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嵐鬼 仮面ライダー響鬼外伝

鬼と呼ばれる人たちが古来から魔化魍という怪物から人々を助け、それを支える猛士と呼ばれる組織があるという都市伝説がある。
私、桃園帆乃は今日まで都市伝説だと思っていた。そう今日までは...。だけれども、その認識は間違っていたのかもしれない。いま私の目の前で起こっていることは、現実なのだから。。

『嵐の鬼』の巻

魔化魍・ネブッチョウ。蛇のような魔化魍であり秩父地方に伝わる憑き物として伝わっている。人を祟る存在として古くから恐れられていた存在である。小さな蛇という記述があるものの成長すると五メートルはあろうかという姿になる。
厳冬の秩父・三峰。三峯神社という狼信仰を今に伝える神社への参道でそれは起こった。近年、三峰周辺、両神、小鹿野で登山客や観光客が蛇のような化け物に食い殺される事件が頻発していた。同時に気味の悪い男女が目撃され、恐怖の渦に飲み込まれていた。そんなとき幸か不幸か、少女・桃園帆乃は新聞部でその噂を検証しに部活のメンバー数名と顧問教師で三峰の表参道を歩いて登っている途中に出会してしまった。
帆乃は、ネブッチョウが突然飛び出したため足を滑らせて滑落するが幸運にも木に引っかかって大した怪我はなかった。しかし部活のメンバーと顧問教師は彼女の見ている前で惨殺されてしまった。全員頭を齧り取られ、吹き出した血をネブッチョウは美味そうに飲み始めたのだ。そして奇妙な格好の男女・童子と姫がぶつぶつと何かを呟いて帆乃へも迫ってきていた。

「オ嬢サン、オクレ...ウチノ子マダマダ飲ミ足ラナイッテサー...」

逃げようと帆乃は、動こうとしたが背中が強烈な痛みに襲われて動けない。さらに声も出ない。右足も怪我をしているのか動かない。殺される...死にたくないと思ったときだった。

「ここに出たとはなぁ」

という呑気な声が聞こえた。そこにいたのは30代くらいの青年であった。青年は持っていた小石を童子と姫に投げつけると見事な跳躍でネブッチョウの頭を踏んづけ、帆乃の前に降り立った。
帆乃にとって父親と弟以外でこんなにも間近で男と目があったのは初めてだった。女子校育ち故か、あまり男と接点がない彼女にとって見知らぬ男が目の前に現れたのはさすがに驚きを隠せなかった。男は帆乃を軽々抱き抱えると一瞬で下の開けた場所へ降りたった。

「お嬢さん、とりあえずここにいな。大丈夫、足の怪我も大したことないし、背中も打ってるけど大怪我じゃないよ。直ぐに終わらせるから」

屈託のない笑顔でそう言われた帆乃は思わず、ドキッとしてしまった。
童子と姫そしてネブッチョウが二人を追いかけて降りてきた。

「たく...人の聖地を...他の登山客の方々が迷惑するだろ!ここは登山道だぞ、おいっ!」

怯えることなく男は、堂々と言った。しかし人外にそれが通じる事もなかった。

「オ前...鬼ダネ...?」

気味の悪い男の声が、姫の方から聞こえた。

「鬼サンナラ殺シチャオ」

今度は気味の悪い女の声が同時から聞こえた。
帆乃はヤバいと感じたが青年の様子は堂々している。そしてネブッチョウが大きな口を開き、威嚇をし始めた。

「鬼だよ...」

男は冷たい声で言い放つと腰に付けていた笛のような物を取った。そして静かに笛を吹いた。笛の音が木霊する。
突然、風が起こった。風はどんどん強くなる。旋風が起こり、帆乃も思わず口を手で覆い目を隠した。ネブッチョウも童子も姫も怯んでいるのが薄目でも確認出来た。風はさらに強くなる。それはもう嵐のような状態だ。渦が男を飲み込んでいる。水色の光と茶色の光が発光する。そして意を決したように

「嵐鬼‼︎」

ランキ...?いま確かにそう聞こえた。なんだ?何が起こったのか帆乃には理解が出来なかった。目の前にはまた見慣れない何かが立っていた。水色の角に茶色の体...。ネットで見た鬼と呼ばれる存在のそれに似ていた。
嵐鬼...。関東を担当する音撃戦士である。笛の鬼に指示したあと太鼓と弦を極めた鬼である。オールラウンダー故に戦い方は、常識に囚われることない。音笛と呼ばれる特殊な笛で自らを鬼に変える事が出来る。その姿は水色の角に茶色の体を持つが鬼というよりも狼に似た顔をしている。
ネブッチョウが攻撃にかかる。それを跳躍しかわす嵐鬼。姫と童子も攻撃を仕掛けるが、二人の攻撃もかわして姫に左手で渾身の一撃を放つ。弾き飛ばされた姫は木の枝に体を貫かれて一瞬で爆散した。童子はそれを見て身震いしながらも嵐鬼に挑むため走り出す。嵐鬼は取り出した音撃菅・爆砕を構えた。ドゴーン!というとてつもない銃声が響いた。見ると童子の腹に大きな穴が空いている。衝撃破でネブッチョウもたじろいだようだ。童子は何が起こったか分からない様子で静かにバラバラに砕けてしまった。

「やっぱ爆砕...威力上げ過ぎたかな...」

嵐鬼は威力を上げすぎた事に反省した。するとそこにネブッチョウの毒液が撒かれる。間一髪、帆乃を抱き上げて反対方向へ飛んだ嵐鬼は浴びずに済んだようだ。しかし帆乃はあまりの非日常な出来事に完全にビビり上がっていた。嵐鬼は彼女の頭を優しく撫でると爆砕をネブッチョウへ向け発砲。
ドゴーンという爆音が山中へ響く。滅多撃ちにされ弱り出したネブッチョウへ向けてさらに爆砕を撃ち続ける。そこへベルトに装着された音撃鳴・鳴神を発射口へ取り付けとどめを刺す。次の瞬間、目の前で雷が落ちたような凄まじい轟音が響いた。爆砕の発射音などとは比べ物にならない音である。あまりの衝撃に帆乃も吹き飛ばされてしまう。次の瞬間、帆乃の目に映ったのは四散するネブッチョウの姿だった。蒼白い光に包まれて爆散した。

「一丁上がり!」

と嵐鬼は戦いを終え、帆乃のそばへ寄ってきた。すると顔の部分が鬼から人へと戻った。彼女を抱き上げて、病院まで送るよと笑顔で言う。それに対して帆乃は

「あの...あなたって...え?鬼って言われてる人なんですか...?」

そう呟くと嵐鬼はそうだよと返した。
帆乃は病院で治療を受けた。無惨な最後を迎えた部活メンバーと顧問教師の遺体は、嵐鬼が現場に戻り供養してくれたそうだ。

半年後
帆乃は再び学校へ行けるようになった。目の前で仲間や先生を殺された恐怖はまだ拭えなかった。お葬式やお墓の前で彼女は何度も泣いた。どうして自分だけが生き残ったのか...?そればかり考えていた。そしてようやく死んだ者たちのぶんも彼女は生きて幸せになるという決断をすることが出来た。そう思えたのは嵐鬼の言葉もあった。

「これは、知り合いのお医者さんが言ってた事なんだけど、いつまでも死んだ人に囚われていたら一歩も前には進めない。辛いとは思うけど、生き残った人はその先にある未来を思って生きていくしかない...と思うんだよ」

その言葉が彼女に生きるという選択を与えた。
嵐鬼は、今日も愛車のオフロードバイクに乗って関東各地を転々としている。魔化魍を追って。
嵐鬼と帆乃が再会するのは、もう少し後のお話である。

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