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片道切符

僕の右手には、運賃も到着駅名も書かれていない切符が1枚。

これは魔法の切符。
好きなところに、Suicaもパスポートも許可証もなく行ける不思議なアイテム。

ただし、片道だけ。
もうここに帰ってくることは出来ない、という制限つきのもの。

僕は、自分の手のひらの上にある切符をまじまじと見つめながら、どこに行こうかと考えた。


今いる場所に留まる理由は無い。
離れることへの未練も無い。
近距離移動では勿体ない。
隣県?地方をまたぐ?それとも国境を越えようか?

どうせ行くのなら、
まだ誰も見た事のない世界に行きたいと思った。

でも、今僕がいるこの地球上で、
人間が見た事のない世界ってどれくらい残っているのだろう。


例えば、海の一番深いところまでは、まだ誰も行ったことが無いらしい。
マグマの中なんて、好き好んで行く人間はいないだろう。
天体望遠鏡で見ることの出来ない宇宙の姿も気になる。
あるいはミクロの世界だろうか。
それとも次元の狭間?あの世の世界?天国?理想郷?

そう考えてみると、意外とまだたくさんあるように思えてきた。

『そんな有るか無いかも分からん世界に行くなんて馬鹿じゃないの?』
とも思われそうだけれども。

『無い』って言うのは、『今はまだ誰も知らない』ってだけ。
実は『有る』かもしれない。
おとぎ話のような、摩訶不思議な世界が。

だから僕は、何も書かれていない片道切符を握りしめて、青空に向かってこう叫んだ。


「まだ、人間が見た事のない世界に連れて行ってください!」


片道切符は1枚。
だけど行先が一つとは限らない。

誰も見た事がない世界を巡り尽くすまで、僕の魔法の切符は無くならない。

この身一つで、どこまで行けるだろう。
ワクワクが止まらない。

今日が僕の、先の見えない冒険始まりの日。


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