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再現性を持って事業の"ゼロイチ"を作るフレームワーク

4つの事業を立ち上げてきて気付いたこと

ラクスル、ハコベル、ノバセル、ジョーシスと4つの事業の立ち上げを自身で行い、また仲間が立ち上げる姿を日々真横で見ていて、ゼロイチと言われる事業の立ち上げにも複数のフェーズがある事に気づきました。それぞれのフェーズで正しい目標設定を行うと事業はとても早く、健全に立ち上がりますし、目標設定を間違えると事業立ち上げは膨大な時間がかかります。

ここでは私の体験をフレームワークに落とし込みみなさんと共有をできればと思います。私は下記のように事業の立ち上げ段階を4つのステージに分けて管理しています。

1.Discovery Stage(発見)
2.Validation Stage(検証)
3.Efficiency Stage (効率化)
4.Expansion Stage(拡張)

一般的に"ゼロイチ"といわれる段階は「3.Effeciency Stage(効率化)」までのことでしょう。"ゼロイチ"は3つの段階に区切ることができます。
そして「Expansion Stage(拡張)」以降が、一般的に"1→10"といわれるフェーズ、いわゆるグロースステージにあたります。これらのステージを確実にクリアしていくのは難しいのですが、それができれば数百億円の規模の事業が再現性高く作れるはずです。

資金が豊富にあっても、いい事業が作れるわけではない

「多額の資金があれば、新しいビジネスを立ち上げられるか?」という問いに対しては、明確に「NO」と答えます。お金があればあるほどマーケティングやセールスにつぎ込んでしまう可能性が高いからです。調達環境がいいと、営業をたくさん雇ってマーケティングを打って売上ができてしまう。

しかしそもそも商品やブランドにお客様が感じる価値がないと、その売上は継続しません。

したがって「3.Efficiency Stage(効率化)」までは、セールスやマーケの人材はあまり採用しなくていいと考えています。それよりも初期の段階で必要なのは開発の人材です。いわゆる事業サイド、お客様に向き合う側の人材は2-3人でいい。全体のメンバーの数も「3.Efficiency Stage(効率化)」までは、おそらく20-30人程度で十分でしょう。

ジョーシスは幸運にも多額の資金を調達できました。そうやって資金が豊富になったときは「お客様候補の“質”と “量”のどちらを重視すべきなのか?」を正しく見極める必要があります。ともすれば、量を求めて投資を増やしたくなってしまいます。しかしそこをグッと我慢しなければいけません。苦労しているスタートアップの多くは、資金調達をしていきなりテレビCMを打ってみたり、バナー広告を出してみたりと「量」を取りにいってしまうのです。

シリアルアントレプレナーと呼ばれる、何度か起業したことのある人の多くは、やはりこの点をわかっています。多額の資金を集めたとしても適切な規律を持ってそれを使える。お客様がお金を払ってくれるような価値のある製品になるまでは、チームの拡大やマーケティング活動に大規模な投資はしません。

事業をゼロから作ったことがない人がいきなりお金を持ってしまうと、何がなんでも売ろうとしてしまう。大企業がやるように、いきなりコストをかけて売上を獲得しようとしてしまうのです。

では、どうやって事業の“質”を見極めるのか? ここからはそれぞれのステージの進め方について詳しく解説していきます。

1.Discovery(発見): お客様が満足するサービスが作れているか?

PMFするうえでいちばん大切なのは、サービスやプロダクトに価値があるかどうかを検証することです。では、その価値をどう測ればいいのでしょうか?

よく使われるのは、NPSテストやエリステストですが、私たちは「アハモーメント」があるかどうかを指標としています。これはエリステストのもう少し手前の指標で「お客様がサービスを使って喜んでくれているかどうか?」を見るものです。お客様がこのサービスを使って喜んでくれる、つまり「アハ体験」をしていただけるタイミングを見つけていくわけです。

ジョーシスでは、お客様が「サービスの重要な機能を2ヶ月以内に2回以上使ってくれたかどうか?」を測ります。たとえば「月次の業務にジョーシスが何回組み込まれたか?」ということです。それができたお客様にフラグをつけていく。

まずは全てのお客様に「無料で使ってくださいね」とアカウントを付与します。そして、無料で使ってくれたお客様の中に「アハモーメント」に達したお客様が何割いるかを検証する。重要なのは、一部のお客様だけではなく「多くのお客様が無料なら使ってくれるかどうか?」ということ。その結果、たとえば「100社に無料で提供したうちの、少なくとも50社以上が無料なら使い続けてくれる」とわかればいいわけです。

実際、無料でも使われないサービスはたくさんあるでしょう。だからまずは、無料なら使ってもらえるサービスになっているかどうかを検証するのです。これがこのステージでやることです。

この期間は、だいたい3-9ヶ月、開発の期間も含めるなら12-18ヶ月くらいが目安になるでしょう。

2.Validation(検証): 有料でも使ってくれるか?

次は検証のステージです。

ここでは、それまで無料でシステムを使ってくれていた人たちにお金を払ってもらいます。この段階では、まだ値段は安くてもいいでしょう。定価が100万円のサービスであれば、思い切って10万円、20万円の値段で売る。定価の90%オフだとしても「お金を求める」のです。そうすることで「お客様が継続的に製品を使ってくれるか」を見極めるための重要なデータが得られます。

無料と10万円とではかなりの差があります。「無料だったら使うけれど、お金がかかるなら使わないよ」という人は多いものです。そんななか「お金を払ってでも使いますよ」というお客様が見つかるかどうか。そこで一定数のお客様が見つかれば「お金を払ってもらえるような、価値のあるサービスになっている」ことがわかります。

この期間は3-6ヶ月でクリアできるのが望ましいと思います。

3.Efficiency(効率化): ユニットエコノミクスを成立させる

次のステージでは商品を10万円ではなく正規料金の100万円で買ってもらえるようにします。ここで考えるべきは「効率化」です。

たとえばペットボトルの水1本を仕入れるのに100円かかるとします。これを150円で売ることができれば意味のある売上になるのですが、50円で売ってしまうと意味がない。売れば売るほど赤字になってしまう。当たり前ですが、大切なのは仕入れ値よりも高い値段で販売し「粗利」を出すことです。

もしくは別のアプローチとして、何らかの方法で生産の初期コストを削減して利益を生み出す。1本100円で仕入れた水を80円で販売すると仮定しましょう。ただし10,000本をまとめ買いすれば50円で仕入れることができるとします。仮に100本を仕入れて販売した場合、1本ごとに20円の損失が出てしまいますが、10,000本を仕入れることができれば、たとえ80円で販売したとしても、1本あたり30円の利益が得られるわけです。こうしたやり方は、ラクスルの規模を拡大するうえでも重要なポイントでした。

この段階からは、しっかりとしたユニットエコノミクスに加えて、より高度なセールスやマーケティングが必要になります。

たとえば100社のうち30社に製品を買ってもらいたいとします。そこでまずは100社のリードを獲得して、商談できる状態にしなければいけません。100社とミーティングができるとわかったら、次は1,000社、10,000社……と段階的に上げていく。マーケティングフローを開始して、リードを獲得できるようなシステムを構築していきます。確実な需要創出型のマーケティングを構築する必要があります。

リードが獲得できることがわかったら、次は商談において成約できるかどうかも重要です。10社と会ったら、3社。100社と会ったら30社。1000社と会ったら300社が契約してくれるかどうか。たとえば「30%」といったように目標成約率を設定し、その目標を達成できるシステムを作る必要があるのです。

マーケティングの蛇口をひねればたくさんのお客様と会うことができる。さらに営業をすればお客様が製品を買ってくれる。このステージでは、この2つが達成できるかを検証する必要があります。そこで問題になるのが、そのビジネスモデルがユニットあたりの利益を生み出せているかどうかです。これが確かめられれば、ユニットエコノミクスが成立したといえます。この期間はおおよそ6-12ヶ月です。

4.Expansion(拡張): コストを考慮しながら事業を拡大する

前のステージではユニットエコノミクスを成立させましたが、このステージからは大規模なコスト効率を管理していく必要があります。会社を車にたとえるなら、燃費を重視する必要があるということです。

このステージからは実際にガソリンを入れて車を走らせていくわけですが、そのとき燃費を無視してはいけません。セールスやマーケティングを一定の効率性を考慮しながらお金を使う必要があります。セールス・マーケティングのコストを100倍に増やした場合、売上は少なくとも100倍、できればそれ以上に増やせるのが望ましい。

また、もうひとつ考慮すべきポイントは、投資回収率(CAC Payback)です。セールスやマーケティングに費やした累計コストを回収するのにどのくらい時間がかかるか? もし費やしたコストを粗利の3年分で回収できるとすれば、投資回収は3年だといえます。これが2年なのか、1年なのかを気にしながら、適切なレベルまで引き下げることが重要です。

スタートアップの多くがぶつかる壁

ざっと説明してきましたが、おそらく「3.Efficiency Stage (効率化)」までをクリアできているスタートアップは多くないでしょう。

特に初期のフェーズで壁にぶつかりがちです。

よくあるのは、そもそも顧客が「1.Discovery Stage(発見)」の時点で使ってくれていないということ。たとえ無料であっても製品に価値を感じてくれていない。あるいは「1.Discovery Stage(発見)」では使ってくれていた顧客が、「2.Validation Stage(検証)」で支払いが必要になった途端、使ってくれなくなるケースも多くあります。

怖いのは、強引にやれば各ステージは飛ばせてしまう、ということです。強力な営業チームがあり営業戦略を優先的に立てれば、ステージをスキップすることができてしまう。しかしそれでは事業はスケールしません。あくまでプロダクト・事業の“質”を確認しながら、1つひとつのステージを丁寧にクリアしていくことが重要なのです。

優秀な営業マンが1人いて、その人の営業力で売れてしまっている、といったケースはよくあります。売上は立っているものの、その人が抜けると事業は伸びなくなる。もしくは無理に値引きをすることで、売上を出しているパターンもあります。「1万円札を9000円で売る」状態になってしまっている。こう言うと馬鹿げたアイデアに聞こえるかもしれませんが、実際にそういう会社は少なくないのです。

一見うまくいっているように見えますが、だからといって事業が成長しているわけではない。ここは注意が必要です。

売上をPMFの基準にしてはいけない

こうならないためには、売上以外の指標で測る必要があります。事業を作ったことのない多くの人は、最初から「売上」を求めてしまう。しかし初期のフェーズにおいて売上はそこまで関係ありません。大切なのは、あくまで事業の"質”なのです。

「1.Discovery Stage(発見)」では、無料でサービスを提供したお客様が実際はどれくらい使ってくれたかを測るだけです。「2.Validation Stage(検証)」でも、売上ではなくお金を払ってくれるお客様の数を追っていきます。逆に「1社だけが高く買ってくれたので目標の売上達成しました」では意味がありません。このフェーズでは、30社、50社と、多くの企業が買ってくれることが重要だからです。

「3.Efficiency Stage (効率化)」からは、少しだけ売上が関係し始めます。ただし1件の大きな仕事が欲しいわけではありません。そうではなく継続的にリードがとれることが大切。セールスの場合も、エースが1人でたくさん稼ぐのではなく、3人-5人のセールスが平均的に売れる状態を作る必要があります。売上の目標を立てるのは「4.Expansion Stage(拡張)」からでいいのです。

つまり最初の3つのステージではシステムを作っているわけです。これができると「4.Expansion Stage(拡張)」から事業を伸ばしていくことができます。繰り返しになりますが、事業はフェーズによって目標が違います。売上だけを目標にしてしまうと、価値ある事業は作れません。この考えは、どんなビジネスでもそれほど違いはないでしょう。SaaSでもeコマースでもスーパーマーケットにも適用できるベーシックな考え方だと思っています。

地域や顧客セグメントによってステージは変わる

私たちの会社では、こうしたステージごとに事業を見ていきます。

注意しなければならないのは、ひとつの事業でも地域ごと、顧客セグメントごとにステージの進み方は違うということ。PMFのタイミングも変わってきます。日本、アメリカ、ヨーロッパでも異なるし、大企業化SMBの顧客かでも異なる。それぞれにおいてPMFを達成しているかどうかは確認しなければいけません。

事業のステージを前に進めるうえでは、もちろんテクノロジーが基盤にはなります。しかしプロダクトのニーズは顧客によって異なるため、セールスやマーケティングの方法も違えば、ユニットエコノミクスの成り立ち方、それにかかるマーケティングコストや人件費も異なります。チャージできる金額も異なるわけです。すべての条件が地域ごと、顧客セグメントごとに異なっている。

よってジョーシスでは、各地域、顧客セグメントごとに「今はどのステージにいるか」を把握するようにしています。「アメリカのSMBは『2.Validation Stage』だけど、日本の大企業はまだ『1.Discovery Stage』くらいだな」といったぐあいです。そこから、次に目指すステージを見据えて、各チームのKPIを設定していきます。

オブジェクトとKPIが明確になると、社員のやるべきことも明確になります。このステージごとのフレームワークを元にすれば、リーダーは「この顧客セグメントは、いま『1.Discovery Stage』にいるので売上じゃなくてトライアルのお客様を探してください」といった指示が出せます。そして、もしトライアルのお客様が満足してくれなければ、それは販売コミュニケーションが不十分であるか、製品の品質が低いためだとわかる。そこから「どちらを改善すべきか特定しよう」と次の打ち手も考えることもできます。

これまでのジョーシスのこの2年の急成長は、このフレームワークに基づいています。ぜひ皆様も活用してみてください。

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