AI ブームの限界,AI+クリエイターの時代と企業形態



ChatGPTが流行り過ぎているとして敢えて「ChatGPTブームの終わり」を予測・批判している記事があったので要約・紹介・コメントする(要約の部分はかなり書き換えた).なお,最後はクリエーター業界.ここで言うクリエーターは漫画・ゲーム業界のそれ.

クリエイターの時代
Updated by Ryo Shimizu on March 11, 2023, 15:48 pm JST

1. ChatGPTはそれを組み込みサービスとして利用する個人・企業にとっては一時的な宣伝効果にはなるだろう.


個人開発者でも大きめの会社でも(たとえばnoteのようなblog-service新興上場企業やSlackを傘下に入れたSalesforceのような大企業),かなり簡単にChatGPTを自社のサービスに組みこめてしまうようだ.つまり参入が容易,しかし,これは逆に全く差別化にならないということ.要するに,一時的な宣伝効果にしかならない.

2. サービス利用者にとっての意味は当人のレベルおよび使用目的次第.

他方,サービス利用者にとってはどうか? 大半のものにとっては意味がほとんどない.一般論はともかく,ChatGPTおよびそれが組み込まれたサービスを使って生産性が上がるかどうかは微妙である.

なぜか.そもそも文章を書くことを仕事としかつ有能な人間にとっては,この種のものが役に立つ局面はごく一部だからである.そういう人の場合,全体としての劇的な生産性の向上・効率化はありえない.極論すればこの種のツールは無くても済むレベルであろう.

3. 新人研修の一部として使えるか


役に立つ例としてよく出てくる,「議事録を取る」「要約する」「ネタだしをする」という作業はどうか.これは,直截に言えば新人研修の一部用か,新入りアシスタント用途である.

つまり,かれらがこういう行為を通じて「仕事のながれを覚える」つまり一般的なオン・ジョブトレーニングで使える.

また,硬直化ゴッコに陥ってない会社でいい意味でフォーマットが細かく決まっていない議事録が通例となっている場合,議事録というのは,かれらが創意工夫を凝らして作るものである.要約もネタだしも同様.これらの仕事は新人・新入り教育の一環であり,要約されたものを見る側の人が「ちゃんと会議の内容を理解してるな」と確認するためのもの.それ以上のものではない.

4. 新人研修の次の段階


これを一般的にChatGPTに任せるとどうなるのか? 元記事の筆者の洞察の先を考えてみよう.

研修は今以上に形式化・無意味化しベテランによる確認はされなくなる.次第にコピーマシンに人間が代替されて社員がいなくなる.今以上に,もっともらしいが劣化コピーと言い訳に過ぎない文書とアイデア? の山が,もっと巧妙な薄化粧を帯びるだけ.

5. プロおよびプロ+アシスタントのチームにとっては福音か


うまく使うとすればどういう形態か.この記事の筆者が挙げているのはクリエーター・漫画家である.

こういう人たちにとっては、ChatGPTはある種のペインを解決してくれるだけではない.クリエイターとしての能力が高い人のほうがChatGPTをうまく使え,能力の差をより広げるものになる.

それを示す,とある週刊連載漫画家の発言が紹介されている.

AIの作画は,いずれ時間の問題で上手くなる.もしもそうなったら、俺は漫画家じゃなくて漫画 原作者になりたいよ。描きたい漫画、いっぱいあるから。自分で絵まで描いてると 描ききれないくらいアイデアがあるからさ

まさに,才能がある人にとってAIは福音としか呼べないもの.また,有名な漫画編集者の佐渡島さん曰く

ChatGPTに あらすじを考えさせるとだいぶ面白い、そのまま使えるようなものが出てくる

だれが試しても面白いあらすじが出てくるわけではなかろうが、上級者になると最初からおもしろいあらすじを出せるようになるのだろう.

つまりこれは結局のところ使う人の想像力の差なので,普通の人たちは結局最初から対抗できなくなる.トップクラスの漫画家が「めちゃくちゃ面白い漫画」を量産し「早く綺麗に」仕上げるためにAIを使役するという構図.漫画家に限らず,クリエータ一般に及ぶだろう.

6. 脇道:GPTが「Transformer」である限り


以下の部分は脇道の論点.

GPTがあくまでも「Transformer」である限り,パラメータ数が増えようとシーケンスが伸ばせなければあまり意味がない.にもかかわらず,GPT2→GPT3→ GPT4へのパラメータ数の桁違いの増加への傾注は信頼性の向上に結びつかず,GPTシリーズが扱えるシーケンスの長さが固定されているので,長い会話が成立しにくくなることの方が不安という懸念がある.

パラメータを増やせばいいというものではないことは,
StableDiffusion2.0が却って退化した部分もあり,今はSD1.5を各自のデータでファインチューニングしたり,LoRAなどの技術と組み合わせたりする方が狙い通りの絵が出しやすいことが知られている,ことでも明らかである.

また,計算量がO(N*N)のTransformerにかわりHyenaという、O(N*logN)で済むアーキテクチャも出てきた.それは同じサイズのGPTモデルと匹敵する精度でありながら100倍高速で,しかもシーケンス長が長くなればなるほど速度差は開いていくようだ.

7. 漫画家とクリエイターの業界


元の議論,漫画家とクリエイターの業界に戻る.

大企業にとって、規模の差がそのまま性能の差になるような"ゲーム"は戦いやすいが、…

日本の問題はこの業界の大企業化,規模の拡大・分業化・効率化の推進の不徹底ではなかろうか?

日本のように、漫画家やそのほかのクリエイターが、独立した個人として立っていて、アイデアひとつで巨万の富を生み出すようなビジネスのやり方は世界的にも特殊である。

それはそうだとしても,何時迄も特殊性に頼って済むわけが無い.過去の有名な漫画家やジブリの成功はもはや昔の話.問題は今,これからどうするか? どう進むか…

ヒット作が現れるプロセスは大企業であっても完全にはコントロールできず、天才と呼ばれる漫画家でも同じ人間がヒットを連続させることは極めて難しい。

当たり前のこと.しかし,いきなり以下の筋は大企業はダメと偏向して初めから結論が固定されている.どちらかがベターという話では無い.

こういう勝負になると規模の経済が通用しなくなるので、特に大企業のような仕組み・・・誰が指揮を取っても安定的に成長するような仕組み・・・では太刀打ちできないということになる。

で,いきなり,タレント豊かな漫画家とそうで無い人との比較に話が飛ぶ.

簡単に言えば、佐渡島さんがAIを使って作る漫画は次のワンピース並みのヒットになる可能性はあるが、普通の人が…

で,筆者のお勧めはこうなる.

結局、クリエイターの「個の力」が何百倍にも増幅されるだけなので、クリエイターはAIをおそれるのをやめていち早く「どう使えば自分が楽をできるか」を考えるように舵を切った方がいい。

それはそうだとしても,私の展望はこうだ.

大企業化・小企業・個人事業はそれぞれ頑張るべき.但し,後2者は自由かつある程度安定的な形で前者に組み込まれる.両者の利点を活かした形で.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?