「先生の1番好きな英単語は何？」

「Ordinary. 平凡な毎日が1番大切なんだよ」

彼は2001年9月11日、911が起きた日、ワールドトレードセンターで働いていた。
高校生の私がこの質問を投げ掛けた2007年は、日本に戻り銀行員から英語教師となっていた。

「家の中が1番平和だよ」

ワルシャワで暮らしていた頃、1人のポーランド人が呟いた。

ポーランド語で「平和」を意味する単語は“pokój”。そして”pokój”は「部屋」という意味も持つ。

止むことなく隣国から攻められていた歴史を持つ国が「平和」に込めた意味の重さは、それを知った当時の気持ちを未だに表現できないほどである。

わたしは刺激的な日々が好きだ。でも、それは恐らく何かしらの「平凡な日常」を前提としたプラスアルファの刺激を指しているのだ。
刺激とは言えども、何のストレスもなく動かせる身体がある毎日を、何の事件も起きずに迎える1日の終わりを壊すような刺激を求めているわけではない。当然ながら。

いつまでも忘れられない2つの会話。別段悲観的になるわけでもなく、楽観的になるわけでもなく、何かの折につけて思い出すのだ。
そして考える。私にとって1番好きな言葉って一体何なんだろうな、と。