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今年やりたい守備が一番できたのでは?(2021/5/22 浦和vs神戸)

浦和はこれで今季2度目の3連勝。しかも、今季はここまで自分たちよりも下の順位のチームにしか勝てておらず、鳥栖、横浜FM、川崎、セレッソ、福岡と自分たちと順位が近い、あるいは上の順位の相手には敗れてきていただけに、試合前は7位神戸、8位浦和というい並びだったこともあってこの試合で勝てるかどうかというのがここから浦和がさらに上を見て行けるのかどうかの試金石だったかなと思います。


前半は神戸がボールを持ち、浦和が自陣に押し込まれる時間が続きました。これは神戸のビルドアップがボランチの山口がフェルマーレンの脇に下りて、さらにイニエスタもボールの位置に合わせて浦和の中盤ラインの前後でプレーすることによって、浦和としては前に出て行ってもなかなかプレッシングに行けなかったのかなと思います。

20分過ぎからは汰木や田中達也が3枚になる神戸の最終ラインに対して2トップに加勢する形で縦スライドする場面も出てきますが、神戸はSBが幅を取ってSHが内側に入るのが基本陣形で、浦和のボランチ脇にSHが入ってくることで縦スライドで出て行った選手の脇からボールを入れてプレス回避が出来ていました。

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ただ、神戸は後方で人数を使ってボール保持を高めることの引き換えとして、浦和の1stラインを突破してからゴール前に迫るための人数は減っており、さらに浦和も中央のスペースを最優先で消していたことで神戸の前進経路は一旦ハーフレーンから外側になるため、ゴール前までボールが運べた時には浦和の選手はペナルティエリアにDF-MFのブロックで構えることが出来ていました。

押し込まれていたとしても、あれだけゴール前に人垣を作ることが出来ればなかなか突破ルートやシュートコースは空かないので、ボールを持つ時間こそ神戸は長かったですが、決定機というのは山川が佐々木を追い越して浦和の左サイドを突破して古橋がシュートを打ったシーン程度だった気がします。

浦和とすれば数的不利に対して無理に突っ込んでスペースを作るよりは、埋めておくべきスペース(特に古橋が走り込みたい裏のスペース)は埋めておこうという意識もあったのではないかと思います。福田さんは「イニエスタがいることで神戸をリスペクトしすぎているのでは?」と言っていましたが、イニエスタ以上に古橋のスピードへのリスペクトもあったと思います。


また、神戸の保持の時間が増えたのは浦和のビルドアップが上手くいっていなかったことも要因に挙げられます。

序盤は最終ラインを左上がりにして槙野、岩波、西の3枚とその前に阿部と敦樹を並べた3-2の配置でスタートしますが、神戸はSHとSBの縦スライドが早く、特に左側は古橋が西、酒井が田中へ素早く出ていくことが出来ており、2ボランチの部分をイニエスタと郷家がチェックします。さらに縦スライドしたSBの背後にはCBが素早く横スライド、イニエスタと郷家の背後から脇(ハーフレーン)は山口がカバーと、神戸としては浦和の配置がハマりの良い状態だったと思います。

そのため、浦和は17分ごろから阿部が最後尾に落ちた3枚にしたり、飲水タイム以降は阿部か敦樹がイニエスタとリンコンの間に立つことを意識して最後尾を岩波と槙野の2枚にしたりして西を少しずつ前目の位置へズラしていきます。

スタートポジションが大外の田中も西が前に出てきた時にはそれに合わせて内側にも移動する必要が出てきますが、田中の得意なプレーは狭いエリアでターンしたりすることではなく、広めのスペースがあるところへ槍のように出ていくことなので、西とのポジションの入れ替わりであったり、神戸のどんどん外側にも人をかけてくる守備対応であったりは彼を苦しめたような気がします。


それでも、西を前に出して2-3-5のような配置にすることでトランジションが安定し始めて徐々に浦和がボールを持つ時間が増えて行きましたし、40'20~のように浦和のプレッシングが菊池に狙いを定めて、ユンカーと武藤がなるべく菊池の方へボールが行くように、そして菊池がボールを持ったら内側には戻せないように寄せて行く場面が増えて行きました。

序盤こそあまりうまくいかないなという感覚の展開でしたが、徐々にビルドアップの配置を変えたり、プレッシングの狙いどころを掴んだりすることで試合の流れを引き戻し始めて前半が終了。


後半になると両チームとも変化がありました。

まず浦和は小泉と柴戸を投入。これがいきなり効果を発揮しました。後半開始早々に小泉が飯倉に対してフェルマーレン側へのパスを絶対に通させないように寄せてボールの回収に成功します。そして柴戸はビルドアップでピッチの中央に定位することで岩波をプレッシングから解放し、前線にボールがある時のビハインドサポートも行うことが出来、その流れであっという間に先制点を挙げることが出来ました。

柴戸のアンカーとしての振る舞い(ターンやそれを可能にするポジショニング)は今の浦和では随一で、彼がいるかいないかでビルドアップの安定度合いはかなり変わるんだなと思いました。阿部と敦樹の組み合わせの時にどちらかをこの役割に定位させることがあまりないのは、それぞれの特徴を考慮してあまりやらせないのか、まだ阿部や敦樹が動きすぎてしまうのか、どちらなのかは分かりません。これはもう少し試合をこなしていく中で見えてくると良いなと思います。


後半は浦和のボール保持が安定し、神戸はなかなか決定的な場面を作れなくなっていきましたが、これはリカルドの修正力だけでなく、神戸の方の後半の変化も要因だったように思います。

前半に神戸がボール保持を高められた要因は山口が最終ラインに加わって明確な数的優位を作ってビルドアップをしていたことでした。後半になると山口が下りることがなくなり、浦和の2トップとボランチの間のスペースにいることが増えました。

もちろん、前半の終わり際には数的優位を作っても菊池から残りの2枚の方向へのコースが切られ始めていたので、それなら後ろに人を残さずに中盤から前を分厚くしようという意図があったかもしれません。ただ、浦和とすれば切らなければならない場所が減った分、小泉とユンカーのプレッシングの躍動感が目立つようになったと思います。


小泉のプレッシングでの誘導についてもリンクするのですが、これに関連して、この試合では浦和の守備が非常に上手く機能していたというか、どうやって神戸がゴールに迫るのを阻もうかという意図が見えやすかったと思います。

3月の月報記事で今年は相手から幅を奪う守備をしていると書きましたが、この試合はそれが分かりやすいシーンがあったのでいくつかピックアップしてみようと思います。


◆54'40~

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ユンカーはピッチの内側から外に向かって、フェルマーレンの横から右足の前の方へプレッシングをしていきます。この時、田中と柴戸が内側にポジションを取っているのでフェルマーレンとしては左足を振ってピッチの中央へボールを入れるようなコースが無いので、ユンカーが出してきた矢印に沿うように外へ開いた山口へパス。

山口にパスが出たら田中が今度はユンカーと同様に内側から外に向かって山口にプレッシングしていきます。ユンカーはフェルマーレンにプレッシングした流れで山口の方まで詰めており、小泉も山口から見て内側のパスコースになり得る郷家へ向かって詰めているので、山口は内側にはボールが出しずらく、空いている外レーンの縦方向のパスを選択。

酒井がこのパス方向へ流れていましたが、柴戸がこれについていって内側へのターンは許さず、外レーンの縦方向では西がスタンバイ。さらに田中が山口へ寄せた流れでプレスバックも敢行しているため、狭いエリアで1vs3のような状況を作ってボール奪取に成功しました。


◆72'50~

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初瀬、フェルマーレンに対して関根とユンカーが縦を塞いだことで菊池にボールが出ると、小泉は菊池に内側から寄っていきます。しかも小泉がいやらしいのは菊池に寄った時に一度内側を完全に塞いでから菊池の後ろ側(バックパスのコース)を切っていったことです。これによって菊池は内側にボールを戻せなくても縦方向は開けているので酒井へそのままパスを出します。

菊池からのパスが少しずれたこともありますが、明本が内側から外に向かって酒井へ寄せて行ったことで酒井もボールを逃がせる方向は縦方向だけになります。

そして酒井の前のスペースに流れた郷家に対して、敦樹が内側からついて行くことで郷家が内側を向けなくなり、縦方向を塞ぐように立っていた山中で行き止まり。


前からのプレッシングはCBに外方向へボールを出させて、SHとボランチがそのままボールを内側から外方向へ寄せることでボールをどんどん外側のレーンに押し込みます。外側であれば中盤のラインを越えるところまでは許容して、最終的にSBが縦を塞いで行き止まりにするというのが再現性高く表現できていたと思います。

試合を通して中盤ラインまでは縦方向にはいかれても良いから内側に戻させる、あるいは逆サイドまで振らせるというのは防ぎたいという寄せ方をしていました。

最後に41'50~を取り上げて終わろうと思います。

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山口から郷家へ内向きのパスが出た時に敦樹は郷家の縦を塞ぐのではなく、最初の位置関係のまま出ていくことで郷家が中央や逆サイドへ行かないように仕向けます。

郷家としては縦方向が空いているのでそのままリンコンへパスを出しますが、ここに対して阿部と敦樹のプレスバックとリンコンについて行った西で挟み込みます。

ここでリンコンが上手くターンして1vs3を外されてしまいますが、西がリンコンへ寄って行った時もリンコンよりもピッチの中側へ寄っているため、ターンは外向きになってリンコンが前へ進んでいこうとしても西、阿部、敦樹がそれぞれピッチの中方向へ向かって動けています。

結局神戸の選手が進んでいく方向(ゴール方向)には浦和の選手が待ち構えられている状態なので、ペナルティエリアまでボールは運ばれたものの大きなピンチにはならずにボールを取ることが出来ています。


このように、今年の浦和の守備において相手に縦方向に進まれていることは決して悪いことではありません。特に外側のレーンでボールを持たれいている時は最終的にSBで行き止まりに出来ているか、そこに向かってボランチやSHが集結して相手を閉じ込められているか、というのがポイントになる気がします。

そして、相手の裏のスペースへ抜けて勝負したい古橋にとっては相手が縦方向に進ませたくないと思ってラインを上げて深さを奪いに行くほど好都合で、この試合の浦和のように縦には進まれてもOKなのでラインもあまり上げすぎないという相手はやりにくかったのではないかと思います。


次の相手は広島です。仙台やガンバのように結構人に食いつく守備が特徴的なチームであり、スピードのある選手の突破が攻撃の特徴です。適切なポジショニングで相手をずらして攻めたい、相手の縦方向のスピードは吸収して守りたいという浦和のやり方には相性が良いはず。セレッソ戦で成し遂げられなかった4連勝を是非掴んでもらいたいですね。


今回も駄文にお付き合いいただきありがとうございました。

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