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メグ・ミーツ・アヤ

 めぐちゃんが消えた。原因はわかっている。先週からずっと「人間テスト前ほどやっちゃいけないって事やりたくなるよねるりちゃん!」と言ってたし机の上には殆ど真っ白なノートとまるで新品の様に綺麗な教科書という形だけで実は勉強してない痕跡フルコースが置き去りにされている。本当にノー勉で期末試験に挑む気なのだろうか。頼むからやめてほしい。
 今すぐに外出届を叩きつけてめぐちゃんをとっ捕まえに行きたい。しかしめぐちゃんだけでなくルリにも試験が待っている。カリフォルニアに留学していたルリには古文がちょっち…いや大分難しい。でも和歌というものはいにしえのスクールアイドル…ではないがその時代時代を生きてきた人達の気持ちが込められているのだとルリ思う、故にルリありなのでこれをわかる様になる事もまたスクールアイドル活動なのだ。「世界中を夢中にさせる」為にルリは逃げる訳にはいかない。試験か、めぐちゃんか。アンビバレントな気持ちに苛まれている時ふととある人物を思い出した。御実家が確か…ダメ元で前に聞いた名前を電話帳で調べてかけてみたら本当に出てきたし二つ返事で快諾してくれた。後は頼みますマイエルダーシスター…!代わりにルリはきちんと古文を理解してきます…!

「いやあ最高だね!テスト勉強をサボって食べる宇治抹茶チーズケーキと花見抹茶クリームフラペチーノの味は!」
 だいたいスタバが悪いのだ。テストが近い時期にこんな美味しそうな新作を出してくる事自体が犯罪行為だしそれに釣られてしまうのはなんの罪でもない。そうこれは今日まで頑張ってきためぐちゃんの頭脳への報酬。頭使うとカロリー使うって私達何度も歌ってきてるもんね。明日の試験なんて明日考えればいいのだ。

「藤島…慈さん…?」
 ブレイクタイムも佳境に入った頃唐突に声をかけられた。めぐ党さんかな?たまに街中で出くわすこともあるのだ。今日は気分が良いしファンサでもしちゃおう!と思って振り向くとそこには金髪の背の高いお姉さんが立っていた。多分見覚えがある。めぐちゃん記憶力を駆使してライブの記憶を掘り返す…
……

「えーっと1月のFes Liveの2階席左側あたりにいためぐ党さん…?」
「…そうだけどなんでわかるの…?」
「全国5000万人いるめぐ党さんを率いる党首として受けた好意は可能な限り覚えていようと思ってるんだ。今日はスクールアイドル活動じゃなくてオフだからナイショでよろしくね…!」
「なるほどオフ…なら話は早かったかな。アタシは吉田文音。瑠璃乃ちゃんに頼まれて来たんだ」
「るりちゃんが…!?…いったいどういう関係?」
「ジトっとした目で睨まないでって…前にこの辺で会ってお互いにお互いのやってる事を応援しあった位の縁だって。けどさっき電話がかかってきて『テストが近いのにめぐちゃんが勉強をサボって逃げ出したからどうか代わりに勉強を教えてあげてくれませんかエルダーシスター!』って頼まれてさ。吉田工務店何でもやる課としてお仕事に来たって次第よ」
「くっ、追手か!」
「逃げようとしないしない。アタシだって慈ちゃん位の頃は勉強なんてクソ食らえと思ってこの辺バイクで走り回ってたたヤンキーだったんだけど何だかんだ勉強したら東京とこの辺を股にかけるOLまではいけたんだよ。アタシが手伝うからさ、瑠璃乃ちゃんにカッコいいところ見せてやろうって」
 あれ、随分と様子が違う。なんかこう梢みたいにガミガミくる系の追手を想像していたので拍子抜けしている
「明日の試験は何があるの?」
「日本史」
「じゃあ色々置き換えて考えてみればすぐいけるかもね。例えばこの人とこの人はスクールアイドルのユニットに例えると…」
 そうして始まった不思議な授業は気付くと陽が沈むまで行われていた。門限ヤバっ!と気付いてタクシーで帰ろうとしたら乗って!とどこからともなくバイクを持ってきた吉田さんが凄い勢いで寮まで送ってくれた。寮に帰るともちろん梢からはガミガミと怒られた。るりちゃんからも白い目で見られた。
 寮母さんからもお説教を受けようやく解放されて部屋に戻ると吉田さんからメッセージが届いていた。『イチヤヅケで覚える!テスト対策マニュアル』と記された添付ファイルを開くと昼間教えてくれた日本史の話や他の教科の内容まで事細かに、わかりやすく記されていた。ここまで親切にしてもらって赤点を取る様な人間がめぐ党党首であるはずがない。テストを終えたらるりちゃんだけでなく梢や花帆ちゃん、綴理とさやかちゃんも連れてスタバで笑いながらおやつパーティするのだ。覚悟を決めたしテスト勉強もしっかりやる。けれども明日の配信もきちんとやらないと。今月のseason fan levelが足りなくて泣いてしまうめぐ党さんを助けるのも私の役目だから…!

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