アレクサンダー・プフィスターのインタビューの翻訳

「ブルームサービス」「スカイ・アイランド」とドイツ年間ゲーム大賞のエキスパート部門(KDJ)を2年連続で受賞したゲームデザイナー、アレクサンダー・プフィスターのインタビュー記事の翻訳です。元記事はこちら(2016年1月公開)。インタビュアーのエリック・テオはニューヨーク在住のゲームデザイナー兼ゲームレビュアーで、自身のポッドキャストでレビューを配信したり、Kotaku などのメディアに記事を寄稿したりしています。快く翻訳を許可してくださったテオ氏に感謝します。

まだの方はニコボドさんが翻訳された Meeple Mountain のインタビューと Geek Under Grace のインタビューをあわせて読まれるとよいでしょう。時系列としては本記事のほうが後になります。

翻訳は以下になります。

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「モンバサ」がすばらしかったので、プレイした直後にはデザイナーのアレクサンダー・プフィスターと話したいと思っていました。ほかにも「ブルーム・サービス」のような、私の大好きなゲームをいろいろ作っていましたから。ゲームの制作過程について、とくに「モンバサ」のようなゲームがどのようにして“誕生した”のかについて、もっとよく知りたかったのです。初めは音声のやりとりでインタビューしていたのですが、途中からは技術的な問題でやむなく文字によるやりとりに移行しました。以下が質問と回答になります。

1)わかる範囲でよいのですが、このゲームのテーマに対する反応は全体的にどうでしたか?

好きだという人もいますし、そうでない人もいます。どうなのかと思いながらもとにかく遊んでみて、やってみたら植民地化の感覚は全然なかったと話している人が多いですね。モンバサは歴史シミュレーションではありません、アフリカの架空の会社4社に対する投資を扱ったゲームです。あの箱の絵は誤解を招きますね。

2)ルールブックの最初のページにアフリカの歴史について書かれた一節があります。あれをあの場所に入れると決めたのはどなたでしょう。また、その理由はなんですか。

「モンバサ」の製作のヴィクトル・コビルケ、それから私ですね〔訳注:Pegasus Spiele のルールブックではプフィスターが author、コビルケが development & rule book としてクレジットされている〕。私は忌まわしい植民地化の歴史について議論するのはまったく悪いことではないと思っています。一番まずいやり方は記憶から消し去り、蓋をしようとすることでしょう。

[エリック]あえてこの段落を入れたことには考えさせられるものがあります。私が見るかぎり、手つかずの火星の土地を舞台にしてもゲームに問題はなかったはずですが、この題材を選んだこと自体にデザインと製作の両面でこれまでにない着想を得る意味があったのです。〔訳注:元のブログではコ・インタビュアーと思われる人物が「モンバサの政治性(The Politics of Mombassa) 」と題する記事で、プフィスターが「物議を醸しかねないテーマに関心があったわけではない」(actually, I'm not interested in themes which would be a possible problem... I'm interested in games, in engine building, and all this stuff.)と発言していたと記している〕

3)30年前の自分のゲームに立ちもどるというのはどういった経験でしたか? また、どこから手をつけましたか?

モンバサの原型をつくったのは十代の頃、30年前ですが、今やってもとても楽しめましたよ。手書きのアフリカのゲームボードを見つけたとき、これを元にモダンなゲームができないかと考えました。契機になったのはカードの動かし方を変えたことです。そのあと何年もかけてさらに多くの変更を加えていきました。

4)最近のゲームで一番気に入っているものはなんでしょうか?

「マルコ・ポーロの旅路」〔訳注:「マルコ・ポーロの足跡」とも呼ばれる。交易商人となってマルコ・ポーロの行路を辿るワーカープレースメントゲーム〕

[エリック]これには同意。「旅路」は本当に楽しいゲームです。私も yucata.de でよく遊んでいます〔訳注:yucata.de はドイツゲームをオンラインで対人プレイできる Web サイトの名称〕。

5)モンバサには数多くのメカニクスが搭載されていますが、どの時点で「よし、完成」と判断したのでしょうか。

帳簿トラックの実装が済んだときですね。私が求めていたのは戦略性です。それはプレイヤーが自分以外のプレイヤーと過度に干渉することのないような戦略性です。

6)テストプレイはどのようにしましたか? 部品ごとですか、それとも全部まとめてでしたか?

全部まとめてでした。出版社の人たちも同じですね。製作のヴィクトル・コビルケはこのゲームにたくさんの時間を注いでくれました。すばらしいアイディアがどんどん出てくるんですよ。

7)テストプレイの結果、なにかが大きく変わったということはありましたか?

ええ。モンバサは時間とともに大きく変化していきました。おもしろいのは最初はいまよりずっと簡単なゲームだったのに、出版社が重いゲームを欲しがったことです。中量級のゲームにしてもうまくいったはずですが、いまはこうしてよかったと思っています。

8)ゲームデザインにおいて、先に行うのはどちらですか。テーマですか、メカニクスですか?

ゲーム次第ですが、たいていは核になるメカニクスからです。つぎにそれに合うテーマをいち早く見つけるようにしています。テーマというのはそのゲームで何をすべきかや、どういう方向につくりこむかについて、さらなるアイディアを与えてくれます。

[エリック]これはその通りだと思います。テーマからメカニクスを思いつくこともありますが。しかしながら私が見るかぎり大半のユーロゲームはメカニクスが先にあって、テーマは後でつくられています。

9)ひとつのゲームをデザインし、それが完了するまでにいつもどれくらい時間をかけているのでしょう。

複数のゲームを並行して進めるので、答えるのが難しいですね。モンバサは5年、ほかに3ヶ月だったものもいくつか。どちらも例外的な場合で、ほとんどのゲームは1年から2年です。それにゲームが完成してからもパブリッシャーからのフィードバックがあるので、また手を加えなければいけません。

10)いまのあなたはフルタイムのゲームデザイナーですか、パートタイムですか。

パートタイムです。残念ながらゲームデザイナーが受け取る報酬はよいとはいえません。

[エリック]テーブルゲームのデザイナーの苦境にため息が出ます。自分もゲームデザイン専門課程の卒業が間近なので、置かれた状況は同じです〔訳注:BGGのプロフィールによるとすでに卒業している模様〕。第二の「チケット・トゥ・ライド」をデザインしないかぎり、フルタイムのデザイナーになるのは厳しいでしょう。

11)ゲームに用いる着想はどういったものから引き出しているのですか?

私の場合、デザインの際にアイディア出しで詰まることはないんです。書き溜めたアイディアは山ほどあるのですが、そのなかを探索してまわったり、ひとつのゲームの形にして抜き出したり、その部分に大変な時間がかかるんです。私はいいアイディアがあっても新しいゲームをつくりはじめることはせず、つくりかけのゲームを完成させると決めています。

[エリック]それが普通だと答えるデザイナーはきっと多いと思います。私自身、ノートに書きかけのアイディアはたくさんありますが、それをすべて開発しようと思えば大変な時間とテストプレイと試行錯誤が必要になるでしょう。

12)今後の予定を教えてください。

「ブルームサービス」には勇敢か臆病かという秀逸なメカニクスがありました。これを手軽なカードゲームにしてほしいという依頼が出版社からアンドレアス・ペリカンと私にあったのです。最初はすこし無理筋かと思っていたのですが、あと3か月で「ブルームサービス:カードゲーム」が発売されます。ぱっと——たったの20分ほどで——終わる、笑い声の絶えないゲームです。〔訳注:「ブルームサービス」には強いが実行できないリスクのあるアクションと弱いが確実に実行できるアクションがあり、プレイヤーは毎ターンどちらか一方を選択する。なお、このメカニクスは実際にはペリカンの前作「魔法にかかったみたい」から存在する〕

ほかにも大きめの自分の新作が仕上げに入っています。できればつぎのエッセンに出したいと思っています。なにぶん製作中のもので、あまり話せることがないのですが〔訳注:エッセンは言わずと知れたテーブルゲーム最大の祭典。言及のゲームは「Great Western Trail」だと思われる〕。

そのつぎはダイスゲームで、いまは出版社の人の評価待ちです。気に入ってくれたかはそのうち明らかになるでしょう。

[エリック]「ブルームサービス:カードゲーム」が待ちきれません。私は「ブルームサービス」が好きで好きで、カードゲーム版でどれだけ違ったものになるのか、いますぐにでも確かめたいです!

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