GW明け)から三週間が経った五月末、岡野からアライに締切延長を請うLINEが届いた。
明けて六月三日、月曜日。再三にわたり翌日まで締切を延ばしてくれと頼む岡野。

「明日守らなかったら自害します。」

翌日。

「自害です。」

結局、元々の締切からひと月ほど遅れて初回を出稿した岡野。そんな岡野のスタンスを笑う構成のあとがきなのだが、僕はいたく共感してしまった。

締切が設定されないと何も手につかない。
何事も急かされないとやる気が起きない。
つまるところクズ。

話は変わるのだが、先日、飲み会の中で本当に金を使わないですよね、守銭奴、と罵倒された。
…守銭奴?
確かに金はそんなに使わないし、そんなに使おうとも思わないけど。それは浪費家でないというだけで、守銭奴とまで貶されるいわれは無いのでは…。
守銭奴ってのはサークルも入らず友達も作らずバイトばっかりして大学在学中に150万も貯め込んだ松岡みたいな奴のことを指すんだぜ。

少し取り乱してしまった。
僕は自分のことを守銭奴だとは思ってはいなかったが、確かにそう見えるのかもしれない。

守銭奴とは言わずとも、自分の気質として貧乏性だというのは当てはまるかもしれない。
行動原理において言えば、どうしてもそれをしなければならない理由付けがないとする気にならない。
夏休みの宿題なら九月に入ってから始める。にっちもさっちもいかない状況にならなきゃ「好き」なんざ言えない。中学の時は、夢精してしまうから、と自分を正当化しながらヌいていた。
宿題はともかく、告白もシコることも別に悪いことではないのだから勝手にすればいい。でも、素直にそうできないのが面倒くさいところだ。

そして、その気質が顕著に現れるのが金銭面だ。金銭面で言えば、特に何か自分の中で理由付けがないと金を使う気にならない。
この服は着回しやすいし、これからの季節にあったら便利だから買う。この飲み会は楽しいと思えるから3000円しようとも行く。旅行中に節約するのは本末転倒だから金を使う。
たぶん、僕は「時間」に金を使うことを有意義だと思うのだろう。
思えば、乃木坂46にどっぷり浸かっていた時期も、握手会は行かなかった。でも、ライブや舞台には足繁く通った。
「積む」とか「認知」とかいうオタ用語が飛び交っていた当時でさえ、たった2秒で1000円も消費してしまう、というインフレ具合に手を出すことができなかった。対して、神宮のライブや武道館、アンダーライブには通った。「虹のプレリュード」「墓場、女子高生」「じょしらく」「犬天」…。舞台にも金を落とした。
だから、僕は「時間」に金のリソースを割く。

まだ、ギャンブルに興じる人は理解できる。賭けに勝つか負けるかという瞬間に脳内物質がドバドバ出てくるあの感覚。僕自身が麻雀にハマった時期があったからこそ、軽蔑はしつつも理解はできる。その射幸心が煽られる「時間」に金を払っているのが分かるから。もしかしたら元金以上の金が返ってくるかもしれないし。
それでも、衝動買いをする人のことが理解できない。バッグ、スニーカー、財布…。一時の購買欲に流されて身を滅ぼしていくのは愚の骨頂である。

「でも、財布そろそろ買った方がいいですよ。カードパンパンなのはダサいですもん。」
先述の飲み会で、こんなことも言われた。
僕がいま使っている財布は10年くらい使い続けているものだ。金を入れるものに金をかけるなんて矛盾していると思って、全く買い換える気はなかった。
でも、カードを入れるスペースにいろいろと詰め込んでいた結果、革が広がってしまい、少しでもカードを減らそうとすると、中のカードが滑り落ちてしまうようになった。だから、僕の財布はいつもパンパンなのだ。

この時点ではまだ買い換える気もなかったのだが、続いて詰められた。
「財布とか靴って、意外と見られてますよ。あと、いいモノを買えば長く使えるんですから、ちゃんと買った方がいいですって。」
なるほど。モノを買うにも「時間」に換算するのか。衝動的に買うとか買わないとかそういう見方ではなく、商品とそれを使う「時間」に加えて社会的な評価を買うのだ。

ある種、社会の外にいる岡野や学生の僕は、自分勝手に金や時間を使っている。しかし、社会に出るというのは他者の評価とかそういったモノも勘案しながら金を使い、余裕を持って生きていくことなのかもしれない。
守銭奴、と罵ってきたアイツの方がいささか大人な常識人なのだろうか。確かにあの女は常識人だ。でも、僕はあんな風になれるのだろうか。なれたら楽なんだろうな。

なんてことを思いながら、あした締切の手付かずのエントリーシートにそろそろ取り掛かろうかな、と少し頭を過ぎりつつ、僕はベッドに寝転がってスマホを弄っている。

#エッセイ #コラム #日記 #大学生 #社会人 #乃木坂46 #金 #岡野陽一

ありがとうございます!!😂😂