読んでみた:R・F・クァン YELLOWFACE (2023)


注釈:以下は、昨年作成したYELLOWFACEのレジメである。前作BABEL (2022)がネビュラ賞長篇部門受賞をしたのとタイミングを合わせるように発売された最新作ゆえ、とても注目度が上がっていることから、公開してみることにした。
 もし邦訳出版を検討している出版社/編集者がおられるなら、参考にしていただければ幸いである(これを参考にしたなら、翻訳させろ、とは言いませんので、念のため(笑))。
 なお、BABELのレジメのついでに作成したものであり、かなり簡略化したバージョンになっている。
 また、レジメの性格上、最後までネタバレしているので、それを承知の上で、自己責任で読んでいただきたい。

YELLOWFACE (William Morrow, 2023)
【梗概】
・R. F. Kuang の 5 作目の長篇
・2023 年 5 月刊行
・邦訳約 600 枚
・現代のアメリカを舞台にした作品で、主人公の売れない白人女性作家は、著者 Kuang とほぼ同じ経歴の若くて才能溢れる中国系女性作家である友人の遺稿を自分の物として剽窃し、出版して大評判になるものの、(当然ながら)盗作ではないかという疑いが出てきて、不穏な状況に陥る。
・著者前書きで、執筆意図を「出版界における白人至上主義の批判」であると明言しており、BABEL の成功のあとで、このような本が出れば、現実とフィクションの相乗作用から、善かれ悪しかれ話題にはなると思います。
・米国の出版事情を作家側が赤裸々に描いたものとして、ノンフィクション的要素も多分にあり、個人的にはそのあたりがたいへん興味深かったです。
・最近の米国の若者言葉や、SNSの使い方などの行動様式がヴィヴィッドに描かれている点も注目に値するでしょう。

【粗筋】
 主人公は、ダラス出身の典型的な白人女性であるジューン・ヘイワード。
 イェイル大学 1 年のときに知り合った友人、作家志望の中国系女性であるアテ ナ・リウは、大学卒業後すぐに大手出版社と契約を結び、第 1 作が大ヒットし、若き売れっ子作家となり、27歳のいままでに3冊の本を出版し、いずれも売れまくり、その流行作家としての生き方はSNSで発信されて、多数のフォロワー数を誇るようになる。
 一方、ジューンは、なんとかデビューできたものの、長篇第1作は、マイナー出版社から少部数で、評価も低く、作家として喰うことはできず、友人アテナ・リウの成功を内心では妬んでいる。
 そんなある夜、アテナ・リウの豪華マンションで、ふたりで飲んでいると、アテ ナの仕事部屋に最新長篇の原稿があることにジューンは気づく。初稿を脱稿したと ころだという。アテナは、執筆中の作品について、いっさい情報を表に出さない作 家だった。冒頭を読ませてもらったところ、内容のすばらしさにジューンは驚嘆す る。ところが、飲んでいる最中に口にしたパンケーキを喉に詰め、アテナは窒息し、死亡する。最新長篇原稿を奪うジューン。それを自作として発表。大評判になり、 たちまち大金を稼ぐ。
 当然ながら盗作の疑いがかかり、それを糊塗しようとして弥縫策を講じるが、うまくはいかない。読者は疑いの目でジューンを見るが、本の売上げ的には、それが追い風になり、さらに売れてしまい、出版社から見放されることはない。担当編集者に次作をせっつかれ、結局、(自分がオリジナリティに欠けることにジューン本人は気づいていない)、またしてもアテナの下書きをヒントに次作を書き上げ、また盗作の疑いをかけられる。
 ついには、アテナの亡霊に追いかけられ、追い詰められたあげく盗作を自白し、その発言を記録されて、身の破滅となる(アテナの亡霊は、ジューンが公開パネルに出演したとき、会場から盗作疑惑を追及した中国系女性であり、ジューンは中国人の見分けがつかないので、アテナの亡霊と思いこんだというオチがつく)。
しかし、評判が地に落ちてもめげないジューンは、この盗作騒動を描いた作品をものにしようと堅く決意するのだった。
(一応、アテナも、ジューンの経験を自作に流用しており、けっして無垢の存在ではなかったことも記されている)


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