【初心者歓迎とは?】顧客争奪戦における最適戦略に関するゲーム理論的分析

この記事を理解すると、以下のような疑問に対する回答が得られます:

最大与党と最大野党、舌戦している割にはマニフェストを読み解いていくと、なんとなく内容似通ってない?(労働者の賃金を上げます!子育て支援を充実させます!…)
・家電量販店や百貨店が、競争の激しそうな特定エリア(家電量販店なら新宿、秋葉原など)に集中するのは何故か?
ニッチ戦略はどういう時に有効なのか?

本記事は、特定の麻雀店(の経営方針)を支持/批判する目的ではありませんが、説明するにあたってのサンプルとして適切と考えたため、

麻雀店A:とにかく初心者が最優先
麻雀店B:初心者~上級者まで、誰でも歓迎

という2つの麻雀店と顧客の属性(初心者~上級者=スキルレベル)を仮定して解説していきます。


顧客の分布とターゲティング

顧客属性を、初心者~上級者=スキルレベルで仮定しますと書きましたが、横軸にスキルレベルの代用として偏差値、縦軸に人数としてグラフにプロットすると、どのような分布になるでしょうか。

グラフ1:麻雀スキル(=偏差値)と人数

偏差値を横軸に取れば、当然ですが50を中心とした正規分布に従います。

偏差値は、平均値50±10 の範囲に全体の約68%が含まれる事が知られています。ここで、偏差値40以下を初心者、40~60を中級者、60以上を上級者とするとこの様になります。

グラフ2:初心者~上級者の分布

ここで、麻雀店ABそれぞれのターゲティング戦略を考えて欲しいのですが、

麻雀店A:とにかく初心者が最優先
麻雀店B:初心者~上級者まで、誰でも歓迎

どの辺りの客層を軸として営業している事になるでしょうか。
おそらく、この様なイメージになる筈です。

グラフ3:麻雀店のターゲティング

さて、ここで問題となるのが、A(緑)とB(黄)で比較した場合、例えば、偏差値45の人に向けたサービスを"より"提供している麻雀店は、どちらであるか?という点です。
※ ノーレート前提

答えは、B(黄)です。
緑の軸線と黄の軸線、偏差値45の人にとってどちらが近いかを考えると黄の軸線ですよね。お店の『コンセプト=軸』に近いかどうかという、シンプルな話です。

逆に、偏差値30の人にとっては、A(緑)の軸の方が近いでしょうから、Aの麻雀店の方が偏差値30の人に向けたサービスを提供していると言えるでしょう。


顧客争奪戦という観点での最適な戦略は?

ここで、

・顧客の麻雀スキルは正規分布に従う=平均的な顧客が偏差値50と仮定
・世の中には2つの麻雀店しかない

このようなケースを想定した場合、2つの麻雀店はどのような戦略(軸をどこに置くか?)を取るのが合理的なのでしょうか?

この場合、2店舗とも

麻雀店B:初心者~上級者まで、誰でも歓迎
(偏差値50を軸にする)

になります。

お店の『コンセプト=軸』に近いかどうか、という話をしましたが、偏差値50=一番人数が多い部分から軸がズレてしまうと、一番美味しい部分を相手に取られてしまう訳です。

グラフ4:戦略=軸の違いによる顧客争奪戦の結果

グラフ4は、偏差値50を軸にする麻雀店と、45を軸にした麻雀店が獲得する顧客の数(=面積)を表したものです。黄色の面積の方が少しだけ大きい事が分かります。

顧客は、自分により近いコンセプト=軸のお店に行くので、47.5を境界に行く店が分かれる事になるのです。

つまり、両店舗とも偏差値50(一番人が多いところをターゲットとして)を軸に、『全く同じ戦略で戦うのが最も合理的』という結論になるのです。


ここで、冒頭の

最大与党と最大野党、舌戦している割にはマニフェストを読み解いていくと、なんとなく内容似通ってない?

という話を思い出して欲しいのですが、結局のところ、支持を得ようとする(=多数派の賛成を得ようとする)とターゲティングを突き詰めていく事で似通ったマニフェストに行き着いてしまうのです。


顧客の定義を拡大して検討し直す

顧客の属性を麻雀スキルの高低による偏差値で定義してきましたが、現実に即しているでしょうか?

麻雀の能力を客観的に測る指標があったとして、それを比較すれば偏差値にプロットする事は可能でしょう。例えば、ネット麻雀の安定段位など。しかし、ネット麻雀をやらない人もいるし、そもそも致命的な欠陥があります。

それは、麻雀を全くやった事がない人=潜在顧客が考慮できていない、という事です。

(だったら、最初から偏差値なんか使わずに、考慮した指標で説明しろや!と怒られそうですが、、。)

顧客争奪戦=面積の陣取りゲームであるという説明を視覚的にするのに正規分布が便利なため、意図的に選んでいるので許して下さい。

つまり、麻雀を全くやった事がない人を考慮すると、こんなイメージになるでしょうか:

グラフ5:潜在顧客まで拡大すると?

麻雀を全くやった事のない人の内、どの程度が顧客になるかは未知数ですが、グラフ4までの顧客争奪戦=面積の陣取りゲームと、グラフ5におけるそれとでは、意味が異なる事を理解できるのではないでしょうか?


顧客の属性を一次元から多次元化する

ここまで、麻雀店の顧客(潜在顧客を含む)を麻雀スキルの高低という一次元で考えてきました

実際の顧客は、初心者~上級者というレベルの違いに限定されない事は、言うまでもないですよね。

・お店が清潔な方がいい or 安ければなんでもいい
・仲良くワイワイやりたい or 黙々とひたすら打ち続けたい
・近所で打ちたい
・カラフルな牌を使って、いろいろお祝いしながら遊びたい!!!
・…

等々、顧客側にも様々なニーズがあるのです。

(3Dグラフを描画するのは面倒なので、これ以上グラフは提示しませんが)

例えば、麻雀スキルと地域という二つの軸で考えた場合、これまで説明してきたグラフが地域毎にあり、地域毎に『麻雀スキルの観点』で面積の陣取りゲームをする事になります。

ここで考えて欲しいのは、東京(既にライバルが1店舗いる)と、例えば鳥取(ライバル不在)のどちらに出店すべきか?という話です。
※コストは度外視

既にライバルがいる東京:市場規模1000万円
ライバル不在の鳥取:市場規模400万円

顧客を同条件で奪い合う前提として、東京に出店する方が得なのです。ライバルと半分ずつ、500万円の市場規模が顧客として見込めるからですね(鳥取は独占しても400万円しかない)。

つまり、家電量販店が新宿・秋葉原などの特定エリアに集中するのは、このような原理が働いているからです。

鳥取に出店するのが有利になるのは、上記のような市場規模を前提として、東京に既に2店舗が出店していて自分が進出しても3店舗で分け合って333万円だけど、鳥取なら400万円を独占できる!!!

という状況なのです。これがニッチ戦略です。

地域に限らず、様々な顧客ニーズにおいて同じ話ができ、例えば初心者を独占しても利益に寄与しないなら、ビジネス的に重視する意味は(※あまり)ありません。

誰もやっていない事があったとして、誰にも気付かれていないチャンスなパターンと、やっても意味がないパターンとあるという事ですね。

※ 利益追求だけがビジネスの目的ではないので注釈を入れています
※ 大谷翔平が『野球を通じて感動を与えたい』と言ったとして、給料貰わずにボランティアでやれ!と言う人がいても賛同できないですよね。

いずれにせよ、顧客ニーズは多種多様なので、それらが複雑に絡み合って(=多元的に)需要と供給を満たしているという事を理解して頂ければ大丈夫かと思います。


余談

どの麻雀店が初心者向けかどうかみたいな話で、X(Twitter)で見かける主張の殆どが絶対評価ばかりだったけど、

競争相手がいる状況であれば相対評価が適切なんじゃないかな~と思い、書こうと思った次第です。

ゲーム理論とは、社会や自然における複数主体が関わる意思決定の問題や行動の相互依存的状況を数学的な数理モデルを用いて研究する学問である。

https://ja.wikipedia.org/wiki/ゲーム理論


…書きたかっただけで、誰が読むんだろう。

まぁ、マーケティング基礎みたいな部分もあるし、その辺に興味ある人にお役に立てれば。


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