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同じ空がよく見えるのは心の角度しだいだから

  言わずと知れた、きゃりーぱみゅぱみゅの「つけまつける」のワンフレーズで日本中をまさに駆け巡ったことで記憶に残っている。これ以上でもこれ以下でもないのだが、実はとても奥が深いことばだ。

 最近単行本になった柴崎友香さんの『続きと始まり』のなかに、毎日車で通勤をする橋を通り過ぎる風景、同じ風景がどのようにその日には見えるかで自分の体調や心象をはかる、という場面があった。

 風景でも、花でも、また音楽でもそのもの自体は不変で何も変わってはいないのだが、こちら側の見たり聞いたりする余裕というか、気分というか、それこそ「心の角度」しだいでで見え方や聞こえ方が変わってしまう。

 目や耳は、見たくなくても見えているし、聞きたくなくても聞こえている。しかし見ようとする意思や聞こうとする気持ちがあるとないとで、記憶や印象に残るかが分かれる。

 ソクラテスやプラトンや、アリストテレスの時代から美のイデアや感性についての解釈や分析があるが、どの考え方で自分が納得するかと考えると不安を払しょくする材料の一つだともいえる。

 人の考えや解釈などは確かに参考にはなるのだが、自分自身が直感的に「いい」と感じたり思ったこと、自分の物差しをしっかり据えてから、他の物差しを照らしてみることが自分らしさだと思っている。

 だから、先に紹介した柴崎友香さんの一場面の描写は、小説の中の小説でさすがに芥川賞たる所以だと思っている。