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謎の転校生 (全7回・第5回)

●07)
 そもそも、噂を流すやつの目的は何だろうか? 虎太郎と話した結果、転校生を困らせることで間違いないだろうと答えがでた。では、何故転校生を困らせるか、だ。
「そりゃ、転校生を嫌ってるからだろ?」
「嫌ってる……ね。それじゃ、その嫌ってる奴を捜せばいいってこと?」
「まぁ、そうなるな。問題はどうやってそいつを探すか……だ」
 まったく方法が浮かばない。漠然としすぎているからだ。私は腕組みをして、考えている振りをしながら虎太郎が何か言ってくれるのを待っていた。
「う~ん。そもそも、うちの男子で夏木を嫌ってるやつっているの?」
「じゃ、女子ってこと?」
「それこそ女子に大人気じゃん?」
 否定しつつも虎太郎は可能性を一つ一つつぶしていく。
「さすがに他のクラスだったら、ちょっとお手上げだぞ?」
「いや、ほかのクラスはないと思うよ。だってあいつ、放課後すぐに帰っちゃうんだぜ?」
 さらに否定され、可能性はせばまっていく。私は自分の頭を精一杯働かせて、今の状況をもう一度、考え直す。
「となると、学校にいる間に一番いっしょにいるうちのクラスの可能性が高いってことだよな~」
 なんだ、結局元に戻ってるじゃないか! 排除できたのは他のクラスの生徒という、一番あり得そうにないところだけ。虎太郎の誘導のせいなのか、それとも私の頭が足りなかったのだろうか? 虎太郎に言わせると「犯人はクラスにいるかもしれない」から「犯人はクラスにいる」になったのだから、状況整理としては進展しているということらしい。
「確信を持って探せた方が、犯人を見つけられるって」
「まぁ、コタが言うなら、そうかもな。とにかく、手分けして探そうぜ!」
 ちょうど昼休み終了の予鈴が鳴った。
 さて、これからは別の犯人探しが始まるぞ。


●08)
 私と虎太郎は休み時間になる度に、教室の前の扉付近に陣取るようになった。この場所は一番教室内が見渡せるからだ。怪しい動きをするやつを探すのに最適の場所なのだ。
 ふと転校生を見てみる。彼は誰とも話さず、やはり次の授業の教科書を開いていた。そして誰からも、気にかけてもらえていない。彼が怒りと悲しみの感情を抱えていることには間違いない。もし自分だったらどうするだろう? こんな針の筵の状態で学校に出てくるのは苦痛以外の何者でもない。私ならば学校を休んでいたかもしれない。
「強ぇよな……」
「ん? 何が?」
「アイツのこと」
「ああ……、辛いだろうにね」
「クソ、犯人見つけたら、絶対に謝らせてやる!」
 私は改めてクラスの生徒の顔を眺める。基本的に誰もが転校生のことを見ないようにしている。イジリなどはないので表面上はいじめなどはないように見える。さらに徹底した無視ではなく、彼が消ゴムなどを落とせば近くの人はちゃんと拾ってもあげている。生徒にしてみれば無視しているのではなく、触れないようにしていると言った方が正しいのかもしれない。きっと不良中学生と一緒にいるという噂から、彼の機嫌を損ねないようにしているのだろう。触らぬ神に祟りなし、という奴だ。
 しかしそんなことは転校生からすれば同じことだ。このよそよそしい空気に変わりはない。そしてこのクラスの中にこの空気を作った張本人がいるはずなのだ。
 一人一人の顔を見ていく。誰もが転校生を見ないようにしている。そんな中で、転校生を見て笑っている奴らを見つけた。いや奴らという言い方は正しくない。笑っているのは一人だが、もう一人は過剰なほど転校生を見るまいと、足元に視線を落としている。その表情は後少しで泣きそうなほどだ。
「おい、コタ、あれ」
 私はあの二人組を指さした。
「あれって、委員長?」
「ああ」
 私が指差したのは学級院長の桜川麗子と、彼女といつも一緒にいる一ノ瀬文恵だった。
「そんな、まさか委員長が……?」
「でもよく見てろよ」
 虎太郎が疑うのも当然だ。委員長の麗子が率先していじめをするのは意外だったが、私は自分の見たことを信じた。やがて私達が見ているとも知らずに麗子はまた転校生を盗み見てクスクス笑う。一緒にいる文恵は泣きそうな顔をしながら、麗子を止めようとするが麗子は止まらない。二人の力関係は麗子が勝っていることは明白だ。そしてまた文恵は悲しげに下を向くのだった。
「あー、なるほど……」
 どうやら虎太郎もあの二人の行動から怪しいと思ったらしい。
「やましいことがあるから、目を合わせられないんだな」
「だろ? これで犯人の目星はついた」
 私は二つの理由で苛立ちを覚えていた。一つは噂を流し、転校生を追い詰めたこと。そしてもう一つは自分の恋心が裏切られたこと。自分の惚れていた相手がまさかそんなことをするような人間であったことに。こっちが勝手に持っていた幻想を壊されただけなのだが、ひょっとするとそんな幻想を持っていた自分への苛立ちだったのかもしれない。
「だけど、問題はあの二人がやったっていう証拠をどうやって見つけるか?」
 虎太朗の一言でふと我に返る。
「だよな? それが問題なんだよ!」
「しばらくはあの二人をマークして、証拠を探すしかないよね」
「そうだな」
 まだ二人の行動は状況証拠でしか無い。ひょっとすると全く別のことで転校生を笑っていただけだったのかもしれない。それでも他の手がかりはなく、私たちはこの女子生徒を見張るしか方法はなかった。
 だがこれ以上の進展はないまま三日が過ぎる。転校生はその間も緩やかな孤立を続けている。彼は平気なふりをしているが、本当の胸の内を、あの怒号を私は知っている。彼の強がりはいつ途絶えてもおかしくはないのだ。だから私も虎太郎も早く自体を解決したくて焦れていた。
「そもそも、証拠なんてどうやって探すんだよ? どっかに落ちてるのかよ」
 堪え性のない私は、虎太郎に詰め寄る。彼に言ったところろで事態が変わるわけではないのだが、それでもこの苛立ちをぶつけられる相手は、虎太郎しかいなかった。彼にしてみればいい迷惑だろう。
「だったら本人にやったって言わせるしかないだろうね」
 私の理不尽な怒りに虎太郎は普通に返してくれた。彼はちゃんと解決手段を模索していたのだ。
「どうやってだよ?」
「カマをかけるんだよ」
「カマって何?」
「知ってる振りして、相手に言わせること」
 物知りな虎太郎。私のような大人ぶりたいだけのガキと違い、彼はちゃんと知識もある。実は敵に回すと怖い相手だ。
「でも出来るかな?」
「大丈夫。タっちゃんにやり方教えてあげる」
「オレに? コタがやるんじゃないのか?」
「オレは、保険を用意するから」
 そう言ってニヤリと笑う虎太郎。この時の彼は男ぼれするほど格好良く見えた。
 そして私たちは放課後に合わせて、作戦を練った。虎太郎はすべての作戦を考えていた。彼のことを策士というのだろう。
 虎太郎の作戦を聞いて、この時の私は勝利を確信した。委員長の麗子が犯人だと信じて疑わなかったからだ。

《つづく》

ゲーム業界に身を置いたのは、はるか昔…… ファミコンやゲームボーイのタイトルにも携わりました。 デジタルガジェット好きで、趣味で小説などを書いています。 よろしければ暇つぶしにでもご覧ください。