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七色のポエジー(書きとめておきたい古今東西の詩句)

第264回 旅人かへらず(西脇順三郎)

この永劫の水車
かなしげにまわる
水は流れ
車はめぐり
また流れ去る
 
 昭和の詩人、西脇順三郎(1894~1982)の連詩『旅人かへらず』165番から。西脇は戦前から戦中にかけて多摩川周辺を頻繁に散歩した。そこで出会った人々に同化してそれぞれの視線で世界を観る。その世界観が168篇の短詩として表現される。
 西脇は新潟県小千谷で小千谷銀行頭取の三男として生まれた。慶應義塾大学に進み、英文学や仏文学に傾注する。卒業論文はラテン語で書いた。卒業後、ジャパン・タイムズに入社するが、健康を損ね郷里に戻る。
 1920年、慶應大学の予科教授に就き、英語の詩を文芸誌に発表するようになる。1922年には英国に渡り、オックスフォード大学で学ぶ。1925年に出版した英文詩集の書評がタイムズ紙に出て声価を高めた。
 帰国後も慶應大学の文学部教授を務めながら詩作を続け、1933年に発表した詩集『Ambarvalia(アムバルワリア)』が萩原朔太郎や室生犀星から絶賛された。戦時中は詩の発表を控え、戦後まもなく『旅人かへらず』で詩壇に復帰する。それからは日本を代表する詩人として国際的に活躍し、1950~60年代には度々ノーベル文学賞候補に挙げられた。

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