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『チャイメリカ』、満を持して・・・・・・

 激しいチケット争奪戦を乗り越え、無事に観劇してきました。主演は田中圭。もともとしっかりとした固定ファンがついていたようで、これまでに写真集を3冊も出しているし、舞台作品にも定期的に出演している俳優です。そこへ去年の田中圭ブームの勃発で、舞台のチケットが大変取りにくい状態に。でもこれは田中圭の芝居が欲しくてキャスティングされたのだと、見ると分かるのです。

 1989年の天安門事件を覚えているだろうか。何台もの戦車が1列になってゆっくりと行進していく映像が、私の天安門事件の記憶だ。私は戦車しか覚えていなかったが、その先には手にスーパーの袋を持った白いワイシャツの男が立っていて、戦車の進行を妨げていた。その場に居合わせたAP通信のカメラマン、ジェフ・ワイドナーがその衝撃的な場面を撮影し世界に配信した。ジェフをモデルにしたジョー・スコフィールドを田中圭が演じる。
 脚本のルーシー・カークウッドの特徴だろうか。同時にいろんな視点から見た問題点がそこにある状態だ。ジョーはアメリカ人。当然同僚もそうだ。懇意にしているヂャン・リン(満島真之介)とその兄ウェイ(眞島秀和)が中国人、ジョーの彼女・テス(倉科カナ)はイギリス人。単純に3つの国の視点がある。ジョーから見てリンやテスは信頼できる自分側の人間と捉えているように思えた(テスについては田中本人がその日によってアプローチを変えていた言っているので、あくまで私が観た日のテスとの関係性だ)。実際にそうだったのかもしれない。リンやテスもそう思っていたかもしれない。だが「戦車男」の正体にジョーはこだわりすぎた。天安門事件から20年たって、彼が生きているのか死んでいるのか、その一点だけしか見ていなかった。この件にかかわるジョーの周辺の人たちが、彼が動くことによってどのような影響を与えるか、まったく見えていなかった。結果的に、ジョーはすべてを壊して、友人や恋人と離れることになる。
 傷心のジョーは贖罪の気持ちを込めて写真展を開く。このときにずっとリンにあって欲しいといわれていたベニー(池岡亮介)にようやく出会った。リンの甥に当たる青年だ。彼に会って探していた「戦車男」の正体を知りジョーは愕然とする。だが私はその後のベニーの軽口に戦慄を受けた。「使えるうちにドルを使え、そのうち全部元なる」。戦車男の写真を買いたいと言うベニーのセリフだ。それはテスが中国市場とアメリカとの関係をプレゼンテーションした内容と合致する。だがジョーの興味はやはり戦車男にしかない。
 田中圭はジョーを「戦車男」を撮影したヒーローとして演じなかった。ジョーにグアンシー(絆)を感じていたリンに対して、それに見合った信頼を返さない男だったし、聞き込みをした在米中国人に対しても不利益になる行動をする。テスに対してもいい恋人ではなかった。どこをとっても「かっこいい田中圭」はいなかった。芝居の圧力は満島や眞島のほうが分かりやすく伝わってきたし、倉科はすっきりとしたかっこいい女性だった。池岡の素直な芝居もある意味、鍵だった。そうか、だから田中圭なのか。ジョーの思いとかこだわりはこの世界にとって取るに足らないもので、かえって邪魔だった。だからジョーが正義に見えてはいけないのだ。ダメな男がジョーだった。田中の得意技だ。
   タイトルの「満を持して」は激戦チケットを手に入れ、田中圭の「予習が必要」という言葉を間に受けて観劇日に向けて準備を重ねたファンには伝わると思う。天安門事件をリアルタイムで知る世代はそんなに深い予習は必要なかったな。田中圭、若いんだな。と言う感想を胸に会場を出た。

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『チャイメリカ』
作:ルーシー・カークウッド
翻訳:小田島則子
演出:栗山民也
出演:田中 圭 満島真之介 倉科カナ 眞島秀和 
   瀬戸さおり 池岡亮介 石橋徹郎 占部房子
   八十川真由野 富山えり子 安藤 瞳 阿岐之将一 田邉和歌子
   金子由之 増子倭文江 大鷹明良

東京公演
会場:世田谷パブリックシアター
日程:2019/02/06(水) ~ 2019/02/24(日)

愛知公演 
会場:東海市芸術劇場大ホール 
日時:2019/2/27(水)19:00・28日(木)13:00/19:00

兵庫公演
会場:兵庫県立芸術文化センター 
日時:2019/3/2(土)13:00/18:00・3/3(日)12:00/17:00

宮城公演
会場:多賀城市民会館 大ホール
日時:2019/3/6(水)19:15

福岡公演
会場:福岡市民会館 
日時:2019/3/9(土)18:00※/3/10(日)13:00


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