見出し画像

幸せのかたちに寄り添う映画と音楽の関係

久々のnote更新。映画や音楽をしっかりと書くときはnoteを活用しようと思っています。どうぞよろしくお願いします。

無声映画から声が、音楽がのせられ今の映画があり、その選曲も映画の良し悪しを決めるキーポイントになっていますよね。音楽をのせる以上はそのシーンと相互性を持っていてほしいし、それがばっちりハマったときの素晴らしい光景といったらなんの。映画を観終わったあとも何年もその景色に囚われるのですから、映画と音楽の関係性ってかなり重要。そんな関係性に注目してみたいと思った今日この頃です。

今回は「幸せのかたちに寄り添う映画と音楽の関係」と題して、さまざまな幸せのかたちを教えてくれる映画、そして劇中でお気に入りの音楽をピックアップしました。映像と音楽が合わさることで多彩な意味が込められ、私達の既存の“幸せ”だけでは片づけられないたくさんのものが生まれます。それぞれの幸せのありかを教えてくれる映画、そして映画音楽を3つをショートレビューにてご紹介します。


シェイプ・オブ・ウォーター「You'll Never Know」

byYahoo!映画

観終わった後に幸せでいっぱいになった映画といえば「シェイプ・オブ・ウォーター」。話すことができない主人公イライザとクリーチャーの恋愛模様…と聞くと何とファンタジーな話だと思われるでしょうが、まさしくファンタジーであり夢であるこの作品。愛あり、ドキドキハラハラあり!そして色彩とクリーチャーの造形の美しさに惚れ惚れとしまいます。恋をした相手と生涯を乗り越えて結ばれるというひたすらにストレートな物語ですが、これぞ王道の感動。ゲームのアーカイブを回収するように映画内には伏線やこだわりがあるのでそれをひとつずつ集める楽しみもあるんです。そして劇中にはフランク・シナトラをはじめ様々な古き良きポップ・シンガーたちの曲が流れるのですが、中でも劇中3回に渡り流れる「You'll Never Know」。ルネ・フレミングが歌うのが2回、サリー・ホーキンス演じるイライザが歌うのが1回。「私がどれだけあなたを恋しいと思っているか、あなたは知ることはないでしょう」という歌い出しから、伝えきれないほどの愛を歌う一曲で、本作の監督を務めるギレルモ・デル・トロ監督も「この歌詞は物語にもぴったりで、僕も聴いただけで泣いてしまう」と言うほど。この曲は口では伝えきれないほどの想いを歌にのせて歌うための歌。ルネの艶のある歌声が恋しい思いをそっと撫でるように歌うので、さらに幸せな気持ちでいっぱいになる。誰かを想うことは苦しいくらいに幸せなことだと教えてくれる曲、そして映画であります。完璧でした。


雨の日は会えない、晴れた日は君を想う「Warmest Regards」

byYahoo!映画

「シェイプ・オブ・ウォーター」が“今ある幸せ”とすれば、「雨の日は会えない、晴れた日は君を想う」は“今はなき幸せ”。妻を失くしても泣くことができなかったひとりの男があらゆるものを“破壊”して現実を見つけていく物語なのですが、これこそがこの映画の重要なところ。邦題がこの文章を取りたくなる気持ちもわかりますが(何より響きが良い)、原題が解体を意味する「Demolition」であることに深く納得。当然だったものが当然でなくなる瞬間。すべてを解体してはじめて見つけられるものがある。それを非常にダイレクトな表現で教えてくれる作品でした。そしてジェイク・ギレンホールの合間合間に見せる虚無な顔と最後の笑顔がたまらない。無邪気なジェイクの姿から続くHarf Moon Runによるテーマ曲なのですが、これがあまりに良過ぎて…。主人公ディヴィスの代わりに我々がもう戻らない幸せを噛みしめ涙をするという。劇中には描かれなかった幸せの思い出を私たちは想像することしかできないけれど、愛おしいものであったと思えば思うほど切なくなる。どうすれば失わずに済んだのだろうとさえ考えてしまう。けれどそれもすべて解体することでしか見えなかったのです。そしてそれが次へ進むための一手となり、けしてバッドエンドではないというのが最大のポイント。こうして幸せを振り返られる今が、ある意味“幸せ”を取り戻したタイミングでもあるのです。エンディングの余韻含めて本編であるのが今作なのだと痛感。ギルバート・オサリバンの「Alone Again」を彷彿とさせるあたたかくやさしい声とメロディに心ほろり。もう本編観なくてもこの曲だけで泣けるぞ!とおすすめしたいくらいに美しい曲です。


ダンサー・イン・ザ・ダーク「Cvalda」

byYahoo!映画

ミュージカルというにはあまりにビョークそのものな楽曲が目白押しの『ダンサー・イン・ザ・ダーク』。ビョーク演じるセルマが不幸に苛まれていく…といえば間違いではないけれど、そもそも希望などはじめからないのが、この作品が他作品と大きな一線を画すテーマだと思います。人生の使命を果たし、時折解放されるように歌い舞い踊るのみ。だからこそエンディングが来たあとはすぐに悲しみがやって来ず、エンドロールが進むごとに時間を経てじっくりと重みが増してゆくのです。各楽曲とても印象的で、ビョークの歌声が張り上がるごとにいたたまれないほど苦しいい気持ちになっていくのがさらに魅力的。中でも工場音から紡ぎだされる「Cvalda」は音楽が生まれていくさまが楽しく、まさにミュージカルとしてぴったりのナンバー。しかし武骨なインダストリアル・サウンドに夢が重ねられていき、ビョークならではの独特なリズム感が加わる様は唯一無二。そして何より笑顔で踊るビョークが愛らしいですよね。本編を見た後に聴くと、盛大に歌い上げたあとに絶望が押し寄せることを想像するととても辛いですが、喜びと悲しみの局地的表現は紛れもないミュージカルの真髄を貫いたアプローチなのでこれも一興なり。この曲の間だけは、セルマは天国にいるような幸せを感じているのですから。


3つの異なる幸せ。それぞれの幸せのありかを教えてくれる映画音楽には、本編を見ずに聴いているときにも心を震わせられます。音楽が良いのはもちろん、映画のワンシーンを鮮明に思い出しては涙しそうになるのです。相互性のある映画音楽の力はこれほどまでにすごいのかと感動。映画音楽を聴きながら映画の内容をじっくり解釈してみたり、思い返したりする時間ってとても楽しいですよね。映画からたくさんの幸せを学ぶとともに、今自分にある幸せを、音楽ののせて慈しんだり、映画にできるくらい大切にしてやろうと思うばかりです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?