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【雑感】2022/8/25 全北現代vs浦和(ACL-SF)

以前、J SPORTSの「foot」という番組内だったと思いますが、DonDokoDon・平畠さんとペナルティ・ワッキーさんの2人がJ1全試合観てる的な話をしているときに、観始めると各クラブの試合が連続ドラマのような感覚になって、年数を重ねるとそれがシーズン2、シーズン3のようになっていってより面白く感じるようになるといった表現がありました。

観る人によって「浦和レッズ」という連続ドラマが今季はシーズンいくつなのか違うと思いますが、多くに人にとってこの試合はいわゆる「神回」としてずっと記憶に残り続けるようなものになったと思います。


全北は攻守ともにオーソドックスな4-4-2というか、どこかの局面に明確な強みを作るというよりは、各局面で対面の相手に打ち勝つということをベースにしているチームに見えました。

非保持は4-4-1-1か4-4-2でスタートして、1枚を岩尾番に据えて、もう1枚は岩波とショルツの間から横方向に追いかけてこの2人を分断するという設定にしておいて、そうするとCBが1枚余った状態かつ、各所でマッチアップが作れるというイメージだったのではないかと思います。


浦和の方はこれまでの試合と同じような感じで4-1-2-3の配置がベースにしながら左側は大畑が相手の中盤にもぐっていくように前に出て行って関根か大畑が内外を入れ替えることで小泉が少し中寄りになって、右側は酒井が手前からスタートしつつ、敦樹、モーベルグとポジションを入れ替えていく流れでした。

酒井が手前からスタートすることによって全北の左SH(21番)は中盤ラインの中では1人だけ前目に立つようになっていて、そうするとIH化した敦樹はその背中、左CH(28番)の脇のスペースでフリーになることが多かったです。全北のCHとしては自分たちの周辺に関根or大畑、小泉、敦樹の3人が立つので、ここはどうしたものかという感じだったのではないでしょうか。

先制点の場面はボールパーソンのナイストランジション、モーベルグがスローインして敦樹が受けに行ったので左SBと左CHを引き出せたこと、それによって空いたハーフレーンのスペースに酒井が相手の左SHより早く飛び込んだこと、これらが重なった突破だったと思います。

ただ、浦和が相手の構造によって生じるジレンマを咎め続けられたかというとそうでもなくて、全北はその局面でロックした相手にはきちんとついていって対応するとか、撤退守備に切り替わる時はきっちりPA内に戻って穴を塞いでから対応するとか、個々でその時にやるべきことにコミットできるチームだったこともあって浦和はなかなか決定機を作ることが出来ませんでした。

また、後半に入ると左SH裏で浮いている敦樹にはCHがスライドしていくようにして中盤でのミスマッチも解消していたので、静的な4-1-2-3をベースにしているとなかなか穴が作りにくかったのだろうと思います。


全北の保持はいわゆる「アイディア出していこう」的なスタンスだったと思います。4-4-2の陣形は保持でもあまり崩さず、前半の途中から左CH(28番)が左に下りて左SBの前進を促すという場面があったくらいで、基本的には9番(CF)に向けてロングボールを蹴ってこぼれ球を拾うための選手も近くに置いておくというのがベースだったと思います。

PK献上となってしまった51'05~の全北の前進は、モーベルグがその前の流れもあって左側に下りたCHに出ていて、酒井が前に張った11番(左SH)を見ていたことでこの2人が距離が空いていて、その距離を敦樹1人で埋めることが出来ずに内側へボールを差し込まれてしまいました。

相手を外レーンに追い込むためにCHも外側へ出ていくというのはリカルドが来てからずっと続けている守備スタイルですが、モーベルグと酒井の距離がこれだけ空いたのはこの場面だけでしたし、この場面もそういう状況になるように意図的に仕向けられたかというと、そうではないように感じます。

浦和の守備の大まかなスタンスとしては上図の①~③だと思います。①SHが横方向に詰めることで相手を縦にしか進ませない、②縦に進んできたところをSBが塞いで中にしか進ませない、③中に入ってくるところをCHが待ち構えて潰す(①の次で斜めに中へ入れられたとしても大丈夫なポジションを取っておく)、という手順。ただ、この場面は③の担当である敦樹のところでスペースが広くなってしまって潰しきることが出来ませんでした。

このスタンスを取る場合にSHとSBの距離を引き延ばされると、CHがケアするスペースが広くなるので、外から入ってくるボールの蓋をしに出ていくリスクが顕在化しやすくなります。このリスクを許容するためには、CHのところでファウルでも良いから潰して一旦プレーを切るという手もあるでしょうし、もっと良い選手であればチームの設計上生じてしまう不具合を走力や体の強さで無効化してしまうかもしれません。

チームとしてさらにレベルアップするには、例えばこの場面であれば、モーベルグの背後で縦にドリブルをした23番に対して敦樹が潰しきってしまえれば、という考え方もあると思います。ただ、敦樹はそうするつもりだったけど既にイエローカードをもらっているので下手に強くいって2枚目をもらいたくないという思いが働いたかもしれません。


相手が大畑のタックルを受けるためにわざと右足をそちらに出したのでは?(いわゆるイニシエート)とか、そもそも大畑はちゃんとボールにチャレンジしていないか?とか、PK判定自体は一度VARの助言によりOFRを行ったことからも、人によってはPKにするし、そうでは無い人もいるだろうし、という感じだったと思います。

大畑からすると不運な要素もあったと思いますが、このプレー以降、特に保持での場面で少しプレーが消極的になってしまったように感じました。パトゥム戦では、雑感でも書いたようにショルツか運ぶのに合わせて相手の中盤ラインから最終ラインのあたりまで移動して、外に開いて相手の中盤ラインを越えた位置でSHがボールを受けた時には、相手のSBがそこへ出て行くのでその背後へ出て行く動きを何度も繰り返していました。

しかし、この試合の58'20や70'40などショルツがオープンになってドリブルで運んでいく時にはそうしたポジショニングやその後のアクションをやってない訳では無いけどスピードがないので相手も大して食いついてくれないという感じでした。

大畑本人は試合後に「負けたら自分のせいだと思ってた」というくらいに責任を感じていたようですが、起きてしまったプレーに囚われて次のプレーでのアクションが弱くなってしまうと、そのプレーも成功率や効果が落ちてしまいがちです。こうしたきらいが見えたので個人的には関根→大久保より大畑→明本の方を先に手当てしても良かったのかなと思いました。


また、相手に捕まれがちの展開かつ、これまでよりも個人の能力があってカウンターの恐怖もチラついていたのか、裏のスペースへ出て行くアクションが全体的に足りなかったようにも思いました。

パスが引っ掛かればカウンターを受けるので裏に抜けるリスクはありますが、パスやドリブルのコースを作るのもまた裏への抜け出しだったりします。

ユンカーが入ってきて、彼が明確に裏への抜け出しをするようになったことで岩波から左右へ1本ずつロングボールを入れてチャンスが出来たり、それによって江坂が中盤でターンしたり、選手交代によって手前と奧の両立を取り戻した感はありました。


強いチームであれば85分以降のどこかのチャンスで勝ち越せたかもしれないし、もっと言えば同点のPKのところもピンチになる手前の段階でその芽を摘めたかもしれないし、ショートコーナーでの対応不備を繰り返さなかったかもしれません。これらは決勝までの伸び代としておいて、残りのリーグ戦やルヴァン杯で積み上げていきたいところですね。

ただ、そうしたちょっと至らない部分があったからこそ、59分の小泉のカウンター阻止、120分の同点劇、PK戦での西川のビッグセーブという大きな展開がこのドラマをより面白くしたとも言えます。

PKで追いつかれたり、延長後半で勝ち越されたり、苦しい時間こそ、ゴール裏の声とメインやバックスタンドの拍手、手拍子が一段と大きくなって、お互いに勇気づけあって闘い抜けたこともこの試合の重大要素の1つ。

諦めなければ必ず報われるなんて都合の良いことは言いませんが、報われるためには諦めてはいけないです。良いストライカーがごっつぁんであろうとゴール数を重ねられるのは偶然ではなくて、常にゴール前に飛び込み続けるからそうしたゴールも積み重ねられる訳で。勝つためにはどんな展開であろうとやるべきことを考え、選び続ける必要があります。

ACLという舞台装置がよりスタンドを奮い立たせた面も多分にあったと思います。ただ、欧州のトップクラスはこの試合かそれ以上の厳しさをリーグ戦で日常的にやっている訳で、上を見ればまだまだ出来るようにならないといけないことはあるはず。

アジアを通過点にしていくためには、ここから再び戻っていく国内での試合でもそうした水準でやっていく必要があります。冒頭で書いた、この試合が浦和レッズという連続ドラマの神回だったのでは、という表現と少し矛盾しているかもしれませんが、今の自分にとってこの試合はそれに値するけど、求めるレベルが変われば見え方や感じ方も変わるし、そうなりたいよね、ということです。

2017、2019に続いて出場した大会は3回連続決勝進出は誇らしい成績ですが、もっと高いレベルになるなら、決勝に出るのは当然でしょ、本番はここからだよ、ってくらいに言えるようになりたいです。

この3連戦の総括は8月の月報記事にするとして、まずはこの試合で得た充実感と突きつけられた課題を振り返ったところで今回は終わろうと思います。


今回も駄文にお付き合い頂きありがとうございました。

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